序章② 「セルフレジ」で労働力人口減少社会の壁を突破
【2009年10月2日(金)】
前回の序章①では、セルフレジが不成功だったとすれば、その原因は小売業にあることを強調した。従来の仕組みに重ね合わせて従来の仕組みと置き換えるだけのシステムというとらえ方で終わるのか、それをきっかけに様々な従来の仕組みを考え直し店舗運営のレベルアップにつなげていくのか、小売業側の取り組み方で効果の度合が変わってくる。店舗運営のレベルアップにまで効果を出していくとすれば、それを可能にするのは小売業側の取り組み方しだいである。成功の目標ラインをどこに設定するのか。システムを提供する側のITベンダーの提案と導入・活用する側の小売業の目標とは違いがあるのは当然である。セルフレジは、費用対効果など数字で直接的に把握できる1次効果だけでなく、従業員の接客レベルの向上や顧客サービスのアップなど数字に表せなくても顧客の声などでわかる店舗自体の顧客満足度の向上など大きな2次効果が期待できる。それだけに、成功要因に占める小売業側の位置付けが大きくなる。
接客を考えることで小売業の様々な場面に考えが及ぶ。例えば、商品とサービスのバランスが取れていない場合、顧客はどちらを優先するのか。商品の質が高ければ、サービスに少々不満があっても顧客は来店すると思われる。一方、商品の質が悪ければ、サービスが良くても来店はしないだろう。しかし、品質的にも価格的にも、ずば抜けてそこにしかない商品なら別だが、そうでない限りは、商品のレベルがその顧客にとっての許容範囲であれば、サービスの良い店舗が選ばれるだろう。「競合」という場合は差異化を図っていても、広い範囲での同質化の中の競い合いということになる。サービスが集客力では大きな要素となる。と同時に、顧客に許容される商品レベルの中で、さらに上のレベルを目指していかなければ顧客の継続的な支持は得られない。セルフレジで接客サービスのレベルを上げるということは、商品レベルの維持・アップを見直すことにもつながっていくものである。小売業のあらゆる分野、あらゆる業務を見直し、考え直すことが企業、店舗の体質を改善し、競争に勝ち抜く強い体力を養うことになる。
労働力人口の減少は避けて通ることはできない。その対応は短期間でできるものではない。採用難という表現が当たらない時代を迎えようとしている。採用しようにも採用する相手が著しく少なくなる社会の到来である。そういうマイナス要因をいかにプラス要因に転換していけるかが求められる。
ストレスは万病の元と言われる。過度のストレスは悪性そのものである。しかし、ストレスがまったくない環境に居ると、人は健康を維持できないと言われている。ストレスは低くても高くても生産性は高くならないが、適度なストレスは生産性を高める。目標や希望は良いストレスである。小売業を二重にも三重にも取り巻く厳しい環境の中で、解決しなければならない問題が短期間に覆いかぶさってくると生産性を低下させる悪いストレスになるが、長期的な視点で達成可能な目標となると、良いストレスになって生産性を高めてくれる。
「セルフレジを考える」ことで、セルフレジが提起している問題点が見えてくる。見えてきた課題を達成可能な形で1つ1つ乗り越えていくことが良いストレスになる。採用難対策、人件費削減対策のシステムという見方だけだと、近未来を生き抜いていくための課題が見えてこない。「セルフレジを考える」ことは経営を考えることでもある。セルフレジは経営者がリーダーシップを取って取り組むべきものである理由がここにある。詳細については、本連載の第3回以降の「セルフレジ成功の100ヶ条」の中で触れていくことにする。
以下は2009年2月に労働力人口減少社会への対応について『WINS』№85で執筆した原稿(一部加筆)と、原稿に添えた労働力人口の概要である。
労働力人口減少への対策が急務の課題
昨今、小売業を取り巻く環境変化の厳しさは様々な角度から論じられているが、その1つに少子高齢化や人口減少社会の到来による顧客の変化、顧客の減少がよく取り上げられる。しかし、人口減少社会は顧客が減少するだけではない。労働力人口も減るのである。労働集約型産業であり労働生産性の低い小売業にとっては、少ない人数でサービスレベルを維持・向上させながら効率的な店舗運営ができるビジネスモデルをいち早く作り上げることが近未来の発展を約束することになる。
経済産業省は2007年6月に12年ぶりにわが国の流通産業のビジョンをまとめ公表した。その中で人材確保難の問題に触れ「労働人口の減少等に伴う人手不足が顕在化し始めている。このため、パート労働者中心の既存のビジネスモデルを見直し、従業員満足を高め、労働生産性を高めていくことが必要である」とし、人手不足の現状についても「今後、団塊世代の大量退職、少子高齢化の進展など労働力人口の全体的な減少はもとより、各種サービス業を始めとする新たな雇用の場が生み出されつつある中で、労働集約型産業である小売業にとっては一層の人手不足感が顕在化しつつある状況にある」と分析している。
