生田武志さんのメールの転載です。
大阪の生田武志です。
5月24日、2014年度から学童保育事業に統合される大阪市の「子どもの家」事業事業を継続するように求める要望書を、「こどもの里」「山王こどもセンター」など3施設と大阪弁護士会有志(小久保、森本、椚座)で橋下徹市長に提出し、記者会見を行ないました。
「子どもの家事業」問題については、提出した要望書(添付)を見てください。
橋下市長は、「学童保育」と事業内容がある程度重なる「子どもの家事業」は利用料ゼロなので「不公平がある」と言い、「子どもの家事業」を「学童保育」に一本化するとしました。
しかし、「子どもの家事業」に来る子どもたちには生活保護の家庭など貧困層が多く、「月2万円」の負担を求めることはそもそも不可能です。また、「小学生以下の幼児」「中学生以上」「障がい児(他校区の子が多い)」は来ることが制度的に不可能になります。記者会見では、「こどもの里」の荘保共子さんが「こどもの居場所を奪うことはできない。里には聴覚障がいを持つの子も来ているが、その結果、ほとんどのこどもたちが簡単な手話をできるようになった。さまざまなこどもたちが来る「子どもの家事業」の意義は社会全体にとっても大きい」(大意)、「山王こどもセンター」の前島麻美さんは「学校に行っていないこどもたちや、家庭や地域に居場所のない中高生、そして大人になったらOBOGたちが集まる場になった。「子どもの家事業」は大阪市が自慢できる事業だ。橋下さんの方針は、こどもに関わる者として許すことができない」(大意)と訴えました。
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大阪市長 橋 下 徹 殿
2013年5月24日
現在大阪市内で実施されている「児童いきいき放課後事業(子どもの家事業)」(以下、「子どもの家」という。)は、すべての子どもを対象とした福祉施策として始まり、地域の子どものセーフティネットとして発展してきた事業である。
したがって、子どもの家を留守家庭児童対策事業(以下、「学童」という)に統合することは、地域の子どものセーフティネットを奪うことを意味し、すべての子どもの生存・成長・発達する権利を保障した子どもの権利条約の趣旨に悖り、大阪市の子育ち、子育て支援施策を退行させるものである。
よって、私たちは、子どもの家を学童へ統合することについて、撤回を求める。
また、大阪市は、市政改革プランにおいて「保護者負担が困難な方へのサポートなどを別途検討する」との方針を打ち出しているが、少なくとも、現在子どもの家を利用している貧困その他の困難を抱える子どもたちから、かけがえのない居場所を奪うことにならないよう、大阪市の放課後児童施策において、子どもの家事業と同等の福祉的役割や地域再生的役割を果たすことを可能とする具体的な施策を講じるべきである。
1 大阪市の放課後事業の現状
大阪市では、現在、放課後児童施策として、子どもの家、学童のほか、児童いきいき放課後事業(以下、「いきいき」という。)の3つを実施している。
いずれも、子どもに放課後の居場所を提供する事業である点は共通するが、その実施態様は、下表のとおり、主に、①実施場所、②対象児童、③利用料金、④指導者の配置要件、⑤実施時間において相違する。
2 子どもの家の創設、発展、役割(28か所、登録人数1898人〔平成24年度〕)
(1)子どもの家の創設
子どもの家は、平成元年、大阪市が、留守家庭児童だけでなく、0歳から18歳までのすべての子どもを対象に、地域における子どもの遊び場、活動の拠点とすることを目的に創設された事業である(児童いきいき放課後(大阪市子どもの家事業)事業補助金交付要綱第3条「…地域において、健全育成のため児童等に健全な遊びを与え、健康を増進し、情操を豊かにするため…」)。
(2)子どもの家の発展
