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WINS通信は小売業のマネジメントとIT活用のための情報室

小売業・IT活用・消費市場の今をウォッチング/WINS企画/東 秀夫wins.azuma@sunny.ocn.ne.jp

【今日の気づき】/新聞を読んで   第55回 何事も「現場起点で考える」ことが大事

2010年08月10日 06時10分07秒 | 今日の気づき
【2010年8月10日(火)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 8月5日(木) 夕刊 1面

           8月6日(金) 朝刊 2面 社説
           8月6日(金) 朝刊 5面

     別記事 8月6日(金) 朝刊 35面


◆記事の見出し

8月5日 夕刊 1面
 《最低賃金15円上げ 審議会小委》《平均728円、中小経営圧迫も》

8月6日 朝刊 2面 社説
 《最低賃金上げは慎重を期せ》

8月6日 朝刊 5面
 《最低賃金 平均15円上げ》《小売りや流通 影響大きく》
 《デフレ下 経営圧迫懸念》《都道府県での反映も不透明》

 別記事 8月6日 朝刊 35面 
 《国連総長が長崎訪問》《「心揺り動かされた一日」》《きょう 原爆の日 広島入り》 


◆記事の内容

 ★労使と学識者で構成する中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は5日午前、2010年度の最低賃金の引き上げ額の目安を全国平均で時給15円とすることを決めた。6日に開く審議会に結果を報告する。上げ幅は前年度の10円を上回り、初めて全都道府県で10円以上引き上げる。全国平均は時給728円に上がる見通しである。景気が持ち直していることを考慮し、賃金の底上げを優先する姿勢を明確にした。ただデフレが続く中での賃金引き上げは中小企業の経営を圧迫する恐れもある。厚生労働省によると、時給800円未満で働く人は2008年時点で255万人で、全労働者(従業員5人以上の企業)の8.8%を占める。業種別で最も多いのは「飲食料品小売業」の約51万人、次が「一般飲食店」の約23万5千人、「流通など事業サービス業」が約20万8千人である。

 ★最低賃金は地域ごとに額が違う。現在の全国平均は時給713円。現政権は2020年までに全国最低800円、平均1,000円に引き上げる目標を掲げている。今年度の改定では「政府目標をどう扱うか」「生活保護の支給額が最低賃金を上回る12都道府県の状況をどう解消するか」の2つが焦点だった。政府目標の達成は2020年度までの平均で名目3%、実質2%を超える成長を前提条件としている。労働側は早期の目標実現を主張し、経営側は成長率の実現が大前提だと、激しく対立した。4日から5日朝方まで続いた小委員会では、賃上げを望む労働側と業績への悪影響を避けたい経営者側の協議が決裂し、最終的には中立の立場の学識者が引き上げ幅の目安を示した。

 ★今後は審議会が示した目安をもとに、都道府県の審議会で協議が始まる。2009年度に10円以上の引き上げを実施したのは6都道府県。34県の上げ幅は1~3円、2県は引き上げを見送った。今回、全都道府県で10円以上上げられるかどうかは不透明である。

 ★〔別記事 8月6日 朝刊 35面〕来日中の潘基文(バン・キムン)国連事務総長は5日、長崎市にある浦上天主堂にある被爆マリア小聖堂で記者会見し、「心が揺り動かされた一日となった。平和のために不屈の精神を持つ被爆者の話を聞き、謙虚な気持ちと感謝の念を覚えた」と事務総長として初の長崎入りを振り返った。黒焦げの首から上だけとなった「被爆マリア像」の前に立ち、被爆の実相に触れたことについて「重く受け止めている。想像だにできないことだった」と述べた。その上で、核兵器廃絶に向け「決意が深まったことは確かだ」と力を込めた。


●今日の気づき

 ★5日夕刊で第一報を流し、6日朝刊で解説調の続報を載せ、同じく6日朝刊の社説で留意点を論じている。最低賃金は大きな問題であることを否定するものではないが、新聞の記事を追いかけている限りでは現場の切実感が伝わってこない。労働側、経営側双方の主張がぶつかり合う中で、政府の目標という政治的な要素が入ってくる。労使の中でも、製造業と小売業、大企業と中小企業、中小企業でも独自の経営基盤を固めているところと大企業の下請けで生産拠点の海外移転の影響を受けているところで事情は大きく異なる。さらに、地域的には時給水準の高い都道府県と低いところ、生活保護支給額との差額が問題になっているところなど、様々な事情が交錯している。全者が納得できる目安を引き出すのは至難の技である。そこで、最後は、中立の学識者に結論を委ねた格好だが、中立の立場とは、両者の利害の現場に軸足を置いていないということでもあろう。利害の現場に軸足を置いている労使の代表でも、すべての企業、すべての労働者の状況を代表することなどできないわけで、翌日の朝方まで議論した割には、机上の数字の調整だけで出てきた結論のように感じてならない。

 ★最終的には中央の審議会が示した目安をもとに、都道府県の審議会で協議し都道府県ごとの最低賃金が決まることになる。中央の審議会の結論が都道府県の最終結論ではない。とはいえ、目安がないと都道府県での議論の方向が定まらないということがある。その限りでは、徹夜の協議も必要なのだろうが、やはり、何か、結論の出方に現場起点の臨場感が伝わってこない。

 ★65年目を迎えた広島と長崎の「原爆の日」。6日は潘国連事務総長や核兵器保有国の米英仏の政府代表が広島市の平和記念式典に初めて参列し、新聞、テレビなどで大きく報道された。9日の長崎の平和祈念式典には英仏の代表は参列したが、潘事務総長と米代表は参列しなかった。しかし、潘事務総長は広島の式典前日の5日に長崎市を初訪問している。潘事務総長は被爆した両市を訪れたが、初訪問だけに、初めの訪問地の方が強い印象を与えたのではないかと思われる。長崎市の様子を伝える記事を見ると、長崎市の浦上天主堂にある被爆マリア小聖堂で記者会見し、「心が揺り動かされた一日となった。平和のために不屈の精神を持つ被爆者の話を聞き、謙虚な気持ちと感謝の念を覚えた」と。「被爆マリア像」の前に立ち、被爆の実相に触れたことについて「重く受け止めている。想像だにできないことだった」と述べている。核兵器廃絶に向け「決意が深まったことは確かだ」とも語っている。

 ★現職の国連事務総長として、初めて被爆地を訪れたことは評価するが、世界の核軍縮でリーダーシップを執る国連事務総長から「心が揺り動かされた」とか「想像だにできない」「決意が深まった」という言葉を記事で見て大変な驚きを覚えた。外交的な訪問地への敬意を含めた表現かもしれないが、もしも、被爆地の確かな認識を持たないで、政治的な駆け引きで核軍縮が話し合われていたとすれば、これまた驚きである。ニューヨークで議論するのではなく、毎年、広島や長崎で核兵器廃絶の話し合いが繰り返し行われてきたら、「核なき世界」という世界世論がもっと早く広がったのではないだろうか。核問題に限らず、問題解決では現場起点で現場で話し合うことが大事なのではないだろうか。最低賃金の記事を読みながら、同じ日の紙面で潘国連事務総長の長崎初訪問の記事を見て、現場起点の大切さを改めて感じた。

