センは一度、大きく深呼吸をした。声の震えを抑えるためだろう。
俺はそれを邪魔しないように、深呼吸が終わったのを確認してからセンの涙を拭った。
するとセンは笑顔で感謝の意を示す。
昨日の夜から今日にかけて、こいつは何回泣いたんだろう?
普通ならその回数は少ないほうがいいけれど、
それも残り僅かとなると……なんだか寂しかった。
「春菜さん。
わたしを妹って言ってくれて、家族って言ってくれて、ありがとうございました。
そのおかげでわたし、自分が欲食いだってことを忘れて……
いえ、解った上でも人と仲良くできたし、好きな人もできました。
断言しちゃいますけどわたし、今までの欲食いの中で一番幸せです。絶対。
だって会う人会う人が皆凄くいい人なんですもん。
春菜さんが居てくれなかったら、こんなに仲良くなれなかったと思うんです。
どこかで『自分と違う人たちだ』って気にしちゃって。
だから……その! 今まで、本当にありがとうございました……!」
電話なのに一方的に話し続けた締め括りに、
言いたくない、でも言わなくてはならない別れを意味する言葉を口にして、
またセンの目から涙が流れた。最早痛々しすぎて、涙を拭う気にもなれない。
すると岩白が何か言ったのか、センの口が再び動き出す。
「…………わたしだって嫌ですけど、どうしようもないですよ。
もうそろそろ、解ってきたんです。多分あと、一時間も保たないです……!」
覚悟はしていたが、いざ具体的な時間が出てくると駄目だった。
視界がだんだん滲んできて、口から嗚咽が漏れ出す。
「…………はい。それじゃあ、お元気で。………明さん、もういいですよ」
言われた途端に手が伸びて、苦しいかもしれないくらいに強くセンを抱きしめる。
二人して泣いた。少しでも早く涙が止まるように、せめて声を押し殺して。
「もうすぐ、明さんにもお別れ言わなきゃいけないんですね」
「…………」
涙が止まっても、状況は変わらない。変わってくれない。
センがもうすぐ消えてしまう。
その瞬間に会話をしていようが、どんなに強く抱きしめていようが。
「じゃあ最後に、思いっきり甘えちゃおうかな。明さんがうんざりしちゃうくらい」
「どうすればいい?」
なんだってしてやるさ。うんざりなんかするもんか。
もう、そんな暇も余裕もないんだからな。
センが俺の一番好きな顔になった。
「好きだって言ってください。それから、キスしてください。
ずっとずっと、何度も何度も、この体がここにある限り」
「……お安い御用だ」
安すぎるんだよ畜生。
もう、どうせそれくらいしかやってやれることなんて残ってないじゃないか……!
……結局、間際になったら慌てるんだな。のんびり抱き合ってるだけじゃ足りないんだな。
「セン」
「はい」
「好きだ」
「わたしも大好きです」
それから何度も口を寄せ合った。何度も好きだと繰り返し合った。
馬鹿っぽく見えるかもしれないけど、これが最後にこいつが望んだことだから。
そしてその望みを叶えてやるのが俺が望んだことだから。
口が塞がっている間は心の中で連呼した。ただひたすらに好きだと。
それでも足りないかもしれない。
もしこいつにもっと時間があれば、
その間にもっと好きだと言ってやれるのに。
その間にもっと好きだと言ってもらえるのに。
その間にもっとキスしてやれるのに。
その間にもっとキスしてもらえるのに。
「そろそろうんざりしてきましたか?」
「全然足りねえよ馬鹿」
「わたしもです」
……なんで時間って、誰にも止められねえんだよ。
たまには止まってくれたって、いいじゃねえかよ……
ああ、解ってるよ。そんなことは有り得ない。
だから俺は、絶対にこいつをここで終わらせたりしない!
「そろそろ、タイムオーバーですかね。……結局、お互い満足できないままでしたね」
「満足するよりはマシだろ。て言うか、満足なんてできるわけないだろ?」
「えへへ、それもそうですよね。
何度好きだって言われたって、それでも好きなんですもんね。
……わたし、消えちゃった後も明さんのこと好きでいられるでしょうか?」
俺はそれを邪魔しないように、深呼吸が終わったのを確認してからセンの涙を拭った。
するとセンは笑顔で感謝の意を示す。
昨日の夜から今日にかけて、こいつは何回泣いたんだろう?
