若年寄の遺言

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実行委員会方式で実施した事業の情報公開 ~ 実行委員会だから非開示とは限らない ~

2017年08月23日 | 地方議会・地方政治
ビーチバレー運営費使途不明 行橋市 副市長「各団体で予算執行違う」 議会文教厚生委の追及に壁 /福岡 毎日新聞2017年8月23日 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市議会・文教厚生委員会が22日あり、市が実行委員会事務局を兼ねる「ゆくはしビーチバレーボールフェスタ」の2015年度決算で不明朗な会計処理があった問題を審議した。実行委員の松本英樹副市長(副会長)と米谷友宏教育部長が出席し、一部で領収書がない点などに松本副市長は「領収書の再発行はないが、支出は全て確認した」と述べ、改めて職員による着服を否定した。【荒木俊雄】
 市情報公開条例では、情報公開の対象機関は市長、教育委員会、議会など10部局で実行委は含まない。また、議会の調査権は自治体の補助金が適切に使われたかどうかの審査までとされ、同委に唯一示された使途のわかる資料は15年度決算書(A4判1枚)だった。

======【引用ここまで】======

新聞記者が条文を読んでそう思ったのかどうかは知らないが、この記事の中の

「市情報公開条例では、情報公開の対象機関は市長、教育委員会、議会など10部局で実行委は含まない。」
(だから情報公開条例での開示の対象とはならない。記事タイトルに言う「追及の壁」なんだ)

というのは誤りである。
これについては、ピンポイントで裁判例がある。

実行委員会文書非公開処分取消請求控訴事件 インターネット判例
======【引用ここから】======
種類   :行政事件裁判例
事件番号 :平成14(行コ)9
事件名  :実行委員会文書非公開処分取消請求控訴事件(原審・岐阜地方裁判所平成12年(行ウ)第4号)
裁判年月日:平成15年12月25日
裁判所名・法廷名:名古屋高等裁判所
分野   :行政
判示事項 :「第20回宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業実行委員会」や「飛騨・美濃地域おこしフェア実行委員会」の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書のほか,4つの委員会及び協議会の負担金等の支出に関する収支予算書等の文書につき,いずれも岐阜県情報公開条例2条2項に規定する「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書」であって,「実施機関が管理しているもの」に当たるとされた事例

======【引用ここまで】======
(なお、平成17年9月13日 最高裁第三小法廷において、県知事の上告が棄却され判決は確定。これは印象的だったのでよく覚えている。)

実行委員会の収支決算書や決算書の明細などが、自治体の情報公開条例における開示の対象となるかどうかは、実行委員会の設置で形式的・一義的に決まるわけではない。

情報公開条例上の「実施機関」かどうかを判断するにあたっては、実行委員会と自治体の関係、すなわち、実行委員会は自治体の事業執行の一方法たる存在であるかどうかを見なければならないというのが、この裁判例である。自治体が事業執行の方法として実行委員会方式を採用したのであって、実行委員会は実質的には自治体の実施機関と同視できるとなれば、実行委員会の文書は自治体の情報公開条例の対象となる。

どういった場合に、実行委員会は自治体の事業執行の一方法であり、自治体の実施機関と同視できるのか?
この判断の目安として、上記の判示事項や判決理由から次のポイントを挙げることができよう。

・自治体が実行委員会の設置を計画したかどうか。
・自治体が関係団体に対し参加・賛同を募って実行委員会を設置したかどうか。
・自治体の首長や職員が要職に就いているかどうか。
・自治体の所管課に事務局が置かれているかどうか。
・自治体の職員が職務として実行委員会の事務に従事しているかどうか。
・実行委員会事務局の事務に従事している職員が自治体から給与を受けているかどうか。
・実行委員会の経費のうち、自治体からの負担金がどのくらいの割合を占めているか。
・実行委員会に会計規程や文書規程が存在せず、自治体のそれに準じた処理をするよう指導されているかどうか。
・実行委員会の文書を、事実上、事務局が設置されている所管課で管理しているかどうか。