ア このように、子どもの家は、「0歳から18歳までの子ども」を対象に、緩やかな時間設定で、地域における子どもの遊び場、拠点とするために、「無料で」運用されてきた。
その結果、特に、貧困家庭、親もしくは子どもに障がいがある家庭、ネグレクトなど児童虐待に至る可能性のある家庭等、あらゆる「しんどい家庭」で育つ要支援、要保護児童や、学校になじめない子どもたちにとっては、その地域におけるかけがえのない居場所となった。
イ 同時に、子どもが頻繁に自由に出入りすることに伴い、立ち話から正式な面談まで、形式を問わず、保護者との関わりや交流が生まれ、要支援、要保護のいかんに限らず、広く家庭に対し、子育てを支援する機能を果たすこととなった。
特に、在日コリアンの多い生野区、貧困やネグレクトなどのしんどい家庭が多い西成区などにおいては、地域の実情に応じ「しんどい家庭」をまるごと支援する事業として発展してきた。
ウ さらに、都市化や少子化などにより、地域コミュニティの崩壊が進む地域においては、学校外で安全に遊べるかけがえのない居場所として機能し、放課後や土日などに、異年齢の子どもや指導員と、家庭的な信頼関係を築き、遊んだり、学習したり、充実したおやつや食事を共にするなど、安心してゆったり過ごせる生活の場として発展してきた。
(3)子どもの家の現状と役割
ア このように子どもの家が発展したのは、一つに、子どもの家に長年従事するスタッフの資質・能力によるところも大きい。これは、子どもの家においては、学童と異なり、1名分の人件費が確保され、専任指導員が必置とされているからである(④)。
また、子どもの家以外の支援制度も併設することにより、①学校外において、②地域に住む0歳から18歳までのすべての子どもを対象に、③無料で実施するからであり、ひいては、子どもとその家族まるごとの支援を可能にしたからである。
すなわち、①学校外において実施するので、いじめ、不登校等、学校になじめない子どもの居場所ともなり、②その対象を、広く「0歳から18歳までのすべての子ども」とすることによって、親の就業いかんにかかわらず、就学児のみならず、兄弟姉妹をも含めた家族まるごとを支援でき、③さらに、貧困に限定せず、親の障害、一人親、養育困難、虐待などを含め、子どもの家庭事情を問わずに支援することが可能となったのは、利用料金が無料であったからこそである。
イ その結果、すでに「しんどい家庭」の子どもだけではなく、「しんどい家庭」と一般家庭の境界線上の家庭、あるいは、その双方を行ったり来たりしている家庭など「しんどい家庭」の予備軍ともいえる家庭の子どもたちへの支援も可能となった。
つまり、「しんどい家庭」を定義し特定することなく、さまざまな段階にある家庭の子どもをありのまま受け入れて、各段階に応じて支援していることから、その成果も大きいのである。
ウ 以上のとおり、子どもの家事業が、利用料金が無料であることや、予算措置を講じて1名以上の指導員を必置としていることなどから、要保護ないし要支援の子どもが集まりやすく、子どものセーフティネットとして重要な役割を果たしている。
エ また、社会福祉協議会等の団体と協力して運営委員会を設置することが義務付けられていることから、地域からの信用を得やすいだけでなく、実際にも社会性ある活動がなされており、地域教育力を向上させ地域福祉を活性化させる役割を果たしてきた。
3 いきいきの特徴と役割(298か所、登録人数62680人〔平成24年度〕)
(1)学校内ですべての小学生を対象に、18時まで無料で居場所を提供するものである。
(2)いきいきは、学校施設を利用するという関係から、放課後等における生活の場としての役割は期待できないうえ、大規模な集団活動とならざるを得ず、学校教育の延長ないし補完になりやすく、学校生活になじめない子どもや集団の苦手な子どもが利用しづらい。
(3)運用次第では、児童の多様化、個性化を認めず、学校教育あるいは授業の合間の休憩時間の延長ないし補完にとどまらないか懸念される。
