岩手日報社が2015年10月11日初版発行した『あの日から~東日本大震災鎮魂・岩手県出身作家短編集(道又 力=みちまた つとむ)編)』(2,160円)を読んだ。この本は、岩手県生まれの作家12人による、東日本大震災をテーマとした短編小説集である。
あの震災の直後、今すぐ何かをしなければ、と思っていた県内に住む作家たちは、印税を義捐金とする目的で、『12の贈り物 東日本大震災支援 岩手県在住作家自選短編集』(荒蝦夷刊)を出版した。版元の荒蝦夷は、事務所が壊滅状態になったにも関わらず、信念をもって本を出し続けた仙台の出版社である。但し刊行を急いだので、収録したのは震災とは関係のない、既に発表済みの作品だった。
東日本大震災は、岩手の作家に深刻な影響を及ぼした。非常の際にあっては、文学など何の役にも立たないと思い知らされたためである。作家の中には一時期、小説をまったく書けなくなった者もいた。
あれから4年が過ぎた。作家は小説を書くことで、現実と向き合うしかない。そこで『12の贈り物』の続編として、岩手出身の作家による、震災を扱った短編集を企画したのである。[編者の道又 力(みちまた・つとむ)氏の「あとがき」より]
(上)『あの日』~平成23年(2011)3月11日・東日本大震災による陸前高田市の大津波襲来の模様
[『広報りくざんたかた』2015年(平成27)11月1日号より]
執筆したのは掲載順に、高橋克彦(盛岡市在住、釜石市生まれ)、北上秋彦(軽米町在住・生まれ)、柏葉幸子(かしわば・さちこ=盛岡市在住、宮古市生まれ)、松田十刻(まつだ・じゅっこく=盛岡市在住・生まれ)、斎藤純(盛岡市在住・生まれ)、久美沙織(くみ・さおり=長野県軽井沢町在住、盛岡市生まれ)、平谷美樹(ひらや・よしき=金ケ崎町在住、久慈市生まれ)、澤口たまみ(紫波町在住、盛岡市生まれ)、菊池幸見(きくち・ゆきみ=盛岡市在住、遠野市生まれ)、大村友貴美(おおむら・ゆきみ=東京都在住、釜石市生まれ)、沢村鐵(さわむら・てつ)=東京都在住、釜石市生まれ)、石野 晶(いしの・あきら=岩手町在住、九戸村生まれ)の12氏。編者・道又 力(みちまた・つとむ=盛岡市在住、遠野市生まれ)。
今回は12人の作家が紡いだ14編の物語が収録されている。各短編には、写真家・松本伸(滝沢市在住)さんが撮影した被災者の笑顔、津波被害の港、穏やかな海などの写真が添えられており、被災地の表情を伝える。編者の脚本家・道又さんは、「あとがき」に次のように書いている。「小説に人の命は救えなくても、人の心は救うことが出来るかもしれない。何故ならば、物語には人間の内面の深いところに入り込み、もつれた感情を解きほぐす力があるからだ。」
あの日から震災と向き合い続けた作家が生み出した物語の多くは、遺された者たちと亡くなった者たちの心の結びつきを描いていた。いずれの物語も復興へと歩みをすすめる県民の心にずっと寄り添い続けてくれることだろう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます