以前にも書いたが、パソコンテレビ「GyaO」は誠にありがたい。このストリーミング配信の無料PCテレビが今放送してくれている懐かしプロレスはエリック一家特集である。フリッツ・フォン・エリックの引退試合から始まり(なんと相手はキングコング・バンディ! !)、息子達の活躍を特集している。ケビン、デビット、そしてケリー。みんなフレッシュで小気味いい。若さ溢れるファイトである。エリック兄弟のライバルは前述のバンディ他、ファビラス・フリーバーズ(マイケル・ヘイズ、テリー・ゴディ、バディ・ロバーツ)、ジム・ガービンたち。アメリカンプロレスの王道である。ザ・グレート・カブキもマジック・ドラゴン(ハル薗田)とタッグで登場。実に楽しい。
しかしこうして見ているとエリック一家はほとんどがもう死んでいる。ゴディもハル薗田ももうこの世にはいない。まるで追悼ビデオを見ているような気がする。
フリッツ・フォン・エリックの必殺技と言えば、言わずと知れたアイアン・クロー。「鉄の爪」である。人並みはずれたデカい手のヒラと握力を持ったエリック親父は、ただ相手の体の一部を掴んで絞めるというそれだけの単純な技で世界の頂点に登りつめた。
クロー技(手で掴み苦しめる技)は以前にもあったのかもしれない。しかし、その技を必殺技に昇華させたのはエリック親父であることは間違いない。ちょっと信憑性に欠ける資料ではあるのだが梶原一騎の「プロレススーパースター列伝」によると、フリッツ・フォン・エリックは23歳のときにジャック・アドキッセンとしてプロレスデビュー。「巨体だが木偶の棒」であったアドキッセンは売れなかったが、あるとき街でナイフを振り回すチンピラを制止しようと相手の手首を掴んだとき、相手の手首の骨が砕けてしまい、自分の握力の強さに気づいた。この握力を生かすべくその後改良を重ね、手首など危険な部位ではなく顔や腹部を掴んで握り締めるアイアン・クローという技を完成させたと言う。見るからに残酷で陰惨な匂いのするこの技によりアドキッセンは善玉から悪役へとなり、名前もナチスを意識してドイツ貴族風のフリッツ・フォン・エリックとし、全米を恐怖に陥れたのだ。
僕はエリック親父の全盛期をリアルタイムで見た世代ではもちろんないのだがその伝説は生き続けていて、何本も「懐かしプロレス」のビデオを借りて見た。若き日の馬場さんと対戦した試合はまさに恐怖そのもので、一度頭部に入ったアイアンクローがどうしても外れず馬場さんはのたうち回り、実況は「コメカミから…血が流れ出ています! !」と叫んだ。アタマを握り潰して流血までさせるというアイアンクローの恐怖は、ブラッシーの噛み付きと並んで最も怖ろしい技ではないだろうか。
しかし、この技は握力があれば誰でも出来る技である。だがプロレス的に見て絵になる技とするには、陰惨な匂いをプンプンさせた悪役が使用してこそだ。他に使い手として有名な選手にバロン・フォン・ラシク、キラー・カール・クラップらがいた。クラップは「ブロンズ・クロー(青銅の爪)」と称してかなり陰惨な雰囲気を醸し出していた。こういうレスラーでないと絵にならない。
例えば、アンドレ・ザ・ジャイアントがやれば本当に頭蓋骨が砕けてしまっただろう。しかしアンドレはやらなかった。当然である。この技は強力無比な握力を大前提とするが、最も重要なことは「似合う・似合わない」であろう。手の大きさと握力だけではどうにもならない部分があるのだ。失敗例として、エル・ヒガンテを思い出す。238cmとアンドレを超える巨人として売り出したヒガンテであったが、フィニッシュにクローを使ったためにその体の大きさを誇示することが出来ず、いつの間にか消えてしまった。
クロー技はその掴む部位によって分類できる。まずアタマを掴むブレーン・クローが代表格で、アイアンクローと言えばこれを連想する。エリック親父が大きな手を広げて頭部を掴みかからんとする姿、相手が両手でブロックしているところへジワジワと広げた手を近づけていくその迫力は、まさに千両役者のものである。
もうひとつ、腹部を掴むストマック・クローがある。実はこのストマック・クローの方がブレーン・クローよりも効く、と言われている。頭部を掴むのでないので相手の悶絶する表情がよく見えてエグい。アバラの下を掴むレバー・クローも同じ。
