「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

世界初のゲノム編集ベビーを誇る中国人科学者

2018-11-28 | 2018年イベント
28日に香港で開催された学会会場に登壇した賀建奎 He Jiankui氏は「HIV感染が起きないようにゲノム編集した双子の女児は誇りだ」と述べ、同時に「大学には知らせず」にヒト受精卵に対するゲノム編集を行ったことを認めました。LuluとNanaという2人の赤ちゃんは健康な状態で産まれたとのことです。さらに、もう一組が現在妊娠中だとか。

わ~、世界で初めてなんて凄~い(棒読み)。
とでも言えば良いのでしょうか。ご本人はHIVに感染している親から産まれた子供がHIV感染しないようにゲノム編集することが出来て大層ご満悦のようです。たしかにHIVは脅威ですが、ゲノム編集技術も安全性にはまだ懸念があるわけです。しかも、ゲノム編集で本当にHIV感染を防げるのかどうかも疑問です。

Crisperと呼ばれるゲノム編集技術は2012年に開発されました。
開発をめぐっては特許裁判が起きましたが、現状ではジェニファー・ダウドナ Jennifer Doudna教授と、エマニュエル・シャルパンティエ Emmanuelle Charpentier教授の2名の女性研究者が最初に開発したと見做されています。この2人はノーベル賞以外の主な国際学術賞を総なめにしており、近いうちにノーベル賞も受賞するかもしれません。Crisperとは、もともと大腸菌の繰り返しDNA配列の発見から発展した技術なのですが、それを最初に報告したのは大阪大学の石野良純(現・九州大学教授)らでした。したがって、ゲノム編集技術の発展には、日本の貢献もあったと言えます。近年では、理論的にはCrisper/Cas9という高精度なゲノム編集技術がヒト受精卵にも応用できるのは判っていました。

しかし、実際に強行するとは…。
それも所属学術機関などに黙って実施しているわけで、恣意的に倫理委員会などのコントロールを受け付けない状態で、他を出し抜く形で実行しているわけです。つまり、この中国人は確信犯といえますね。たしかに「世界初のゲノム編集ベビー」はもしかしたら世界史に残る出来事かもしれません。しかし、こういう形で実行した研究者を認めるのは抵抗感があるというのが正直なところです。


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