goo blog サービス終了のお知らせ 

ベランダ蘭

灼熱と強風のベランダで健気に育つランの観察

2018/08/13 (月): Phalaenopsis pulcherrima

2018-08-13 | ファレノプシス
前々日8/11のベランダの日中最高35℃、夜間最低27℃
前日8/12のベランダの日中最高31℃、夜間最低28℃
今日は晴れたり曇ったり。午後にまとまった雷雨があって水やり不要だった。



コチョウラン属の Phalaenopsis pulcherrima です(以前はドリティス Doritis 属)。
2018年1月に新垣洋らん園から購入。

正確な由来は、Phal. pulcherrima var. chompanensis 'Rainbow' (4N) のメリクロンから出た変異とのこと。
元品種はセミアルバのトリラベロで(新垣洋らん園ブログの写真)、Rainbowという個体名らしい、色鮮やかな花です。



メリクロン変異によって、元品種の鮮やかな色使いは影をひそめ、桜色よりも淡い(ソメイヨシノ色?)ほんのりとした色が爽やかです。
側花弁(ペタル)の周縁のギザつきもなくなって、花型が良くなっているのもすばらしい。
しかし側花弁の周縁部にうっすらとシワが寄っていることから、トリラベロの性質は残っているようです。



つぼみは白緑色で、開花直前になって、ようやく薄く色づく程度。



軸や花茎や根先もきれいな緑色で、全体的にアントシアニンの合成が抑えられていることが推測されます。



アントシアニン(および他のフラボノイド化合物?)の欠損によるためか、強い日射に弱いらしく、
購入直後の冬季に、なんと室内のガラス窓ごしの光で日焼けしてしまって焦りました。
しかし日焼けをものともせずに成長再開できるほど、性質は強健なようです。



なぜか天葉に、古典園芸の用語でいうコンペ芸っぽい異質な細胞の領域があります。
メリクロン変異によって、花色以外の変化も内包しているのでしょうか?

============

おまけ:
早起きして東京の上野公園(不忍池)にハスを見に行ってきました。




2018/08/10 (金): Phalaenopsis Valentinii

2018-08-10 | ファレノプシス
前日8/9のベランダの日中最高温度は不明(35℃くらい?)、夜間最低28℃
前日の昼間よりも翌日の朝の方が気温が高いと、最高温度が更新されてしまって前日の値が分からなくなる。
朝晩こまめにチェックできるなら良いんだけど。

今日は再び照りつける日射と猛暑。しかし風が吹いているので体感温度は多少まし。



Phal. Valentinii f. alba が良い感じに咲き進んでいる。



3輪を咲いた順に並べてみると、徐々に黄緑色が抜けていることが分かる。
(①が一番最初に咲いたもの)



花茎を真下から見ると面白い形態。
片親の cornu-cervi(cornu: 角, cervi: 鹿)の性質をよく受け継いで、確かに鹿の角のようだ。

一方で、Phal. Arakaki World Dream 'Okinawa' は葉が黄ばんできて心配。



まだ今年初めに購入したばかりで、大きな葉は全てナーセリーでの温室育ち(文字通り)で出たものなので、
ベランダ環境に馴化した葉に置き換わるまで、持ちこたえてくれると良いけど。

====================================

仕事の都合で、秋に引っ越すことになりそうです。
良いベランダのある部屋を探さなければ。

2018/08/04 (土): Phalaenopsis wilsonii の葉 など

2018-08-04 | ファレノプシス
前日8/3のベランダの日中最高38.5℃、夜間最低28.5℃
今日は晴れているが、風が吹いているので体感温度は少しマシに感じられる。

カシノキラン Gastrochilus japonicus の素心が咲き進んできた。



唇弁の紅色(アントシアニン)の細かい斑点が抜けているが、橙黄色(カロテノイド)の大きな模様は残っている。
albaというよりは、flavaと呼ぶべきタイプか。

ネジバナ Spiranthes sinensis var. amoena が開花。
通常は初夏に咲くものなので、狂い咲きと言えるかもしれない。



このネジバナは、シュンラン(大雪嶺)の鉢に自然実生で出てきたもの。
昨年に初開花した時は9月下旬で、すわ秋咲きかと思われたのだが、今年は真夏なので秋咲きとは言えないかあ。
本来の初夏咲きに向けて、徐々に戻っている途中ということだろうか?