コブラ・クローというタイガー・ジェット・シンの技があり、これは相手のノドボトケを掴むという無茶苦茶な技でありどう考えても反則である。カウント4でパッと離し、またノドボトケを掴むことを繰り返し猪木に徹底的なダメージを与えたこの技はシンでないと似合わない。藤原組長が昔やっていたがちょっと首を傾げたものだった。
ショルダー・クローは肩口を掴む技で、これは日系悪役レスラーの専売特許みたいなものだった。グレート東郷が始めたのだろうか。背後から肩口をグッと掴んで舌なめずりをするその姿はまさに残忍であり悪役そのもの。前述のカブキもよくやった。
クロー攻撃は現在では壊滅状況である。握力があるからと言って誰でも出来るものではない。小橋がやれば強力だろうがもちろん似合わない。中西が時々やるのだが、そんなクローなどやってないでもっとアタマを使った試合をやって欲しいものである。ショルダー・クローであれば、例えば矢野通は似合うかもしれない。
このクロー攻撃は、元祖アイアンクローのエリック親父とともに消滅してもよかったのかもしれない。ただ、この極め付けの陰惨な技を親父は息子達に伝授してしまった。次男のデビッドを正統鉄の爪の後継者とし、長男ケビンは鷹の爪、三男ケリーは虎の爪として華々しく売り出した。陽気なアメリカンプロレスの体現者であったエリック兄弟には陰惨な空気など全くなかったにもかかわらず、だ。
この後、エリック一家に呪いがかかる。この悲劇はご存知の人も多いと思う。
実は、長男ケビン、と書いたがそれは正確でなく、実はまたその上に兄が居た。ジャックjrである。だがまだ子供の頃に、庭で遊んでいてエリック親父の目の前で感電死してしまう。呪いの始まりだ。ショックをうけた親父だったがなんとか立ち直り、息子達をデビューさせるのだが、この息子たちにも悲劇が次々と起こる。後継者と目され最もセンスがあったとされるデビットが日本遠征中に突然死。死因は定かではない。このニュースはショックだった。しかし、これで終わらず次々と呪いはエリック一家に襲いかかるのだ。
ケリーは兄の死を乗り越えて、リック・フレアーを破りついにNWA王者となる。しかしデビットのかわりにデビューした弟マイクは、鬱病になり薬物障害で死亡。自殺とも言われる。人気絶頂のケリーもオートバイ事故で片足切断。義足でリングに上がるという壮絶な復活を見せたが、ドラックに溺れピストル自殺。親父は末っ子クリスもデビューさせたが重圧に負けたのか自殺。6人兄弟のうち5人を失い、絶望したエリック親父はプロモート権を売却し離婚、老いて息子達の後を追って死んだ。長兄(次男)のケビンしか今は生き残っていない。呪われた一家と呼ばずになんと言おうか。
これは、アイアン・クローという陰惨で残酷な技を使い続けて巨万の富を稼いだ報いだとも言われるし、エリック親父がユダヤ系移民であるにもかかわらずナチスの残党という触れ込みでのし上がっていったことに対するユダヤの呪いであるということも言われる。真相などわかるわけがない。
ただ、アイアン・クローという技に呪いの伝説が残った。この陰惨で残酷な匂いのする「鉄の爪」伝説の真実は闇の彼方へと消えていった。こんなに凄みのある技はもう生まれてくることはあるまい。
しかしこうして見ているとエリック一家はほとんどがもう死んでいる。ゴディもハル薗田ももうこの世にはいない。まるで追悼ビデオを見ているような気がする。
フリッツ・フォン・エリックの必殺技と言えば、言わずと知れたアイアン・クロー。「鉄の爪」である。人並みはずれたデカい手のヒラと握力を持ったエリック親父は、ただ相手の体の一部を掴んで絞めるというそれだけの単純な技で世界の頂点に登りつめた。
クロー技(手で掴み苦しめる技)は以前にもあったのかもしれない。しかし、その技を必殺技に昇華させたのはエリック親父であることは間違いない。ちょっと信憑性に欠ける資料ではあるのだが梶原一騎の「プロレススーパースター列伝」によると、フリッツ・フォン・エリックは23歳のときにジャック・アドキッセンとしてプロレスデビュー。「巨体だが木偶の棒」であったアドキッセンは売れなかったが、あるとき街でナイフを振り回すチンピラを制止しようと相手の手首を掴んだとき、相手の手首の骨が砕けてしまい、自分の握力の強さに気づいた。この握力を生かすべくその後改良を重ね、手首など危険な部位ではなく顔や腹部を掴んで握り締めるアイアン・クローという技を完成させたと言う。見るからに残酷で陰惨な匂いのするこの技によりアドキッセンは善玉から悪役へとなり、名前もナチスを意識してドイツ貴族風のフリッツ・フォン・エリックとし、全米を恐怖に陥れたのだ。
