その後もちょくちょく交替したり岩白をからかったりしつつ、楽しい時間は過ぎてゆく。
それとともにコーラとポテトは減っていき、
ついに両方空になってからさらに暫らくののち、
「…暗くなりだしてきたな。…じゃ、俺はそろそろ。…皆、また明日」
そう言って寛が立ち上がる。おや、もうそんな時間か。
「お、そうか? ほならまた明日やな」
明日香がそう言うと、今日香も立ち上がった。
「今日香、どこ行くんや?」
「見送り」
寛と今日香が部屋から出て行き、ドアがパタンと閉められる。それから少し間を置いて、
「俺達もそろそろ帰るか」
「そうですね、お邪魔しました明日香さん」
ってことにしようとしたのだが、明日香がそれを制する。やや緊張を含んだ声で。
「あ、ちょっと……待ってくれへんかな」
「どうした?」
「どうかしましたか?」
立ち上がって明日香に背を向けた俺とセンは、同時に振り返る。
すると最早開き直ったかのようにクロを撫で続けていた岩白が、
「あっちの二人の邪魔するのも悪いってことなんじゃないの?
結局皆でずっと一緒に居たし」
なるほどね。って言っても見送りの間だけってのはささやか過ぎる気もするが。
「あー、それもあんねんけどな。ちょっと話しときたいことがあって」
ちょっととは言うものの、明日香の声色と表情から察するに真面目な話そうなので、
俺もセンも再び床に座り込む。するとクロが岩白から明日香へと移動し、
まるで何か心配でもしているかのように膝の上から明日香を見上げた。
明日香はクロに笑いかけてその背に手を添えると、顔を上げて話し始める。
「前に、皆に言おうとして結局言われへんかった話あるやろ? その話」
「……もう大丈夫なのか?」
以前俺の家の前でその話をしようとして泣き出したことを思い出し、遠慮がちに聞いてみる。
何も言わなかったが、センも心配そうな顔だった。
「ああ、もう大丈夫や。要するにな、うちも寛が好きやってん」
あっさりとしたものだった。
あまりに一瞬の話だったので、聞き手側の三人は一様に言葉をなくし、固まってしまう。
……いや、なんとなく想像がついてた部分も確かにある。
でもそれは状況から推測しただけのことで、
実際にそうだとすると「明日香」という人物には、
どうしても当てはまらない事柄と言うか……
「いや、違うな。『好きやった』やなくて今でも好きやわ」
明日香は続ける。まるで普段のお喋りを楽しんでいるかのように。
最初に見せた緊張さも緊迫さも、話し始めた途端に姿を眩ませた。
「でもうちアホでなー。自分が寛を好きやって気付く前から知っとってん。
今日香と寛が好き合うとるって。やから気付いた瞬間から失恋決定や! にゃっはっは!」
明日香は笑った。でもそれが自棄的な笑いでないのはすぐに解った。
ただ自分の失敗談を披露して笑いを取ろうとしているような、つまり普通の楽しい時の笑い。
「ドラマとかやとさー、それでも諦めんとアピールしまくったりするやろ?
でもうちにはそんな度胸なかったわ。できたんは寛と関わらんようにすることだけ。
なんつうの? 女々しいって言うのん?」
「そりゃあ明日香さんだって女の子だし。女々しいのは悪いことじゃないと思うわよ?」
こちらも笑って返せばいいのかどうか迷っていると、岩白が笑顔で返した。
「そうかいな? にゃっはっは! それもそーか! こんなんでも女やしな!」
そう笑った後、一呼吸おいて明日香が頭を下げた。
「……ごめんな、こんなくっらい話聞いてもろて。
うちは……その、このことひっこずって二人にいらん気負いさせるんが嫌やったんや。
やからなんちゅうか、証拠が欲しかってん。
気にせんとってって、笑って話せるようになったでっちゅう証拠が。
おかげでもう大丈夫や。……って、自分勝手な話でほんまごめんな」
「あやま……」
ることないぞ、と最後にもう一度頭を下げる明日香に言おうとしたところ後ろから、
ガチャリ。
一同、跳ね上がる。
恐る恐る振り返ると、ゆっくり開いたドアからちょこんと覗いたのは今日香の頭だった。
「お、お早いお着きで……あの、も、もしかして聞こえてた?」
こくり。
「あー……えっと、もう入って大丈夫やでー……」
その言葉に今日香は静かにドアを閉め……明日香に向かって猛ダッシュ!
「ちょ、え!? 今日香、ストッぐおっ!」
明日香の静止も虚しく、そのままの勢いでダイビングクロスチョップ!