(東)


【今日の気づき】/新聞を読んで   第54回 携帯放送よ! 同じ轍を踏まないことに期待

2010年08月04日 22時27分33秒 | 今日の気づき
【2010年8月4日(水)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 8月3日(火) 朝刊 10面

           8月4日(水) 朝刊 10面


◆記事の見出し

 8月3日 10面 携帯放送新時代 上
 
   《ドコモかKDDIか》《免許争奪「優劣つかず」》

 
 8月4日 10面 携帯放送新時代 下
 
   《有料会員、どう獲得》《コンテンツの充実カギ》


◆記事の内容

 ★2012年春に始まる携帯端末向け次世代放送の事業者選定が大詰めを迎えている。用意された「放送免許」は1枠である。NTTドコモとKDDIの争奪戦が続いている。総務省は2つの方式が併存すると投資効率が悪く普及を阻害すると、1枠の考えを変えない。8月半ばに決めたいと、期限は迫っている。


●今日の気づき

 ★見出しにある通り、両社は譲らず、いかに優位性をアピールできるか、しのぎを削っている。

 ★技術の進歩でどんどん便利さが増していく。技術の進歩があり限り仕方のないことである。便利になることを否定する考えはない。しかし、懸念はある。つい最近まで、電話は家庭内やオフィスの中、公衆電話など電話機のあるところでしかかけられなかった。しかし、携帯電話が普及すると、人がいる場所、人が移動しているところで電話がかけられるようになった。電車の中での通話が社会問題になった。自動車やバイクの運転中に携帯電話を操作すると道路交通法違反にもなる。警察庁は「交通の方法に関する教訓」を改正し自転車運転における携帯電話の使用を「危険な運転」として禁止した。「交通の方法に関する教訓」に法的拘束力はないが、各警察本部では「道路交通規則」を改定し、罰金などの規程を設けるところが増えている。携帯電話の前はヘッドホンやイヤホンで聞く携帯型ステレオの音が公共の場で騒がしいと社会問題化した。機械が人のいる場所で、人が移動している場所で使えるようになると、便利さは急上昇するが、人の自制力が問題になってくる。次はテレビ放送かと言いたくなる。自動車やバイク、自転車だけが危険ではない。歩きながら携帯ステレオを聞いたり携帯電話を操作している人の後ろを歩いたり自転車を走らせると、前の人の動きが読めなくぶつかりそうになることも珍しくない。次世代携帯放送のインフラを整備する何倍もの努力を個人の自由と自制力、公共のマナーの教育に費やしてほしい。若者だけではない。その若者はウォークマン世代を親に持つ年代でもある。

(東)


【今日の気づき】/新聞を読んで   第53回 POSの担い手ソリューション会社が焦点に

2010年08月04日 20時01分36秒 | 今日の気づき
【2010年8月4日(水)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 8月4日(水) 朝刊 10面


◆記事の見出し

 《日本HP POS端末 国内参入》《パソコン部品利用、低価格》


◆記事の内容

★日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は国内のPOS端末市場に参入する。PCベースのPOS端末2機種を小売店や飲食店、ホテル向けなどに8月5日から販売する。HPは2006年に北米でPOS端末事業に参入しており、日本での販売は今回が初めて。PC世界シェア1位の規模を生かし、安価なPOS端末を供給し、3年後に国内5位以内のシェア獲得を目指す。

★希望小売価格はディスプレイなしのモデルが10万2,900円から、タッチ機能付きディスプレイやカードリーダなどが付属するオールインワンモデルは18万9,000円からである。最小構成で1台10万円強の価格は「競合他社より3割ほど安い」(日本HP)という。ここ2~3年で安価なPCベースの端末が普及してきたことから、PC市場で強みを持つHPは市場参入の環境が整ったと判断した。海外でも同一機種を販売・サポートする点を武器に日本市場に攻め込む。


●今日の気づき

★日本のPOS市場で「パソコンPOS」が登場して約30年が経つ。マイクロソフトがOPOS技術協議会を発足させたのは1995年7月である。POS端末もWindows ベースの時代に入った。しかし、日本の小売業はアプリケーションソフトの独自性へのニーズが高く、パッケージソフトでもカスタマイズの要求が高かった。すなわち、業務の進め方をシステムに合わせるのではなく、現在の業務の進め方にシステムを手直しするという志向が強かったのである。ところが、昨今は、経済環境の厳しさから情報システム化投資を抑えるためにパッケージソフトへのニーズが高まっているという。わが国のPOSシステムにおける低価格のハードウェア市場は、これからが本番とも言える。

 ★パッケージソフトの活用と言えども、現場が使いにくいとか、スムーズな業務の進行にマイナスになるような要素があればカスタマイズで解消するのは当然である。POSシステムは普及の当初から「POSは道具である」「POSは経営のためのツールである。店舗運営のためのツールである」と言われ続けてきた。POSを入れたから良くなったという局面は様々とあろうが、さらに有用な道具として「使いこなす」高度な活用が厳しい時代を生き抜く鍵を握ることになる。それには、POSを活用するユーザー企業が自社のポジショニングと向かう方向を明確にし、いかなるPOS活用を望むのかを示し、ソリューションプロバイダはユーザー企業の要求に、いかに最適なハード、ソフト、ソリューションを提案し構築していくかがポイントとなる。すなわち、情報システムを提案される側と提案する側がユーザー企業の目標達成に向けてコラボレーションできるかどうかが重要になる。消費財やサービスを販売するプロと情報システムのプロとのコラボレーションである。ユーザー企業にとっては、ハード、ソフトの選択もさることながら、どのソリューションプロバイダとパートナーシップを組むかが大事となってくる。ソリューションプロバイダの重要性がますます高まる時代を迎えた。

★日本HPのニュースリリースによると、2008年6月10日、ドイツ、ベルリン‐ヒューレット・パッカードはPOS端末としてもバックオフィスのマネージ用ワークステーションとしても利用できる柔軟性を備えた「HP rp5700 Point-of-Sale System」を発表した。アジア太平洋地域における小売向け製品ラインを拡充するものでもある。価格、販売時期、販売の有無は各国の状況によって異なるが、アジア太平洋地域での店頭小売価格は699米ドルで、15インチタッチスクリーンLCDモニタ・キャッシュドロア・感熱式プリンタ・磁気ストライプリーダ付きは1,699米ドルである。日本HPは2010年の重点施策として国内未発売製品の国内市場投入をあげており、その中にPOS端末が含まれていることを明らかにしている。年間のPC出荷が6,000万台、1週間のプリンタ出荷が100万台、世界に出荷されるサーバの3分の1がHP製だという。今後の日本市場でのPOS展開が注目される。販売チャネルの動向からも目が離せない。