僕はエリック親父の全盛期をリアルタイムで見た世代ではもちろんないのだがその伝説は生き続けていて、何本も「懐かしプロレス」のビデオを借りて見た。若き日の馬場さんと対戦した試合はまさに恐怖そのもので、一度頭部に入ったアイアンクローがどうしても外れず馬場さんはのたうち回り、実況は「コメカミから…血が流れ出ています! !」と叫んだ。アタマを握り潰して流血までさせるというアイアンクローの恐怖は、ブラッシーの噛み付きと並んで最も怖ろしい技ではないだろうか。
しかし、この技は握力があれば誰でも出来る技である。だがプロレス的に見て絵になる技とするには、陰惨な匂いをプンプンさせた悪役が使用してこそだ。他に使い手として有名な選手にバロン・フォン・ラシク、キラー・カール・クラップらがいた。クラップは「ブロンズ・クロー(青銅の爪)」と称してかなり陰惨な雰囲気を醸し出していた。こういうレスラーでないと絵にならない。
例えば、アンドレ・ザ・ジャイアントがやれば本当に頭蓋骨が砕けてしまっただろう。しかしアンドレはやらなかった。当然である。この技は強力無比な握力を大前提とするが、最も重要なことは「似合う・似合わない」であろう。手の大きさと握力だけではどうにもならない部分があるのだ。失敗例として、エル・ヒガンテを思い出す。238cmとアンドレを超える巨人として売り出したヒガンテであったが、フィニッシュにクローを使ったためにその体の大きさを誇示することが出来ず、いつの間にか消えてしまった。
クロー技はその掴む部位によって分類できる。まずアタマを掴むブレーン・クローが代表格で、アイアンクローと言えばこれを連想する。エリック親父が大きな手を広げて頭部を掴みかからんとする姿、相手が両手でブロックしているところへジワジワと広げた手を近づけていくその迫力は、まさに千両役者のものである。
もうひとつ、腹部を掴むストマック・クローがある。実はこのストマック・クローの方がブレーン・クローよりも効く、と言われている。頭部を掴むのでないので相手の悶絶する表情がよく見えてエグい。アバラの下を掴むレバー・クローも同じ。
コブラ・クローというタイガー・ジェット・シンの技があり、これは相手のノドボトケを掴むという無茶苦茶な技でありどう考えても反則である。カウント4でパッと離し、またノドボトケを掴むことを繰り返し猪木に徹底的なダメージを与えたこの技はシンでないと似合わない。藤原組長が昔やっていたがちょっと首を傾げたものだった。
ショルダー・クローは肩口を掴む技で、これは日系悪役レスラーの専売特許みたいなものだった。グレート東郷が始めたのだろうか。背後から肩口をグッと掴んで舌なめずりをするその姿はまさに残忍であり悪役そのもの。前述のカブキもよくやった。
クロー攻撃は現在では壊滅状況である。握力があるからと言って誰でも出来るものではない。小橋がやれば強力だろうがもちろん似合わない。中西が時々やるのだが、そんなクローなどやってないでもっとアタマを使った試合をやって欲しいものである。ショルダー・クローであれば、例えば矢野通は似合うかもしれない。
このクロー攻撃は、元祖アイアンクローのエリック親父とともに消滅してもよかったのかもしれない。ただ、この極め付けの陰惨な技を親父は息子達に伝授してしまった。次男のデビッドを正統鉄の爪の後継者とし、長男ケビンは鷹の爪、三男ケリーは虎の爪として華々しく売り出した。陽気なアメリカンプロレスの体現者であったエリック兄弟には陰惨な空気など全くなかったにもかかわらず、だ。
この後、エリック一家に呪いがかかる。この悲劇はご存知の人も多いと思う。
