その一言に狂ったようにはしゃぎまくっていたセンがビタリと停止し、
首から上だけがぐるりとこちらを向いた。
視線を合わせるのがためらわれるほどギラギラと目を発光させ、
にやけるという表現が果たして的確なのかどうか解らないくらい、
気味悪くにやけさせた口から雄叫びが放たれる。
「お風呂」以下略。
――二分後――
「はぁ、はぁ……す、すいません少々取り乱しました」
「少々、ね」
息上がるほど暴れまわって少々かよ。色々と限界突破しないように気をつけてくれたまえ。
「……お前さ」
「はい?」
風呂に入るにあたり、一つ気になることがある。
「五年間賽銭箱の中にいたって聞いたけど」
「うーん……そのくらいになりますかね。前に外に出てから」
「その間、一回も風呂に入ってないってことか?」
「へ? ええ、そうですけど……あ、もしかして今不潔とか思われちゃってますか?」
「まあ、その通りだ」
「大丈夫ですよ。そもそもセンの体からは老廃物の類が出ませんから。
この肌も髪も爪も全て、それに似せて作られた紛い物ですからね」
「ふーん……っていつの間に一人称がセンになってんだ」
その名前がつく前は――あれ、なんて言ってたっけ。
「いやー今初めて自分で自分を呼んでみたんですが、どうですか? 変じゃないです?」
そういや一度も言ってなかったか?
「自分を名前で呼ぶ奴も稀にいるが……初めてって、なんでまた」
「なんで? ……なんででしょうね?
むむむ……わざわざ自分を呼ぶ必要がなかった、ってことですかね?」
いや、俺に聞かれても。
「必要ないって?」
「欲食いって存在は自分だけですからねぇ。
自分と他者っていう感覚が薄かったのかもしれないです」
「……何か凄い眠くなる話になりそうか?」
ただでさえ疲れて眠いのに。まだ飯も食ってなけりゃ風呂にも入ってないぞ。
「あはは、センにもよく解らないです。それっぽく言ってみただけで」
「じゃあ今更なんでセンと?」
「人間としての名前を貰いましたからね。ようやく個としての認識が……」
またかよ。聞くんじゃなかった。
「もういいもういい。マジで寝ちまいそうだ」
俺の真面目な訴えに、クスッと笑ってセンが返す。
「冗談です。……要するに、凄く嬉しかったんですよ。名前を頂いたのが」
最初からそう言ってくれ。本気で嬉しそうな顔しやがって。
……もうちょっと真面目に名前考えてやりゃよかったかな。
話を戻して。
「体が汚れないってんなら風呂入る必要ないことないか?」
「うっ。そ、それはそうですけど、気持ちいいじゃないですかお風呂。
入らせてもらえると凄く嬉しいんですけど……」
「解ってるよ。風呂って言われただけであそこまで騒げるぐらいだからな。
別に駄目とは言わんさ」
「脅かさないで下さいよもう」
「ちょっとしたいじわるだ」
「いじわる」
だからいじわるだって。
「じゃあ飯食ってくる。テレビなり漫画なり適当に見といて構わんぞ」
そう言って台所へ。今日の晩飯はチンするだけの米+レトルトカレーだ。
お湯を沸かしてカレーのパックを放り込み、米をレンジにかけ、
その待ち時間に風呂を沸かし始める。
洗濯物は……今日はいいや。まだそんなに溜まってないし、疲れてする気にもならないし。
カレーと米ができたので米を皿に移し、カレーをかける。
その後、カレーのパックを菜箸で挟み、
パックの底を歯でくわえて持ち上げ、最後の一滴まで搾り出す。ケチ臭いとか言うな。
一人で静かに食べ終え、皿を洗い、部屋に戻る。
「あ、明さん」
「何やってんだお前」
センは机の引き出しを全部開け、ベッドの下に頭を突っ込んでいた。泥棒かお前は。
「お金どこですか?」
お前も晩飯というわけか。……見方によっては強盗そのものだが。
