【2010年8月10日(火)】
◆読んだ新聞
日本経済新聞 8月5日(木) 夕刊 1面
8月6日(金) 朝刊 2面 社説
8月6日(金) 朝刊 5面
別記事 8月6日(金) 朝刊 35面
◆記事の見出し
8月5日 夕刊 1面
《最低賃金15円上げ 審議会小委》《平均728円、中小経営圧迫も》
8月6日 朝刊 2面 社説
《最低賃金上げは慎重を期せ》
8月6日 朝刊 5面
《最低賃金 平均15円上げ》《小売りや流通 影響大きく》
《デフレ下 経営圧迫懸念》《都道府県での反映も不透明》
別記事 8月6日 朝刊 35面
《国連総長が長崎訪問》《「心揺り動かされた一日」》《きょう 原爆の日 広島入り》
◆記事の内容
★労使と学識者で構成する中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は5日午前、2010年度の最低賃金の引き上げ額の目安を全国平均で時給15円とすることを決めた。6日に開く審議会に結果を報告する。上げ幅は前年度の10円を上回り、初めて全都道府県で10円以上引き上げる。全国平均は時給728円に上がる見通しである。景気が持ち直していることを考慮し、賃金の底上げを優先する姿勢を明確にした。ただデフレが続く中での賃金引き上げは中小企業の経営を圧迫する恐れもある。厚生労働省によると、時給800円未満で働く人は2008年時点で255万人で、全労働者(従業員5人以上の企業)の8.8%を占める。業種別で最も多いのは「飲食料品小売業」の約51万人、次が「一般飲食店」の約23万5千人、「流通など事業サービス業」が約20万8千人である。
★最低賃金は地域ごとに額が違う。現在の全国平均は時給713円。現政権は2020年までに全国最低800円、平均1,000円に引き上げる目標を掲げている。今年度の改定では「政府目標をどう扱うか」「生活保護の支給額が最低賃金を上回る12都道府県の状況をどう解消するか」の2つが焦点だった。政府目標の達成は2020年度までの平均で名目3%、実質2%を超える成長を前提条件としている。労働側は早期の目標実現を主張し、経営側は成長率の実現が大前提だと、激しく対立した。4日から5日朝方まで続いた小委員会では、賃上げを望む労働側と業績への悪影響を避けたい経営者側の協議が決裂し、最終的には中立の立場の学識者が引き上げ幅の目安を示した。
★今後は審議会が示した目安をもとに、都道府県の審議会で協議が始まる。2009年度に10円以上の引き上げを実施したのは6都道府県。34県の上げ幅は1~3円、2県は引き上げを見送った。今回、全都道府県で10円以上上げられるかどうかは不透明である。
★〔別記事 8月6日 朝刊 35面〕来日中の潘基文(バン・キムン)国連事務総長は5日、長崎市にある浦上天主堂にある被爆マリア小聖堂で記者会見し、「心が揺り動かされた一日となった。平和のために不屈の精神を持つ被爆者の話を聞き、謙虚な気持ちと感謝の念を覚えた」と事務総長として初の長崎入りを振り返った。黒焦げの首から上だけとなった「被爆マリア像」の前に立ち、被爆の実相に触れたことについて「重く受け止めている。想像だにできないことだった」と述べた。その上で、核兵器廃絶に向け「決意が深まったことは確かだ」と力を込めた。
●今日の気づき
★5日夕刊で第一報を流し、6日朝刊で解説調の続報を載せ、同じく6日朝刊の社説で留意点を論じている。最低賃金は大きな問題であることを否定するものではないが、新聞の記事を追いかけている限りでは現場の切実感が伝わってこない。労働側、経営側双方の主張がぶつかり合う中で、政府の目標という政治的な要素が入ってくる。労使の中でも、製造業と小売業、大企業と中小企業、中小企業でも独自の経営基盤を固めているところと大企業の下請けで生産拠点の海外移転の影響を受けているところで事情は大きく異なる。さらに、地域的には時給水準の高い都道府県と低いところ、生活保護支給額との差額が問題になっているところなど、様々な事情が交錯している。全者が納得できる目安を引き出すのは至難の技である。そこで、最後は、中立の学識者に結論を委ねた格好だが、中立の立場とは、両者の利害の現場に軸足を置いていないということでもあろう。利害の現場に軸足を置いている労使の代表でも、すべての企業、すべての労働者の状況を代表することなどできないわけで、翌日の朝方まで議論した割には、机上の数字の調整だけで出てきた結論のように感じてならない。