(東)


【今日の気づき】/新聞を読んで   第52回 技術の進歩と人間教育の乖離

2010年08月04日 06時47分13秒 | 今日の気づき
【2010年8月4日(水)】

◆読んだ新聞

日本経済新聞 8月3日(火) 夕刊 1面 15面


◆記事の見出し

1面《ドコモ・大日本印刷 提携》《電子書籍、年内にも参入》《各陣営の競争激化》

15面《大学の夏休み ちょっと短め》《中教審「授業期間内の試験禁止」》
  《「就活にに支障」「指導きめ細かく」》《学生・教員、反応は複雑》


◆記事の内容

【1面】
 ★NTTドコモと大日本印刷が提携し、電子書籍事業に参入する。年内にも雑誌、書籍、コミックなどのコンテンツを集め、電子書籍端末や高機能携帯電話(スマートフォン)に配信するサービスの開始を目指す。両社は配信から課金まで一貫して手がける事業会社の設立も検討する。

 ★電子書籍については、KDDIが凸版印刷などと共同出資会社の設立で合意した。ソフトバンクモバイルも事業進出に意欲を示している。ドコモの参入により携帯3社が出揃い、コンテンツ提供者を巻き込んだ各陣営の競争が激しくなりそうだ。


【15面】
 ★各地の大学で、今年の夏休みが1週間程度短くなる異変が起きている。中央教育審議会が授業時間数をきちんと確保するよう求める答申を出し、前期試験を授業の中で行えなくなったことの影響が大きい。文部科学省令が定める授業数をこなすため、祝日に授業を行う大学も増えている。教育内容の充実が狙いだが、学生も教員も反応は複雑だ。

 ★学生の評価は様々。「休みの日に公認会計士の勉強をする予定だったので迷惑。授業回数を増やしても意味がない」「大学で友人に会えるし、嫌じゃない」「企業の面接と試験が重なるようになった」「今年は休みの密度が濃くなるかも」。体育会所属の学生は「大会と試験が同じ日で、追試を受けなくては」等々。

 ★教授陣の賛否も両論に分かれる。「今の学生は手取り足取り、きめ細かい指導が必要。意味はあ
る」「大学の教育レベルに差があるのに、授業時間を揃えてもナンセンス」等々。武内清・上智大名誉教授(教育社会学)は「1単位15時間が徹底されることで、単位交換などに際しても共通性が高まるなど一定の効果はある」としつつ、「卒業論文のような自主的学習こそ大学教育の本来の姿。サークル活動などで人間関係や自主性を育てる時間も大切で、授業数の確保だけに目を奪われてはいけない」と。


●今日の気づき

 ★教授陣の意見の「今の学生は手取り足取り、きめ細かい指導が必要。意味はある」に改めて驚いた。そういう学生を入学させなければならないほど、大学のレベルが落ちているのかと。学生は大学にとって「お客さん」なのか。少子化の中で、そうした学生でも入学してくれなくては困るのか。進学塾で鍛え上げられた受験技術で入試では高得点を取っても、その実態は「手取り足取り、きめ細かい指導が必要」な困った学生なのか。そういう学生が次の時代を担っていくのだと考えると、恐ろしくなる。

 ★電子書籍が大きな市場になりそうである。携帯端末や携帯電話に慣れ親しんだ世代が市場のボリュームゾーンを形成していくことになる。便利さの中で、鍛えるべきことが鍛えられないまま社会に出ていく若者が心配である。技術はどんどん便利な社会を現実のものにしていく。それに反比例していくように、若者の人間としての成長が希薄になっていくように感じてならない。便利さの追求は人間の素晴らしい能力をそぎ落とす働きにもなっているのではないだろうか。

 ★本を買う時、書店に行って一番刺激を受けるのは、そこに並べられているたくさんの本や雑誌を目にした時である。本のタイトルを見ているだけでもいろんな情報が得られる。それは書店に出入し出した小学生の頃から今も変わらないことである。国語辞典を初めて買ってもらった時は、同じページに並んでいる、調べたい言葉に関連した言葉がたくさんあるのを見て驚き、言葉についての視野が広がったことを思い出す。広辞苑を初めて手にした時は、自分の名前に関連して「東」の付く言葉や熟語、ことわざを探した。よく出てくるのが「東男の京女」である。関連して、出身地である京都にちなんで「京」の付く言葉やことわざを調べた。「京男に伊勢女」というのがあった。文献に出てくる年代では「東男…」は江戸時代、「京男…」は室町時代である。千年の都に生まれた筆者にとっては「京男…」が「東男…」の先輩格であることに満足した覚えがある。

 ★電子書籍や電子辞書では、意識しないでも書店の中にいるだけで自然に得られる「時代を映し出した情報」、意識しないでもページをめくるだけで「言葉を通した新しい世界の発見」を得ることはできないのではないだろうか。電子書籍への志向が書店に足を向かわせるきっかけになれば良いのだが、電子書籍と書店が競合する中では書店が衰退していく懸念もある。電子辞書でも、その便利さを享受することがページをめくりながら見る辞書の良さを発見するきっかけになってくれれば良いのだが…。電子辞書で受験戦争を勝ち抜き電子書籍で読書する世代が増えていくことが心配になってくる。便利さの実現、追求では、そこに置き忘れていることへの対応を便利さ以上に強くしていかなければならないのではないだろうか。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第51回 立ち位置に徹する企業、迷う企業

2010年02月02日 04時01分22秒 | 今日の気づき
【2010年2月2日(火)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 1月26日(火) 朝刊 3面


◆記事の見出し

 《外食売上高 6年ぶり減》《09年1.5%減、低価格化響く 店舗数も初の減少》


◆記事の内容

 ★日本フードサービス協会が25日発表した2009年の外食売上高(新店を含む全店ベース)は2008年比1.5%減となった。冷夏で客足が鈍った2003年以来6年ぶりの前年実績割れである。家庭で食事をする内食回帰の影響もある。低価格化が進み、客単価が1.7%減と4年ぶりに落ち込んだことが響いた。全体の客数は価格引き下げキャンペーンの効果で0.2%増えたが、客単価の落ち込みを補えなかった。

 ★業態別の売上高はファミリーレストランが4.7%減、パブ・居酒屋が5.8%減となるなど総じて苦戦した。めん類チェーン店が好調だったファストフードは2.5%増。また、店舗数は0.1%減。全店ベースの店舗数減は1994年の調査開始以来始めてである。ファミリーレストラン(2.6%減)、パブ・居酒屋(2.1%減)などが2年連続の減少。ファストフードとの競争が激化している喫茶も1.2%減と、初めて減少した。牛丼など値下げ競争が続いているが、集客につながらない企業が多く、春までは厳しい状況との声が多い。