普通ならその回数は少ないほうがいいけれど、
それも残り僅かとなると……なんだか寂しかった。
「春菜さん。
わたしを妹って言ってくれて、家族って言ってくれて、ありがとうございました。
そのおかげでわたし、自分が欲食いだってことを忘れて……
いえ、解った上でも人と仲良くできたし、好きな人もできました。
断言しちゃいますけどわたし、今までの欲食いの中で一番幸せです。絶対。
だって会う人会う人が皆凄くいい人なんですもん。
春菜さんが居てくれなかったら、こんなに仲良くなれなかったと思うんです。
どこかで『自分と違う人たちだ』って気にしちゃって。
だから……その! 今まで、本当にありがとうございました……!」
電話なのに一方的に話し続けた締め括りに、
言いたくない、でも言わなくてはならない別れを意味する言葉を口にして、
またセンの目から涙が流れた。最早痛々しすぎて、涙を拭う気にもなれない。
すると岩白が何か言ったのか、センの口が再び動き出す。
「…………わたしだって嫌ですけど、どうしようもないですよ。
もうそろそろ、解ってきたんです。多分あと、一時間も保たないです……!」
覚悟はしていたが、いざ具体的な時間が出てくると駄目だった。
視界がだんだん滲んできて、口から嗚咽が漏れ出す。
「…………はい。それじゃあ、お元気で。………明さん、もういいですよ」
言われた途端に手が伸びて、苦しいかもしれないくらいに強くセンを抱きしめる。
二人して泣いた。少しでも早く涙が止まるように、せめて声を押し殺して。
「もうすぐ、明さんにもお別れ言わなきゃいけないんですね」
「…………」
涙が止まっても、状況は変わらない。変わってくれない。
センがもうすぐ消えてしまう。
その瞬間に会話をしていようが、どんなに強く抱きしめていようが。
「じゃあ最後に、思いっきり甘えちゃおうかな。明さんがうんざりしちゃうくらい」
「どうすればいい?」
なんだってしてやるさ。うんざりなんかするもんか。
もう、そんな暇も余裕もないんだからな。
センが俺の一番好きな顔になった。
「好きだって言ってください。それから、キスしてください。
ずっとずっと、何度も何度も、この体がここにある限り」
「……お安い御用だ」
安すぎるんだよ畜生。
もう、どうせそれくらいしかやってやれることなんて残ってないじゃないか……!
……結局、間際になったら慌てるんだな。のんびり抱き合ってるだけじゃ足りないんだな。
「セン」
「はい」
「好きだ」
「わたしも大好きです」
それから何度も口を寄せ合った。何度も好きだと繰り返し合った。
馬鹿っぽく見えるかもしれないけど、これが最後にこいつが望んだことだから。
そしてその望みを叶えてやるのが俺が望んだことだから。
口が塞がっている間は心の中で連呼した。ただひたすらに好きだと。
それでも足りないかもしれない。
もしこいつにもっと時間があれば、
その間にもっと好きだと言ってやれるのに。
その間にもっと好きだと言ってもらえるのに。
その間にもっとキスしてやれるのに。
その間にもっとキスしてもらえるのに。
「そろそろうんざりしてきましたか?」
「全然足りねえよ馬鹿」
「わたしもです」
……なんで時間って、誰にも止められねえんだよ。
たまには止まってくれたって、いいじゃねえかよ……
ああ、解ってるよ。そんなことは有り得ない。
だから俺は、絶対にこいつをここで終わらせたりしない!
「そろそろ、タイムオーバーですかね。……結局、お互い満足できないままでしたね」
「満足するよりはマシだろ。て言うか、満足なんてできるわけないだろ?」
「えへへ、それもそうですよね。
何度好きだって言われたって、それでも好きなんですもんね。
……わたし、消えちゃった後も明さんのこと好きでいられるでしょうか?」
とか言ってちゃっかり次回予告してみたりと、
諦め悪いですね私も。
ではおまけ程度のつもりで明日もお楽しみに。