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WINS通信は小売業のマネジメントとIT活用のための情報室

小売業・IT活用・消費市場の今をウォッチング/WINS企画/東 秀夫wins.azuma@sunny.ocn.ne.jp

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第5回 価格競争におけるパラダイムシフト

2009年10月08日 22時34分39秒 | 今日の気づき
【2009年10月7日(水)】10月7日付の日本経済新聞朝刊9面の主見出し「イオン、2年連続最終赤字」、サブ見出しが「3~8月、スーパー事業不振」と「小売業界、消耗戦に」の記事。小売業界は2月期決算の企業が多い。商品の入替期に合わせているからである。連日、小売業の3月~8月の上期決算の発表記事が紙面を賑わしている。紙面は賑わうが、決算の内容は賑やかなものでなく、「赤字」や「不振」、「低迷」という字句が当たり前のように並ぶ。しかし、生活者の低価格指向のニーズに対応したディスカウント戦略が成功した企業は、文字通り賑やかな紙面となっている。
 イオン不振の内容は本コラム第3回の10月4日付日本経済新聞の記事でも触れているので、主見出しについては、関心が通過する記事だが、サブ見出しの「小売業界、消耗戦に」に心が留まる。
 理由は2つある。1つ目の理由は、紙面構成の作り方の良さでもあるが、業態間競合の厳しさを感じたからである。イオンの記事の左隣に「デフレは大いに結構」の見出しで、ニトリの似鳥昭雄社長のインタビュー記事が載っている。イオンの記事は「客離れを防ぐには、専業ディスカウント店やユニクロ、ニトリなど低価格専門店との競争からは離脱できない。円高を生かした海外調達など一段のコスト削減が必要になる」と結んでいるが、片や、ニトリの記事では「9月の既存店の客数が前年同月を18%上回ったのは評価してもらった証拠。11月にも値下げを計画している」と、昨年5月から6度にわたる家具などの値下げ効果について、似鳥社長のコメントを紹介している。 
 既存の営業形態からの低価格指向へのシフトの難しさと、初めから低価格指向の営業形態の確立をめざしてきた企業の差を感じる。「特売」感覚の低価格戦略など瞬間風速的にも通用しない時代に来ている。瞬間風速的に効果を出しても、その後のことを考えると、決して業績のプラス要因には働かない。企業、業態、店舗の「コンセプト」の見直し、新構築が問われているのではないだろうか。
 2つ目の理由は、金額的拡大が望めない消費市場の厳しい現状を感じるからである。ニトリの9月における既存店客数の対前年同月比18%増は、ニトリの強い価格競争力がニトリの「市場のパイ」の取り分を大きくしたが、パイそのものを大きくしたのではないと考えられ、消費市場の厳しい現状を感じる。しかも、低価格戦略が功を奏したとすれば、市場の金額規模は縮小したことになる。たとえ、低価格戦略で買い控えの殻に閉じこもっていた消費意欲を引き出すことができたとしても、家具などの耐久消費財の買い替えサイクルの期間で見た個数ベースの市場規模が大きくならない限り、市場の金額規模は縮小に向かうことになる。かつての「安かろう、悪かろう」の時代ではない。「悪かろう」では、生活者は低価格指向の商品に付いて来ない。
 商品の質は向上している。かつてと同じ品質環境での価格競争ではない。生活者が納得する品質の範囲内での価格競争である。価格競争においても、パラダイムシフトが起こっている。 (東)

【第1回 セルフレジ成功の100ヶ条】セルフレジの成功が小売業の成功を導く  第4回

2009年10月06日 22時37分29秒 | セルフレジ成功の100ヶ条(内容整理中)
第1章 顧客はセルフレジを求めている

《章のはじめに》および第1条、第2条


【2009年10月6日(火)】

 《第1章のはじめに》セルフレジ成功の大前提は、セルフレジは顧客が求めているシステムであることを、導入する小売業または小売店が強く確信を持つことである。顧客が求めていないものを採用難対策や人件費削減対策として小売業側の理由で導入しようとしても普及は見込めない。逆に、顧客の反感を引き起こすことにもなりかねない。一方、小売業が導入に二の足を踏んでいても、顧客のニーズがあれば必ず定着するし、普及もする。仮に、コストがかかり過ぎる、運用が難しいなど、システム側に問題があるとしても、そのシステムは姿を消し、改善された別のシステムが登場してくるはずである。世の中に、ニーズがあるのに対応しないという事例はない。対応できないという事例はある。対応できない要因も技術の進歩が解決してくれることはよくある。
 ニーズがある以上は、時間の差はあっても、必ずニーズに対応できる仕組みが登場してくる。セルフレジも同じである。導入が進んでいるので、そういうことはないが、仮に、普及を妨げるシステム上の問題があるとしても、必ず、その問題点を解決した新しいシステムが登場して顧客のニーズに満足を与えることは間違いない。不況時でも、食品スーパーが他業界ほどには落ち込まないのは、人は食べることを止めないからである。人は食べなくても生きていけるとすれば、食品および食品関連産業は成り立たない。セルフレジがなくても人の生活が困るということはないが、潜在的なニーズは必ずある。それは、これまでの導入店舗を見れば明らかである。
 その確信を持つことの大切さを第1章のテーマとした。第1章は10ヶ条の要点に整理している。第1条から第6条までは、導入前の準備段階で特に必要なことであり、第7条から第10条までは、稼働後に留意すべきことである。なお、今後、稿を進めるに当たって、章が改まるごとに、章の視点を《章のはじめに》として解説し、章を構成する10ヶ条の一覧を紹介することとする。第1章の10ヶ条は以下通りである。
  
 第1条 顧客のニーズを考える

 第2条 利用率20%の目標を考える

 第3条 全従業員の理解を考える

 第4条 接客のあり方を考える

 第5条 顧客への啓蒙を考える

 第6条 運用環境を考える

 第7条 利用率20%をめざす

 第8条 改善点を見つける

 第9条 改善点を修正して実行する

 第10条 仮説検証を怠らない



◆第1条 顧客のニーズを考える

 顧客は自ら進んでセルフレジを使っているのである。頼まれて使っているのではない。初めて導入する小売業では、顧客は本当に使ってくれるだろうかとか、苦情が出るのではないだろうかと不安を持つようだが、稼働が始まると、リピート利用の顧客が出てくる。苦情が出る場合もあるようだが、顧客とのコミュニケーションをよくし、セルフレジのことをきちんと説明し理解してもらえば、利用率は上がる。現場の総指揮官である店長の取り組む姿勢によっても利用率が上がったり下がったりする。利用率が上がらないとすれば、その原因は小売業側にあると言っても言い過ぎではない。
 100%の顧客にニーズがあるわけではないが、潜在的なニーズを持つ顧客はセルフレジをリピート利用する。また、リピート利用する顧客も有人レジとセルフレジを使い分けている。すなわち、自分の強い意志でセルフレジを選んで利用しているのである。
 ニーズがあるのかないのか、稼働してみないとわからない、というようでは、顧客に自信を持って勧められない。「顧客のニーズがあること」に確信を持つことが大事である。先行企業が既にその事を証明している。


