facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

第91回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会

2023年03月05日 | pocknのコンサート感想録2023
3月2日(木)
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル

【曲目】
1.Comp:石川健人/Beyond the Melting Pot II for Orchestra
2.マーラー/少年の魔法の角笛~「天上の生活」
S:松原みなみ
3.尾高尚忠/フルート小協奏曲 Op.30a
Fl:清水伶
4.フランセ/オーボエと管弦楽のための「花時計」
Ob:榎かぐや
5.ヴィエニャフスキ/ヴァイオリン協奏曲 第2番ニ短調 Op.22~第1、3楽章
Vn:渡邊紗蘭
6.プロコフィエフ/ピアノ協奏曲 第3番ハ長調 Op.26~第2、3楽章
Pf:小嶋早恵
7.リスト/ピアノ協奏曲第2番イ長調 S125
Pf:坂口由侑

指揮:板倉康明(1)、角田鋼亮(2~7)/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

昨年聴いて楽しかった音コン受賞者演奏会を今年も聴いた。以下は、部門ごとの出演者について演奏順の感想。

作曲部門で一位となった石川健人さんの作品を聴いての勝手なイメージは、最初は巨大な無人の工場で機械がひたすら動き、軋む音や唸り、打ち鳴らす音などがあちこちから聞こえてくる、無機質でちょっぴり不気味なイメージ。それが草原のあちこちで花が開くような命が芽生えるシーンになる。そして最後は静かで大きな呼吸が繰り返され、曲を閉じた。緻密で精緻な永遠の営みが感じられた。板倉康明指揮東フィルは、これを清澄な音で繊細で冷静に表現していた。

声楽部門を制したソプラノの松原みなみさんは、瑞々しくリリカルな美声がよく通り、天上の喜びや楽しみ、安らぎを生き生きと詩情豊かに伝え、残酷な様子はちょっぴりシニカルに描いた。言葉への繊細な配慮も感じられ、それぞれの言葉に相応しい勢いや密度で言葉に命を与えていた。とは云え、松原さんの出番は短すぎる。せめてあと2曲は「角笛」から披露する機会を提供すべきでは?この一曲だけでは松原さんの真価を知ることは難しい。

フルート部門で一位を獲得した清水伶さんの演奏でまず耳に飛び込んできたのは、澄んだ伸びやかな美しい音色。泉が湧き、光をキラキラ受けて水しぶきを上げる清流のように清澄で瑞々しい。滑らかで流麗な歌いまわしが、優しい色香を湛えていた。尾高の作品は名曲だし、この時代の日本の作曲界を知るうえでも重要だが演奏される機会は少ない。これを取り上げ、優れた演奏で聴かせた意義も大きい。

オーボエ部門の一位は榎かぐやさん。「花時計」の最初から、落ち着きと深みのある歌と語りで聴き手の心を捉えた。たっぷりとした豊かな表情を湛え、じっくりと練られた音からは香りが立ち昇ってくるよう。演奏している様子も楽しそうで、素早いパッセージも楽々とリズムの波に乗って軽々とこなす。濃淡のある色彩に富んだ音色も美しく、弱音は細い煙がたなびくように存在を静かに主張していた。榎さんのオーボエで色々な作曲家の名作を聴いてみたくなった。

ヴァイオリン部門を制した高校3年の渡邊紗蘭さんが演奏したヴィエニャフスキは、研ぎ澄まされた感性に溢れていた。音があるべき方向へと迷うことなく向かってピタリと定まり、よどみのない美しい線を描く。速いパッセージも柔軟で機敏にこなし、抜群の安定感で自信を持って突き進む。派手なパフォーマンスではないし、取り立てて華麗な響きがするわけではないのに、音が生き生きと躍動し、聴き進めるほどにワクワク感が高まっていった。すでに大人の風格を備えている。でも演奏後、緊張がほぐれてホッとしたのか、舞台袖で躓いたように見えたけど大丈夫だった?

ピアノ部門は一位が2名。最初は小嶋早恵さんのプロコフィエフ。タッチはデリケート、和音の響きが透明で、結晶を形作るような純度を感じさせる。柔軟な表現が光る部分もあったが、決め手になるような強い印象は感じないままだった。他では好感度が高かったオケが冴えなかったことも影響したか、或いは僕の感性の問題か・・・。またの機会を期待したい。コンチェルトなら、ショパンとかサン=サーンス、或いは別の難しさはあるがモーツァルトがいいかな。

ピアノ部門でもう一人の一位は坂口由侑さん。受賞者演奏会でよく取り上げられるリストのコンチェルトで、音楽を大きく捉え、骨太でダイナミックでドラマチックな演奏を聴かせた。硬質な響きも冴え、オケの強奏とも堂々と渡り合っていた。明確な意志を貫き、高いテンションを保って果敢に音楽にぶつかってまとめあげるアプローチからは強いインパクトを受けた。曲が曲だけに華やかな部分の聴き応えが印象を決めるが、デリケートな音楽でどんな演奏を聴かせてくれるだろうか。

国内の音楽コンクールで最も歴史があり、評価も高い日本音楽コンクールで一位を獲得したアーティストは、ある意味今がそれぞれのキャリアのなかで一つの頂点に立っているといってもいい。ここから芸術家として自らのパフォーマンスをどう進化/深化させて行くかが問われることになる。それを楽しみにしたい。

第90回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会 2022.3.4 タケミツメモリアル
第78回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会 2010.3.9 タケミツメモリアル

ブラボーが響くコンサートを取り戻そう ~終わりの見えない過剰な感染対策に思う~
♪ブログ管理人の作曲のYouTubeチャンネル♪
最新アップロード:「かなりや」(詩:西條八十)

~限定公開中動画~
「マーチくん、ラストラン ~33年乗った日産マーチとのお別れシーン~」

拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アミハイ・グロス(Vla) & ... | トップ | 歩夢室内楽シリーズ ~オール... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2023」カテゴリの最新記事