これらの要素を総合的に評価した結果、その実行委員会が自治体の実施機関と同視できるということになれば、
「実行委員会の文書は情報公開条例の対象となり、自治体は請求があれば開示しなければならない」
となる。

これらを検討する中で、仮に

・市と県と関係団体2社で4分の1ずつ負担金を出して実行委員会の経費を賄っている。
・実行委員会の会長は県の副知事、副会長は市の副市長と関係団体の役員がそれぞれ就任している。
・実行委員会事務局で事務を行う職員は出向扱いで、給与は実行委員会からの支払になっている。
・実行委員会事務局が、市庁舎とは別の建物を事務所として賃借しており、文書もそこで管理している。

といった要素が重なれば、「市と実行委員会とは実質的にも別物」という評価になり、実行委員会の管理する文書への市情報公開条例の適用はなくなるだろう。
実行委員会を設置したという形式ではなく、実質が問われているのだ。

ここで、冒頭の新聞記事からは、

「市がゆくはしビーチバレーボールフェスタ実行委員会事務局を兼ねている」
「市長が実行委員会の会長を務めている」
「副市長が実行委員会の実行委員(副会長)を務めている」


と読み取れることから、実行委員会を自治体の実施機関と同視してほぼ間違いないだろう(他に特記すべき事情があれば別だが)。
上記裁判例に照らせば、実行委員会の決算書や支出明細などは、市情報公開条例による文書開示の対象となる。

冒頭新聞記事の続き
======【引用ここから】======
 だが、決算書は内訳に「単価×数量」を記した項目がある一方、競技役員らの謝礼・旅費やTシャツ・帽子代は合計額のみ。また「日本バレーボール協会負担金」は300万円を予算計上していたが実際の収入はゼロで、15年度で約140万円だった競技審判・役員の旅費は16年度で約25万円に激減するなど、内容把握には不十分だった。
 このため、過去2回の同委で「補助金を出した市に事務局があり、市の会計規則に基づいた資料を出し直すべきだ」との批判があった。22日の同委で松本副市長は「各団体で予算執行は違い、過去の物を作り変えることはできず、市に合わせる必要もない」と反論。米谷部長は決算書が、助成金のもらえる「スポーツ振興くじ」の申請時の書式に基づくことを明らかにした。また、追及に限界を感じた市議が「資料要求は誰にすればよいのか」と聞くと、松本副市長は「(実行委会長の)市長だが、同じ人物だから出せるということにはならない」と答えた。
〔京築版〕

======【引用ここまで】======

情報公開条例というものは、資料を作らせるものではない。現在保管する情報を、そのまま出させるものである。
このため、情報公開条例を用いて、市の会計規則に基づき再作成した資料を出し直させることはできない。もし情報公開条例で行くのであれば、実行委員会方式(実質は実施機関)による支出の明細や通帳等の現物ないしコピーを提出させるという方法になろう。

それにしても・・・・

・決算書は内訳に「単価×数量」を記した項目がある一方、競技役員らの謝礼・旅費やTシャツ・帽子代は合計額のみ。

・「日本バレーボール協会負担金」は300万円を予算計上していたが実際の収入はゼロ

・15年度で約140万円だった競技審判・役員の旅費は16年度で約25万円に激減

「領収書の再発行はないが、支出は全て確認した」

(・A・)???




※追記 参考資料

平成25年度における情報公開・個人情報開示の実施状況 武雄市
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48 平成24年度及び平成23年度武雄市物産まつり実行委員会の決算書:開示
84 平成24年度武雄市物産まつり実行委員会決算書中にあるfacebook学会宣材費の領収書:開示
89 平成24年度武雄市物産まつり実行委員会決算書中におけるfacebook学会宣材費の使途明細が分かる全資料:開示

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