◆第2条 利用率20%の目標を考える

 潜在的にセルフレジを利用したいと考えている顧客が20%は確実にいるということを認識し、それを前提に、実際に利用率20%を達成するには、どうすれば良いのかということを考える必要がある。
 わが国で導入が始まった時から、セルフレジメーカーは利用率20%を目標にするように提案していた。20%の利用があれば「大成功」とも言われた。20%の根拠は定かでないが、アメリカでの利用状況に学びながら出てきた数字と思われる。アテンダント端末1台とセルフレジ4台の1セットを設置するためのスペースは、従来の有人レジの2レーン分が必要になる。チェックアウトのスペースは初めに設計した時よりあまり広げられない。セルフレジ1セットを余計に取るスペースはないというのが大方の状態である。セルフレジの処理時間は有人レジの2倍かかる。処理時間から見たセルフレジ4台分は有人レジ2レーン分となる。有人レジの2レーンをセルフレジ4台のスペースに入れ替えるのが一般的な設置の仕方である。
 また、有人レジを2レーン削除するのは、有人レジが10レーン未満の店舗では難しくなる。仮に、10レーンの店舗で2レーンを削除すると、20%のカットとなる。セルフレジ4台で有人レジ2レーン分の働きをすれば、有人レジ10台の時と同じ処理能力となる。目標を20%とする根拠が筆者なりに見えてくる。
 一方、実際には、どの店舗も初めは20%を目標に掲げるようだが、導入して間もなく目標ラインに到達または近くまで利用率を上げている。もちろん、事前の準備には力を入れているが、特に顧客の不満が多くないような店舗だと20%のラインが見えてくるまでには、そんなに多くの時間を要していない。潜在的なニーズが顕在化させられたと見るべきだろう。まず20%の目標に達してから、次の展開へ進むべきである。導入店舗が増えてくるにしたがってわかってきたことは、利用率20%の目標は決して高いものではなく、初めに到達しなければならない目標数値だということである。そして、そのことを前提に、20%達成のための要件を考えることが求められる。

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第4回 「エコ」を考えると限りがない

2009年10月06日 22時35分06秒 | 今日の気づき
【2009年10月6日(火)】10月6日付の日本経済新聞朝刊1面の主見出し「軽と小型車 開発一本化」、サブ見出し「三菱自、車台を共通に 人員や設備集約」の記事に目が留まる。流通関連、産業関連の記事では、他の一般紙が掲載していなくても日経には掲載されているし、一般紙に掲載されている内容は日経も掲載し、記事の文字数も多い。このコラムは流通業に関連した世の中の動きの「今」を新聞記事をセンサーに「気づき」を発見していくことをめざしている。必然的に日経の記事を取り上げることが多くなり、これからもそうなっていくのは間違いない。したがって、毎日、まず日本経済新聞に目を通す。ざっと見出しを追っていくと、必ず目が留まるというより、心に何かが引っかかって、その見出しをしばらく見続けている記事を必ずと言っていいほど毎日発見する。今日は先に挙げた記事に最も心が留まった。同じく6日付朝刊3面に「生活関連消費 中高年が主役」、「シェアで過半・逆転」の見出しで、2009年度には、眼鏡の小売最大手の三城ホールディングスが売上高に占める老眼鏡の割合が50%を超えたこと、紙おむつ市場は大人用が子供用を逆転する見通しであることなど、中高年向けの商品やサービスが国内市場の過半数を占める例が相次いでいることを伝えている。本来なら、真っ先に目が留まる記事のはずだが、なぜか、自動車業界のことはまったくの門外漢なのに、先の1面の記事に関心がいった。
 心に留まる記事と心を通過する記事の違いは何なのか。その分かれ目は、記事スペースの大きさや掲載ページの違いではなく、「これは新しいこと…」「これはなぜか…」と感じるか、「そんなことは当たり前…」と思うかの違いである。今日の例では、1面の記事に、門外漢ゆえに「そんなことは当たり前では…」と思う半面、「これはなぜか…」と感じたのである。
 記事は、三菱自動車は軽自動車と小型車のプラットホーム(車台)など自動車の骨格や基幹部品を共通化することで、人員や設備を集約して開発・生産コストを引き下げるという内容である。産業規模の大きさや商品単価(1台当たりの末端価格)の大きさなどから、決して一概に言えることではないのだろうが、共通・共有化は他の産業分野でも取り組んできたことで、やらなければならない切羽詰った状況にあることは予想されるが、なぜ今になってやるのか、今できるのなら、なぜもっと早くやって競争力を強くしなかったのか、という疑問を感じたことが、見出しに目が留まった理由である。あまりにも比べる対象が不釣合いだが、門外漢ゆえに感じることは、外食産業などは同じ食材をメニューごとに使い分けて、または使い分けられるメニュー開発に取り組み、食材管理、メニュー管理に注力してきた。本来なら「当たり前のこと」として心が通過する記事だが、これからの社会の変化、社会の価値観の変化の大きな基軸になると考えている「エコ」の問題とも関係する内容であることが、今日一番の関心記事となったのだと思う。
 物や人の集約化は環境問題の解決では大変大きな部分を占める。雇用問題をあえて考えないで言うと、物や人が少なくなると、物や人の動きで費やすエネルギーが少なくなり、全車種合計の総生産工程数も少なくなる。「エコ」の問題は単なるエネルギー消費の問題にとどまらず、産業構造や業務プロセスにまで縦横無尽にメスを入れていかなければならない問題である。すでに無駄の排除と効率化に取り組んでいる企業があると思うが、会議一つを取ってみても、「エコ」の問題が関係してくる。会議の回数を減らしたり、効率的に行えるように努力するだけでなく、極端に言えば、同じ効率化に努力するにしても、いかに短い時間で濃い内容が伝えられるように工夫をして会議時間を短くするとか、早くもなく遅くもなく決められた時間に出席者がきちんと集まって会議が進められる環境を整えるとか、「エコ」に直接的、間接的にかかわる無駄の排除は限りがないほど多くある。現実には、あまり細かい決まり事を作ると逆にスムーズに事が運ばないこともあるが、メス入れを検討する箇所はどの業務分野でも無数に見つかるということである。要は、今の延長で無駄を除くのではなく、いったん白紙に戻してカウントゼロから組み上げなければ根本的な問題解決はできないというのが「エコ」の問題であるとも感じている。
 新聞記事から離れて、「エコ」の問題で気にかかっていることがある。これも業界のことは不案内なので、一人の素人の意見として受け止めてもらいたい。
 出版不況が言われているが、その中で、書籍・雑誌のリサイクルショップが定着している。リサイクルショップは「エコ」の一角を担う業態のイメージを持っていたが、それはそれと認めつつ、この先、このままで良いのだろうかと疑問に思っている。最近、不要な書籍を処分しようと、着払いの宅配便による「無料買取サービス」を利用した。リサイクルに回せないような古く、汚れた本も含まれていたが、ショップ側の判断でリサイクル販売できないものは資源ごみとして処分するということに承諾した上での「無料買取サービス」の利用である。第一陣として、段ボール箱6箱に約300冊を取りに来てもらった。宅配便の着払い依頼主控えには1箱の運賃が740円と記されている。この運賃は、「無料買取サービス」だから、当然ショップ側の負担と考えている。店頭で販売されても、資源ごみで処分されても、買い取った書籍は何らかの形で収益を生み、その中から着払い運賃も賄うものだと解釈している。ただ、実態の詳細はわからない。
 宅配便で出して約1週間後にハガキで査定の結果が届いた。リサイクル販売できない本は1冊としてあるが、買取金額の合計は609円だった。1冊2円の計算である。ショップは4,440円の運送料を自己負担し609円で商品(古本)を仕入れて利益を上げていることになる。帳簿上は別にして、買取金額の中に幾分かは運賃を含んでいるのではないかと思ってしまう。同じ新刊を買って来て、「無料買取サービス」と「店頭への持ち込み」を比べてみるとわかることだが、そこまではしなかった。第二陣として、文庫本を中心に32冊を同じく「無料買取サービス」で出した。今度は300円の査定であった。「無料買取サービス」と「店頭への持ち込み」を比べていないし、業界の仕組みにも不案内だから、これらの理解が間違っていたとすれば当該企業に迷惑をかけることになるので、先に断っておくが、「無料買取サービス」がどうのこうのと言うのではなく、それほどの金額にしかならないのなら、もちろん無料で良いから、市の資源ごみ回収や町内会の資源ゴミ回収に出した方がトラックが排出するCO2を少なくできたのではないだろうかという反省がある。「エコ」ビジネスの一角にあると思っていたビジネスの反「エコ」と思われるような仕組みを経験して、この先、このビジネススタイルが継続できるのであろうかと思うのである。流行の言葉を使うなら、「持続可能」なビジネススタイルなのだろうかということである。
 「エコ」の問題は様々な角度から縦横無尽に考えることができる。三菱自動車の記事に目が留まったのは、そういう「エコ」に対する思いが伏線としてあったのである。(東)