4 学童の特徴と役割(106か所、登録人数2021人〔平成24年度〕)
(1)学童は、創設当初は、戦災孤児つまり親がいないか一人親家庭の子ども(保育に欠ける要保護児童)に対する福祉施策であった。現在は、共働き世帯が過半数を超え、専業主婦世帯がマイノリティとなったうえ、月額2万円という高額な利用料金が負担できる家庭のみへの施策となっており、貧困家庭(貧困率の高い一人親家庭含む)など福祉の対象となる子どもの多くは利用できない状況にある。
(2)対象児童が「おおむね10歳未満」(低学年)から拡大し、塾を行き来する高学年もおり、また、親の就労条件が多様化し、原則19時までの時間設定が厳しいものとなってきている。
(3)学童の想定する家庭は、公務員もしくは正規雇用での共働きで、かつ、子どもが1人ないし2人でないかと思われ、「しんどい家庭」のイメージと異なっている。
(4)対象児童の拡大と多様化から、ますます時間設定の弾力化が求められ、ひいては指導員の増員と資質向上が要請されており、指導員の賃金を含めた労働条件の全般的な向上こそが喫緊の課題となってきている。
5 大阪市市政改革プランとして放課後事業・再編整備の方向性
(1)国が、国庫補助事業として、「放課後子ども教室推進事業」(文部科学省)と「放課後児童健全育成事業」(厚生労働省)を一体化し、連携して実施することをすすめていることを受け、平成24年8月、大阪市は、放課後児童施策について、平成26年度以降、いきいきを、留守家庭児童のニーズに対応できるよう事業内容を充実させることとし、なお残る留守家庭児童のニーズに対しては、子どもの家を学童に統合して一本化し、学童をいきいきの補完的役割として位置づけることを発表した。
(2)また、子どもの家を学童に統合することについては、両者は、事業内容について類似している点があるにもかかわらず、利用料金などの保護者負担に違いがあるため、市民の負担の公平性を確保する観点から、補助金制度のあり方を整理することとし、今後、子どもの家を学童に一本化したうえで補助を継続するとした。
(3)さらに、学童の高額な利用料金負担については、負担が困難な場合のサポートなど新たな枠組みを検討したい、「子どもの家」をなくすことが目的ではないと説明した(平成24年8月23日公表「「市政改革プラン(素案)」に対するご意見の概要とご意見に対する本市の考え方」)。
6 大阪市の放課後事業・再編整備の方向の不合理性
(1)上記記載の大阪市が示す方向は、それぞれの事業の実態、担ってきた役割、及び子どもや保護者のニーズを正確に把握したものかどうか甚だ疑問がある。今後の子どもに対する福祉施策と教育施策について十分に整理せず、十分な実態把握をしないまま、単純に実施内容に重なりがある部分のみを捉えて、二重行政と即断し、安易にかつ拙速に事業の統合・一本化を試みるものである。
(2)これでは、重なり合いのない部分、つまり、小学生以外の、就学前あるいは中高生の児童の居場所をどうするのか、また、留守家庭児童でないが貧困や家庭機能不全等により、保護や支援や見守りが必要な児童の居場所をどうするのかなど、いきいきや学童では対応できない子どもたちの居場所、子どもの家事業が担ってきた重要な機能が、他のどの事業にも的確に引き継がれることなく、一気に失われてしまうこととなることは明らかである。
(3)子どもの数が減少の一途をたどるにもかかわらず、虐待件数は約3倍に増えている実情において、家庭機能の低下著しいのであり、放課後対策と福祉施策の充実は喫緊の課題である。
しかし、大阪市の打ち出した放課後施策の統合・一本化は、これまでの貧困その他の福祉施策を退行させるに等しい。
大阪市は3事業の展望を、もっと具体的に提示すべきである。
(4)この点、大阪市は、子どもの家を学童に統合するにあたり、上述のとおり、利用料金の負担が困難な場合のサポートについては新たな枠組みを検討すると説明する。しかし、その内容すら詳らかでない。
