「おいおい、傘持ってきてねえぞ……」
高校から家に帰るまでの三十分の間に、みるみる雲行きが悪くなる。
家に着くまでは降らんでくれよ。
なんて思ったところでどうにかなる筈もなく、いきなり降り出して来やがった。
いつもなら構わず家に帰るところだが、今日はそうもいかない。
何故なら、友人からノートを借りているからだ。
その上俺のカバンは安物で、水をわざと受け入れているかのように通して通して通しまくる。
明日その友人に殴られない為にも、今はノートを守るべきだ。
「この辺りで雨宿りできそうな場所と言えば……」
生憎、こんなド田舎にあるのは民家と田んぼばっか。
コンビニがあるにはあるが、俺の家より更に向こうだ。意味ないな。
思いついたのは、いかにも人が来てなさそうなボロい神社。その名も岩白神社だ。
そこへ向けて全力で走った。
まあ、目の前にあるんだけどね。
鳥居をくぐるとすぐに、目的の屋根つき建造物が二つあった。
って言うかそれだけしかなかった。
奥の方が本殿で……手前のこっちはなんて言うんだっけ?
まあ、屋根があれば何でもいい。
俺はその名称不明な建造物の軒下に座り込み、カバンを開けてノートの無事を確認する。
「ふう……早く止まねーかな」
しかし、無情にも雨は強くなる一方。
そりゃ自然現象に情なんかある筈がないんだけどな。
それから暫らく。
一向に止む気配なし。いくらなんでもそろそろ帰りたい。
目の前にある賽銭箱に目をやる。ついでに財布にも目をやる。
五円玉が一つだけ。財布持ってる意味なくないか俺?
それはいいとして、五円でこの状況がなんとかなるとすれば安いもんだ。
苦しい時の神頼みってやつ? 安い神だなおい。
とにかく、五円玉投入。
小気味いい音をたてて神への献上物が落下する。
「どーかこの雨が今すぐ止みますよ「はっ! お金の音!」なんっ……!?」
今、誰か喋ったか? 俺の耳がまともなら、目の前の賽銭箱から声がしたような……
もしや、マジで神とか? はは、まさかな。そんなもんがホントに居てたまるか。
「そっそこに居る人! まだ居ますか!? 居るならここから出してください~!」
ほーら。賽銭箱から出られないような間抜けが神であるわけ……じゃなくて!
「な、中に誰か居るのか?」
「外に居るなら出してくれなんて頼まないですよ~!」
そりゃそうだ。……何これ。なんか事件ですか?
「わ、解った。で、これどうやって開けりゃいいんだ?」
「錠か何か付いてないですか?」
「え? えぇっと」
それはすぐに見つかった。そりゃあ隠してるわけでもなんでもないし。
「あったけど……俺鍵なんか持ってないぞ」
「壊しちゃえばいいんですよ!
どうせ誰も来ないし、この中ずっと空っぽなんですよ!?」
ずっとってあんた、さらっと怖いこと言うなよ。よく生きてるな。
……人命が掛かってるんだ。神だって許してくれるだろ。
錠が掛けられてる部分を思い切り蹴った。何度も何度も。
「木でできてるくせに頑丈だな……」
びくともしない。流石は年代物。丈夫でもなけりゃ今まで残るわけないよな。
まあ、もしかしたら作り替えたばかりの新品という可能性もあるにはあるが。
などと空気読み人知らずな感想をたれていると、前方から声が聞こえた。
賽銭箱からではない。もう少し離れた辺りからだ。
「騒がしいと思ったら賽銭泥棒? いい度胸じゃないの」
その声の主、右手で傘を差し左手に木刀を携えた眼鏡女は、
言い終えるなり傘を投げ捨て木刀を構える。そしてすり足でじわじわ距離を詰めてくる。
おいおい殺られるって。目がマジだって。隙がないって。達人だって。
そんなこと一般人の俺に解るわけはないんだが、少なくともコイツが素人じゃないのは解る。
「誤解だ誤解! 賽銭箱の中に人が居るんだよ! だからなんとか開けようと……」
「人?」
眼鏡女の動きが止まる。
すると、また賽銭箱から声がした。
「あの~。もしかして、誰か来ました?」
「あ、ああ」
「どんな人ですか?」
「眼鏡掛けてて、髪長くて、木刀もってる女だが」
「……お帰りなさい。春菜さん」
それを聞いて、木刀女が賽銭箱に歩み寄る。
「あんたねえ、なんでばれちゃってんのよ」
「お腹空き過ぎて力出ないんですよ……もうずっとお賽銭ゼロだし……」
「そんなこと言ったって仕方ないでしょ? 人が来ないんだから」
「だからこの人に外に出してもらおうと思ったんですよ。
ここに居たってもう殆ど意味ないですし」
「そりゃそうだけど……」
「あの」
ほっといたら置いてきぼりになりそうな雰囲気なので、とりあえず尋ねてみる。
「ん? 何?」
「話が見えないんだが」
「ああ。そりゃそうでしょうね」
「いや、説明してくれよ。納得されても困る」
「うーんと、そうねまずは……この中に居るのは、化物よ」
……………はぁ?