 ★2009年に6年連続で全店売上高が増えたと見られる日本マクドナルドや王将フードサービスなどの好調企業もあり、市場が縮小する中で、優勝劣敗が進みそうである。


●今日の気づき

 ★日本マクドナルドの好調ぶりは、1月15日の第1弾を皮切りに3月末まで期間限定で順次発売する4種類の大型バーガーの話題が象徴的である。第1弾が「テキサスバーガー」、第2弾が「ニューヨークバーガー」、第3弾が「カリフォルニアバーガー」、第4弾が「ハワイアンバーガー」である。価格はいずれも400円~420円、すべて1/4ポンドビーフパティ(通常の約2.5倍)のボリュームである。「テキサスバーガー」は発売後4日間の販売数量が予想の2.2倍、413万個に達した。1月17日(日)は1日の全店売上高が28億1,180万円となり、創業以来、最高の1日全店売上高を記録した。それまでの最高は2009年3月に記録した26億4,000万円だった。このほど、3月末までの大型バーガーの販売計画を上方修正した。当初の計画より25%増の3,500万個の販売を目指す。

 ★仮に、ビーフパティの質を上げて、ボリュームを1.2倍~1.5倍にし、価格は同じように400円~420円に設定した場合、どれだけ売上を伸ばせただろうかと考えてみる。顧客はレストランのハンバーガーとファストフードのハンバーガーの違いを先入観的に認識しているのではないだろうか。そうだとすると、「顧客の認識」の領域に入り込んで、そこからファストフードのハンバーガーとしての新たな「魅力」を提示し、購買意欲を引っ張り出したことが勝因と考えられる。

 ★王将フードサービスも好調である。チェーン店でありながら、単独店の大衆中華料理店の要素をうまく融合させている。看板の餃子など、全国共通の基本メニュー以外のメニューは店長の裁量に任されている。皮や餡はセントラルキッチンで製造されるが、店内で餃子を包み、焼き立てを出すスタイルは1店舗だった創業時と変わっていない。創業当時の餃子は今より2回りくらい、他店より2倍あるいはそれ以上に大きかった。大きくて安いのが特徴であった。低価格路線を維持し、若干小さくなったとはいえ、一般的な他店より大きいことは変わらない。看板の餃子へのこだわり、味の追求が、顧客への訴求力を強くしている。オープンキッチンで顧客の前で調理をする、単独店の雰囲気は創業当時と変わらない。創業時は一人が2つの大きな中華鍋を操り、異なる2つの料理、八宝菜と天津飯などを同時に仕上げて顧客に出す、パフォーマンスのような中華鍋さばきが話題であった。今もそのスタイルは変わっていない。チェーン店でありながら、顧客に親密感を与える単独店の要素を守り続けているところに好調の要因があるのではないだろうか。

 ★日本マクドナルドも王将フードサービスも特別のことをしているようには感じない。あるべき自分の立ち位置を定め、それを外さないで、徹しようとしているところが共通するのではないだろうか。逆に言えば、不調な企業は、社会経済環境や顧客の外面的な変化に、自らの立ち位置に迷っているのではないだろうか。顧客の内面的な部分は、外的要因で揺れることはあっても、意外と変わっていないのかもしれない。的は揺れているように見えても、的が立っている位置は変わっていないのではないだろうか。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第50回 60歳超の働き盛り、60歳超の働き方

2010年02月01日 01時23分15秒 | 今日の気づき
【2010年2月1日(月)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 1月25日(月) 朝刊 11面


◆記事の見出し

《注目この職場》《虎屋本舗 従業員の4割 60歳以上》《シルバー職場 ブランドに》

《若手偏重、退職相次ぎ転換》《直接の技術指導で連帯感》《「おばあちゃんが働く店」PR》


◆記事の内容

 ★1620年創業の老舗菓子製造販売会社、虎屋本舗(広島県福山市、高田信吾社長)は2008年に定年を60歳から70歳に引き上げた。定年を超えても嘱託社員として単年度契約で働ける制度がある。正社員最高齢の和菓子作り約50年のベテラン職人は週4日、早朝から午後4時まで働く。自ら働き若手社員の指導も行う。売場で販売を担当するパート社員は70歳の女性と60代の女性が2人。パート社員を含む全従業員70人の4割が60歳以上という「超シニア職場」だが、そうした取り組みが評価されて「2009年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰の特別賞を受けた。

 ★15年前に31歳の若さで経営を任された現社長は、意識的に若手社員の採用を増やして会社の雰囲気を変えようとした。菓子職人の修行は厳しく、期待を込めて採用した若手が次々と退職し、会社を支えているのは中高年社員であることに気が付く。方針を転換し、中高年社員が働きやすい職場環境を目指した。中高年社員が安心して働けるようにして、若手社員との連帯感が高まり、職場の雰囲気がぐっと良くなった。2010年2月期の売上高は1,000万円増の5億1,500万円を見込む。

 ★社長は、元気なうちは働きたいという中高年社員の要望に応えることもCSR(企業の社会的責任)だと言う。それを果たして、地域社会や消費者に愛される企業になれば会社のブランド力になるとも言う。直営店に従業員のためのスロープや広い休憩スペースを作る計画である。「おばあちゃんが働きつづけられる店」を積極的にPRしていく。「超シニア職場」という異色のブランド戦略は地域社会や消費者に好印象を与えているようである。


●今日の気づき

 ★街を歩いても、周りを見渡しても、「60歳」が「お年寄り」と思うことは、まずない。60歳以上の人たちが、これまでの経験を生かして、職場の第一線で働くことに違和感はない。一方、中高年者には向いてない職場もある。企業によって、職場によって、事情は様々、異なる。定年は何歳にしなければならないとか、求人案内に年齢制限を設けてはならない、など、決まり事を作るのが良いのかどうか、疑問に思う。求人案内などは年齢制限を設けなくても、書類選考でふるいにかければ決まり事をすり抜けることができる。職場事情は企業固有の問題なのに、一律的に決まり事を設けて良いのかどうか。しかし現実は、決まり事を設けないと従業員が不利な立場に立たされる懸念があるので、それを防がなければならない。それほどまでに、企業は信用されていないことになる。

 ★法律の専門家ではないので、専門家でどんな議論が交されているのかは分からないが、学生の時に受けた憲法概論の授業で、法律学者が考える理想の社会は法律のない社会である、ということを聞いて共感を覚えたことを思い出す。人間をどれだけ信用できるのか、そのレベルにまで引き上げられた倫理観、行動がスタンダードになる社会が理想ということであろうか。人の社会を治める政治家は、最も人の模範となり、人の尊敬を集める倫理観と行動を持ち合わせているべきなのに、その政治家に対して、繰り返し改正を余儀なくされる政治資金規正法という決まり事がある。その政治家とカネを通じて結び付いているのが企業であることを考えると、もちろん、すべての企業がそうではないことを前提にしても、利潤追求が最優先され、上場企業は株主利益を優先しなければならない現状を見る時、法律のない社会などは理想論の域を出ることはないのではないだろうか。

