若年寄の遺言

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それって「規制依存症」じゃない? ~ 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例 ~

2020年03月18日 | 地方議会・地方政治
 議員提案条例。

 日頃から、議案として議会に提出された政策条例案を、その規定から生じる影響・効果、文言の解釈・運用を慎重に検討・審査し、有害無益な条例なら否決し、あるいは条例修正案を提示している地方議員は多くありません。大抵の地方議員は、「何かあっても知事の責任だし」と安易に考え、知事部局の説明をざっと聞いて、一つ二つ意見を述べて仕事をしたアピールだけをして条例を原案可決しているんじゃないか。そんな条例審査をしていても、条例を制定する能力は身に付きませんよ?
 そのせいか、議員提案で制定された対住民の政策条例は、制定過程が杜撰、根拠がテキトー、中身があいまい、というイメージを拭えません。

 このたび、香川県議会はまさにそのイメージを地で行く条例を制定しました。話題となっている『香川県ネット・ゲーム依存症対策条例』です。

香川県ネット・ゲーム規制条例案、可決 「県民をネット・ゲームから守る」2020年03月18日 11時45分 公開[谷井将人,ITmedia]

【パブコメ結果が非開示!?】

さて。
 広く住民に影響のある政策条例を制定する場合、パブリックコメントを実施するのが一般的です。パブリックコメントでは、条例素案を公開し、意見を募り、結果を公開し、寄せられた意見に対し条例提案者が考え方を示し、必要に応じて条例素案を修正する、といったプロセスを経るのが通例です。場合によっては条例等でパブコメの手順を定めている自治体もあります。

 ところが、今回の条例制定に際して実施されたパブコメについては、議会事務局職員が編集した概要のみを公開しました。推し進めていた香川県議会の議長・大山一郎は、自身が委員長を務める「香川県ネット・ゲーム依存症対策に関する条例検討委員会」の委員に対しても

・意見用紙の開示対象:検討委員会の委員のみ
・場所:議会運営委員会室
・開示日時:3月18日(水)13時から3月19日(木)17時まで
・閲覧だけしか許可しない。写真や動画での撮影はもとより、メモも不可。

という、極めて前時代的な密室対応。外部への公開はもとより、パブコメを実施した条例検討委員会の委員にすら開示にここまで制限をかけているのです。

香川ゲーム規制、パブコメ全文を「採決後」に公開へ しかも「検討委限定・口外不可」―― 「これでは公開と言えない」と議員から怒り
これ公開って言う……?[池谷勇人,ねとらぼ]



こんな事がまかり通る香川県には、怖くて住めません。

 しかも、よく見てください。

条例案採決を知らせるニュースの配信時刻が、
2020年3月18日 11時45分

パブコメ意見の開示日時が、
3月18日13時から

 議会での採決前に、検討委員会の委員だった議員すらパブコメに寄せられた意見の現物を見る機会が無かった、というから更に驚きです。議会事務局の作成した概要が実際の原本と合っていたかどうかを検証することなく、議会事務局職員が抜粋し編集したものを見ただけで、議員は採決をしたわけです。議会事務局のフィルターをかける前と後とで、どう変わったかを知る事なく採決に臨んでいるのです。
 検討委員会委員長・香川県議会議長大山一郎は自分で現物を見ているか、議会事務局職員から状況報告を受けているはずです。
 大山一郎は「こりゃ賛成意見を動員して投稿させたのがバレてしまう」と思い、採決後での密室開示という判断に至ったのでしょうか。
 よほど開示が不都合だったのでしょうか。
 2000通の賛成意見の中で、同じ文面のものがどの位あったのでしょうか。
 ・・・情報開示に制限をかけると、こういった諸々の疑念を招きます。

