夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

功名が辻・関ケ原

2005年06月23日 | 読書
NHK大河ドラマ 功名が辻 第一巻 [DVD]
司馬遼太郎,大石静
ジェネオン エンタテインメント
功名が辻 1 (文春文庫 し 1-17)
司馬 遼太郎
文藝春秋
写真は、千代の生地として有力視されている郡上八幡にある銅像。

大好きな上川隆也が主演する来年の大河ドラマ『功名が辻』を読んだ。

しかし、山内一豊は人がいいだけで、妻のアドバイス等と関が原前夜の家康へのゴマすり(本書では書いていないが、後述の『関が原』には、さらにそれが井伊直政のアイディアを盗んだものであることがわかり、ますますとほほ…)で出世したかなり情けない人物として描かれていてちょっとがっかり。
四国に国入りしてからの、長曾可部家の家来へのだまし討ち・虐殺なども、ちょっとひどい。お茶の間向けのドラマでどうごまかすのだろう。

豆知識:
例の馬は、買ってすぐに、小牧長久手(今万博やっている所)の戦いでなくした。
高知という地名は、築城した場所が沼地で「河内」といったのの漢字をかえた。
名古屋と四国に多い祖父江さん、実は一豊の家老の名。得心。
名古屋に多い乾ももう一人の家老。ちなみに板垣退助の最初の名は乾退助


『功名が辻』で関が原前夜の攻防が描かれ、興味を持ったので、同じく司馬遼太郎の『関が原』全三巻も読んだ。

30年近く前の、加藤剛、松坂慶子主演の長時間ドラマでは、主人公石田三成は聖人君子のように描かれていたが、原作では、もっと人間くさい。

というよりも、私自身に似ていると思われるキャラクターで、とても他人事と思えなかった。

「人は利のみで動き、利がより多い場合は、豊臣家の恩義を古わらじのように捨てた。小早川秀秋などはその最たるものであろう。権力社会には、所詮義はない」

「孟子は列強のあいだを周遊し、孟子もまた騒乱世に生き、権力社会にはそういう観念や情緒が皆無であることを知り、みずから空論であると気づきつつもないものねだりをして歩いたのであろう」

「三成という男がこれほど明敏な頭脳をもちならが、人間に対する認識が、欠落したようにくらい」

「彼は潔癖で、激しく不正を憎んだがそれは狭さに通じた。そして、人情に逆らうところがあったため、横柄者というそしりを受けた。」

能力もあり、私心もなく、公正・清廉潔白に仕事をやっているのに、なぜか敵を作る。
関が原の家康の勝利は、豊臣恩顧の大名、加藤清正らを味方にできたことに多くを負っているが、朝鮮戦役での三成の報告(彼らに言わせれば告げ口)により、秀吉に蟄居を命じられたことを逆恨みし、ただひたすら三成憎しの思いから、豊臣家への忠義すら二の次になったのだ。三成にすれば、一切の私心なくやるべき職務を果たしただけなのだろうが、無駄に敵を作ってしまい、それが致命傷になったのだ。

その報告とは、清正が和睦交渉を邪魔しているという報告なのだが、清正が明の使者に対して、豊臣姓を下賜されていないにも関わらず、豊臣清正と署名したという動かぬ事実があり、明らかに三成に正義はある。
「○○されていないにもかかわらず、××と署名した」とか、「蟄居を命じられた」とかいうのが、また…。

新旧執行部への私への憎しみも、これに類したものなのだろう。
人間の社会というのは、正しいか正しくないかとは違う論理が支配しているということが、自分の身に引き寄せてもよく頭では理解できる。
しかし、それがどうしても心で納得できないから、私の苦悩は果てしないのだ。

処刑直前に「水がほしい」と所望し、「柿ならあるが」といわれたら、「柿は丹毒によくない」といって笑われたというのも、私でもこういうことをいいそうだ。

関ヶ原〈上〉 (新潮文庫)
司馬 遼太郎
新潮社



司馬遼太郎は、歴史上の人物の造型が非常にうまく、それを現代の自分の状況にも当てはめることができるところが、サラリーマンに受けるのであろう。

『項羽と劉邦』を読むと、自らが有能なplayerであるよりも、自らは無能でも、有能な部下が回りに集まるようにした方が成功する、という組織における真理を何より雄弁に物語っている。これって、義経と頼朝の関係にも似ている。
『国盗り物語』は、信長と光秀というタイプの全く違う天才がたまたま主従の関係になったことによる悲劇を描いている。
『花神』の大村益次郎像は、有能な実務家というのがすなわち有能なマネージャーではないという真実を語る。
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