 ★虎屋本舗の経営方針、職場環境作りの取り組みは、厚生労働大臣表彰の特別賞に値する素晴らしいものだが、目の前の経営課題に取り組む中で出来上がってきた結果であって、個企業の立場からは、当たり前のことをしたというものではないだろうか。他者から見れば、特筆すべきものでも、当事者にとっては当たり前のことをしたということが多い。個企業にはその企業なりの個別の課題があり、それに立ち向かった結果は、当事者にとっては「当たり前」、他者にとっては「特筆すべき」になるのであろう。そういう意味では、「特筆すべき」は企業の数だけ存在できる。「特筆すべき」が多くなることを望みたい。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第49回 PB戦略は「第2ステージ」へ

2010年01月31日 19時19分00秒 | 今日の気づき
【2010年1月31日(日)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 1月22日(金) 朝刊 27面


◆記事の見出し

 《知りたい価格》《メーカー品安く PBにほぼ並ぶ》《カレー・茶飲料やティッシュ 消費者買い分け》
 
 《販促費増加、値引き原資に》《劣勢のメーカー、挽回に動く》


◆記事の内容

 ★メーカーのNB(ナショナルブランド)商品が値下がりし、PB(プライベートブランド)商品との価格が接近または逆転している商品が出てきた。1月19日のイトーヨーカドー木場店(東京・江東区)ではPB「セブンプレミアム」の緑茶と「生茶」、「爽健美茶」の2㍑入りがいずれも148円。同日のジャスコイオン南砂町スナモ店(東京・江東区)では大半の商品でPBの方が1~3割安いが、一部のNBはPBと同等まで値下がりする例が見受けられる。PB「トップバリュ」の納豆(40㌘×3)と特売の「あらっ便利!金のつぶほね元気」(45㌘×3)がともに78円。

 ★NBは特売などで価格が変動することが多いが、月間平均価格の推移を日経POSデータで見ると、NBとPBの価格差が縮小している商品が多い。逆転している例もある。箱入りティッシュ(200組×5箱)の月間平均価格は2008年12月はNBがPBより15円高かったが、2009年4月以降はNBがPBを下回っている。サラダ油でもNBがPBを下回る現象が起きている。

 ★NBとPBの価格が接近したり逆転する理由は、メーカー、小売双方にある。PBの急速な普及で劣勢に立たされるNBが増え、また2007年以降の原材料価格の高騰による値上げがPBとの価格差を大きくしたことから、現在はメーカー側が値引きの原資になる販促費などを増やすことで挽回を図っている。小売側も店舗間競争が激しくなる中で、より低価格政策を強化する必要に迫られ、PBの拡充だけでは不十分で、有力なNBの値下げが必要になっている。


●今日の気づき

 ★NBとPBの価格差の縮小は、小売業の経営姿勢、商品開発コンセプト、商品政策そのものが問われる時代に差しかかったことを示しているように思われる。いわば、PBの「第2ステージ」というものだろうか。小売業は「何」を販売するのか、販売する「商品」に小売業の経営哲学が反映していると言える。低価格で販売できる、利益が確保できる、ということに重きを置くPBだと、PB開発は「会社のため」という色合いが強くなる。しかし、同時に「顧客のため」という視点が必要である。価格はもちろん顧客のために大事だが、品質も価格以上に大事である。“価格に相当した品質”では顧客は満足しない。顧客に満足を与える品質のPBが多くなってきた。その品質路線がさらに強まることを期待したい。理想論かもしれないが、「顧客のため」を大事にすることで、「利は後からついてくる」的な経営哲学がPBに打ち込まれなければ、PBの寿命は長続きしないだろう。果たして、NBとの価格差がなくなればPB開発は下火になり、価格差の有利性が期待できるようになれば、また再燃するのであろうか。PB戦略とは、そういうものなのだろうか。今後が注目である。

 ★仕入商品であるNBは商品の品質責任はメーカーにある。小売側は仕入れた責任はあっても、商品本来の品質までは責任を負うことはない。しかし、PBは製造者としての責任が小売側に生じる。メーカーと同じように品質、商品コンセプトまで問われるのである。仕入商品は価格、品質、顧客支持率など様々な要素を加味して、品揃えの考え方に沿って、仕入れる商品を変えることはできる。しかし、自社開発・製造商品はそうはいかない。メーカーと小売業は「製造業者」として商品で競わなければならない。この時代、価格は消費者の支持を得る、非常に大きな要件だが、それがすべてではない。

 ★価格差がなくなったことで、価格以外の要素で競わなければならない。価格も含めて、小売業が自らの経営哲学に基づいて、「売りたい商品」を顧客の前に並べ、顧客の評価を得る絶好のチャンスが訪れたと言える。PB開発のきっかけがどうであれ、PB路線に歩み出したからには、メーカーの顔で勝負しなければならない。やがては、メーカーとしてのマーケティング戦略も必要になる。必然的に、自社向けの「プライベートブランド」に徹するのか、「ナショナルブランド」の世界に足を踏み入れるのか、選択肢も分かれてくる。

 ★メーカーと小売の垣根が低くなり、NBとPBの垣根が低くなり、商品の供給者と需要者の垣根も低くなってきた。消費者の要望で商品が開発される時代である。衣料品の世界では製造と販売を一体化させたファストファッションが脚光を浴びている。成熟社会の到来は、かつて経験したことのないような、様々な変化が出てくる。変化に飲み込まれ、埋没しない、確固たる「芯」が改めて求められているのではないだろうか。PBの「第2ステージ」を思う時、そういう時代の兆しを強く感じる。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第47回 消費市場変化の大潮流 新しい時代への兆し

2010年01月29日 04時07分23秒 | 今日の気づき
【2010年1月29日(金)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 1月20日(水) 朝刊 11面


◆記事の見出し

 《百貨店閉鎖 最悪に迫る》《松坂屋・丸井今井…今年8店決定》《関連業界含め再編も》

 《アパレル業界 打撃大きく》《価格・販路の見直し急務》


◆記事の内容

 ★百貨店の閉鎖が加速。2010年に閉鎖するのは8店に達する。2010年に入っても百貨店の市場環境は悪化している。大手に加え、経営再建に入る地方百貨店も多く、さらに数店増え、経営破綻したそごう(現そごう・西武)が9店を閉めた過去最悪の2000年の11店を上回る可能性も出てきた。

 ★百貨店の店舗数は1999年の311店がピークで2009年末は271店。需給ギャップは解消されず、さらなるリストラは避けられない。地方への影響も大きい。閉鎖した店舗の後継テナントが見つからないケースが多く、中心市街地のさらなる空洞化を招く恐れもある。