わが国のセルフレジ導入は開花期を迎えたが、レジ要員の採用難が導入の追い風になっている。しかし、今の採用難は確かに地域や立地によっては採用の難易度に差がありほとんど採用ができないという地域があるものの、全体的に見れば概して採用がまったく困難という状況ではない。採用を働きかける相手がいないという状況ではないからである。金銭授受と接客を伴う業務であることが採用を難しくしている面もある。ところが、極論すれば、この先に採用を働きかけようにも働きかける相手がいなくなるという深刻な採用難時代が到来しようとしているのである。
セルフレジの導入が広がる中で、その成功事例が、少ない人数でサービスレベルを維持・向上させながら効率的な店舗運営ができるビジネスモデルを作り上げるための1つの解を与えている。レーン型セルフレジの構成は1人のアテンダントが4台のセルフレジを見る1セット4台を基本に、今では1セット6台、1セット8台というケースも出てきており、1セット4台から1セット6台へと基本構成も変わりつつある。1人が1台を見る有人レジに対して1人が4台なり6台を見るのである。有人レジは常時稼働状態にあるわけではないが、レジ要員の人数の差は明らかである。
人数が少なくなった分、顧客サービスのレベルが低下したのかというと、むしろ上がっていることの方が多い。有人レジより顧客への接し方をどうすべきかを考えるようになってレジ担当者のスキルも向上している。現場における人材育成、接客の自己研鑽の機会ともなっている。
セルフレジが投げかけた問題提起で重要なことは、厚いサービスを提供するために最も人手をかける必要があるとされていたレジ業務で人手をかけなくても厚いサービスの提供が可能であることを現実に証明したことである。ITを活用して人手をかけないでサービスを向上させる部分と人手をかけてサービスを向上させる部分のメリハリを再点検、再構築することで労働生産性を上げることを可能にする。スキルが向上した業務は職種に魅力を与え採用を牽引することにもなる。
下の表は独立行政法人労働政策研究・研修機構が2008年2月に公表した「平成19年 労働力需給の推計」より作成した労働力人口の概要である。IT活用の巧拙が労働人口減少社会を生き抜けられるかどうかの鍵を握る。
【2009年10月2日(金)】
前回の序章①では、セルフレジが不成功だったとすれば、その原因は小売業にあることを強調した。従来の仕組みに重ね合わせて従来の仕組みと置き換えるだけのシステムというとらえ方で終わるのか、それをきっかけに様々な従来の仕組みを考え直し店舗運営のレベルアップにつなげていくのか、小売業側の取り組み方で効果の度合が変わってくる。店舗運営のレベルアップにまで効果を出していくとすれば、それを可能にするのは小売業側の取り組み方しだいである。成功の目標ラインをどこに設定するのか。システムを提供する側のITベンダーの提案と導入・活用する側の小売業の目標とは違いがあるのは当然である。セルフレジは、費用対効果など数字で直接的に把握できる1次効果だけでなく、従業員の接客レベルの向上や顧客サービスのアップなど数字に表せなくても顧客の声などでわかる店舗自体の顧客満足度の向上など大きな2次効果が期待できる。それだけに、成功要因に占める小売業側の位置付けが大きくなる。
接客を考えることで小売業の様々な場面に考えが及ぶ。例えば、商品とサービスのバランスが取れていない場合、顧客はどちらを優先するのか。商品の質が高ければ、サービスに少々不満があっても顧客は来店すると思われる。一方、商品の質が悪ければ、サービスが良くても来店はしないだろう。しかし、品質的にも価格的にも、ずば抜けてそこにしかない商品なら別だが、そうでない限りは、商品のレベルがその顧客にとっての許容範囲であれば、サービスの良い店舗が選ばれるだろう。「競合」という場合は差異化を図っていても、広い範囲での同質化の中の競い合いということになる。サービスが集客力では大きな要素となる。と同時に、顧客に許容される商品レベルの中で、さらに上のレベルを目指していかなければ顧客の継続的な支持は得られない。セルフレジで接客サービスのレベルを上げるということは、商品レベルの維持・アップを見直すことにもつながっていくものである。小売業のあらゆる分野、あらゆる業務を見直し、考え直すことが企業、店舗の体質を改善し、競争に勝ち抜く強い体力を養うことになる。
労働力人口の減少は避けて通ることはできない。その対応は短期間でできるものではない。採用難という表現が当たらない時代を迎えようとしている。採用しようにも採用する相手が著しく少なくなる社会の到来である。そういうマイナス要因をいかにプラス要因に転換していけるかが求められる。
