ベクトライズ

様々な出来事について、その過程や流れ、方向性を自分なりに探っていきたいと、ベクトルと「分析」をひっかけた造語です。

福知山線の報道で思うこと

2005年05月08日 23時53分25秒 | 時事ネタについて
着目したいのは、2点だ。

1.事故電車に乗り合わせた通勤途中の運転士の行動

2.ボーリングなど、不適切と評された行動

どちらも、JRが全社体制で対処していなかったことの証明だと思う。組織が大きくなると、様々な関連した仕事を各部門で分担するようになる。それが、ある種の「セクショナリズム」を生み、他部門の仕事には口をはさまず、関与せずというのが習慣になっていく。JRの例でも、事故対応の担当部門とそうでない部門の意識は大きく違ったと思う。2.の件は、そうした背景を考えると必然的に起こったものと推測できる。
1.については、冷静に考えると必ずしも批判できない部分がある。JRが周辺の運行を維持するためには、彼らが正常に出勤することも必要だったはずだからだ。社として、救出活動に組織だった要員投入ができていて、会社の責任において、「周辺の運行維持に必要なので、いち早く出社することを命じた」と明言していれば納得できない話ではないと思う。

同時に、経営陣・管理者と現場の間に大きな乖離を感じる。恐らく現場から叩き上げた管理者が少ないのではないかと思う。無理なダイヤ編成や問題視されている日勤教育の実の無さなどから推察するに、管理側は現場の実運用の詳細を理解していない。

問題解決には、その要因を絶つ必要がある。オーバーランなどの小さな事故が運転士に依存して起こっているという判断ならば、運転技量の向上が重要な対策のひとつになるはずだが、そうした実運用に即した対応がなされず、精神論的な勤務態度の修正のような指導に指向したのは、現場の実務を指導できない背景があったからではないか。シミュレーターの導入や車両区での運転実技実習など、工夫のできる部分があったはずだが、対処されていなかったとすれば、潜在的な問題を放置したのと同じことだと思う。

ダイヤの組換えに当たって、現場職員の意向や意見が反映されていたかどうかにも興味がある。運転士たちは実施できると考えて受け入れたのか、それとも、彼らの意向には関係なく決定されるものなのかは、今後、重要なポイントになるのではないだろうか。

事故や異常に際して、各部門が共通の課題として受け止めることが大事故の予防のために最も重要なポイントだ。そうした意識作りをするには、まず、組織内への情報開示が前提となる。全員に知らせ、状況を理解させ、対応方針や実際の対策の実施と徹底を求め、履行されていることを監視する。
このプロセスを、小規模な事象に対しても徹底して、継続的に行うことで、組織全体がそれを習慣にするようになる。そういう習慣ができると、問題が発生しづらくなり、小さな人為的なミスも激減する。

もうひとつは、実際の行為者(今回の例では運転士たち)が彼らの視点で対策を検討し、施策することが重要だ。決して、傍観者にしてはならない。同時に、行為者をフォローする立場の者(今回の事例では車掌たちと保線区の要員)は、実運用上の検証者として機能する立場にあり、その観点から問題を分析し、自らの立場で実施できる施策を提案し、業務に実装することを要求されるべきだ。これが継続的に求められることで、一体感が生まれ、相互にフォローする体制が出来上がる。

今回の一連の報道や、JRの会見の様子からは、こうした組織的な対応を全く感じ取れない。
これは、経営陣がしっかりと反省すべき問題だと思う。

組織が大きくなればなるほどこうした対応は困難ではあるが、信頼を取り戻すためには、実質的な運用の質を引き上げて実績を示す以外にない。安直なその場しのぎの対応に走ることなく、地道な体質改善を進めて欲しいと心から願っている。

犠牲が大きければ大きいほど、実質的な対応を、誠意をもって推進する以外に道はない。
謝罪や保障で、この問題が解決できるわけではないのだから。

多くの方々の痛みが癒されるように、本質的な解決がなされることを願いたい。

2 コメント

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TBありがとうございます。 (えむわん)
2005-05-09 12:09:22
偶然事故車両に乗り合わせていた2人の通勤途中の運転士について私と全く正反対の意見ですね。



>社として、救出活動に組織だった要員投入ができていて、会社の責任において、「周辺の運行維持に必要なので、いち早く出社することを命じた」と明言していれば納得できない話ではないと思う。



これも一理ありますが、私が論点にしていることは、会社がその2人の運転士を気が動転した状態で乗務させてしまったことです。乗務中に事故のことを考えてしまい、信号見落としやオーバーラン、最悪事故につながりかねないのに。こういったことで、上記の発言をしなくて良かったのではないかと考えています。
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Unknown (paco_m)
2005-05-09 23:24:51
えむわんさん、コメントありがとうこざいます。



ご指摘の点は、僕も同感です。気が動転した状態での勤務なんて、そんなんで運転されては、乗っている方はたまりません。

僕は、JRの会見での発言が思いつきの言い訳に聞こえてしまい、納得がいきませんでした。

まして、その後の処分の対象にされてしまう彼らはなんだかかわいそうに思えます。



現場にいたら、やっぱり救助に行くのが筋なのかもしれませんが・・・・
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