(5)また、現在の子どもの家を学童に移行すれば、補助金要綱の相違から、たとえば、大阪市西成区所在の子どもの家「子どもの里」では、下表のとおり、交付される補助金額は現在の約6割が削減され、半分以下の額に引き下げられる。
支援を必要とする多くの子どもたちへの支援が、事実上困難となることは、明らかである。
7 結語
昨今のめまぐるしい社会情勢の変化により、家庭の機能及び地域の子どもの支援機能は低下しており、意図的に子どもの成長・発達を支援する体制を整備しなければならない状況にある。また、各家庭は、いつ何時「しんどい家庭」に陥るとも限らない状況にある。
このような状況下にあって、子どもの家がセーフティネットとして担う役割は大きく、すでに欠かすことができない事業として20年以上の実績を積み重ねてきた。
したがって、子どもの家を学童に統合することは、「しんどい家庭」の支援を置き去りにするに等しい。
逆にスタッフを充実・増員し、また、各中学校区に1ヶ所ずつ設置して、重要な機能や役割をより果たせるように、事業を推進していくことこそ望まれているといえよう。
よって、私たちは、子どもの家を学童へ統合する方針を撤回するよう求める次第である。
また、大阪市が市政改革プランにおいて「保護者負担が困難な方へのサポートなどを別途検討する」との方針を打ち出している以上、少なくとも、大阪市の放課後事業施策において、子どもの家事業と同等の福祉的役割や地域再生的役割を果たすことを可能とする具体的な施策を講じるべきである。
以上
*「要望書」の表がブログではうまく表示できず、割愛させていただいています。全文はこちらにあります。
http://www1.odn.ne.jp/~cex38710/thesedays20.htm
大阪の生田武志です。
5月24日、2014年度から学童保育事業に統合される大阪市の「子どもの家」事業事業を継続するように求める要望書を、「こどもの里」「山王こどもセンター」など3施設と大阪弁護士会有志(小久保、森本、椚座)で橋下徹市長に提出し、記者会見を行ないました。
「子どもの家事業」問題については、提出した要望書(添付)を見てください。
橋下市長は、「学童保育」と事業内容がある程度重なる「子どもの家事業」は利用料ゼロなので「不公平がある」と言い、「子どもの家事業」を「学童保育」に一本化するとしました。
しかし、「子どもの家事業」に来る子どもたちには生活保護の家庭など貧困層が多く、「月2万円」の負担を求めることはそもそも不可能です。また、「小学生以下の幼児」「中学生以上」「障がい児(他校区の子が多い)」は来ることが制度的に不可能になります。記者会見では、「こどもの里」の荘保共子さんが「こどもの居場所を奪うことはできない。里には聴覚障がいを持つの子も来ているが、その結果、ほとんどのこどもたちが簡単な手話をできるようになった。さまざまなこどもたちが来る「子どもの家事業」の意義は社会全体にとっても大きい」(大意)、「山王こどもセンター」の前島麻美さんは「学校に行っていないこどもたちや、家庭や地域に居場所のない中高生、そして大人になったらOBOGたちが集まる場になった。「子どもの家事業」は大阪市が自慢できる事業だ。橋下さんの方針は、こどもに関わる者として許すことができない」(大意)と訴えました。
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要望書
大阪市長 橋 下 徹 殿
2013年5月24日
こどもの里、山王こどもセンター、四貫島友隣館子どもの家
野宿者ネットワーク 生田 武志
大阪弁護士会有志代表 弁護士 森本志磨子、椚座三千子
野宿者ネットワーク 生田 武志
大阪弁護士会有志代表 弁護士 森本志磨子、椚座三千子
要望の趣旨
現在大阪市内で実施されている「児童いきいき放課後事業(子どもの家事業)」(以下、「子どもの家」という。)は、すべての子どもを対象とした福祉施策として始まり、地域の子どものセーフティネットとして発展してきた事業である。