 情報公開と個人情報保護は、両方とも重要です。ただ、パブコメは県議会として実施したものであり、県議会の構成員たる県議会議員は原本に触れて確認して集計する側の人間です。議会事務局職員はそうした集計作業等々を補佐する立場に過ぎません。個人情報に配慮するとしても、個人の特定に繋がるもの、誰が何を言ったかの特定に繋がる内容だけは口外しないよう、原本に接する委員に対し最小限の制限をかければ済むわけですが、大山一郎が委員へ出した通知からはそういった考慮をした形跡は見られません。

 判断材料たるパブコメの意見原本を、大山一郎と支配下にある議会事務局職員だけが見て、他の議員、検討委員会委員には採決後に開示する・・・「独裁」に近い状態です。少なくとも、判断材料を制限して他の議員の判断を妨げています。そんな独裁県・香川には怖くて住めません。

【パブコメの賛成意見にツッコミ】

 次に、議会事務局が編集した
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)(素案)について提出されたご意見とそれに対する考え方

を見てみましょう。

 これを読んで最初に不思議に思ったのが、「賛成意見はそのまま掲載、反対意見に対しては無理筋であっても反論」というスタイルです。このスタイルから、検討委員会委員長・議会事務局の「どうしても賛成に誘導したい」という強い意思を感じます。

 寄せられた賛成意見、これがまた程度が低い。これを紹介するとともに、せっかくですから、検討委員会委員長や議会事務局がしなかった反論をしてみましょう。

======【引用ここから】======
01 子どもが色々な情報に触れることは大事なことと思うが、それは画面を通してだけではないと思う。平日の学校からの帰宅時間と就寝時間(22時)を考えれば、どう考えてもゲームに割ける時間は1時間程度まで。反発する声が沢山あるようだが、そのほとんどは感情論のように思える。
======【引用ここまで】======

 子どもが「これはゲームよりも面白い、これはパソコンの画面から得られるよりも大事なことだ」と思えるような話、情報を、家族が提供してあげましょう。また、時間の制限も、生活習慣、リズム、親と過ごす時間等は家庭によって様々であるので、家庭ごとに判断すれば良いものです。
 地方自治のキーワードの一つに、「補完性の原則」というものがあります。個人でできるものは個人でする。個人でできないものは家庭でする。家庭でできないものは地域でする。地域でできないものは基礎自治体でする。基礎自治体でできないものは広域自治体でする。広域自治体でできないものは中央政府でする・・・という考え方です。

 香川県議会は、この「補完性の原則」を無視し、家庭でできることを、段階をすっ飛ばして広域自治体たる香川県として条例化したわけです。県内の各家庭、地域、市町村、教育委員会の取り組みや個別の事情を無視して県内統一ルールを設定しましたが、果たしてどれだけの必要性・合理性があったのでしょうか。

======【引用ここから】======
02 子どもたちのネット・ゲーム依存症を減らせるきっかけになればいいと思う。強制力がないとしても、ゲームのことだけではなく子どもたちが親や社会と決めたルール・約束を守らなければならないと少しでも感じてくれたらいいと思う。それ以上に、逆もしかりで僕たち大人たちが子どもたちの手本となるように、今以上に社会のルールを守っていく姿を子どもたちに示していかなければならないと思う。
======【引用ここまで】======

 パブリックコメントで寄せられた意見を、議決権を持つ議員全員で共有し、これに対する検討を十分に行ったうえで条例案採決に臨みましょう、というのは、ルール以前の常識・道理と言ってよいでしょう。この条例制定過程において、香川県議会・大山一郎はそういった物の道理を踏みにじったわけですが、これを見た子ども達はさぞかしルールを守ることの重要性を感じ取ることでしょう(皮肉ですよ)。

 なお、今回成立した条例は「社会のルール」と呼べるようなものではありません。形式的には香川県議会が決めたルールに過ぎず、実質的には大山一郎の情報統制の下、独裁的に決められたルールなのです。