……もとい、飛び掛って抱きついた。もちろんそんな勢いの人一人を受けきれる筈がなく、
後ろに倒れる明日香。その際潰されそうになったクロは、なんとか脱出に成功。
そして部屋中に、大泣きする今日香の声が響いた。
それとともにコーラとポテトは減っていき、
ついに両方空になってからさらに暫らくののち、
「…暗くなりだしてきたな。…じゃ、俺はそろそろ。…皆、また明日」
そう言って寛が立ち上がる。おや、もうそんな時間か。
「お、そうか? ほならまた明日やな」
明日香がそう言うと、今日香も立ち上がった。
「今日香、どこ行くんや?」
「見送り」
寛と今日香が部屋から出て行き、ドアがパタンと閉められる。それから少し間を置いて、
「俺達もそろそろ帰るか」
「そうですね、お邪魔しました明日香さん」
ってことにしようとしたのだが、明日香がそれを制する。やや緊張を含んだ声で。
「あ、ちょっと……待ってくれへんかな」
「どうした?」
「どうかしましたか?」
立ち上がって明日香に背を向けた俺とセンは、同時に振り返る。
すると最早開き直ったかのようにクロを撫で続けていた岩白が、
「あっちの二人の邪魔するのも悪いってことなんじゃないの?
結局皆でずっと一緒に居たし」
なるほどね。って言っても見送りの間だけってのはささやか過ぎる気もするが。
「あー、それもあんねんけどな。ちょっと話しときたいことがあって」
ちょっととは言うものの、明日香の声色と表情から察するに真面目な話そうなので、
俺もセンも再び床に座り込む。するとクロが岩白から明日香へと移動し、
まるで何か心配でもしているかのように膝の上から明日香を見上げた。
明日香はクロに笑いかけてその背に手を添えると、顔を上げて話し始める。
「前に、皆に言おうとして結局言われへんかった話あるやろ? その話」
「……もう大丈夫なのか?」
以前俺の家の前でその話をしようとして泣き出したことを思い出し、遠慮がちに聞いてみる。
何も言わなかったが、センも心配そうな顔だった。
「ああ、もう大丈夫や。要するにな、うちも寛が好きやってん」
あっさりとしたものだった。
あまりに一瞬の話だったので、聞き手側の三人は一様に言葉をなくし、固まってしまう。
……いや、なんとなく想像がついてた部分も確かにある。
でもそれは状況から推測しただけのことで、
実際にそうだとすると「明日香」という人物には、
どうしても当てはまらない事柄と言うか……
「いや、違うな。『好きやった』やなくて今でも好きやわ」
明日香は続ける。まるで普段のお喋りを楽しんでいるかのように。
最初に見せた緊張さも緊迫さも、話し始めた途端に姿を眩ませた。
「でもうちアホでなー。自分が寛を好きやって気付く前から知っとってん。
今日香と寛が好き合うとるって。やから気付いた瞬間から失恋決定や! にゃっはっは!」
明日香は笑った。でもそれが自棄的な笑いでないのはすぐに解った。
ただ自分の失敗談を披露して笑いを取ろうとしているような、つまり普通の楽しい時の笑い。
「ドラマとかやとさー、それでも諦めんとアピールしまくったりするやろ?
でもうちにはそんな度胸なかったわ。できたんは寛と関わらんようにすることだけ。
なんつうの? 女々しいって言うのん?」
「そりゃあ明日香さんだって女の子だし。女々しいのは悪いことじゃないと思うわよ?」
こちらも笑って返せばいいのかどうか迷っていると、岩白が笑顔で返した。
「そうかいな? にゃっはっは! それもそーか! こんなんでも女やしな!」
そう笑った後、一呼吸おいて明日香が頭を下げた。
「……ごめんな、こんなくっらい話聞いてもろて。
うちは……その、このことひっこずって二人にいらん気負いさせるんが嫌やったんや。
やからなんちゅうか、証拠が欲しかってん。
気にせんとってって、笑って話せるようになったでっちゅう証拠が。
おかげでもう大丈夫や。……って、自分勝手な話でほんまごめんな」
「あやま……」
ることないぞ、と最後にもう一度頭を下げる明日香に言おうとしたところ後ろから、
ガチャリ。
一同、跳ね上がる。
恐る恐る振り返ると、ゆっくり開いたドアからちょこんと覗いたのは今日香の頭だった。
「お、お早いお着きで……あの、も、もしかして聞こえてた?」
こくり。
「あー……えっと、もう入って大丈夫やでー……」
その言葉に今日香は静かにドアを閉め……明日香に向かって猛ダッシュ!
「ちょ、え!? 今日香、ストッぐおっ!」
明日香の静止も虚しく、そのままの勢いでダイビングクロスチョップ!
……もとい、飛び掛って抱きついた。もちろんそんな勢いの人一人を受けきれる筈がなく、
後ろに倒れる明日香。その際潰されそうになったクロは、なんとか脱出に成功。
そして部屋中に、大泣きする今日香の声が響いた。
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