したがって、子どもの家を留守家庭児童対策事業(以下、「学童」という)に統合することは、地域の子どものセーフティネットを奪うことを意味し、すべての子どもの生存・成長・発達する権利を保障した子どもの権利条約の趣旨に悖り、大阪市の子育ち、子育て支援施策を退行させるものである。
よって、私たちは、子どもの家を学童へ統合することについて、撤回を求める。
また、大阪市は、市政改革プランにおいて「保護者負担が困難な方へのサポートなどを別途検討する」との方針を打ち出しているが、少なくとも、現在子どもの家を利用している貧困その他の困難を抱える子どもたちから、かけがえのない居場所を奪うことにならないよう、大阪市の放課後児童施策において、子どもの家事業と同等の福祉的役割や地域再生的役割を果たすことを可能とする具体的な施策を講じるべきである。
要望の理由
1 大阪市の放課後事業の現状
大阪市では、現在、放課後児童施策として、子どもの家、学童のほか、児童いきいき放課後事業(以下、「いきいき」という。)の3つを実施している。
いずれも、子どもに放課後の居場所を提供する事業である点は共通するが、その実施態様は、下表のとおり、主に、①実施場所、②対象児童、③利用料金、④指導者の配置要件、⑤実施時間において相違する。
2 子どもの家の創設、発展、役割(28か所、登録人数1898人〔平成24年度〕)
(1)子どもの家の創設
子どもの家は、平成元年、大阪市が、留守家庭児童だけでなく、0歳から18歳までのすべての子どもを対象に、地域における子どもの遊び場、活動の拠点とすることを目的に創設された事業である(児童いきいき放課後(大阪市子どもの家事業)事業補助金交付要綱第3条「…地域において、健全育成のため児童等に健全な遊びを与え、健康を増進し、情操を豊かにするため…」)。
(2)子どもの家の発展
ア このように、子どもの家は、「0歳から18歳までの子ども」を対象に、緩やかな時間設定で、地域における子どもの遊び場、拠点とするために、「無料で」運用されてきた。
その結果、特に、貧困家庭、親もしくは子どもに障がいがある家庭、ネグレクトなど児童虐待に至る可能性のある家庭等、あらゆる「しんどい家庭」で育つ要支援、要保護児童や、学校になじめない子どもたちにとっては、その地域におけるかけがえのない居場所となった。
イ 同時に、子どもが頻繁に自由に出入りすることに伴い、立ち話から正式な面談まで、形式を問わず、保護者との関わりや交流が生まれ、要支援、要保護のいかんに限らず、広く家庭に対し、子育てを支援する機能を果たすこととなった。
特に、在日コリアンの多い生野区、貧困やネグレクトなどのしんどい家庭が多い西成区などにおいては、地域の実情に応じ「しんどい家庭」をまるごと支援する事業として発展してきた。
ウ さらに、都市化や少子化などにより、地域コミュニティの崩壊が進む地域においては、学校外で安全に遊べるかけがえのない居場所として機能し、放課後や土日などに、異年齢の子どもや指導員と、家庭的な信頼関係を築き、遊んだり、学習したり、充実したおやつや食事を共にするなど、安心してゆったり過ごせる生活の場として発展してきた。
(3)子どもの家の現状と役割
ア このように子どもの家が発展したのは、一つに、子どもの家に長年従事するスタッフの資質・能力によるところも大きい。これは、子どもの家においては、学童と異なり、1名分の人件費が確保され、専任指導員が必置とされているからである(④)。
また、子どもの家以外の支援制度も併設することにより、①学校外において、②地域に住む0歳から18歳までのすべての子どもを対象に、③無料で実施するからであり、ひいては、子どもとその家族まるごとの支援を可能にしたからである。