Vandachostylis Pinky 'New Star' の、高温期限定の曙虎斑芸が、一段と冴えてきた。



私は富貴蘭の金牡丹は育てていないけれども、こういう芸をさらに突き詰めた美しさなのだとしたら、
なるほど金牡丹に夢中になるファンが多いのも分かる気がする。

一方で残念なのが、クスクスラン Bulbophyllum affine の一番大きなリードバルブが腐りかけているのを発見。
ミズゴケの表面に沿って鉢の縁に潜りこむように伸びていて、そういう性質なのだからと自然に任せていたのだが、
ウォータースペースのため過湿になってしまったようだ。



写真では引き起こしている(鉢底に軽石を入れて底上げ)が、もう手遅れっぽいかなあ。新芽は出ない予感がする。
他にも枝分かれで生じた小さいリードバルブが2つあってそっちは健在。

落葉性のコチョウランである Phalaenopsis wilsonii の世話と観察。



2018年5月にアルファオーキッドから素焼き鉢植えの実生小苗を購入。
VRT Japanの情報を参考にヘゴ付けにしたのだが、当初は木綿のタコ糸を使っていた。
これが予想以上に早いペースで劣化して何度も切れるので、ようやく釣り糸(5.0号の道糸)を購入して縛りなおした。
木綿糸ってこんなに分解されやすいんだな。微生物の働きを甘く見ていました。

ちなみに、ヒョロヒョロと糸のようにたくさん生えているのは、イグサ属 の何か (Juncus sp.)。
乾燥ミズゴケを水で戻すと混在している種子が色々と発芽してきます。



購入してから3ヶ月弱の間に、新しい根が5本ほど出て、今のところは元気。
チベット地方など冷涼な気候の原産なので、暑さに弱いのではと心配していたけれども、意外に大丈夫そう。実生だからか?

一方で葉の形態がちょっと変。



通常の他のコチョウランも葉鞘(ようしょう:葉の離層の線よりも基部側、茎を包む部分)は筒型だが、
この wilsonii は、葉身(ようしん:離層の線よりも先端側、いわゆる通常の葉の部分)も部分的に融合して
ラッパ状になった葉がいくつか形成されている(図中の桃矢印)。全てがそうではないけれども。
その結果、次の葉が正しく出ることができず、葉鞘を裂くように突き破って出るしかなくなる(図中の青矢印)。

これは落葉性の wilsonii にとって葉が重要でないため淘汰圧が働かず、葉の形態形成に関する遺伝子が崩れかけているのか、
(言わば、クモランのように完全な無葉蘭への進化の途上?)
それともこの個体だけの突然変異で、普通のwilsoniiはもっと正常な葉を形成できるものなのか。
多くの個体で観察してみたいところ。

ファレノプシス ヴァレンティニー (Phalaenopsis Valentinii f. alba or flava)

2018-07-29 | ファレノプシス
コチョウラン属のファレノプシス ヴァレンティニー (Phalaenopsis Valentinii) です。
2016年8月にオーキッドバレーミウラから購入。



Phal. Valentiniiとは、Phal. cornu-cervi Phal. violacea のプライマリー交配種です。
(bluenanta.comの解説ページ:Phal. cornu-cervi, Phal. violacea, Phal. Valentinii)
violaceaの良い花型と香り、cornu-cerviの葉緑体を持つ花弁と萼片、唇弁の形態、強健な性質をあわせ持つ品種です。
さらに両親にalbaまたはflava変異を用いることで、この交配種もアントシアニンを欠く緑弁白舌に咲いています。
東洋蘭の素心花に通じる良さがあります。



