若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

子連れ市議を擁護する駒崎氏の主張がどうもおかしい

2017年12月05日 | 地方議会・地方政治
駒崎弘樹(認定NPOフローレンス代表理事/全国小規模保育協議会理事長)なる人物が熊本市議会の緒方氏を擁護する記事を読んだのだが、これが酷いものだった件。

【駒崎氏による熊本市と北谷町の不正確な対比】


駒崎氏は、子連れで議場に強行入場した緒方氏を処分した熊本市議会を指して
「これが我が国の地方議員のレベルか」
と批判し、沖縄県北谷町議会を柔軟な議会、熊本市議会を「けんもほろろに突っぱねた」議会という対比をしている。

赤ちゃん連れ議員を処分する熊本、保育スペースを作る沖縄
======【引用ここから】======
一方で、沖縄県北谷町では、このような事例がありました。

------(引用中の引用)------
宮里議員、娘と登庁 控室を保育スペースに 北谷町議会、全会一致で実現
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-596102.html

宮里さんは、今年5月に長女たらちゃんを出産した。6月定例会は育児を優先し欠席したが、7月の臨時会から復帰、臨時会中は家族に娘を見てもらった。しかし終日行われる定例会は、育児と活動を両立できるか不安も抱えていた。
 9月定例会前に、宮里さんが議会事務局に相談し、事務局は「女性議員が働き安い環境づくりにつながる」と保育スペースを提供する方針を固め、町議による全体協議会が全会一致で了承、実現した。

------(引用中の引用)------

 熊本の緒方市議と全く同様に、事務局に相談し、緒方議員はけんもほろろに突っぱねられ、宮里議員は「女性議員が働きやすい環境づくりにつながる」と保育スペースを提要する方針を固めたそうです。
 ここから分かるのは、
「神聖な議会なんだから、子どもなんて連れてくるな」
「赤ちゃんが泣いたら、議論に集中できなくなる」
なんていうのは、単なる排除の論理でしかない、ということです。

======【引用ここまで】======

これを読んだ人はきっと、
「熊本市議会はひどい!北谷町議会では柔軟に対応できてるじゃないか!」
と憤慨したことだろう。
しかし、この対比は極めて不正確である。印象操作ですらある。

【改めて、熊本市議会の対応を確認】


当ブログの前2回の記事で紹介したように、熊本市議会に対する緒方氏の要求は

「公費で議員用の託児所を作ってほしい。駄目なら公費でシッターを用意してほしい」

というものだった。
これに対し、熊本市議会事務局からは

“子連れ市議”緒方夕佳さん激白「あの日の行動はまったく後悔していません」
======【引用ここから】======
緒方 第2子の妊娠がわかってから、去年の11月28日にアポイントを取って、議会の事務局長、次長、課長が同席している場で「出産してからは議員活動と子育ての両立が難しい点もあるので、これからの活動のサポートをよろしくお願いします」とお伝えしています。
------(中略)------
でも、事務局からのお答えは、「個人でシッターを雇って、控室で見てもらうことでしょうね」という感じでした。
======【引用ここまで】======

・個人でシッターを雇ってね。
・会議中は議員控室で見てもらってね。


との回答。
予算措置を必要とする要求が通らなかったので、緒方氏は子どもを連れて議場入場を強行した・・・というのが、熊本市議会での騒動の流れ。

【沖縄県北谷町では何が実現したのか?】


一方、沖縄県北谷町では宮里町議が何を要求し、何が全会一致で実現できたのか。
琉球新報の記事から、北谷町議会の対応の中身を見てみよう。

宮里議員、娘と登庁 控室を保育スペースに 北谷町議会、全会一致で実現
======【引用ここから】======
 議員控室を保育スペースとして利用し、本会議や委員会中は、宮里さんが依頼したファミリーサポートの職員が娘を見ている。町議の全会一致で保育スペース提供が実現したことに、宮里さんは「子育てを社会全体で協力してやっていこうという北谷町議の気持ちの表れだ」と感謝する。
======【引用ここまで】======

・町議会が、議員控室を保育スペースとして提供する。
・会議中、宮里町議が依頼したファミリーサポートの職員が娘を見ている。

(「ファミリーサポート」というのは子育て支援の有償ボランティア活動であり、熊本市にもある。)