★最終的には中央の審議会が示した目安をもとに、都道府県の審議会で協議し都道府県ごとの最低賃金が決まることになる。中央の審議会の結論が都道府県の最終結論ではない。とはいえ、目安がないと都道府県での議論の方向が定まらないということがある。その限りでは、徹夜の協議も必要なのだろうが、やはり、何か、結論の出方に現場起点の臨場感が伝わってこない。
★65年目を迎えた広島と長崎の「原爆の日」。6日は潘国連事務総長や核兵器保有国の米英仏の政府代表が広島市の平和記念式典に初めて参列し、新聞、テレビなどで大きく報道された。9日の長崎の平和祈念式典には英仏の代表は参列したが、潘事務総長と米代表は参列しなかった。しかし、潘事務総長は広島の式典前日の5日に長崎市を初訪問している。潘事務総長は被爆した両市を訪れたが、初訪問だけに、初めの訪問地の方が強い印象を与えたのではないかと思われる。長崎市の様子を伝える記事を見ると、長崎市の浦上天主堂にある被爆マリア小聖堂で記者会見し、「心が揺り動かされた一日となった。平和のために不屈の精神を持つ被爆者の話を聞き、謙虚な気持ちと感謝の念を覚えた」と。「被爆マリア像」の前に立ち、被爆の実相に触れたことについて「重く受け止めている。想像だにできないことだった」と述べている。核兵器廃絶に向け「決意が深まったことは確かだ」とも語っている。
★現職の国連事務総長として、初めて被爆地を訪れたことは評価するが、世界の核軍縮でリーダーシップを執る国連事務総長から「心が揺り動かされた」とか「想像だにできない」「決意が深まった」という言葉を記事で見て大変な驚きを覚えた。外交的な訪問地への敬意を含めた表現かもしれないが、もしも、被爆地の確かな認識を持たないで、政治的な駆け引きで核軍縮が話し合われていたとすれば、これまた驚きである。ニューヨークで議論するのではなく、毎年、広島や長崎で核兵器廃絶の話し合いが繰り返し行われてきたら、「核なき世界」という世界世論がもっと早く広がったのではないだろうか。核問題に限らず、問題解決では現場起点で現場で話し合うことが大事なのではないだろうか。最低賃金の記事を読みながら、同じ日の紙面で潘国連事務総長の長崎初訪問の記事を見て、現場起点の大切さを改めて感じた。
(東)
◆読んだ新聞
日本経済新聞 8月5日(木) 夕刊 1面
8月6日(金) 朝刊 2面 社説
8月6日(金) 朝刊 5面
別記事 8月6日(金) 朝刊 35面
◆記事の見出し
8月5日 夕刊 1面
《最低賃金15円上げ 審議会小委》《平均728円、中小経営圧迫も》
8月6日 朝刊 2面 社説
《最低賃金上げは慎重を期せ》
8月6日 朝刊 5面
《最低賃金 平均15円上げ》《小売りや流通 影響大きく》
《デフレ下 経営圧迫懸念》《都道府県での反映も不透明》
別記事 8月6日 朝刊 35面
《国連総長が長崎訪問》《「心揺り動かされた一日」》《きょう 原爆の日 広島入り》
◆記事の内容
★労使と学識者で構成する中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は5日午前、2010年度の最低賃金の引き上げ額の目安を全国平均で時給15円とすることを決めた。6日に開く審議会に結果を報告する。上げ幅は前年度の10円を上回り、初めて全都道府県で10円以上引き上げる。全国平均は時給728円に上がる見通しである。景気が持ち直していることを考慮し、賃金の底上げを優先する姿勢を明確にした。ただデフレが続く中での賃金引き上げは中小企業の経営を圧迫する恐れもある。厚生労働省によると、時給800円未満で働く人は2008年時点で255万人で、全労働者(従業員5人以上の企業)の8.8%を占める。業種別で最も多いのは「飲食料品小売業」の約51万人、次が「一般飲食店」の約23万5千人、「流通など事業サービス業」が約20万8千人である。
★最低賃金は地域ごとに額が違う。現在の全国平均は時給713円。現政権は2020年までに全国最低800円、平均1,000円に引き上げる目標を掲げている。今年度の改定では「政府目標をどう扱うか」「生活保護の支給額が最低賃金を上回る12都道府県の状況をどう解消するか」の2つが焦点だった。政府目標の達成は2020年度までの平均で名目3%、実質2%を超える成長を前提条件としている。労働側は早期の目標実現を主張し、経営側は成長率の実現が大前提だと、激しく対立した。4日から5日朝方まで続いた小委員会では、賃上げを望む労働側と業績への悪影響を避けたい経営者側の協議が決裂し、最終的には中立の立場の学識者が引き上げ幅の目安を示した。