すなわち、①学校外において実施するので、いじめ、不登校等、学校になじめない子どもの居場所ともなり、②その対象を、広く「0歳から18歳までのすべての子ども」とすることによって、親の就業いかんにかかわらず、就学児のみならず、兄弟姉妹をも含めた家族まるごとを支援でき、③さらに、貧困に限定せず、親の障害、一人親、養育困難、虐待などを含め、子どもの家庭事情を問わずに支援することが可能となったのは、利用料金が無料であったからこそである。
イ その結果、すでに「しんどい家庭」の子どもだけではなく、「しんどい家庭」と一般家庭の境界線上の家庭、あるいは、その双方を行ったり来たりしている家庭など「しんどい家庭」の予備軍ともいえる家庭の子どもたちへの支援も可能となった。
つまり、「しんどい家庭」を定義し特定することなく、さまざまな段階にある家庭の子どもをありのまま受け入れて、各段階に応じて支援していることから、その成果も大きいのである。
ウ 以上のとおり、子どもの家事業が、利用料金が無料であることや、予算措置を講じて1名以上の指導員を必置としていることなどから、要保護ないし要支援の子どもが集まりやすく、子どものセーフティネットとして重要な役割を果たしている。
エ また、社会福祉協議会等の団体と協力して運営委員会を設置することが義務付けられていることから、地域からの信用を得やすいだけでなく、実際にも社会性ある活動がなされており、地域教育力を向上させ地域福祉を活性化させる役割を果たしてきた。
3 いきいきの特徴と役割(298か所、登録人数62680人〔平成24年度〕)
(1)学校内ですべての小学生を対象に、18時まで無料で居場所を提供するものである。
(2)いきいきは、学校施設を利用するという関係から、放課後等における生活の場としての役割は期待できないうえ、大規模な集団活動とならざるを得ず、学校教育の延長ないし補完になりやすく、学校生活になじめない子どもや集団の苦手な子どもが利用しづらい。
(3)運用次第では、児童の多様化、個性化を認めず、学校教育あるいは授業の合間の休憩時間の延長ないし補完にとどまらないか懸念される。
4 学童の特徴と役割(106か所、登録人数2021人〔平成24年度〕)
(1)学童は、創設当初は、戦災孤児つまり親がいないか一人親家庭の子ども(保育に欠ける要保護児童)に対する福祉施策であった。現在は、共働き世帯が過半数を超え、専業主婦世帯がマイノリティとなったうえ、月額2万円という高額な利用料金が負担できる家庭のみへの施策となっており、貧困家庭(貧困率の高い一人親家庭含む)など福祉の対象となる子どもの多くは利用できない状況にある。
(2)対象児童が「おおむね10歳未満」(低学年)から拡大し、塾を行き来する高学年もおり、また、親の就労条件が多様化し、原則19時までの時間設定が厳しいものとなってきている。
(3)学童の想定する家庭は、公務員もしくは正規雇用での共働きで、かつ、子どもが1人ないし2人でないかと思われ、「しんどい家庭」のイメージと異なっている。
(4)対象児童の拡大と多様化から、ますます時間設定の弾力化が求められ、ひいては指導員の増員と資質向上が要請されており、指導員の賃金を含めた労働条件の全般的な向上こそが喫緊の課題となってきている。
5 大阪市市政改革プランとして放課後事業・再編整備の方向性
(1)国が、国庫補助事業として、「放課後子ども教室推進事業」(文部科学省)と「放課後児童健全育成事業」(厚生労働省)を一体化し、連携して実施することをすすめていることを受け、平成24年8月、大阪市は、放課後児童施策について、平成26年度以降、いきいきを、留守家庭児童のニーズに対応できるよう事業内容を充実させることとし、なお残る留守家庭児童のニーズに対しては、子どもの家を学童に統合して一本化し、学童をいきいきの補完的役割として位置づけることを発表した。
(2)また、子どもの家を学童に統合することについては、両者は、事業内容について類似している点があるにもかかわらず、利用料金などの保護者負担に違いがあるため、市民の負担の公平性を確保する観点から、補助金制度のあり方を整理することとし、今後、子どもの家を学童に一本化したうえで補助を継続するとした。
