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草堂

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愛染かつら 田中絹代 上原謙 桑野通子 佐分利信

2016-09-23 | 日本の映画

『愛染かつら』は川口松太郎の原作で1938(昭和13)年に映画化された、押しも押されもせぬラブロマンスの金字塔である。監督野村浩将、主演が田中絹代と上原謙。

子持ちで未亡人で美貌の看護婦、高石かつ枝(田中)は二枚目の青年医師、津村浩三(上原)に求婚されるが、子持ちであること(勤め先に隠していた)、身分の違い(浩三は病院長の息子でエリート)などに引け目を感じるかつ枝は返事をためらってしまう。

ラブストーリーの常道である『すれ違い』、おもに『お互いを思う故に生じるズレ』が、これでもか!と出てくる。じれったい、いらいらする、と思ったらそれは既に嵌っている証拠だ。いらいらと、そのカタルシスがこのドラマの眼目だからだ。

かつ枝が、病院の同僚に思ったほど(?)イジメられないのは意外だった。彼女が包み隠さず身の上を告白すると、むしろ同情と応援に変わる。ワンマンで強権的な婦長(中村文子)、という悪役のシンボルもちゃんと存在する。メロドラマのパッケージとして申し分ない。

田中絹代って小さいなぁ……、と思うのは彼女が子供を抱きかかえたり、おんぶした時だ。子供の足が地面に付きそうだ、大げさでなく。この映画では五歳の娘、という設定だが、どう見てもあと2,3歳は上だろう。しかし絹代はあの小さいからだで、子供をおんぶ抱っこする場面がよく出てくる。それを印象的に見せるために、わざと大柄な子供をキャスティングしている、ということはないだろうな。

上原は、よわよわで優柔不断な、それこそ『つっころばし』の二枚目を演じると見事にハマる。津村浩三がまさにそれ。しかし浩三が剛直果断だったら、30分で終わってしまいます。これはこれでいい。

田中絹代、上原謙の主演、という以外におもなる出演俳優が誰か?ぜんぜん知らなかったが、藤野秀夫、葛城文子、佐分利信、桑野通子、吉川満子、斎藤達雄、坂本武、河村黎吉……、これは『戸田家の兄妹』じゃないか?出ていないのは高峰三枝子と三宅邦子、坪内美子くらいじゃないかな。女中役でおなじみの出雲八重子まで出ていたし。西村青児も医者役で出ていた(このひとは医者か先生か警官)。

吉川満子と田中絹代は姉妹の設定だが、身長差が25cmくらいある。吉川満子も美人だ。おなじみ飯田蝶子と組んでいるときとは、ちょっと違って見える。

藤野、葛城のベテランふたりは『戸田家……』と同じく主人公(浩三)の両親。このクラスの俳優でも、小津作品で見るのとほかの監督作品で見るのでは、かなり芝居が違っている。ひとことで言うと、小津は役者に芝居をさせない。セリフの言い方にしても動作にしても最低限に抑制する。だから小津映画で見慣れた役者が、ほかの監督作品に出ているのを見ると、のびのび芝居をしているように見える。

この映画では例外があって、それが桑野通子だ。浩三と見合いをするため外国から帰ってくるが、不首尾に終わり再び船に乗って旅立つ、未知子という役だ。「なんや叔父さん、ボヘンといかな、あかんやないの!」と元気のよい啖呵を飛ばしていた節子(『淑女は何を忘れたか』)とは別人みたいに(別人を演じているのだけど)おとなしい。

見送りに来た浩三と、船上で握手して別れるのが楽屋落ちみたいで、ミッチー・ファン(斯くいうワタクシ)には苦く切ない。桑野通子に元気がなかったのは、このせいかな?もういちど『淑女は何を忘れたか』を見ようっと。へ、おおきに(節ちゃんのセリフより。さてどの場面でせう?)。



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