======【引用ここから】======
03 ゲーム規制に関して、賛成。一日60分、休日90分も妥当である。子どもは夜9時、10時までも就寝時間だと思うので、当たり前だと思う。うちの子は小学4年生と中学1年だが、兄弟で一日60分と決めている。お互い譲り合って時間をうまく使っていると思う。小学生の子どもの同じクラスにはゲームを夜中までしていたり、夜中にこっそり起き出してゲームをしていたりする子もいると言っていた。なので、授業中に寝ていることもあるそうだ。特に、18条の時間で区切ることが節度ある生活習慣に繋がると感じている。
======【引用ここまで】======

 条例を制定して、「ゲームを夜中までしていたり、夜中にこっそり起き出してゲームをしていたりする子」がゲームをしなくなるでしょうか。条例が子どもを教育するのではありません。家庭です。家庭ごとに、家庭の実情に応じて実効性のあるルールを決めるべきものです。
 県統一ルールが条例として出来上がったわけですが、「夜中にこっそり起き出してゲームをする子」にどうやって対処するのでしょうか。県職員が夜中に訪問するのでしょうか。職員の時間外勤務手当が跳ね上がりそうですね。

======【引用ここから】======
04 ネット依存症対策条例に大賛成である。理由は、「①ネット・ゲームに使う時間に相当する時間の分だけ、子どもの心身の成長および学力向上に必要な時間がそがれてしまう。②スマホ等の画面を凝視することにより、成長期の子どもの視力低下を招く。③ネット・ゲーム事業者による積極的なネット依存症対策が見られない。」である。
======【引用ここまで】======

 ①ネットやゲームに使う時間と、運動や勉強に使う時間と、どのように配分するかは家庭で判断すれば良いのであって、それを県条例で規制して良い理由が見当たりません。
 ②一点を凝視することにより成長期の子どもの視力低下を防ぐ、という立法理由であれば、長時間の読書等も規制対象となりかねません。再考を求めます。
 ③ネット事業者によるネット依存症対策が無いのであれば、まず家庭でどう対応するか考えましょう。
 なお、ゲーム・ネット依存症の人間からゲームやネットを取り上げて、それで問題が解決するのでしょうか。浮いた時間を勉強や運動に向けてくれれば良いですが、浮いた時間をずっと天井を眺めて過ごす、テレビを見て過ごす、眠って過ごす、あるいは別の依存症になってしまう、非行や犯罪に走ってしまう、いろいろな危険性が考えられます。県条例がないと子どものネット・ゲーム時間を制限できない、と言う程度の親の下では、ゲームを制限しても他の問題が吹き上がるでしょう。

======【引用ここから】======
05 保護者も子ども達も、そして教育現場も香川県の条例を一つの目安や指針として、携帯電話やゲームの使用について今一度しっかりと考えるべきだと思う。
======【引用ここまで】======

 まともな保護者であれば、既に、ネットやゲームに子どもがどう接するべきかをよく考えていると思います。県条例が無ければ考えるきっかけが無い、ということはありません。

======【引用ここから】======
06 家庭内規制に苦労している。行政が規制を設けてくれれば、堂々と「香川県の子どもはだめという決まりがある」と言うことができる。親としてこれほど心強いものはない。
======【引用ここまで】======

 親から「条例で禁止されているからダメ」という理屈を聞いた子どもは、親を馬鹿にして今後親の指導を聞かなくなる恐れがあります。例えば、ネットを制限されて暇だからずっとテレビを見ている子どもを親が叱っても、「はぁ?それ県の条例に書いてる?書いて無いなら黙ってててよ」と反論されたらおしまいです。
 親子の関係性から子どもの行為を諭すのではなく「〇〇がダメと言っているからダメ」と外部の権威を借りるのは、かえって親の威厳、説得力を失わせることになります。

======【引用ここから】======
07 ルールを定めることによる罰則があるわけではなく、あくまでも目安であって、それに基づき家庭内でルールを定めることが必要。
======【引用ここまで】======