ストレスは万病の元と言われる。過度のストレスは悪性そのものである。しかし、ストレスがまったくない環境に居ると、人は健康を維持できないと言われている。ストレスは低くても高くても生産性は高くならないが、適度なストレスは生産性を高める。目標や希望は良いストレスである。小売業を二重にも三重にも取り巻く厳しい環境の中で、解決しなければならない問題が短期間に覆いかぶさってくると生産性を低下させる悪いストレスになるが、長期的な視点で達成可能な目標となると、良いストレスになって生産性を高めてくれる。
「セルフレジを考える」ことで、セルフレジが提起している問題点が見えてくる。見えてきた課題を達成可能な形で1つ1つ乗り越えていくことが良いストレスになる。採用難対策、人件費削減対策のシステムという見方だけだと、近未来を生き抜いていくための課題が見えてこない。「セルフレジを考える」ことは経営を考えることでもある。セルフレジは経営者がリーダーシップを取って取り組むべきものである理由がここにある。詳細については、本連載の第3回以降の「セルフレジ成功の100ヶ条」の中で触れていくことにする。
以下は2009年2月に労働力人口減少社会への対応について『WINS』№85で執筆した原稿(一部加筆)と、原稿に添えた労働力人口の概要である。
労働力人口減少への対策が急務の課題
昨今、小売業を取り巻く環境変化の厳しさは様々な角度から論じられているが、その1つに少子高齢化や人口減少社会の到来による顧客の変化、顧客の減少がよく取り上げられる。しかし、人口減少社会は顧客が減少するだけではない。労働力人口も減るのである。労働集約型産業であり労働生産性の低い小売業にとっては、少ない人数でサービスレベルを維持・向上させながら効率的な店舗運営ができるビジネスモデルをいち早く作り上げることが近未来の発展を約束することになる。
経済産業省は2007年6月に12年ぶりにわが国の流通産業のビジョンをまとめ公表した。その中で人材確保難の問題に触れ「労働人口の減少等に伴う人手不足が顕在化し始めている。このため、パート労働者中心の既存のビジネスモデルを見直し、従業員満足を高め、労働生産性を高めていくことが必要である」とし、人手不足の現状についても「今後、団塊世代の大量退職、少子高齢化の進展など労働力人口の全体的な減少はもとより、各種サービス業を始めとする新たな雇用の場が生み出されつつある中で、労働集約型産業である小売業にとっては一層の人手不足感が顕在化しつつある状況にある」と分析している。
わが国のセルフレジ導入は開花期を迎えたが、レジ要員の採用難が導入の追い風になっている。しかし、今の採用難は確かに地域や立地によっては採用の難易度に差がありほとんど採用ができないという地域があるものの、全体的に見れば概して採用がまったく困難という状況ではない。採用を働きかける相手がいないという状況ではないからである。金銭授受と接客を伴う業務であることが採用を難しくしている面もある。ところが、極論すれば、この先に採用を働きかけようにも働きかける相手がいなくなるという深刻な採用難時代が到来しようとしているのである。
セルフレジの導入が広がる中で、その成功事例が、少ない人数でサービスレベルを維持・向上させながら効率的な店舗運営ができるビジネスモデルを作り上げるための1つの解を与えている。レーン型セルフレジの構成は1人のアテンダントが4台のセルフレジを見る1セット4台を基本に、今では1セット6台、1セット8台というケースも出てきており、1セット4台から1セット6台へと基本構成も変わりつつある。1人が1台を見る有人レジに対して1人が4台なり6台を見るのである。有人レジは常時稼働状態にあるわけではないが、レジ要員の人数の差は明らかである。
人数が少なくなった分、顧客サービスのレベルが低下したのかというと、むしろ上がっていることの方が多い。有人レジより顧客への接し方をどうすべきかを考えるようになってレジ担当者のスキルも向上している。現場における人材育成、接客の自己研鑽の機会ともなっている。
セルフレジが投げかけた問題提起で重要なことは、厚いサービスを提供するために最も人手をかける必要があるとされていたレジ業務で人手をかけなくても厚いサービスの提供が可能であることを現実に証明したことである。ITを活用して人手をかけないでサービスを向上させる部分と人手をかけてサービスを向上させる部分のメリハリを再点検、再構築することで労働生産性を上げることを可能にする。スキルが向上した業務は職種に魅力を与え採用を牽引することにもなる。
下の表は独立行政法人労働政策研究・研修機構が2008年2月に公表した「平成19年 労働力需給の推計」より作成した労働力人口の概要である。IT活用の巧拙が労働人口減少社会を生き抜けられるかどうかの鍵を握る。

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