【第1回 セルフレジ成功の100ヶ条】セルフレジの成功が小売業の成功を導く  第3回 

2009年10月05日 23時27分42秒 | セルフレジ成功の100ヶ条(内容整理中)
序章③ セルフレジを10の視点で考える


【2009年10月5日(月)】

 「今、なぜセルフレジなのか」、「これから、なぜセルフレジなのか」、「セルフレジで何が向上するのか」など、10の視点からセルフレジを考える。そして、それぞれの視点で、セルフレジ導入を成功させるための要点を10ヶ条としてまとめていく。10の視点は以下の10章である。

 第1章 顧客はセルフレジを求めている

 第2章 セルフレジは顧客サービスを向上させる

 第3章 セルフレジは経営者のリーダーシップで決まる

 第4章 セルフレジは従業員のスキルを向上させる

 第5章 セルフレジは労働力人口減少社会では必須である

 第6章 セルフレジは店舗力を向上させる

 第7章 セルフレジの活用可能性は無限である

 第8章 セルフレジは企業のIT活用力を向上させる

 第9章 セルフレジは小売業の原点を教えてくれる

 第10章 セルフレジは企業力を磨き競争力を向上させる

【月曜コラム】自由席/店ウォッチング  第1回 一人でみかんの缶詰を買えますか

2009年10月05日 23時20分45秒 | 店ウォッチング(「今日の気づき」に統合)
【2009年10月5日(月)】「あなたは一人でスーパーに行って、みかんの缶詰を買えますか」と聞かれると、100人中100人が「買えます」と答えるに違いない。中には「そんな馬鹿な質問をするな」と、叱る人がいるかもしれない。それでは試しにスーパーに行ってみると、なぜ、そんな質問をしたのか、わかってもらえるかもしれない。これは筆者の体験である。
 駐車場4,000台規模、商業施設面積約7万3,000㎡の郊外型大型ショッピングセンターの食品売場。家族ともよく買物に行くし、家族には嫌がられるが、買物に行った時に売場づくりや品揃えの特徴を説明したりする。スーパーの売場は取材でも数え切れないほど訪れている。上京して一人暮らしを始めた学生の時から近所のスーパーでよく買物をした。みかんの缶詰を1個買うのに苦労などいらないと思ってきた。そのスーパーに一人でみかんの缶詰を買いに行くまでは。
 まず、何売場かを案内する天井から吊り下げられたボードを探した。「缶詰」の大きな文字はすぐに発見できた。これで買物の目的の90%は達成できたと思った。あとは缶詰を買物カゴに入れてレジで精算するだけである。ところが、その缶詰売場のゴンドラにはみかんの缶詰がないのである。パイナップルや桃の缶詰もない。生の果物は季節商品だが缶詰は年間商品のはずなのにと、一瞬、目の前の光景が同じ光景が見える異次元の空間に引っ張り込まれたSF映画を見ているようで、何かの間違いかと思ってしまう。肉、魚を中心とした缶詰が並んでいるだけである。こんなことはあり得ないと思うが、もしかして商品補充が間に合わないほど売り切れているのではないかと、棚のプライスカードを確かめながら、もう一度缶詰売場の商品を端から端まで見る。みかんの缶詰がないことを確認する。そして、ここにないのならと、天井から吊り下げられたボードを頼りに常温の一般食品売場を見落としがないように2回ほど回ってみたが見当たらない。それでは果物売場にあるかもしれないと、青果売場に行く。1アイテムだけ見つかる。中国産のみかんの缶詰が1種類だけ、果物を陳列した平台の下に置いてあった。
 これだけ広い売場でみかんの缶詰が中国産1アイテムということはないだろう。安全性で問題が生じて売場から撤収したというニュースは聞いていない。「なぜないのか」という思いばかりが頭をめぐる。あるはずの置き忘れたものを捜すような焦りすら出てくる。もう、店員に聞くしかない。
 その店員も即答はできずに、「探してきます。少し待っていてください」と。店員が戻ってくるまで、そんなに時間はかからなかったが、少し荒い息をして、「紅茶とかコーヒーと書いてあるボードの近くの柱の下辺りにあります」と丁寧に答えてくれた。この辺は2回も回ったのにと、早足で大雑把な回り方をしたことを反省しつつ、ゴンドラを細かく見ていかなくても大雑把に回っても見つかるはずの商品と思っていたのに、と半信半疑で教えられた売場に行ってみると、確かにあった。パイナップルの缶詰も桃の缶詰も蜜豆の缶詰もきちんと品揃えされていた。棚の仕切りには「フルーツ缶詰」の文字。そのゴンドラはケーキの材料売場だった。
