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クリスティアン・ゲルハーヘル ~シューマン歌曲集の夕べ~

2014年01月08日 | pocknのコンサート感想録2014
1月8日(水)クリスティアン・ゲルハーヘル(Bar)/ゲロルト・フーバー(Pf)
[ニューイヤー・コンサート]~シューマン歌曲集の夕べ~ 第1夜
王子ホール
【曲目】
1.ミルテの花 Op.25より
 自由な想い/お守り/ヘブライの歌から/2つのヴェニスの歌/2つのヴェニスの歌/東方のばらの花から/エピローグ
2. リーダークライス Op.39
3. ライオンの花嫁 Op.31-1 (3つの歌 Op.31より)
4. 12の詩 Op.35

【アンコール】
シューマン/6つの詩とレクイエム Op. 90~レクイエム

初めてゲルハーヘルを聴いた2008年1月のN響定期(さすらう若人の歌)、それに大感激して出掛けた王子ホールでのリサイタル(水車屋の娘)では更なる感動を味わい、ゲルハーヘルこそ次代を担う超大物ドイツリート歌手と確信した。今回は、その王子ホールでのリサイタルの約4年後に聴いたリサイタル以来で2年ぶり。

今回のオールシューマンプロを聴いて、改めて・・・ というかこれまでに増して気づいたゲルハーヘルの魅力は、スリムに凝縮され、研ぎ澄まされ、艶やかで光沢のある美声で歌われる、焦点の定まった客観的な表現の巧さ。語り部が物語を語り聞かせるように、言葉本来が持つ力や美しさが自然に伝わってきて、ドイツ語圏の国で盛んに行われている朗読会で作家の朗読を聴いているよう。

この「語り」がメロディーに乗り、歌として届けられると、例えばリーダークライスの曲集では、「麗しき異国」や「春の夜」のように抑揚が激しく、溢れる感情の吐露を表現する楽曲において、艶やかな声には一層の輝きが加わり、言葉に魂が宿り、まさに言葉と音楽の魂が一体となった相乗効果を生み出し、聴き手の気持ちを揺さぶってくる。

ぶれることなく歌の核心を捕らえるゲルハーヘルの歌唱は、「ライオンの花嫁」という珍しい曲の終盤では、身の毛もよだつおぞましい光景を迫真の歌で聴かせた。叙事的な客観性を見失わずに集中力を持続し、芝居じみた思わせぶりを廃して情け容赦なく、まさしく牙を剥いてくるリアリティーに、ゲルハーヘルの新たな一面を見た。

その一方で、リーダークライスのなかで言えば「異郷にて」や「月夜」といった静けさや詩情が溢れる楽曲では、「この言葉はこんな風に歌ってほしい」という期待の多くが肩透かしを食らってしまった。言葉の表情が判別しにくく、ポーカーフェイスのように聞こえてしまうのだ。ドイツ語を母国語にしていなければ感じとることのできない微妙なニュアンスで勝負しているせいかも知れないが、もっと甘く巧みな話術で溢れる詩情を歌い上げて欲しいと感じてしまうことが多かった。

フーバーのピアノは以前にも増して心を捉えた。聡明で淡々と、過度に出しゃばることなく歌の世界の背景を泰然自若に作り上げる。ゲルハーヘルの目指そうとしている世界を的確に読み取って、自然体で語るその口調にはなんとも味があり、まさにゲルハーヘルの共演者として最適。これほどの理想的なピアニストを得たゲルハーヘルは、自らの可能性を更に切り開き、新しい境地に達すると期待を込めて、これからも注目して行きたい。

ゲルハーヘルの「美しき水車屋の娘」(2008.1.30 王子ホール)
ゲルハーヘル ~マーラーの二夜~ 第1日(2011.12.5 王子ホール)

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