肉食屋敷
小林泰三 著
角川 1998年
小林泰三の第3短編集。ここのレビューでは第1短編集「玩具修理者」、第2短編集「人獣細工」と、順々に取り上げてきている。帰納法を用いれば次は「海を見る人」ということになるが、少なくとも現時点では未読である。
全部で四つの短編が収録されている。表題作「肉食屋敷」から始まり、「ジャンク」「妻への三通の告白」「獣の記憶」というラインナップだ。これまでの短編集と違い、既に雑誌などで発表された作品の再録であり、それぞれ異なった作風の作品が楽しめるつくりになっている。
「肉食屋敷」は、著者の最も得意とするSFとホラーの融合作品。名画「ジュラシック・パーク」へのオマージュ的短編で、古代生物を復活させようとする試みが巻き起こす惨事を描いたもの。科学魂あふれる作品だ。
「ジャンク」は、アンデッド(ゾンビ)たちが暮らす世界を舞台にした短編。世界観は西部劇をモデルにしており、ハードボイルドである。起承転結のバランスが良く、この短編集では私の最もお気に入りの作品。
「妻への三通の告白」は、三通の「夫から妻への手紙」の内容だけを並べたトリッキーな作品。著者本人曰く「サイコスリラー」。解説・田中啓文曰く「恋愛小説」。どういうことなのかは、実際に読んでお確かめを。
最後は「獣の記憶」。自分に潜むもう一つの人格の凶行に苦しむ男を、二つのシーンを交互に進行させて描くという複雑な構成の作品。そのためもあり全四編中最も長い。
全く方向性の違う四作であるが、どれも読者に(良い意味で)不快感を与える描写力は共通している。「邪悪」とすら評されるその文体が、存分に味わうことができる一冊となっている。