【熊本市議会と北谷町議会の対応が同じだった】


・個人でシッターを雇う。
・会議中は議員控室で見てもらう。


という回答をした熊本市議会と、

・町議会が、議員控室を保育スペースとして提供する。
・会議中、宮里町議が依頼したファミリーサポートの職員が娘を見ている。


という対応をした北谷町議会。

駒崎氏は
「赤ちゃん連れ議員を処分する熊本、保育スペースを作る沖縄」
と熊本市議会を非難するタイトルを付けているが、熊本市議会事務局の提案は北谷町議会の対応とほぼ同じだったのだ。
駒崎氏は自分が引用した新聞記事をちゃんと読めていない。

北谷町議会の町議への対応についてだが、これなら妥当な範囲だろう。
この方法なら、町議会が議員控室を保育に使用してよいと許可するだけで済む。市議だけが対象となる税金の追加支出も発生しないので「お手盛り」批判は生じない(多少の物品を消耗品費等で購入している可能性はあるが、それほど額は大きくないだろう)。

一方、熊本市議会事務局側が採りうる道筋を示しているにも関わらず、
「シッターを個人で用意しろとはどういうことか!子育ては個人の問題じゃない、社会的な問題なんだ!」
と反発し、マスコミを招いた上で議場への子連れ入場を強行した緒方氏。
思想的に凝り固まり、柔軟性を失っていたのは緒方氏の方である。

北谷町の宮里町議と異なり、緒方氏の要求はハードルの高い露骨な「お手盛り」だった。
熊本市議会事務局も他の熊本市議も
「緒方さんの要求、あれでは話にならない。」
と感じていたのではなかろうか。

【報酬から見る北谷町議会と熊本市議会】


北谷町と熊本市の例規集を見てみよう。

北谷町議会議員は、報酬が月額24万6千円。
熊本市議会議員は、報酬が月額67万4千円。

北谷町議会議員は、政務活動費が月額1万5千円。
熊本市議会議員は、政務活動費が月額20万円。

北谷町議会の宮里町議は自分で有償ボランティアを手配した。
熊本市議会の緒方氏は同様の対応に反発し公費でシッターを雇えと要求した。

宮里町議と緒方氏、どちらの対応が妥当であったかは言うまでもない。
緒方氏の要求に応じることは、熊本市議会議員という高額所得者への給付という逆進性の強いものであり、再分配施策としても悪手である。

【緒方氏を無理に擁護しようとする駒崎氏】


「全国小規模保育協議会理事長」という仕事柄か、駒崎氏は、子育てに携わる人や子育て分野への公金支出拡大、補助金拡大の糸口になりそうな話題には賛意を示してしまうのだろう。
その一環として緒方氏擁護の論を展開したのだろうが、どうも言ってることがおかしい。

赤ちゃんを市議会に連れ込むことは、悪いことなのか?
======【引用ここから】======
 熊本市議会の規則においては、「議員以外は傍聴人とみなす」とし「傍聴人はいかなる事由があっても議場に入ることができない」ということなんです。
 そもそもこのルールがおかしくないですか?
 じゃあ、例えば脳性麻痺の障害者が当選した際には介助者が常時必要になりますが、介助者は議場に入ってはいけないんでしょうか?
 医療的ケアの必要な方は、時に看護師が必要になりますが、看護師は議場に入れないんでしょうか?
 そして子どもの預け先がなかった父親、母親は、たとえ選挙によって選ばれた市民代表だったとしても、子連れだと議場に足を踏み入れてはいけないんでしょうか?
 おかしいですよね。

======【引用ここまで】======

いやいや、おかしいのはあなたの例示だ。

・障害者である議員が介助者を連れて入る
・医療的ケアが必要な議員が看護師を連れて入る


これらは、議員が議場における権限を行使するために必要な措置。

実際に障害者や医療的ケアが必要な人が当選した場合、おそらく、どの地方議会でも速やかに会議規則の改正や内規の見直しにより介助者の入場を可能にし、介助者の席を本人の横に設置するといった何らかの措置を講じるだろう。
議員としての発言権や議決権の行使を可能にするという視点で考えた時、これらの措置は不可欠である。