 実は、わが家ではマカロニサラダやポテトサラダのトッピングにみかんの缶詰を使う。その日はマカロニサラダを作るというので、みかんの缶詰とロースハムを買ってくるように頼まれたのである。みかんの缶詰はケーキ材料としてしか使わないのか。サラダのトッピングには使わないのだろうか。デザートにはどうなのか。提案型の売場とはいえ、缶詰は「缶詰」と書いたボードの下にまとめた方がわかりやすく、買いやすいのではないだろうか。目の前の売場づくりを否定するような考えばかりが浮かんでくる。しかし悲しいことに、一度失敗を経験すると、次の買物では迷うことはないので、ここに書いたほど大したことではないと片付けてしまわれかねない。頻繁に利用する主婦にとっては、一瞬の買いにくい売場は、一瞬にして買いにくさなど過去のことと忘れてしまう売場になるのかもしれない。いわゆる、毎日の買物に対応した「デイリーストア」とは、そういうものか等々と、理屈を並べてしまう。
 しかし、この続きがある。ロースハムでも売場にたどり着けなく迷ってしまったのである。
 まず、精肉売場に行く。牛、豚、鶏の続きには、ハムやソーセージ、半加工のハンバーグなどが並んでいると想像して行くと、ロースハムは店のラベルが貼られた店でスライスしてトレー詰めされた商品だけしかない。ここでも、一瞬、目の前の光景が信じられない思いに占領された。売場のレイアウトは精肉コーナーを過ぎると揚げ物・焼き物・煮物の惣菜、デリカ、パンのコーナーへと続く。いつも家族と来ると最後に通る売場である。みかんの缶詰だけでなくロースハムもないのかと思った瞬間、思考のキャパシティが極端に小さくなり、この先は惣菜・デリカ売場か、と精肉コーナでUターンして、また売場を2回、早足でまわる。精肉売場以外のもう1か所でロースハムを見つけた。生めんのラーメン・冷やし中華の売場にPBのロースハムが1アイテムだけ置いてあった。よく確かめると、ラーメンの陳列ケースにはPBのロースハムと、メンマ、煮卵が並んでいる。冷やし中華の場所にはPBのロースハムと揚げ玉、刻みしょうが並ぶ。ちなみに、焼そばの場所は揚げ玉、刻みしょうが、ミックス野菜である。PBのロースハムは置いていない。見事な提案型の陳列と感心しながら、PBのロースハム以外のハムや焼豚を使いたい顧客もいるだろうから、ボードでトッピングの提案をして、好みのハムが選べる売場はデリカコーナーにあることを案内した方が親切ではないのか。それとも現物を置かないと、デリカコーナーに行くのならロースハムを使うのはやめようと、ロースハム全体の売上に影響するのか。POSデータの分析を駆使した結果、売上が最大になる陳列として考えられたものだろうかと考えがめぐる。
 肝心の買って帰らなければならないロースハムだが、かなりの時間、売場をぐるぐる回っているので疲れて、あれでいいと、精肉売場のトレーに詰められたロースハムを買物カゴに入れて、いつもの通りデリカコーナーを通ってレジに向かうと、山と積まれたハム・ソーセージ類を発見した。遠い過去のことで忘れてしまったが、迷子になって焦っている時に母親を見つけた時は、こんな気持ちになったのだろうかと。レジを通過して時計を見ると、みかんの缶詰を探し始めてから、ロースハムも買って精算が終わるまでに、約30分もかかっていた。家に帰ってそのことを話すと、「普段に使うのだから、ロースハムなら何でも良かったのに」と、あっさり切り捨てられた。
 さらに後日談がある。それなら、どこの店も同じだろうか。今はこういう売場づくり、陳列の仕方が一般的なのだろうかと、その店と競合している大型店と、近くの300坪型の食品スーパーに行くことにした。300坪型の食品スーパーでは、みかんの缶詰は「缶詰売場」でなく「洋菓子材料売場」にあった。しかし、ロースハムは店全体が大きくないので精肉売場の近く置いてあり見つけるのに時間はかからなかった。
 競合する大型店ではどうか。みかんの缶詰は「缶詰売場」にあり、「缶詰売場」には肉、魚からフルーツまで缶詰製品を一堂に集めていた。ロースハムはどうか。精肉コーナーは牛、豚、鶏に続いて大きくハム・ソーセージのコーナーが設けてあり、ハム・ソーセージ類がすべて揃っている。精肉の壁面陳列コーナーの向かいは平台の冷蔵ケースで島陳列をして、精肉や加工肉、ハム・ソーセージの買得品、セール品を大量陳列していた。わかりやすく、買いやすい売場である。基本的には、学生時代から経験しているスーパーの売場と変わっていないように感じる。変わっていたとしても、時間とともに少しずつ変わっていたのであれば大きな変化と思わないのだろう。しかし、ロースハムはまだしも、みかんの缶詰などは学生時代から買った経験はなく、他の缶詰を買った時に同じ売場にあったと記憶している程度である。その記憶を頼りにして、売場で迷ってしまった。
 ということは、筆者が体験した買いやすい売場は旧態依然とした陳列で、買いにくいと感じた売場が新しい提案型の陳列ということになるのだろうか。
 もう一度、「あなたは一人でスーパーに行って、みかんの缶詰を買えましたか」と聞かれて、100人中何人が「買えました」と答えるのだろうか。(田中)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第3回 次への発展は現実の肯定から始まる