斜めから。
複雑な形態をした唇弁です。



横から。
蜜を貯める距のような構造はなく、昆虫を騙して誘引し花粉を運ばせることが推測されます。
と言っても、人為的な交配種なので生態的な適応について論じることは限界があるのですが。



少し面白いのが、花茎の表面には蜜滴を分泌してツヤツヤ光っています。
こういった花外蜜腺(かがいみつせん)は主にアリなどを誘引して、植物上を歩き回らせることで他の昆虫を排除する役割があります。
送粉者には報酬を出さない一方で、警備するアリのためには報酬を出すという選択が面白いところです。



根先はアントシアニンを欠く、きれいな青根です。



両親のうち、特にviolaceaが下垂性の成長をするためか、株が徐々に傾いてきています。
いずれは釣って育てないといけないのか悩みどころです。



最後にもう一枚。
やはり私はこういう緑弁白舌のランが好きだなと思います。

7/28のベランダの日中最高27℃、夜間最低22.5℃。
午後に台風12号が接近したものの、こちらは強い雨風だけで済みました。
ただし海岸から10kmほど内側なのに潮風の匂いがします。塩がついているかもしれないので、今晩は乾いてなくても灌水して洗い流す予定。
(追記:屋内に取り込んで乾いていたもの以外は結局水やりせず)

ファレノプシス コルヌストリス (Phalaenopsis Cornustris)

2018-07-09 | ファレノプシス
コチョウラン属のファレノプシス コルヌストリス (Phalaenopsis Cornustris) です。
2015年1月、仲里園芸から購入。



Phal.equestrisPhal.cornu-cerviという2種類の原種を交配した、いわゆるプライマリー交配種です。(Bluenantaの解説
両者の学名を合わせて、Cornustrisという交配名が付いたのでしょう。

私にとっては、初めて購入したコチョウラン(ナゴランは除く)です。
日本産のラン一辺倒から洋ランにも挑戦しようと思っていた時、細弁で野趣があるコチョウラン(の開花写真)に目が止まり 
なおかつ安価だったので買いました。
購入時は理解していなかったのですが、耐寒性のあるequestrisと、葉や根が旺盛に出るcornu-cerviのそれぞれの長所を受け継いだ
非常に強健な品種であることが、育てるうちに分かってきました。初めて栽培を練習するコチョウランがこれで幸運でした。



購入から3年半。今ではコチョウランに見えないほど葉の枚数が増えました。
確か購入時には7枚葉くらいだったと思いますが、そこから古葉が4枚落ちる一方で新葉が13枚出て、現時点で16枚葉です。
葉の枚数が多い分、今年は葉腋から花茎が4本くらい出たのですが、株の体力を奪わないために1本に絞って他は取り除きました。



根もドバドバと吹き出し、穴あき鉢を縫うように表面を覆って着生しています。
購入時に植え付けてから一回も植え替えができていません。鉢の内部もほとんど根で置き換わっているのではないでしょうか。
いつ見ても気持ちよい成長っぷりです。



花茎を1本に絞ったとは言え、equestrisの性質により、花茎は複数本に枝分かれして花数を増します。
その一方で、cornu-cerviの性質(短所?)を引き継いだ、ダラダラ咲きが少し惜しいところです。
多数のツボミをつけるのに一気に豪華に咲き揃うわけではなく、チビチビと一度に5輪くらいずつ、夏から冬まで半年間咲き続けます。

