(有)妄想心霊屋敷

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欲たすご縁は女の子175 この手がこの手であるうちに

2007-05-29 20:55:02 | 欲たすご縁は女の子   七日目
いつもなら風呂中に考えごとをする場合は湯船の中でゆっくりと、
なのだが今日はゆっくりするような余裕がないので頭をシャカシャカしながら考える。
今の状況とあいつの様子を考えるに、
あいつが昨日からちょくちょく転んでたのはもしかして足が上手く動かなかったからなのか?
広瀬家でやったあのゲームでも足がどうとか……さすがにこれは考えすぎか。
ってことは、いつか腕が動かなくなる時もその前にこんなふうな予兆があるのか?
そしてその後の、岩白が恐れていたなんらかの事態にも。
あったところでどうしようもないけどな。俺は頭の中で悪態をついた。
くそったれ。
それがこの状況に対してなのか、それとも自分自身に対してなのかははっきり解らなかった。
ならどちらに対しても、ということにしておこう。
どうせそれだけじゃ何も変わらないからな。
くそったれ。

「あ、おかえりなさい。本当に早かったですね」
部屋に戻ると、センがにっこりと微笑んで出迎えてくれた。
一人だけで居ると自分を殴りたくなってくる今の俺にとって、
こいつだけがゆっくりと安らげる場所だった。
しかしおかしな話だ。悩みの種である病人本人をそんなふうに思うとは。
「体を洗って出てきただけだからな。あの湯は明日追い炊きしてまた使うよ」
結局湯に浸かることはなかった。湯船を鼻血で染めるのは嫌だったからな。冗談抜きで。
センの横に寄り添うように腰掛けると、怪訝な顔をされた。
「なんだかちょっと……不安そうな顔ですね」
嫌になるくらい顔に出るんだな俺は。
「一人で居るといろいろ余計なことが頭をよぎるんだよ。
 でも、もう暫らくすればなんてことなくなるから」
「そうですか? じゃあもうちょっと……
 えへへ、もうちょっとどころか家に帰ってからずっとこうですよね」
「そうだな」
「あ、明さんもう笑った」
少し恥ずかしくなったので、にやける口元を抑えながらそっぽを向いた。
俺ってこんなに浮き沈み激しかったっけ? 「もう暫らく」とか言っといて数秒でこれかよ。
「こっち向いて欲しいです」
「断る」
そっち向きたくないから顔逸らしてんのにそりゃないだろ、と拒否する。
すると首に両手を掛け、それを支点に膝の上に滑り込んでくるセン。
こっち向いてくれないなら自分からそっちに伺いますってなとこだろう。
「手、どけてほしいです」
「何するつもりだ。……いややっぱ言わなくていい。解ってるから」
今日三回目か、なんて下世話なカウントをしつつ手をどける。
できるならもうこれ以上何も起こらないように、ここで時間が止まってしまえばいいのに。
などというありがちな願い事をしている間も時間は過ぎ、顔が離れる。やっぱ無理だよな。

それからもセンを膝の上に乗せたまま時間は過ぎ、十一時。
「そろそろ眠くなってきたんじゃないか? 時間的に」
センは目をこすりこすり、
「んむ……そうかもです。じゃあ、すみませんけどベッドに運んでもらえますか?」
「お安い御用だ」
膝の上に座っていたセンをそのまま持ち上げ、ベッドに降ろす。
甘え放題な時間は残念だろうがいったんおしまいだ。また明日……
いや、できればそんな時間は二度と来ないほうがいいのだが。
だからどうか、朝起きたら全部元通りになっていてくれ。
二人の時間の過ごし方も、センの足も。
登録された岩白の携帯の番号を使わなくて済むように。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。俺ももう寝るかな。いろいろと疲れた」
電気を消し、布団に潜り込む。しかし、疲れてはいる筈なのになかなか寝付けなかった。

「明さん、起きてますか?」
十分、いや二十分か? とにかく電気を消してからそれくらい経った時、
寝たと思っていたセンから声を掛けられた。
「ん、ああ。なんだお前も寝付けないのか?」
寝付けなくても当たり前だがな。
「ちょっと考えてたんです」
暗い中でむっくりと上体を起こし、話し始める。俺も釣られるように起き上がった。
「何を?」
「今から寝るとすると、八時間は寝ることになるじゃないですか。
 その間に腕が……って考えると、寝るのが怖くなっちゃって」
「まあ、仕方ないと思うけどな」
「でも今はまだ動くからその間に……明さんに自分の意思で触れられる間に……

 ……動かなくなってから後悔するのは、嫌なんです……」


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