 ★百貨店の閉鎖が加速し、主要取引先のアパレルメーカーも経営の見直しを迫られる。インターネット通販や商業施設の開拓、価格を抑えたブランドの開発を急ぐ。少子高齢化や低価格専門店との競合などを背景に市場環境は厳しく、大手や中堅の再編につながる可能性もある。

 ★百貨店売上高に占める衣料品の構成比率は40%近くを占めるが、日本百貨店協会によると、衣料品売上高は1997年から2008年まで12年連続マイナス。消費者はファストファッションと呼ばれる低価格系の専門店や利便性の高いネット通販に流れ、2009年もマイナスが確実。

 ★アパレル大手では、ワールドが販売の軸足を商業施設に移し、一時は6割を占めていた百貨店の売上比率を3割台に下げた。7割超を百貨店に依存するオンワード樫山は価格を抑えた婦人服ブランドや路面店、本格的なネット通販サイトを立ち上げ、三陽商会は1月から「販路開発室」を設け、百貨店以外の店舗開拓を強化する。レナウンは今春、総合スーパーなど量販店向けに百貨店の6割程度に価格を抑えた婦人カジュアルブランドを立ち上げる。中堅アパレルではフランドルが百貨店の半額程度の価格帯に抑えた婦人服専門店を導入した。


●今日の気づき

 ★百貨店の閉鎖は、ある意味で自然の成り行きのような気がする。小売の現場では、前年対比はどうなのか、客数は、客単価は、何が売れて何が売れてないのか、競合店はどうなのか、他業態はどうなのか、売上を上げる企画は、販促イベントは、顧客サービスは十分なのか等々、日々の営業に追われているのが現状である。他店がイベントで売上を伸ばせば、他店を上回る売上を作るイベントを行おうと、熾烈な競争の日々が現場である。しかし、消費市場を俯瞰すると、需給のギャップが大きく、供給過剰であり、供給の担い手である店舗が「オーバーストア」である。既存の店舗数の減少は避けられない。強い店舗が生き残り、弱い店舗が消えていくというのは、社会の変化の中で避けて通ることができず、その中で、いかに生き残るかが課題と言えるが、従来の延長線上には解決策は見えて来ない。前提となる消費市場が変化しているからである。

 ★衣料品では、商品はファストファッションと競合し、販路はネット通販の伸張など、新興勢力の台頭の影響を受けているが、成長業態が必ずしも、先行き安定成長するかというと、その保障はどこにもない。「消費マインド」と表現されるように、「消費」に強い影響力を持つ「マインド」が変化しているからで、その「マインド」は社会の状況をはじめ、様々な要素の影響を受け、過去の経験では推し測れないような動きをするのが常である。しかも、消費の成熟社会になると、価値の基準軸も変化してくる。今までに経験したことのない時代が始まろうとしているのではないだろうか。

 ★少子高齢化や人口減少といった要因は消費量を減らす要因には違いないが、別の「マインド」も働き出しているのではないかと思えてならない。所得減少や所得の先行き不安などが消費を冷やしていることは確かだが、それをきっかけとして、新しい「マインド」が芽生えてきているのではないだろうか。そうだとすれば、景気が回復し、所得が増え安定しても、以前のような「消費」が戻ることはないと言える。

 ★アパレル業界で百貨店価格の6割とか5割に抑えたブランドの開発が進められているということだが、品質も6割、5割と下がるのであろうか。そこまで品質が下がると消費者はついてくるのかどうか疑問である。価格を抑えても消費者が納得するだけの品質を維持できる技術力が裏付けとなっているのではないだろうか。そうだとすれば、価格と品質の関係にも変化が出てきているということである。高度経済成長の過程で国民が総中産階級意識を持つようになり、富裕層的ライフスタイルへの指向が強まり、その新しい需要層に向けて高級指向の商品が供給され、中産階級意識を持つようになった消費者を高級品市場へ導くことで数量的にも金額的にも消費市場が拡大してきたという側面がある。この30~40年の間に品質はものすごく向上した。従来の百貨店ブランドでなくても、満足の合格点に入る商品が手に入るようになったと、所得の不安定感が、それに気付かせたのではないだろうか。そして、その「マインド」が新しい需要層を形成し出すと、それに対応した商品の供給が盛んになって、中産階級意識を持つようになった消費者を高級品市場へ導いてきたように、新しい市場の創出が始まっているのではないだろうか。市場の数量的あるいは金額的変化は従来と異なる軌道を描くことは間違いないと言える。品質やデザイン、イメージ、希少性などで付加価値を膨らませてきた市場で、それについて来る消費者と、そこまでしなくても満足できる商品が多くあるという認識を持って価値観を変化させた消費者に、消費の「マインド」が分化しつつあるのではないだろうか。

 ★長野県農業大学校(県立専門学校)農学部教授の吉田太郎氏が著した「世界がキューバ医療を手本にするわけ」、「世界がキューバの高学力に注目するわけ」が注目されていることを知り、インターネットなどで調べてみた。キューバの乳幼児死亡率は米国以下で、平均寿命は先進国並み。がん治療から心臓移植まで医療費は無料で、大都市の下町から過疎山村まで予防医療が全国土を網羅している。WHOも医療大国として認めているという。また、教育では、幼稚園から大学まで教育費は無料で、小学校は20人、中学校は15人の少人数教室を実現。過疎地では生徒一人の学校も維持しており、教育の地域間格差を作っていない。中南米統一国際試験で2位を大きく引き離す高得点を上げた。ユネスコはフィンランドとともにモデル国に推奨する教育大国だという。しかし、生活物資は乏しいようである。医師や大学教授でも携帯電話や自動車を持っていない。牛肉も観光客しか食べられないという。経済成長と豊かさの関係、モノの豊かさと幸せとの関係に示唆を与えている。

 ★日本経済新聞の2010年1月18日(月)~22日(金)の夕刊「人間発見」欄で元世界銀行副総裁の西水美恵子さんの記事が連載されているが、西水さんは講演などで、よくブータンの話をされる。前国王の雷龍王4世の「国民総生産より国民総幸福量が大切」という価値観が有名である。ここでも、経済成長と国民の幸福との関係で貴重な示唆を与えている。

 ★数字を指標として追いかける経済の成長には限界がある。モノ市場の成熟の次にはコト市場の成長に期待するのであろうか。コト市場もやがては成熟することになる。市場の成長を金額の数字の拡大で測っていけば、コト市場もモノ市場と同じ軌道を進んで行くことになる。

 ★従来の経済成長の価値観に並行して、経済成長や物的豊かさは幸福な生活の手段であって目的ではないという価値観の芽が大きくなりつつある。その背景となる要素を物的側面で見ると、市場の成熟と品質の向上がある。今後、「エコ」を加えた「成熟」、「品質向上」の3つが、消費市場に大きな変化をもたらす要素になると思われる。百貨店の閉鎖は、そういう大きな価値軸が変化する中で出てきた、潮の流れが変化する時に生じる渦潮のような「自然現象」に似たものを感じる。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第46回 今はネット通販が「安・安・安・近」で成長

