玩具修理者
小林泰三 著
角川 1996年
★第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「玩具修理者」収録
中3のとき、先生(というニックネームの友人)が私のところにやってきて、唐突に「これ読んでみてください」と言いながら、わら半紙の束に印刷されてホチキスで留められた文章を私に差し出してきた。題名は、「玩具修理者」。「何ですかこれは?」と聞き返しても、「まあまあ読んでみてください」とさわやかな笑顔を浮かべるのみの”先生”(注;私と”先生”は基本的にお互い敬語で会話している)。訝りながらも私は読み始めてみた・・・そして、強い衝撃を食らった。あまりの衝撃に、その後のしばらくの授業は手につかなかった。何かよくわからないものに意識を満たされてしまい、他のものが介在する余地は無くなってしまっていた。
これはホラー小説である。ホラー小説は「恐怖小説」と呼ばれることもある。しかし私の意識を埋め尽くしたものが「恐怖」か、というとそれは少し違う気がする。どちらかといえば「恐怖」と紙一重に肉薄するほどまで徹底的に煮詰められた「不安」と言った方が正しいかもしれない。ただ、感想を一言で言え、と言われれば「不安」では生ぬるい。「怖い」がしっくりくる。めちゃくちゃだが、そうなる。
「玩具修理者」は短編であり、40ページに満たない。この本が一冊の本たり得ているのは、その後に収められた中編「酔歩する男」があるからである。こちらも傑作である。こちらはぐっとSFの要素が強まった作品になっている。
どちらの作品にも共通して言えることは、どちらも人間の「常識」的なところに属するものの横っ面を引っぱたく展開になっている、ということである。「恐怖」というより「不安」と言ったのはつまりはそういうことで、その引っぱたきがクリーンヒットしてしまった結果なのである。この本を紹介するのに、あらすじ解説は似合わない。どういう風な展開なのか、気になってしまった方は、是非ご一読を。文庫ならば500円少々と手ごろである。
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