この品種、花の色合いが時間経過と共に変化するのも面白いところです。
緑色のツボミに紅色を乗せて、最初はやや濁った色で開花しますが、徐々に緑色が抜けて紅色が澄んできます。
写真でも、花茎の先端寄り(咲いたばかり)と花茎の基部寄り(先に咲いた)で色が違うことが分かるでしょうか。
花弁に緑色が乗るのはcornu-cerviの性質で、緑色が抜けるのはequestrisの性質から由来しているのかもしれません。
このように随所に交配親の性質を見てとることができ、この株の栽培と観察を通じて、ランの種間交配の面白さに気付くきっかけになりました。
ちょっと大きく育ち過ぎて持てあまし気味ですが、愛着ある株として、大事にしていきたいと思います。

ファレノプシス アラカキワールドドリーム (Phalaenopsis Arakaki World Dream 'Okinawa')

2018-06-15 | ファレノプシス
ファレノプシスの交配品種 Phalaenopsis Arakaki World Dream 'Okinawa' SM/JOGA です。
2018年1月、この品種を作出した新垣洋らん園から購入。



購入時点で花芽付きだったので、たまに水をやりつつ4ヶ月待っていたら花茎が伸びて咲いただけです。まだ育てたとは言えません。
しかも先端がシケて2輪しか開花しなかったですし・・・
大輪系コチョウランは初めてですが、風蘭のような自然栽培ではいけないようです。気をつけて大切にしないと。



この品種のすばらしさは何と言っても、この滲むような模様にあります。
純白の和紙に赤ワインをポタポタッと垂らして、じわじわと吸いこませたような、不思議なパターンです。

以前から、滲み模様のコチョウランがあることは展示会や店頭で見かけて、気になっていたのですが、
あまり派手に重なりあうような滲み斑点が多すぎると、穢れたような異様な印象も受け、購入するには至りませんでした。
このArakaki World Dreamは、斑点状でなく筋状の滲みが花弁や萼片の外縁に控えめに配置され、上品な印象を受けます。
新垣洋らん園に販売在庫が無かったところを、どうしても欲しいので入荷予約して、半年くらい待って入手できました。

この滲み模様が形成される生物学メカニズムが、とても気になります。
花弁も細胞でできていますから、普通はスプラッシュ花のように色素を作るか作らないかの二択のはずです。
そしてアントシアニン色素は細胞の間を移動しないので、紅白のくっきりした境界ができるはずです。
なぜ、このコチョウランでは濃淡ができるのでしょうか?
色素合成のオンオフでなく、「適正量」というアナログな情報を、細胞はどうやって知るのでしょうか?



開花直後、3週間後、6週間後の花弁の同じ領域を比較すると、色合いが少し淡くなるものの、形は全く違いがないことが分かります。
なぜか、滲みに染まらない白い小さな点(細胞?)がいくつか散在しているのですが、その配置も完全に同じです。
開花の時点で、滲み模様の範囲は最終決定しており、それ以上広がることはないのでしょう。
デンドロビウム・ユキダルマの老花で、着色が経時的に広がるのとは違いますし、色素の単純な拡散ではないことも示唆します。



また、同じ花弁の裏表を比べると、滲み模様の形成は花弁の表側に特有のようです。
裏側では、濃色の筋に対応する部分は見えるものの、滲みは起こっていません。

このような滲み模様を「Harlequin type」と呼ぶことや、その起源がPhal. Golden Peokerという品種だったことを
ロレンスさんのブログ「蘭と遊ぶ」で知りました。
Golden Peokerを手掛かりに、その作出者である台湾のYung-Yu Lin(林 永裕)氏(兄弟國際蘭園有限公司)にたどり着きました。
Lin氏はHarlequin系の功績により、2013年にオランダのKlaas Schoone memorial awardという蘭に関する賞を受賞されたそうで、
その公式サイトにおいて、彼の受賞講演(英語)のスライド(3.4MB PDFファイル)も公開されていました。
最初のGolden Peokerの作出から、2回にわたる突然変異、そしてHarlequin系の育種に至る、興味深い内容です。

一気に情報が増えて、まだ消化しきれていないので、継続して調べていきたいと思います。