(3)さらに、学童の高額な利用料金負担については、負担が困難な場合のサポートなど新たな枠組みを検討したい、「子どもの家」をなくすことが目的ではないと説明した(平成24年8月23日公表「「市政改革プラン(素案)」に対するご意見の概要とご意見に対する本市の考え方」)。
6 大阪市の放課後事業・再編整備の方向の不合理性
(1)上記記載の大阪市が示す方向は、それぞれの事業の実態、担ってきた役割、及び子どもや保護者のニーズを正確に把握したものかどうか甚だ疑問がある。今後の子どもに対する福祉施策と教育施策について十分に整理せず、十分な実態把握をしないまま、単純に実施内容に重なりがある部分のみを捉えて、二重行政と即断し、安易にかつ拙速に事業の統合・一本化を試みるものである。
(2)これでは、重なり合いのない部分、つまり、小学生以外の、就学前あるいは中高生の児童の居場所をどうするのか、また、留守家庭児童でないが貧困や家庭機能不全等により、保護や支援や見守りが必要な児童の居場所をどうするのかなど、いきいきや学童では対応できない子どもたちの居場所、子どもの家事業が担ってきた重要な機能が、他のどの事業にも的確に引き継がれることなく、一気に失われてしまうこととなることは明らかである。
(3)子どもの数が減少の一途をたどるにもかかわらず、虐待件数は約3倍に増えている実情において、家庭機能の低下著しいのであり、放課後対策と福祉施策の充実は喫緊の課題である。
しかし、大阪市の打ち出した放課後施策の統合・一本化は、これまでの貧困その他の福祉施策を退行させるに等しい。
大阪市は3事業の展望を、もっと具体的に提示すべきである。
(4)この点、大阪市は、子どもの家を学童に統合するにあたり、上述のとおり、利用料金の負担が困難な場合のサポートについては新たな枠組みを検討すると説明する。しかし、その内容すら詳らかでない。
(5)また、現在の子どもの家を学童に移行すれば、補助金要綱の相違から、たとえば、大阪市西成区所在の子どもの家「子どもの里」では、下表のとおり、交付される補助金額は現在の約6割が削減され、半分以下の額に引き下げられる。
支援を必要とする多くの子どもたちへの支援が、事実上困難となることは、明らかである。
7 結語
昨今のめまぐるしい社会情勢の変化により、家庭の機能及び地域の子どもの支援機能は低下しており、意図的に子どもの成長・発達を支援する体制を整備しなければならない状況にある。また、各家庭は、いつ何時「しんどい家庭」に陥るとも限らない状況にある。
このような状況下にあって、子どもの家がセーフティネットとして担う役割は大きく、すでに欠かすことができない事業として20年以上の実績を積み重ねてきた。
したがって、子どもの家を学童に統合することは、「しんどい家庭」の支援を置き去りにするに等しい。
逆にスタッフを充実・増員し、また、各中学校区に1ヶ所ずつ設置して、重要な機能や役割をより果たせるように、事業を推進していくことこそ望まれているといえよう。
よって、私たちは、子どもの家を学童へ統合する方針を撤回するよう求める次第である。
また、大阪市が市政改革プランにおいて「保護者負担が困難な方へのサポートなどを別途検討する」との方針を打ち出している以上、少なくとも、大阪市の放課後事業施策において、子どもの家事業と同等の福祉的役割や地域再生的役割を果たすことを可能とする具体的な施策を講じるべきである。
以上
*「要望書」の表がブログではうまく表示できず、割愛させていただいています。全文はこちらにあります。
http://www1.odn.ne.jp/~cex38710/thesedays20.htm
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