★今後は審議会が示した目安をもとに、都道府県の審議会で協議が始まる。2009年度に10円以上の引き上げを実施したのは6都道府県。34県の上げ幅は1~3円、2県は引き上げを見送った。今回、全都道府県で10円以上上げられるかどうかは不透明である。
★〔別記事 8月6日 朝刊 35面〕来日中の潘基文(バン・キムン)国連事務総長は5日、長崎市にある浦上天主堂にある被爆マリア小聖堂で記者会見し、「心が揺り動かされた一日となった。平和のために不屈の精神を持つ被爆者の話を聞き、謙虚な気持ちと感謝の念を覚えた」と事務総長として初の長崎入りを振り返った。黒焦げの首から上だけとなった「被爆マリア像」の前に立ち、被爆の実相に触れたことについて「重く受け止めている。想像だにできないことだった」と述べた。その上で、核兵器廃絶に向け「決意が深まったことは確かだ」と力を込めた。
●今日の気づき
★5日夕刊で第一報を流し、6日朝刊で解説調の続報を載せ、同じく6日朝刊の社説で留意点を論じている。最低賃金は大きな問題であることを否定するものではないが、新聞の記事を追いかけている限りでは現場の切実感が伝わってこない。労働側、経営側双方の主張がぶつかり合う中で、政府の目標という政治的な要素が入ってくる。労使の中でも、製造業と小売業、大企業と中小企業、中小企業でも独自の経営基盤を固めているところと大企業の下請けで生産拠点の海外移転の影響を受けているところで事情は大きく異なる。さらに、地域的には時給水準の高い都道府県と低いところ、生活保護支給額との差額が問題になっているところなど、様々な事情が交錯している。全者が納得できる目安を引き出すのは至難の技である。そこで、最後は、中立の学識者に結論を委ねた格好だが、中立の立場とは、両者の利害の現場に軸足を置いていないということでもあろう。利害の現場に軸足を置いている労使の代表でも、すべての企業、すべての労働者の状況を代表することなどできないわけで、翌日の朝方まで議論した割には、机上の数字の調整だけで出てきた結論のように感じてならない。
★最終的には中央の審議会が示した目安をもとに、都道府県の審議会で協議し都道府県ごとの最低賃金が決まることになる。中央の審議会の結論が都道府県の最終結論ではない。とはいえ、目安がないと都道府県での議論の方向が定まらないということがある。その限りでは、徹夜の協議も必要なのだろうが、やはり、何か、結論の出方に現場起点の臨場感が伝わってこない。
★65年目を迎えた広島と長崎の「原爆の日」。6日は潘国連事務総長や核兵器保有国の米英仏の政府代表が広島市の平和記念式典に初めて参列し、新聞、テレビなどで大きく報道された。9日の長崎の平和祈念式典には英仏の代表は参列したが、潘事務総長と米代表は参列しなかった。しかし、潘事務総長は広島の式典前日の5日に長崎市を初訪問している。潘事務総長は被爆した両市を訪れたが、初訪問だけに、初めの訪問地の方が強い印象を与えたのではないかと思われる。長崎市の様子を伝える記事を見ると、長崎市の浦上天主堂にある被爆マリア小聖堂で記者会見し、「心が揺り動かされた一日となった。平和のために不屈の精神を持つ被爆者の話を聞き、謙虚な気持ちと感謝の念を覚えた」と。「被爆マリア像」の前に立ち、被爆の実相に触れたことについて「重く受け止めている。想像だにできないことだった」と述べている。核兵器廃絶に向け「決意が深まったことは確かだ」とも語っている。
★現職の国連事務総長として、初めて被爆地を訪れたことは評価するが、世界の核軍縮でリーダーシップを執る国連事務総長から「心が揺り動かされた」とか「想像だにできない」「決意が深まった」という言葉を記事で見て大変な驚きを覚えた。外交的な訪問地への敬意を含めた表現かもしれないが、もしも、被爆地の確かな認識を持たないで、政治的な駆け引きで核軍縮が話し合われていたとすれば、これまた驚きである。ニューヨークで議論するのではなく、毎年、広島や長崎で核兵器廃絶の話し合いが繰り返し行われてきたら、「核なき世界」という世界世論がもっと早く広がったのではないだろうか。核問題に限らず、問題解決では現場起点で現場で話し合うことが大事なのではないだろうか。最低賃金の記事を読みながら、同じ日の紙面で潘国連事務総長の長崎初訪問の記事を見て、現場起点の大切さを改めて感じた。
(東)