一方、

・子どもの預け先がなかった父親、母親

については、子どもを連れて入らなくても、
「議員個人でシッターを手配し、会議中は議員控室でシッターに見ていてもらう」
という方法で発言権等は十分に確保できる。
熊本市議会事務局が緒方氏に提案し、また、北谷町議会で実例が示されたとおりである。

【ベクトルが逆の例示の混在】


上記の駒崎氏の例示は、

「議員本人に対してサポートが必要なケース」
「議員本人がサポートしている誰かを連れて入るケース」

というベクトルが逆のものが混在していて、何を言いたいのかさっぱり分からない。

・子どもの預け先がなかった父親、母親

に対応するものを挙げるなら、

・認知症の老親を介護している息子、娘
・精神障害を持つ15歳の子どもを介助している父親、母親
・入院患者を多数受け持つ看護師


といったものになる。
地方議員の中には、親を介護している人、障害児を介助している人もきっと多いことだろう。

議員ではないが、例えば、母親の介護を著書に記している舛添前都知事が、都知事時代にその母親が存命だったとして、
「都議会開会中も母親から目が離せないので、都議会にある都知事席の横に母親を座らせて介護する」
と主張して賛同が得られただろうか?
おそらく、多くの人が
「いやいやいや、会議中はヘルパーを手配して自宅か知事室でみてもらうか、施設に預けてこいよ。」
とツッコミを入れるだろう。

駒崎氏は
「連れて議場に入って良い」
と主張するのだろうか。
そうなると、議場では病院や介護施設並みの衛生・感染症対策を要求されるということになる。

もし、

「赤ちゃんは良いが認知症の親は駄目」
「赤ちゃんは良いが15歳の子どもは駄目」
「赤ちゃんは良いが担当の患者は駄目」

として他の要介助者と比べて赤ちゃんを特別扱いにするなら、議員間の議論を経た上でルール化し、認知症の親を介護する議員等が納得できるよう、その理由を明示する必要がある。

いずれにせよ、緒方氏の強行突破は論外だ。擁護する余地がない。

※ちなみに、子どもを連れて議場に入ることについては、駒崎氏が称賛した北谷町議会も否定的だ。
「先例できたら政治も変わる」沖縄県内市町村で初、議員が産休 北谷町議の宮里歩さん 沖縄タイムス+プラス2017年4月1日 06:01
======【引用ここから】======
 町議会事務局は柔軟に対応したいとの姿勢だ。比嘉良典局長は「赤ちゃんは議場に入れないが、控室や役場の授乳室使用など方法を考える。何しろ初めてのケース。制度を深められる運用を探りたい」と話す。
======【引用ここまで】======

【訴える方法がない?】


駒崎氏は、
「緒方氏が1人会派だから議論の場に参加できない」
と主張する。これまたおかしい。

赤ちゃんを市議会に連れ込むことは、悪いことなのか?
======【引用ここから】======
 また、「事務局ではなく、議会運営委員会という政治家同士でルールを取り決める場所で訴えるのが本筋」という意見もあるでしょうが、彼女は無所属の1人会派なので、3人以上の会派でなければ議会運営委員会に入れない熊本市議会のルールでは、政治家同士の話し合いの場にも参加できませんでした。
 よって、「訴え方がおかしい」と言われても、「じゃあどうやって訴えるの?」と言わざるを得ません。

======【引用ここまで】======

「じゃあどうやって訴えるの?」
に対する回答は、熊本市議会会議規則に書いてある。
ちゃーんと書いてある。

駒崎氏は門外漢だから分からないかもしれないが、緒方氏は自称「会議規則を読み込んだ市議」なので分かるはずだ。読み込んだのに分からないのであれば、緒方氏は市議には向いていない。
会議規則を読み込んでその方法が分かったものの、その条件を満たすことができないのであれば、やはり緒方氏は合議体である議会の人間には向いていない。

緒方氏が訴える方法として議場で子連れ強行入場するしか思い付かなかったのであれば、市議よりも路上でデモをする人の方が向いてそうだ。
(そういう意味で、本記事では「緒方市議」ではなく「緒方氏」という表記を用いました。)

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