2009年10月05日 04時45分32秒 | 今日の気づき
【2009年10月5日(月)】5日は終日外出するため10月4日付の日本経済新聞から流通業関連の記事を探した。朝刊7面に「イオン、赤字120億円」を主見出しに、「3~8月最終損益 金融事業などで特損」のサブ見出しの記事。連日、小売業大手の決算記事である。いずれも業績不振の内容が並ぶ。相変わらず総合スーパーの不調が伝えられている。同記事でも、「主力の総合スーパーも天候不順などで苦戦」、「本体で総合スーパーを手掛けるイオンリテールの既存店売上高は約6%減った」、割安なPB商品拡販で「来店客数や買い上げ点数を伸ばしたが、価格下落を補えなかった。夏場の天候不順も響いた。ただ営業黒字は確保したもようだ」等々と。
 この種の決算記事でいつも気になることがある。必ずと言っていいほど、経営者側の「…変化の対応に後れた…」という類いのコメントが伝えられることである。同記事の中ではイオン側のコメントは報じられていないので、そういう趣旨のコメントがあったかどうかはわからない。小売業は変化対応業とはいえ、今の変化にタイムリーに対応するのは至難の業である。今の変化は質、形態、スピードが予測もつかなく絡み合いながら起こっている。変化への対応の巧拙を結果論として論じるのは簡単だが、日々走り続けている企業が急に方向を変えたり、机上で積み木を並べ替えるように営業形態を変えることなどできるわけがない。
 総合スーパーは登場した時には大きな顧客の支持があった。支持があって店舗数が増え店舗規模も大きくなった。顧客ニーズに応えようと品揃えや売場構成も変化させてきた。しかし、今は顧客の変化、市場の変化の中で「旧業態」になりつつある。旧業態になりつつあるからといって、その理由を「…変化の対応に後れた…」として説得力があるのだろうか。 30年ほど前、上場スーパーの決算発表の記者会見に初めて出た時に驚いたことがある。どのスーパーも、前年より数字が上がったり下がったりした理由として、天候要因の説明はまだしも、今期は前期より日曜日が1日多かったとか、昨年は閏年だったので今年の営業日は1日少なかった、ということが真顔で話されるのである。営業日数の違いは例え1日の増減であっても売上に与える影響は大きい。株主が注目し株式市場が目を光らせているので、そういう説明になるのだと思うが、果たして、対前期比売上の状況を「暦」で説明するのが適切かどうか疑問に感じたことを思い出す。社内の経営会議では、もっと本質的な原因究明がなされていたはずである。
 企業のマネジメントで「PDCAサイクル」の大切さがよく言われる。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)を繰り返して継続的に業務改善を行っていく管理手法である。仮説を立てて実行し、結果を検証して改善につなげていく「仮説検証」と同様の考え方である。小売業の現場では時々刻々の売上状況がPOSデータに記録されていく。日々、仮説検証をしていける環境にあり、その手法を磨いているところが競争力を強くしている。一方、企業の経営では、仮説検証、PDCAなどの手法は適さない。実行して、結果を見て、修正すれば良い、というわけにはいかない。失敗は許されないからである。結果を見て修正すれば良いPDCAをフィード・バック手法と言われるのに対して、失敗をしないように、事前に解決手段をすべて列挙し、どれが最善かを選ぶやり方をフィード・フォワード手法と言われる。概して、企業の現場はフィード・バック手法型で経営はフィード・フォワード手法型と言える。
 小売業においては、プロセスは異なっていても、両手法の「実行」の精度を高める基礎データはPOSデータの中にある。総合スーパーが新業態として興隆していた時のデータも、旧業態化しつつある今のデータも、すべてPOSデータに記録されている。商品が独りでレジに移動することはない。顧客は商品を選び購入するためにレジに運ぶ。POSデータには必ず顧客の意思データも蓄積されている。POSデータを顧客データと重ね合わせて活用できる環境も既に整っている。決算発表の席ではともかく、社内の経営会議では、「…変化の対応に後れた…」ことを経営判断のミスとするのではなく、結果論では認識が難しい時代の変化に真っ正面から向き合って、「事実」を肯定的に見ていくことが大事ではないだろうか。「事実」を「肯定」し、起っているすべてのことを肯定的に受け入れることが次の発展につながるのではないだろうか。「そんなことはわかりきっていることで、当たり前」と一笑に付されることを覚悟で感じたことを書いてみた。(東)

【第1回 セルフレジ成功の100ヶ条】セルフレジの成功が小売業の成功を導く  第2回 

2009年10月02日 22時30分42秒 | セルフレジ成功の100ヶ条(内容整理中)
序章② 「セルフレジ」で労働力人口減少社会の壁を突破


【2009年10月2日(金)】

 前回の序章①では、セルフレジが不成功だったとすれば、その原因は小売業にあることを強調した。従来の仕組みに重ね合わせて従来の仕組みと置き換えるだけのシステムというとらえ方で終わるのか、それをきっかけに様々な従来の仕組みを考え直し店舗運営のレベルアップにつなげていくのか、小売業側の取り組み方で効果の度合が変わってくる。店舗運営のレベルアップにまで効果を出していくとすれば、それを可能にするのは小売業側の取り組み方しだいである。成功の目標ラインをどこに設定するのか。システムを提供する側のITベンダーの提案と導入・活用する側の小売業の目標とは違いがあるのは当然である。セルフレジは、費用対効果など数字で直接的に把握できる1次効果だけでなく、従業員の接客レベルの向上や顧客サービスのアップなど数字に表せなくても顧客の声などでわかる店舗自体の顧客満足度の向上など大きな2次効果が期待できる。それだけに、成功要因に占める小売業側の位置付けが大きくなる。
 接客を考えることで小売業の様々な場面に考えが及ぶ。例えば、商品とサービスのバランスが取れていない場合、顧客はどちらを優先するのか。商品の質が高ければ、サービスに少々不満があっても顧客は来店すると思われる。一方、商品の質が悪ければ、サービスが良くても来店はしないだろう。しかし、品質的にも価格的にも、ずば抜けてそこにしかない商品なら別だが、そうでない限りは、商品のレベルがその顧客にとっての許容範囲であれば、サービスの良い店舗が選ばれるだろう。「競合」という場合は差異化を図っていても、広い範囲での同質化の中の競い合いということになる。サービスが集客力では大きな要素となる。と同時に、顧客に許容される商品レベルの中で、さらに上のレベルを目指していかなければ顧客の継続的な支持は得られない。セルフレジで接客サービスのレベルを上げるということは、商品レベルの維持・アップを見直すことにもつながっていくものである。小売業のあらゆる分野、あらゆる業務を見直し、考え直すことが企業、店舗の体質を改善し、競争に勝ち抜く強い体力を養うことになる。
 労働力人口の減少は避けて通ることはできない。その対応は短期間でできるものではない。採用難という表現が当たらない時代を迎えようとしている。採用しようにも採用する相手が著しく少なくなる社会の到来である。そういうマイナス要因をいかにプラス要因に転換していけるかが求められる。
 ストレスは万病の元と言われる。過度のストレスは悪性そのものである。しかし、ストレスがまったくない環境に居ると、人は健康を維持できないと言われている。ストレスは低くても高くても生産性は高くならないが、適度なストレスは生産性を高める。目標や希望は良いストレスである。小売業を二重にも三重にも取り巻く厳しい環境の中で、解決しなければならない問題が短期間に覆いかぶさってくると生産性を低下させる悪いストレスになるが、長期的な視点で達成可能な目標となると、良いストレスになって生産性を高めてくれる。
 「セルフレジを考える」ことで、セルフレジが提起している問題点が見えてくる。見えてきた課題を達成可能な形で1つ1つ乗り越えていくことが良いストレスになる。採用難対策、人件費削減対策のシステムという見方だけだと、近未来を生き抜いていくための課題が見えてこない。「セルフレジを考える」ことは経営を考えることでもある。セルフレジは経営者がリーダーシップを取って取り組むべきものである理由がここにある。詳細については、本連載の第3回以降の「セルフレジ成功の100ヶ条」の中で触れていくことにする。

