若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

真逆の同期・同級 ~ 田中角栄と中曽根康弘 ~

2019年11月30日 | 政治
中曽根康弘元首相が101歳で亡くなりました。

この訃報を受けて、私のネタ供給源こと、ほっとプラス藤田は・・・

藤田孝典さんのページ - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
中曽根康弘元総理大臣は、アメリカのレーガン大統領やイギリスのサッチャー首相と同時期に施政に携わり、足並みを揃える形で、福祉国家方針や福祉政策推進路線を修正、後退させた人物でした。
労働組合への敵視もあからさまに見られ、国営分野の産業を民営化する路線も強く進めました。
それ以降、労使関係は崩れ、社会保障は拡充されませんでした。
労働者の処遇や個人消費は伸びず、将来不安も広がったため、未だに経済低迷から抜けられない素地を作り上げてしまいました。

======【引用ここまで】======

藤田孝典さん/ Twitter
======【引用ここから】======
中曽根康弘元総理大臣にお悔やみくらい言え、というリプがやたらくる。
あの権力者のせいで、どれほど下の世代、後世の子孫は負の遺産と向き合わなければならなくなったことか。
地獄に落ちろ、とまでは言わないが、お悔やみなど口がさけても言えない。

======【引用ここまで】======

と激しく批判しています。この、
「福祉国家方針や福祉政策推進路線を修正、後退させた」
との批判は、おそらく、

1973年:田中内閣が老人医療費を無償化。
1983年:中曽根康弘内閣が老人医療費を一部有償に戻す。

を指していると思われます。
これを見たあなたも、

「福祉を後退させた中曽根康弘は地獄に落ちろ!」

って思いますか?

【田中角栄の負の遺産】

田中角栄が「福祉元年」を掲げた頃、人口構成から考えて、少子高齢化となることは既に分かっていました。
分かっていたのに、老人医療費無償化や老齢福祉年金といった老人票目当ての大盤振る舞いをしたのです。

年金については、それまでは積立方式だった年金制度を、

「この積立金を年金支払い時まで寝かせておくのはもったいない。あるなら使ってしまえ」

と、掛け金を払っていない当時の高齢者にパアッと配ってしまったのです。
将来の年金給付を、給付時点の加入者の掛け金で払うネズミ講に変えてしまったのが、田中角栄の「福祉」です。

2019年現在の高齢者に払っている年金は、当該高齢者がまだ若かりし1970年代から払っていた保険料の積立金から支払っているのではありません。
2019年現在の高齢者は、2019年現在の若年層、現役世代が払っている保険料から年金を受け取っています。

この仕組みは、新規加入者が増えないと破綻します。
ネズミ講と同じです。
後世の子孫に膨大な負債を背負わせ、労働者の首を絞めているのは、田中角栄の福祉路線です。

「あの権力者のせいで、どれほど下の世代、後世の子孫は負の遺産と向き合わなければならなくなったことか。」
というほっとプラス藤田の主張は、そのまま田中角栄に当てはまります。

【老人医療費も負の遺産】

老人医療費無償化も弊害の大きい制度でした。

自己負担がある場合、費用に見合ったサービス利用をしようとするため、不必要なサービス利用が抑制されます。
ところが、医療費の自己負担がゼロになると、

「タダで診てもらえるなら、体調悪くなくてもとりあえず診てもらおう」
「タダで貰えるなら、飲み残しを気にすることなく薬を貰っておこう」

といった状態になります。
このため、病院が高齢者のサロンと化し、医療に係る人材や資源が幾らあっても足りない状態となりました。
自分で健康を維持しようとする意欲が失われる、モラルハザードが生じます。
青天井で膨らんでいく老人医療費は、税金と社会保険料で賄わなければなりません。

中曽根内閣は、この老人医療費無償という異常事態を、少しですが常態に戻しました。
中曽根内閣の功績の一つと言って良いでしょう。

【社会保険料の増加】

さて。

社会保険料負担は、年々増えています。
次の表をごらんください。

平成の 30 年間、家計の税・社会保険料はどう変わってきたか


1988年から2017年の間に、勤め先収入に占める税・社会保険料負担が20.6%から25.7%に増えています。

中曽根内閣は、老人医療費を無償から一部有償に戻しました。
ただ、その後も少子高齢化の傾向自体は変わっていません。

また、老人医療自己負担の引き上げも遅々として進んでいません。
未だに後期高齢者の医療費自己負担は原則1割で据え置きが継続しています。

このため、勤め先収入における税・社会保険料の負担は年々大きくなっています。

仮に、老人票の取り逃がしを恐れた中曽根内閣が、老人医療費を無償のまま先送りにしてしまい、今日まで老人医療費が無償のままだったらどうなっていたでしょうか。

もう悪夢です。
税・社会保険料の負担は、25%なんかでは済まなかったでしょう。
医療の高度化が進み単価が上昇するのに並行して、老人による際限なき医療需要に対応していけば、老人医療費の負担の重みに耐えかね、現役世代が潰される事態になっていたかもしれません。

少子高齢化の中で福祉拡大を主張するのは、無益を通り越して有害なのです。

労働組合の講演などによく呼ばれるほっとプラス藤田は、労働者に寄り添っている雰囲気を出していますが、『下流老人』等に見られる彼の主張は現役世代を苦しめる危険なものです。

歳入に見合った支出、身の丈に合った福祉に留めなければなりません。
求められるのは、増税よりもまずは医療費や年金支給も含めた支出削減。
そして支出削減の結果、可能であれば減税や社会保険料の引き下げをすべきです。
これこそが、現役世代の重荷を軽くする唯一の道です。

『下流老人』よりも参考にすべきは、こちら↓の一冊。

市場と会計: 人間行為の視点から | 吉田 寛 |本 | 通販 | Amazon

【角栄と中曽根】

1918年に生まれ、1947年に衆議院議員に初当選した二人。
片や高等小学校卒、片や東京帝国大学卒という経歴も対照的ですが、その事績もまた対照的です。

片や福祉バラマキで票を買うという禁じ手を解禁し、片や福祉バラマキに待ったをかけました。

片や日本列島改造論で鉄道を含む利益誘導の見返りに票を得る構図を確立し、片や国鉄を民営化し赤字路線の拡大を防ぎました。

同期の桜の田中角栄と中曽根康弘。
後世の人間にとってどちらの方が好ましい政治家だったかを考えた時、私は迷わず中曽根氏の方に軍配を上げます。
自民党的改憲論の先頭に立っていた点は評価できませんが、それでも、どちらと言われたら中曽根氏です。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

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