高校から家に帰るまでの三十分の間に、みるみる雲行きが悪くなる。
家に着くまでは降らんでくれよ。
なんて思ったところでどうにかなる筈もなく、いきなり降り出して来やがった。
いつもなら構わず家に帰るところだが、今日はそうもいかない。
何故なら、友人からノートを借りているからだ。
その上俺のカバンは安物で、水をわざと受け入れているかのように通して通して通しまくる。
明日その友人に殴られない為にも、今はノートを守るべきだ。
「この辺りで雨宿りできそうな場所と言えば……」
生憎、こんなド田舎にあるのは民家と田んぼばっか。
コンビニがあるにはあるが、俺の家より更に向こうだ。意味ないな。
思いついたのは、いかにも人が来てなさそうなボロい神社。その名も岩白神社だ。
そこへ向けて全力で走った。
まあ、目の前にあるんだけどね。
鳥居をくぐるとすぐに、目的の屋根つき建造物が二つあった。
って言うかそれだけしかなかった。
奥の方が本殿で……手前のこっちはなんて言うんだっけ?
まあ、屋根があれば何でもいい。
俺はその名称不明な建造物の軒下に座り込み、カバンを開けてノートの無事を確認する。
「ふう……早く止まねーかな」
しかし、無情にも雨は強くなる一方。
そりゃ自然現象に情なんかある筈がないんだけどな。
それから暫らく。
一向に止む気配なし。いくらなんでもそろそろ帰りたい。
目の前にある賽銭箱に目をやる。ついでに財布にも目をやる。
五円玉が一つだけ。財布持ってる意味なくないか俺?
それはいいとして、五円でこの状況がなんとかなるとすれば安いもんだ。
苦しい時の神頼みってやつ? 安い神だなおい。
とにかく、五円玉投入。
小気味いい音をたてて神への献上物が落下する。
「どーかこの雨が今すぐ止みますよ「はっ! お金の音!」なんっ……!?」
今、誰か喋ったか? 俺の耳がまともなら、目の前の賽銭箱から声がしたような……
もしや、マジで神とか? はは、まさかな。そんなもんがホントに居てたまるか。
「そっそこに居る人! まだ居ますか!? 居るならここから出してください~!」
ほーら。賽銭箱から出られないような間抜けが神であるわけ……じゃなくて!
「な、中に誰か居るのか?」
「外に居るなら出してくれなんて頼まないですよ~!」
そりゃそうだ。……何これ。なんか事件ですか?
「わ、解った。で、これどうやって開けりゃいいんだ?」
「錠か何か付いてないですか?」
「え? えぇっと」
それはすぐに見つかった。そりゃあ隠してるわけでもなんでもないし。
「あったけど……俺鍵なんか持ってないぞ」
「壊しちゃえばいいんですよ!
どうせ誰も来ないし、この中ずっと空っぽなんですよ!?」
ずっとってあんた、さらっと怖いこと言うなよ。よく生きてるな。
……人命が掛かってるんだ。神だって許してくれるだろ。
錠が掛けられてる部分を思い切り蹴った。何度も何度も。
「木でできてるくせに頑丈だな……」
びくともしない。流石は年代物。丈夫でもなけりゃ今まで残るわけないよな。
まあ、もしかしたら作り替えたばかりの新品という可能性もあるにはあるが。
などと空気読み人知らずな感想をたれていると、前方から声が聞こえた。
賽銭箱からではない。もう少し離れた辺りからだ。
「騒がしいと思ったら賽銭泥棒? いい度胸じゃないの」
その声の主、右手で傘を差し左手に木刀を携えた眼鏡女は、
言い終えるなり傘を投げ捨て木刀を構える。そしてすり足でじわじわ距離を詰めてくる。
おいおい殺られるって。目がマジだって。隙がないって。達人だって。
そんなこと一般人の俺に解るわけはないんだが、少なくともコイツが素人じゃないのは解る。
「誤解だ誤解! 賽銭箱の中に人が居るんだよ! だからなんとか開けようと……」
「人?」
眼鏡女の動きが止まる。
すると、また賽銭箱から声がした。
「あの~。もしかして、誰か来ました?」
「あ、ああ」
「どんな人ですか?」
「眼鏡掛けてて、髪長くて、木刀もってる女だが」
「……お帰りなさい。春菜さん」
それを聞いて、木刀女が賽銭箱に歩み寄る。
「あんたねえ、なんでばれちゃってんのよ」
「お腹空き過ぎて力出ないんですよ……もうずっとお賽銭ゼロだし……」
「そんなこと言ったって仕方ないでしょ? 人が来ないんだから」
「だからこの人に外に出してもらおうと思ったんですよ。
ここに居たってもう殆ど意味ないですし」
「そりゃそうだけど……」
「あの」
ほっといたら置いてきぼりになりそうな雰囲気なので、とりあえず尋ねてみる。
「ん? 何?」
「話が見えないんだが」
「ああ。そりゃそうでしょうね」
「いや、説明してくれよ。納得されても困る」
「うーんと、そうねまずは……この中に居るのは、化物よ」
……………はぁ?
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