実は、長男ケビン、と書いたがそれは正確でなく、実はまたその上に兄が居た。ジャックjrである。だがまだ子供の頃に、庭で遊んでいてエリック親父の目の前で感電死してしまう。呪いの始まりだ。ショックをうけた親父だったがなんとか立ち直り、息子達をデビューさせるのだが、この息子たちにも悲劇が次々と起こる。後継者と目され最もセンスがあったとされるデビットが日本遠征中に突然死。死因は定かではない。このニュースはショックだった。しかし、これで終わらず次々と呪いはエリック一家に襲いかかるのだ。
ケリーは兄の死を乗り越えて、リック・フレアーを破りついにNWA王者となる。しかしデビットのかわりにデビューした弟マイクは、鬱病になり薬物障害で死亡。自殺とも言われる。人気絶頂のケリーもオートバイ事故で片足切断。義足でリングに上がるという壮絶な復活を見せたが、ドラックに溺れピストル自殺。親父は末っ子クリスもデビューさせたが重圧に負けたのか自殺。6人兄弟のうち5人を失い、絶望したエリック親父はプロモート権を売却し離婚、老いて息子達の後を追って死んだ。長兄(次男)のケビンしか今は生き残っていない。呪われた一家と呼ばずになんと言おうか。
これは、アイアン・クローという陰惨で残酷な技を使い続けて巨万の富を稼いだ報いだとも言われるし、エリック親父がユダヤ系移民であるにもかかわらずナチスの残党という触れ込みでのし上がっていったことに対するユダヤの呪いであるということも言われる。真相などわかるわけがない。
ただ、アイアン・クローという技に呪いの伝説が残った。この陰惨で残酷な匂いのする「鉄の爪」伝説の真実は闇の彼方へと消えていった。こんなに凄みのある技はもう生まれてくることはあるまい。
もちろん小学生相手に本気を出すわけでは
ないのでしょうが…
アイアンクロー
ストマッククローという言葉ですぐ
お兄ちゃんに泣かされた
思い出が浮かんできました。
プロレスごっこは、後に中学生になって
男子にエルボードロップを食らわせて泣かせた
伝説へとつながるのでした(笑)
デビッドの死はブロディと同じくらいショックでした。
この話になると言葉がなくなる私です(T_T)
悲劇のエリック一家に比べフレアーは相変わらず頑張っていますね。
こうして元気でいればまだまだ雄姿を見れることもあったでしょうし、良い勝負を見せてくれただろうなぁ。
きっとアイアンクローの使い手はもう出てこないでしょうね‥
うっ、、暗くてごめんなさい
しかしながら、普通は見栄えのよいブレーン・クローをかけるものなのですが、お兄さんはストマック・クローとはなかなかの通と見ました。シブいですなぁ♪
アラレさんのエルボー伝説((爆))。エルボーは鋭角的に落とすとケガしますので気をつけましょう(笑)。
デビットの死因はいまだに不明です。内臓疾患とは何か? 原因はステロイドともコカインとも言われ自殺説も根強く囁かれています。
ブロディも広い意味ではエリック一家とも言えます(ハンセンがファンクス一家であるように)。テリー・ゴディもそうでしょう。いったいどうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
もう「鉄の爪」は封印されてもいいと本当に思っています。僕はプロレス技記事を書くときは、廃れた技であれば後継者を想定したりするのが常ですが、この技はもう伝説となってもいい。エリック一家の栄光と悲しみとともに。
見たのを憶えていますが、その恐怖は鮮明です。僕は「爪」が馬場の腹にくい込んでるのだと思っていました。やがて爪は内臓に達して、きっと馬場は死ぬんだろうと思っていました。良いのか悪いのか判りませんが、そんなことを子供に思わせるレスラーは、もういませんね。その後のエリック一家の悲劇は、実は知りませんでした。息子が出ていたのは知っていましたが、そんなことがあったんですか。そうですね、この技はもう終わりにしましょう。
フリッツ・フォン・エリックの時代は、悪役が輝いていた時代でもありました。子供に「爪が内臓に達して死ぬ」などと思わせるレスラーなどもう絶対に出てこないでしょう。つまり、「鉄の爪」は時代を終えたのですね。この技を使うに値するレスラーはもう出てこない。そういう意味でも「封印」が相応しいような気がします。
晩年は辛いエリック親父でしたが、不世出のレスラーであることに間違いはありません。世界一のヒールでした。
ユダヤ系の視点からみると
「ねじれた時代劇」と呼べるもの
だったのかも知れないでつ。。。。