首から上だけがぐるりとこちらを向いた。
視線を合わせるのがためらわれるほどギラギラと目を発光させ、
にやけるという表現が果たして的確なのかどうか解らないくらい、
気味悪くにやけさせた口から雄叫びが放たれる。
「お風呂」以下略。
――二分後――
「はぁ、はぁ……す、すいません少々取り乱しました」
「少々、ね」
息上がるほど暴れまわって少々かよ。色々と限界突破しないように気をつけてくれたまえ。
「……お前さ」
「はい?」
風呂に入るにあたり、一つ気になることがある。
「五年間賽銭箱の中にいたって聞いたけど」
「うーん……そのくらいになりますかね。前に外に出てから」
「その間、一回も風呂に入ってないってことか?」
「へ? ええ、そうですけど……あ、もしかして今不潔とか思われちゃってますか?」
「まあ、その通りだ」
「大丈夫ですよ。そもそもセンの体からは老廃物の類が出ませんから。
この肌も髪も爪も全て、それに似せて作られた紛い物ですからね」
「ふーん……っていつの間に一人称がセンになってんだ」
その名前がつく前は――あれ、なんて言ってたっけ。
「いやー今初めて自分で自分を呼んでみたんですが、どうですか? 変じゃないです?」
そういや一度も言ってなかったか?
「自分を名前で呼ぶ奴も稀にいるが……初めてって、なんでまた」
「なんで? ……なんででしょうね?
むむむ……わざわざ自分を呼ぶ必要がなかった、ってことですかね?」
いや、俺に聞かれても。
「必要ないって?」
「欲食いって存在は自分だけですからねぇ。
自分と他者っていう感覚が薄かったのかもしれないです」
「……何か凄い眠くなる話になりそうか?」
ただでさえ疲れて眠いのに。まだ飯も食ってなけりゃ風呂にも入ってないぞ。
「あはは、センにもよく解らないです。それっぽく言ってみただけで」
「じゃあ今更なんでセンと?」
「人間としての名前を貰いましたからね。ようやく個としての認識が……」
またかよ。聞くんじゃなかった。
「もういいもういい。マジで寝ちまいそうだ」
俺の真面目な訴えに、クスッと笑ってセンが返す。
「冗談です。……要するに、凄く嬉しかったんですよ。名前を頂いたのが」
最初からそう言ってくれ。本気で嬉しそうな顔しやがって。
……もうちょっと真面目に名前考えてやりゃよかったかな。
話を戻して。
「体が汚れないってんなら風呂入る必要ないことないか?」
「うっ。そ、それはそうですけど、気持ちいいじゃないですかお風呂。
入らせてもらえると凄く嬉しいんですけど……」
「解ってるよ。風呂って言われただけであそこまで騒げるぐらいだからな。
別に駄目とは言わんさ」
「脅かさないで下さいよもう」
「ちょっとしたいじわるだ」
「いじわる」
だからいじわるだって。
「じゃあ飯食ってくる。テレビなり漫画なり適当に見といて構わんぞ」
そう言って台所へ。今日の晩飯はチンするだけの米+レトルトカレーだ。
お湯を沸かしてカレーのパックを放り込み、米をレンジにかけ、
その待ち時間に風呂を沸かし始める。
洗濯物は……今日はいいや。まだそんなに溜まってないし、疲れてする気にもならないし。
カレーと米ができたので米を皿に移し、カレーをかける。
その後、カレーのパックを菜箸で挟み、
パックの底を歯でくわえて持ち上げ、最後の一滴まで搾り出す。ケチ臭いとか言うな。
一人で静かに食べ終え、皿を洗い、部屋に戻る。
「あ、明さん」
「何やってんだお前」
センは机の引き出しを全部開け、ベッドの下に頭を突っ込んでいた。泥棒かお前は。
「お金どこですか?」
お前も晩飯というわけか。……見方によっては強盗そのものだが。
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