 以下は2009年2月に労働力人口減少社会への対応について『WINS』№85で執筆した原稿(一部加筆)と、原稿に添えた労働力人口の概要である。


労働力人口減少への対策が急務の課題

 昨今、小売業を取り巻く環境変化の厳しさは様々な角度から論じられているが、その1つに少子高齢化や人口減少社会の到来による顧客の変化、顧客の減少がよく取り上げられる。しかし、人口減少社会は顧客が減少するだけではない。労働力人口も減るのである。労働集約型産業であり労働生産性の低い小売業にとっては、少ない人数でサービスレベルを維持・向上させながら効率的な店舗運営ができるビジネスモデルをいち早く作り上げることが近未来の発展を約束することになる。
 経済産業省は2007年6月に12年ぶりにわが国の流通産業のビジョンをまとめ公表した。その中で人材確保難の問題に触れ「労働人口の減少等に伴う人手不足が顕在化し始めている。このため、パート労働者中心の既存のビジネスモデルを見直し、従業員満足を高め、労働生産性を高めていくことが必要である」とし、人手不足の現状についても「今後、団塊世代の大量退職、少子高齢化の進展など労働力人口の全体的な減少はもとより、各種サービス業を始めとする新たな雇用の場が生み出されつつある中で、労働集約型産業である小売業にとっては一層の人手不足感が顕在化しつつある状況にある」と分析している。
 わが国のセルフレジ導入は開花期を迎えたが、レジ要員の採用難が導入の追い風になっている。しかし、今の採用難は確かに地域や立地によっては採用の難易度に差がありほとんど採用ができないという地域があるものの、全体的に見れば概して採用がまったく困難という状況ではない。採用を働きかける相手がいないという状況ではないからである。金銭授受と接客を伴う業務であることが採用を難しくしている面もある。ところが、極論すれば、この先に採用を働きかけようにも働きかける相手がいなくなるという深刻な採用難時代が到来しようとしているのである。
 セルフレジの導入が広がる中で、その成功事例が、少ない人数でサービスレベルを維持・向上させながら効率的な店舗運営ができるビジネスモデルを作り上げるための1つの解を与えている。レーン型セルフレジの構成は1人のアテンダントが4台のセルフレジを見る1セット4台を基本に、今では1セット6台、1セット8台というケースも出てきており、1セット4台から1セット6台へと基本構成も変わりつつある。1人が1台を見る有人レジに対して1人が4台なり6台を見るのである。有人レジは常時稼働状態にあるわけではないが、レジ要員の人数の差は明らかである。
 人数が少なくなった分、顧客サービスのレベルが低下したのかというと、むしろ上がっていることの方が多い。有人レジより顧客への接し方をどうすべきかを考えるようになってレジ担当者のスキルも向上している。現場における人材育成、接客の自己研鑽の機会ともなっている。
 セルフレジが投げかけた問題提起で重要なことは、厚いサービスを提供するために最も人手をかける必要があるとされていたレジ業務で人手をかけなくても厚いサービスの提供が可能であることを現実に証明したことである。ITを活用して人手をかけないでサービスを向上させる部分と人手をかけてサービスを向上させる部分のメリハリを再点検、再構築することで労働生産性を上げることを可能にする。スキルが向上した業務は職種に魅力を与え採用を牽引することにもなる。
 下の表は独立行政法人労働政策研究・研修機構が2008年2月に公表した「平成19年 労働力需給の推計」より作成した労働力人口の概要である。IT活用の巧拙が労働人口減少社会を生き抜けられるかどうかの鍵を握る。