2009年12月08日 23時02分51秒 | 今日の気づき
【2009年12月8日(火)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 12月8日(火) 朝刊 3面


◆記事の見出し

 《年末商戦ヤマ場》《「巣ごもり」「生活防衛」鮮明》《ネット通販好調》《百貨店・スーパーは苦戦》


◆記事の内容

 ★先週から冬のボーナス支給が始まり、ヤマ場を迎えた年末商戦は手軽で割安な通信販売はネット大手の売上が前年比1~2割伸び、おせち料理や鍋物が好調である。不振の百貨店やスーパーは前倒しセールなどで前年並みを確保するのがやっとの状態である。デフレと所得減で消費市場が冷え込む中で、「巣ごもり」「生活防衛」志向にどう応えるかが明暗を分ける。

 ★「ボーナスサンデー」の12月6日の仮想商店街「楽天市場」の総売上高は30億円超と、昨年12月の日曜日のピークだった14日の実績を上回った。楽天市場は前年比10%以上の伸びで推移している。11月中旬から予約を開始したおせち料理は1.6倍。鍋の食材も値下げ効果で、例えばズワイガニ約1.2㎏5,250円(通常1万500円)などが人気である。年末は通販の最大の商戦期だが、今年はパソコンや携帯電話で価格を比較しながら割安商品を購入する消費スタイルが追い風となった。

 ★巣ごもりが直撃しているのは旅行である。JTBの年末年始(23日~1月3日)予測では、国内外旅行の人数・費用とも1999年以来、10年ぶりの低水準である。

 ★百貨店は通常なら年明けに実施するセールの前倒しが相次いでいる。大丸東京店は先週から8日まで全館セールで冬物コートなどを均一の格安で提供し前年並みの売上を確保している。これといった販促を打ち出していない高島屋と伊勢丹は1割程度の減収傾向から抜け出せないでいる。イオンは12月も厳しく、10~14日にグループのショッピングセンターに入居する専門店約2万2,500店とジャスコなど約500店で1~2割引のセールに踏み切る。



●今日の気づき

 ★所得不安などで生活者の消費行動が消極的になっていることは間違いないが、ネット通販好調、百貨店・量販店不振は、業態自体への生活者の支持マインドの変化を反映したもので、あまり驚きは感じない。当然と言える。所得事情が改善しても、この傾向は変わらず、むしろ余裕が出た支出が、よりネット通販に向かうのではないだろうか。

 ★楽天市場が前年比10%以上の伸びで推移しているというので、楽天㈱の2009年度(決算期:12月)第3四半期の決算説明会の資料を見てみた。売上が伸びているということは出店店舗数も伸びていると思われるので、そのデータを見るためである。同資料によると、2009年度第3四半期の契約済店舗数は30,203店舗である。同社は前四半期までは出店店舗数を各四半期最終月に月額利用料を課金する課金店舗数で計算し、2009年度第3四半期からは四半期末の契約済店舗数で表示するように変更した。従来の課金店舗数ベースでは2009年度第3四半期の出店店舗数は30,602店舗となる。これは前年同期に比べて5,192店舗増えて、20.4%の伸び率である。出店店舗数の増加が楽天市場総売上高の伸びに好影響を与えていることが考えられる。

 以下に、直近四四半期(直近1年間)の出店店舗数をあげてみる。(店舗数は課金店舗数)

 2009年度第3四半期 30,602店舗 (2008年度第3四半期 25,410店舗)  前年同期比 120.4%

 2009年度第2四半期 28,969店舗 (2008年度第2四半期 24,273店舗)  前年同期比 119.3%

 2009年度第1四半期 27,258店舗 (2008年度第1四半期 23,176店舗)  前年同期比 117.6%

 2008年度第4四半期 26,223店舗 (2007年度第4四半期 22,396店舗)  前年同期比 117.1%

 ★ネット通販の伸びを支えている大きな要素に、まず商品の「安心」、「安全」がある。自らネットのバーチャル店舗で買物をした経験がある。同じ製造業者の同じ商品をリアル店舗で見たことがある、買ったことがある。ネットでその商品の評価を調べることができる。その評価の信頼性を友人に確かめることもできる。安心の根拠を得る環境がネット上でも拡大している。商品の質が悪いとネット市場で淘汰されていく。ネット市場で生き残り成長していくためには品質の向上は不可欠である。ネット通販の便利さもさることながら、全体的な品質の向上が生活者の消費マインドをとらえていると言える。

 ★次にネット通販は「安い」ということがある。価格比較がネット上で行える。リアル店舗との価格比較もできる。有名店や有力企業はホームページを開設しネット販売を行っていることが多く、商品によってはチラシ広告が入ることもあり、店舗に足を運ばなくてもパソコンの前でリアル・バーチャルの店頭価格比較が行える。自分にとっての値ごろ感で売る店舗、最安値で売る店舗を容易に見つけることができる。

 ★次にネット通販は買物をする場所が「近い」。自宅で買物ができ、移動中でも携帯電話から買物ができる。机の上の目の前のパソコンや移動中の携帯電話が「店舗」である。その中には世界中の店舗があり、世界中で24時間営業をしている。究極の近さに店舗が無数にあることになる。

 ★ネット通販は「安心」、「安全」、「安い」と3つの「安」と1つの「近」が充実してきている。生活者の買物方法の大きな選択肢の1つとして伸びてきて不思議ではない。

 ★リアル店舗とバーチャル店舗が融合して小売・サービス市場を形成する時代に入って、同一製造業者の同一商品あるいは生活者が求める品質の範囲内の商品であれば、リアル店舗、バーチャル店舗の別なく価格競争は避けられそうにない。所得不安・節約指向に対応した低価格化がそれに拍車をかけているが、店舗の維持・運営費など営業コストが異なるリアル店舗とバーチャル店舗が「売価」だけに焦点を絞ったような価格競争には、いずれは川上・川中・川下で「無理」が露呈してくるのではないだろうか。懸念される。

 ★それでは、リアル店舗が売価以外でバーチャル店舗に優るものは何だろうか。リアル店舗では、直接商品を見られる。店員から生の声で説明を受けられる。他の陳列商品または映像・画像を使って他の商品を見て比較できる。試着できる。試食できる。直ぐに持って帰れる。返品などの手間がない。買物以外に飲食・娯楽関係など他の楽しみがある。等々、多くの優位点がある。しかし、従来の延長では、その優位性も魅力薄となる。様々な商品を見て、試して、買った経験のある顧客には、従来の比較購買(品揃えや見せ方、売り方)では満足を与えられない。店員の説明も同様である。飲食・娯楽も同じである。飲食・娯楽は店舗外の飲食・娯楽と競争しなければならない。「ワンストップ」の意味が変わってきている。店舗内での「ワンストップ」でなく、地域内での「ワンストップ」、移動行程内での「ワンストップ」である。店舗内の各ショップも顧客の移動範囲内でナンバーワンまたはオンリーワンにならないと生き残っていくことは難しくなってきている。

