舟下りといえばいつも思い出すことがあります。
天竜川の舟下りは、
上流の流れの険しい浅瀬の区間が昨日も紹介した「
天竜舟下り」、
天竜峡から先の渓谷を緩やかに下る区間は、「
天竜ライン下り」となっています。
実は私はこのライン下りしか乗ったことがありません。
でもそれは本当に忘れられない強烈な思い出となって心に残っています。
長男が小さな頃から大好きだった本、
「ないたあかおに」。
友人のあおおにが、人間たちと交流を持ち続けたいあかおにの邪魔にならないようにと、
どこかへ旅に出てしまったことを知ったあかおにが、
あおおにの家の前で、あおおにの自分に対する深い友情に感極まって
泣いてしまうラストシーンを読むと
いつもうちの長男は寝床の枕に突っ伏して泣いてしまったものでした。
読んでは泣き、読んでは泣き、
何度繰り返したか分かりません。
私には私の非常に印象深い場面がありました。
あかおにが尋ねて行ったあおおにの家は
「やま また やまのおくふかい、たにのところ」の
「たにのけわしいがけはた」にあるのですが、
そんな岩だらけの、鬼をも寄せつけなさそうな場所に建っていながら、
そのお家の戸口の側にはヤマユリの花が
「しろいおおきなはなをさかせてたって」いるのです。
その情景を思い浮かべると、
岩肌の黒ずんだ冷たい色と、ヤマユリの鮮やかな白が
強烈なコントラストとなって浮かび上がり、
見た目からは想像できない、あおおにの心の美しさを、
そのヤマユリが表現している気がして、深く心打たれるのです。
話は戻って一度だけ子どもたちと体験した天竜ライン下り。
天竜峡を出発すると左右にはそれこそ
「やま また やまのおくふかい、たに」が続きます。
あたりは「がけはた」だらけです。
「うわあ、ホントにこんな物語のような景色ってあるんだなあ。
まるで鬼たちが出て来そう。」
もうそれだけで感動している私の目にパッと飛び込んできたのは
なんと、
鮮やかに白い、気品ある大きな花。
ヤマユリです。
それも険しいがけはたの上の方やら下の方やらに、
幾輪も幾輪も咲いています。
まるであおおにの心に出逢えたような気がして興奮して、
「ほら、ほんとにヤマユリが咲いている!」
と長男に言った後は、もうしばらく声も出なかったのでした。
読み聞かせられるのもちょっと恥ずかしい年頃になってしまった長男ですが、
さあ、今読んだらどんな反応かな。
明日の晩でも
久々に読んであげることにしましょう。
ちいさな冒険家たちのアウトドアショップ【そとっこ】