【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第2回 まだまだ続く消費市場の縮小傾向

2009年10月02日 22時27分36秒 | 今日の気づき
【2009年10月2日(金)】10月2日付の日本経済新聞朝刊9面トップに「セブン&アイ、再構築急ぐ」の記事。「3~8月、純利益35%減」「スーパー・百貨店不振」「コンビニ事業にも陰り」とサブ見出し。昨日に続いてセブン&アイの報道が続く。少し前まではイオンが小売業不振の象徴のように同じような論調でよく報じられていた。その前は百貨店業界だった。優等生のセブン-イレブンに支えられたセブン&アイの健闘と総合スーパー不振の影響を受けたイオンの厳しい状況がよく比較された。今回の記事ではセブン&アイの不振が大きく報じられているが、それでもセブン&アイの2009年2月期の営業利益はイオンの2倍以上の水準である。そのセブン&アイでさえ業績が悪化していることを、流通業界の不振ぶりを象徴することとして大きな扱いになったと思われる。トップ企業の業績悪化だから当然の扱いと言えるが、こうした業績悪化の報道はトップ企業に限らず、今後も後を絶たないだろう。消費構造が大きく変化しているからである。
 消費市場の容量以上に商品を詰め込めるだけ詰め込んで、パンク寸前になって、詰め込んだ商品が在庫として大量に残ってしまい、他を押しのけて詰め込むために敷いてきた生産体制は市場の動きにすぐには対応できず、市場の変化、市場の縮小に対応すべく、いかにソフトランディングするかが課題となっているものの、それもできずにハードランディングをして雇用問題を引き起こしているのが現状である。
 同じく10月2日付の日本経済新聞朝刊31面に「百貨店、早くもおせち商戦」という記事が載っている。従来のあるべき時期の商戦が早く始まったので、そのこと自体にニュース性があると言えるが、夏が終わったところなのに正月に関連した話題が登場することに、小売業の置かれた厳しい状況が伝わってくる。四季の美しい日本の小売業の売場から季節に沿った季節感がなくなるほど悲しいことはない。やむにやまれぬハードランディング的な動きと言える。
 今の消費市場は限界にまで膨らんだ風船が縮まろうとしているのと同じ状況である。あちこちにしわができるのは当然である。1つのしわを直しても、そのしわ寄せが他のしわを深くしてしまうことも珍しくない。商業の新しい秩序がグローバルの視点で求められる時代に入ってきたと感じている。海外進出にしても、進出先のことを差し置いて進出企業のことを優先して考えることができなくなってくると思われる。フェアトレードの問題などはその矛盾から出てきたものである。自国の市場が飽和になったから海外の市場に活路を求めるという考え方が成り立たなくなってくるだろう。発達した国や企業のノウハウを発展途上の国や企業の発展に貢献させることは必要だが、発展途上の国や企業が自分たちで成長できる力を蓄えてきた時には徐々に撤退していくことを考えなければならない。いわば、撤退を前提にした進出が求められる。経済社会は競争社会であり拡大基調の成長社会だから、撤退ありきの進出など考えられないことだが、子どもが成長するまで親が手を貸し子どもが成長すれば速やかに子離れしていくような関係を経済社会の枠組みの中に組み込ませることも求められるのではないかと考えられる。これは1企業の努力でできることではなく、国際的な枠組みの中で議論しなければ進まない問題である。
 話を戻して、わが国の消費市場の現状を見ることにする。下の数値は商業統計調査の年に合わせて人口推計と家計調査のデータを重ね合わせたものである。
 商業統計では2002年から2007年までに事業所数が減少し年間商品販売額も減少しているが、売場面積は拡大している。売上が落ちているのに売場面積は大きくなっているのである。逆に、売場を大きくしなければ売上を確保するのが難しくなっているのかもしれない。一方、人口は増えている。そこで大雑把な数値しか出てこないが、商業統計の数値を総人口で割り人口1人当たりの数値を出してみた。事業所数が減り、販売額も減っているが、売場面積は増えている。参考までに家計調査の変化も見た。2007年の世帯人員が2002年より減っているので1人当たりの消費支出は増えているが、1世帯当たりの消費支出は減少している。節約指向、低価格商品指向が進んでいることもあるが、収入が低迷しているので、金額ベースの拡大は限界にきているのではないだろうか。これからはエコ意識の高まりが消費に影響してくる。エコ指向で金額だけを見た低価格商品指向は和らぐかもしれないが、購入する数量や内容量の節約意識も強まってくるものと予想され、数量的節約指向が和らいだ低価格商品指向を上回ることもあり得る。
 消費経済の生々しい現実を反映する小売業にかかわる新聞記事では、バブリーな要素も加わって数量的な拡大がこれ以上望めないであろう消費市場を軸に読み進むことによって、小売業が直面する課題が見えてくる。(東)
 


経済産業省・商業統計①
                   
                    《2007年》      《2002年》
 
事業所数               1,137,859      1,300,057

年間商品販売額(百万円)    134,705,448     135,109,295

売場面積(㎡)            149,664,906      140,619,288




総務省・人口推計②
                
                  《2007年(10/1)》    《2002年(10/1)》

総人口(千人)             127,771         127,435




①、②より人口1人当たりの数値を算出

                   《2007年》      《2002年》

事業所数                0.0089         0.0102

年間商品販売額(万円)      105.4272       106.0221

月間商品販売額(万円)        8.7856        8.8352

売場面積(㎡)              1.171        1.103




総務省・家計調査 1か月間の支出 総世帯

                    《2007年》     《2002年》

世帯人員(人)               2.54         2.63

消費支出(円)              261,526      269,835

1人当たり消費支出(円)        102,963       102,599





【第1回 セルフレジ成功の100ヶ条】セルフレジの成功が小売業の成功を導く   第1回

2009年10月02日 00時06分46秒 | セルフレジ成功の100ヶ条(内容整理中)
序章① 「セルフレジを考える」ことが最大の効果を引き出す


【2009年10月1日(木)】

 わが国のスーパー業界はセルフレジの導入が進んでいる。セルフレジは採用難の解消、チェッカー要員を削減することによる人件費の縮小などで効果をもたらすだけのものではない。顧客サービスの向上、接客レベルの向上、従業員のスキルの向上はもとより、IT活用のあり方、店舗運営のあり方、人材育成のあり方など、小売業経営の様々な局面で問題を提起し、競合に強い店舗づくり・店舗運営の方途を考えるきっかけを与えている。セルフレジを使いこなし、セルフレジが提起する問題を克服していけば、厳しい時代を生き続ける強靭な店舗を築くことができると言っても過言ではない。
 本連載企画では、セルフレジ成功のポイントを100ヶ条にまとめ、毎回2か条ずつ掲載していく。そして、100ヶ条の連載に入る前に、セルフレジ導入の前のどの企業も不安に思う「セルフレジは顧客サービスを低下させるのではないか」という問題点について、そうではないことを序章①で示す。「セルフレジは顧客満足度を低下させない」ことを実感することがセルフレジを最大に使いこなしていくことの入口になる。2009年2月に執筆した原稿が、その事を最もよく表しているので、以下に一部加筆して転載した。また、次回の序章②では、労働力人口減少社会の実態を、同じく2009年2月執筆の原稿で示していく。
 セルフサービス販売方式を採用し続ける小売業にとっては、「セルフレジを考える」ことは、自社、自店の存続のあり方を考えることでもある。そういう取り組みを行うことが、セルフレジ導入の効果を最大に引き出すことにもなるのである。以下が2009年2月に執筆した原稿である。



