エンジェルフライト国際霊柩送還士 佐々涼子 284頁
読ませていただきました ★★★★★
今まさにパキスタンでテロ事件があり遺体が羽田に帰還した本日にこの本を読了した。
この本は佐々さんのノンフィクションライターデビューの作品だという。
ほとんど家族経営の日本で唯一の国際霊柩送還の会社に文字通り寝泊りし寝食を共にし彼等と同じ目線で同じ思いを共感してこのルポルタージュを仕上げている。
デビュー作らしく佐々さんの入れ込み過ぎる思いが文章の間から立ち上ってくる。
絞れば滴るようだ、というのは常套句であるが、このルポルタージュほどこの慣用句が当てはまるものは少ない。
この本の存在価値と存在意義はこの取材対象を初めて掘り起こした佐々さんの発見力と、彼等の仕事の崇高さと、それを沢山の人に知らしめたいという原石のような惚れ込みようでである。
従って僕はこの本や著者が入れ込み過ぎて主観に流れているという批判には賛同しない。
繰り返すが、それこそがこの本のコア:核であるからだ。
以降の作品、紙つなげ、等につながる佐々さんの取材対象へ惚れ込み、共鳴して自分の感じたことを冷静に書こうとしながら抑えきれず行間に叩きつけるようになってしまうスタイルはこのデビュー作で確立されていたようだ。
いろいろな意味で彼女の原点であり出発点であるファーストワークである。
確かにこのルポルタージュでは遺体に相対する彼等の姿に強く打たれ過ぎたためであろうか、記述の多くは日本に帰還した遺体への修復手当と遺族とのドラマに割かれていた。
しかしながら、タイトルに国際霊柩送還士とあるようなのに海外の地から日本へ還る(又はその逆もある)遺体の送還、輸送と出入国、現地でまつわる記事はいささか少ない。この点が本書の残念なところだ。
この側面にもきっと重大な知るべき実態、想起される共感、制度への価値ある問題提起もきっと多くあるはずなのだ。
そしてその点から言えば筆者も、エアハース社もこの本の上梓以来の成長と物語があるはずである。
可能であれば、筆者には是非その面にスポットをあてて次作を書いて欲しい。
記初に書いたような、今の国際テロが繁発している現在のリアルタイムでの彼等の物語を、彼女の経験を積んだペンでルポルタージュしてもらいたいと願うのは、この本を読んだ
僕だけではない、多くの読者が抱く強い思いであろう。
2016年07月06日