 ★リアル店舗とバーチャル店舗はまだまだ同質化競争の最中のように感じている。同じ消費財の販売でも戦う「戦場」が異なる。同じ格闘技でも、離れて打ち合うボクシングと体をぶつけ合い組み合い投げ合う相撲以上の違いがあるのではないだろうか。「戦場」はボクシングはロープで囲まれた四角いリングで相撲は俵で円を描いた土俵と、その違いは大きいが、ともにリアルの「戦場」である。リアル店舗とバーチャル店舗は、リアルとバーチャルという異次元の違いがある。逆に、それなら、同じ小売業・サービス業といえども、明らかな差異は作れるはずである。顧客の側から見れば、リアル店舗もバーチャル店舗も選択肢の1つである。どちらかの選択肢が便利であればそちらを利用する比重が大きくなり、別の選択肢の利便性が高まれば、そちらの比重が大きくなる。バーチャル店舗の成長がリアル店舗の成長に結び付いていくことを期待したい。

(東)

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第45回 「買わない」「売れない」には理由がある

2009年12月07日 16時17分48秒 | 今日の気づき
【2009年12月7日(月)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 12月7日(月) 朝刊 1面


◆記事の見出し

 《春秋》


◆記事の内容

 ★若者はなぜ自動車を買わなくなったのか。自動車メーカーで販売戦略に携わる人が、ある研究会で理由をあげた。所得の減少。公共交通の充実する都市部への人口集中。未婚率の上昇。こうした要因に加えて、価値観の変化も大きいという。

 ★「デートにクルマはいらない」と言う女子大学生。「友人を乗せて事故などの責任を追うのが嫌」と言う男子大学生。市場調査で集めた生の声に、クルマ好きが多い自動車メーカーの大人たちは大きな衝撃を受けたという。

 ★借金をしてでも車を手に入れ、仲間や恋人とぶっ飛ばすような青春像へのあこがれは乏しい。今の若者は自動車だけでなく、上の世代と違って「3K商品」に関心が薄いという。マーケティング研究者は近著で、3Kはクルマ、カデン(家電)、カイガイ(海外)旅行を指す、と語る。

 ★消費にまったく興味がないわけではない。ファッション、ゲーム、情報機器、家具、外食への関心は高い。日常的で事故とも無縁。しかも、買う時期を待てば値段が下がるものが多いと、先のマーケティング研究者は言う。買物は先送りがお得というのが若者の常識だとすれば、財布を開いてもらうのは容易ではない。



●今日の気づき

 ★消費の動向は生活者の価値観を反映する。価値観は人の外的要因と内的要因が影響して形成される。外的要因は、経済情勢、社会環境、生活環境、家族構成、学歴、モノ・コトの消費財事情、行動範囲、交友関係、情報環境等々、様々である。一方、内的要因は購買の直接的な推進力となるものだが、それを静的にあげるのは難しい。一言で言えば、感性とか心ということになるが、これは、常に変化し、つかみ難いからである。例えば、所得問題が抑止力となって買いたくても買えなかった商品があるとする。それでは、所得問題が解決すれば、直ぐに購買に結び付くかというと、そうとは限らない。購買に結び付かないこともある。内的要因は外的要因の影響を強く受けるが、影響を及ぼす外的要因は1つとは限らないからである。外的要因と内的要因の関係度合いは常に変化している。

 ★経済が発展途上で、生活物資が社会に不足していた頃は、個人差はあるが、一般的には内的要因に影響を及ぼす外的要因は上位が集中的に大きく、それ以外は影を潜めるほど小さくなって存在していた。大きな外的要因が解決に向かうと、小さな外的要因が顔を出す余地もなく、店頭に置けばモノが売れる時代を到来させた。やがて、影を潜めていた外的要因が大きくなってくると、購買を促す内的要因に様々な外的要因が影響を及ぼすようになり、消費が多様化し、川上・川中・川下が描く筋書き通りには消費が動かなくなってきた。生活者のニーズが見えないと、会員制カードシステムやCRMなどの導入が盛んになってくる。とともに、FSPなど消費を誘導する手段への関心も高まってくる。

 ★外的要因が内的要因に強い影響力を与えるといっても、内的要因は「時流」と表現すればよいのか、実在するが実体の把握が非常に困難な「時代の空気」のようなものにも影響されている。同じ外的要因でも、時として、敏感に受け止められる場合と、そのまま素通りしてしまう場合がある。個人によっても、世代によっても違い、その違いは、様々な外的要因の影響が人の意識の中にその人が気付かないうちに蓄積され、行動に影響を与えるまでに膨らんできていることがある。自らの経験の積み重ねの中で同じく無意識のうちに蓄積されていることもある。購買行動に駆り立てる内的要因は、外的要因と内的要因の様々な絡み合いの中から生まれてくる。

 ★成熟社会は、外的要因がそれぞれの存在感を大きくし、外的要因同士の差を小さくしている。内的要因も外的要因や自己蓄積の影響を受けながら価値観を多様に顕在化させている。そういう状況が生まれている成熟社会も到達点ではない。通過点である。成熟しているとはいえ、成長は続いていく。成長の基軸、変化の基軸が大きく動き出している。今は「成熟」という新しい状況の出発点に到達したところである。今後は、かつて経験したことのない変化がどんどん現れてくると予想される。「変化」という表現が当たっていないかもしれない。今は過去の経験を基準にした「変化」だが、これからは「変化」自体の基軸が変わっていくからである。

 ★その中で、変わらないものと変わるものがある。例えば、パソコンやケータイなど、パーソナル情報機器、モバイル情報機器の発達とインターネットの進化で、テレビCMの効果に変化が出てきているという議論があるが、一方で、視聴者にテレビCMのメッセージがきちんと伝わり、きちんと好感度が得られれば、きちんと売上に反映しているということが客観データに基づいて検証されてもいる。かつて、1台のカメラに2つのレンズが上下に装着されている「二眼レフカメラ」があった。成熟社会のマーケティングは、変わらないものと変わるもの、2つのレンズで焦点を合わす時代かもしれない。しかも、過去の経験を生かしつつ、新しくスタートラインに着き直すという思考が求められる。

 ★室町時代に創業した和菓子の「とらや」は、「伝統は革新の連続である」を信念としている。今は「伝統」の味になっている商品も生まれた時は「革新」だった。今の新商品も、開発者は100年先にも生き続けているものを作りたいという信念を持っている。時代は変化しても、「伝統」を重んじ「革新」を続ける精神は変わらない。成熟社会という新しい時代環境の中で、いかに生活者の「心」をつかむのか。日本の消費市場は、かつて経験したことのない新しいマーケティングの時代に入ったようである。

(東)