セルフレジは顧客満足度を低下させない


 ①セルフレジの接客レベルは有人レジを上回る
 ②セルフレジの顧客の支持はどこの地域も同じ
 ③セルフレジの不成功の原因は小売業側にある

 わが国のセルフレジ時代が幕を開けようとしている。先に導入した小売業も、最近導入した小売業もともに、導入当初は従業員が行うレジ操作を顧客が行うようにするのは顧客サービスの低下になるのではないか、人が丁寧に挨拶・応対し手渡しで行う金銭授受がなくなるのは接客レベルの低下を招くのではないかという懸念を示していた。もちろん費用対効果の懸念もあった。しかし、これらの懸念は現在の時点でも払拭できるものであり、払拭できないとすれば、その原因は小売業側にあると言わざるを得ない根拠が揃ってきた。
セルフレジを提供するPOSメーカーは小売業の要望を受け入れながら改良に務めている。小売業も顧客サービスを向上させようとセルフレジの運用に磨きをかけている。顧客はセルフレジを支持している。これらの前提を考えると、普及しない理由が見当たらない。本稿では、わが国のセルフレジ市場拡大の根拠を3つの視点から考察した。
 ①セルフレジの接客レベルは有人レジを上回る。取材で訪問した店舗でチェッカーチーフに直接話を聞くことができた。「セルフレジの方が有人レジよりお客様との関係が強くなっていると思います」。この一言で本稿の道筋が決まったと言っても過言ではない。セルフレジを「無人レジ」と表現されることがある。無人ではない。アテンダントを「監視員」と言われることがある。監視員ではない。人がそこにいる限り人のサービスの仕方は如何様にも創造的に工夫ができる。といって、その店舗のサービスは特別なものではない。地域に根差した対面販売の小売店によくあるような、馴染みの顧客には親しく声をかけ、顧客が自分で商品を選んでいる時には顧客の行動に任せ、顧客から質問を受けたり顧客が困っているような素振りを感じると商品の陳列を直したり通路のごみを掃除していた手を休めて笑顔で応対するのと同じような雰囲気すらある。1人ないし2人でチェッカー作業とキャッシャー作業、接客サービスを行う有人レジではできない接客である。有人レジでは、列に並ぶ顧客のことを考えると落ち着いて顧客と長く会話をする余裕が持てないのは当然である。セルフレジはレジにおける接客のあり方を改めて問いかけている。
 ②セルフレジの顧客の支持はどこの地域も同じ。セルフレジを導入した店舗では、どこも利用者に年
齢的な偏りはないと言う。リピート利用も多い。地域差があるのだろうか。全国どこにも基本的に同じような品揃え、同じようなサービスのスーパーがある。品揃えやサービスは商圏特性に合わせて決められる。地域によって商圏特性に大きな違いがないことになる。セルフレジも、ある地域に受け入れられて、他の地域では受け入れられないということは考えにくい。
 ③セルフレジの不成功の原因は小売業側にある。①と②を肯定すると、仮にセルフレジは不成功とする評価があれば、成功している店舗があり、成功している地域があり、成功している店舗と同じシステムを導入していることを考えると、その原因の多くは小売業側にあると考えざるを得ない。
 セルフレジの普及で小売業のサービスが向上し、顧客の満足度が向上することを期待する。
(2009年2月の『WINS』№85で執筆した原稿を一部加筆して転載)

【木曜コラム】万華鏡/電車の中から   第1回 熟年婦人のブランド離れの会話

2009年10月01日 23時53分43秒 | 電車の中から(「今日の気づき」に統合)
【2009年10月1日(木)】JRや地下鉄、私鉄で昼間に移動することが多い。カバンに本を入れて椅子に座れたら読もうと用意をしておくのだが、座ると、周りの会話や向かいの席に座る人の仕草や状態に耳や目が動いてしまう。通勤時間と違い乗っている人もリラックスし、会話も周りを気にせず本音が見え隠れする。少しは見栄もあるかもしれないが…。電車の中は、一人あるいは友だちと、家族と、会社の同僚や先輩・後輩となど、いろんな人がいろんな人間関係で乗っていて、駅に着くたびにその人たちが入れ替わる。社会の縮図と言える。具体的な一人ひとりを見ていると、そこから社会の「今」が見えてくるように感じる。
 ある昼間、筆者の周りに誰も乗っていない閑散とした車両で座っている時に、16人の集団が乗ってきて筆者の周りに座った。軽い知的障害のある子どもたちと引率する先生たちであった。たまに頭を左右に激しく振る子や大きな声を上げたりする子、それを見て笑っている子など、そういう子に囲まれると、集中して本など読めないが、すぐに慣れて、そういう空間を経験できたことを考えていた。それとなく斜め下を見て座っていたのだが、その中に4人の先生がいることがわかった。もちろん年齢は定かでないが、20代の男性、30代の男性、40代の女性、50代の男性に見えた。皆、子どもたちに一生懸命かかわっていることがよく伝わってくる。特に20代の男性は兄のように厳しく言ったり優しく話しかけたり熱心に接していた。近くにいる他の乗客は筆者一人だが、車両全体の数人の乗客にも迷惑がかからないように気を配っている。
 筆者たちも言われてきたし、また言ってきたことに、「最近の若者は…」ということがある。最近でこそ、メールになってうるさくなくなったが、大きな声で携帯電話で話すのが若者のマナーの悪さの代名詞のように言われた時がある。つい塊で人を見てしまうことがあるが、個で見ると、違うものが見えてくる。先の20代の男性を見ていると、日本の将来も「安心」と思えるようにもなってくる。むしろ、そういう若者がのびのびと活躍できる社会を作ることが大事なことだと、反省もする。
 電車の中で印象に残っている2人の熟年婦人の会話がある。座っていると、前に立つ2人の婦人が会話を始めた。開いた本はページをめくることなく耳に神経が集中する。婦人の顔を見ることもできず、会話の内容から、多分、50代後半から60代前半と思われる。会話の内容は「娘時代は海外の高級ブランドを追いかけたが、今は高級ブランドでなくても品質やデザインがよくなったので、ブランドにこだわらなくなった。安くて品質が良ければそれで十分。娘は相変わらずブランドを追いかけているけれども…」というものだった。
 気になる記事を思い出して、帰宅後に新聞のファイルを探した。2009年9月10日の日本経済新聞朝刊3面に「ブランド 日本で苦戦」という記事がある。記事の1行目は「消費者の海外高級ブランド離れが進んでいる。」である。百貨店も海外ブランドの不振が業績に響いており、その原因に資産家や中小企業経営者の買い控えがあるという。景気の動向や個人または企業を取り巻く経済環境が消費に影響していることは間違いないが、景気の問題だけではない。ブランド企業の商品戦略やマーケティングの問題だけでもないと思われる。競合商品のレベルアップ、極端に言えば、低価格指向の商品であってもブランドが定着し着実に品質のレベルを上げ、生活者の満足度の一角に食い込んできた商品があることも事実である。市場は多角的、多元的に変化している。電車の中の熟年婦人であろう2人の会話が、その事を裏付けているのではないだろうか。(荒井)