 家庭内のルールで足りることを、なぜわざわざ県条例で規制したのでしょうか。なぜこの意見が、条例による規制に賛成として位置づけられるのでしょうか。

======【引用ここから】======
08 守る・守らないは各ご家庭のお心がけ次第というところは大きいと思うが、一つの目安や指針として具体的に記されている部分は大変参考になると思う。
======【引用ここまで】======

 各家庭でルール化する際の目安をそれぞれの市町村で示す、位ならまだ許容範囲かもしれませんが、県が条例で規制するのはまた別次元の話です。

======【引用ここから】======
09 一応、基準を示すことで子どもへの指導がしやすくなると思われる。
======【引用ここまで】======

 県条例が無いと子どもへの指導ができないような親は、県条例があってもダメでしょう。

======【引用ここから】======
10 時間による区切り(18条)は必要だと思う。
11 第18条は必ず入れてほしい。

======【引用ここまで】======

 時間の区切りを、子どもと家族でよく話し合ってルール化しましょう。県条例ではなくて。

======【引用ここから】======
12 子どもがゲームをやめられず困っている。時間制限は必要だと考える。
======【引用ここまで】======

 県条例で時間制限しても、多分、あなたの子どもはゲームをやめられませんよ。県条例の問題ではありません、あなたの親としての指導力の問題です。

======【引用ここから】======
13 周囲でゲームをやめられない子どもの話をよく聞く。時間による区切りは必要である。
======【引用ここまで】======

 県議会の情報統制の下ではなく、子どもと家族でよく話し合って時間のルールを決めましょう。

======【引用ここから】======
14 時間による制限がないと際限なくやってしまうものなので。
======【引用ここまで】======

 あなたはそういうだらしのない人なんですね。

======【引用ここから】======
15 依存症を防ぐ良い条例だと思う。時間制限は子どもには特に大切である。
======【引用ここまで】======

 香川県で育った子どもが、小・中・高校まで一律の時間制限を受け続け、大学や就職で県外へ出た瞬間に「香川県の抑圧」から解放されてゲームにハマり、かえって重度の依存症になる・・・というケースが増えないことを祈ります。

======【引用ここから】======
16 規則がないのでついネットをしてしまう。条例があれば守らないといけないと思う。
======【引用ここまで】======

 どうやって条例を守らせるんでしょうか。結局のところ、家庭でどう対処するかを考えるしかありません。

======【引用ここから】======
17 みんながやっているので長くやってしまう。みんなが条例を守れば時間を決めてやれると思う。
======【引用ここまで】======

 「みんなが条例を守れば」という絵に描いた餅。

======【引用ここから】======
18 条例制定後の啓発(子どものスマートフォン使用等の制限のかけ方)をわかりやすく保護者に伝えることが重要だと考える。
======【引用ここまで】======

 すいません、それを「誰が」保護者に伝えるんですか?

 賛成意見全体を通じて、規制に対する信仰心の篤さが目立ちます。動員とは言え、2000通を超える賛成コメントが寄せられた事実は「条例に書けば、書いたとおりの事が実現する」という幼稚な信仰がいかに世間に広まっているかを示すものです。

 規制をどう遵守させるか、そのためのコストはどのくらいなのか、遵守させることが可能なのか、規制を遵守させることが望ましいことなのか、規制をする前に考えるべきことは山積みです。
 「とにかく公権力で規制しよう」「規制させないとだめだ」「規制したい」と安易に発想する大山一郎や2000人の賛成意見を送った人達は、子どもをゲーム・ネット依存症から守るためと主張していますが、当のご本人たちが「規制依存症」から抜け出せなくなっているのではないでしょうか。


【追記】

香川ゲーム規制条例、検討委に聞く「議員すら見られないパブコメ」のおかしさ 「400件の反対意見」は県に届かなかったのか
 この記事に登場する、ゲーム規制条例反対派の日本共産党の「秋山時貞議員」ですが、

主張内容の真っ当さもさることながら、そのイケメンっっぷりと言ったら。

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