ベランダ蘭

灼熱と強風のベランダで健気に育つランの観察

2018/08/15 (水): Clowesia Grace Dunn の根

2018-08-15 | 複茎性着生ラン
前日8/14のベランダの日中最高35℃、夜間最低28℃
今日も晴れだが、空が白っぽく霞んで見える。



Clowesia Grace Dunn 'Chadds Ford' です。
私のものではないのですが、所有者の方が事情により育てられなくなったので、うちで預かって育てさせてもらってます。
メキシコ産の Cl. rosea と コスタリカ~エクアドル産の Cl. warczewitzii の交配。
私自身のチョイスでないこともあり、うちではかなり少数派の中南米産の蘭です。

春が開花期のため、今はただ葉を広げてバルブを肥大させる時期で、普通は観賞すべきこともありません。
それでもこの蘭は成長期にこそ面白いことを見つけました。



ミズゴケの表面から、白い針状の突起がツンツンと突き出しています。



先端が薄緑色をしており、活発に伸長中の根です。根が上に向かって伸びているのです。



この部分など明らかに、太い根から枝分かれした側根が、下に潜ろうという素振りも見せずに最初から上向きです。
ミズゴケの中が根詰まりしてスペースが無い等の消極的な理由ではなく、積極的にそのような形態形成をしていることが分かります。

このような上向きの根は他の植物でも報告されており、落ち葉などの肥料となる有機物を受け止めるトラップとして機能するそうです。
Burr and Barthlott (1991) On a velamen-like tissue in the root cortex of orchids. Flora. 185(5): 313-323.
Zona and Christenhusz (2015) Litter-trapping plants: filter-feeders of the plant kingdom. Bot. J. Linn. Soc.. 179(4): 554–586.
ラン科では他に、グラマトフィラムが良く知られた例です。

生態学的な適応的意義は落ち葉トラップだとしても、根を上向きに伸ばす発生学的メカニズムが次に気になるところです。
根が重力を感知して下向きに伸びるメカニズムは、シロイヌナズナを用いて精力的に研究されてきました。
昨年、LAZY1遺伝子ファミリーの改変によって、根が上向きで茎葉が下向きという、本来と真逆の方向に育つ植物が作れることが
日本の研究者たちによって報告されています。
Taniguchi et al. (2017) The Arabidopsis LAZY1 family plays a key role in gravity signaling within statocytes and in branch angle control of roots and shoots. Plant Cell. 29(8): 1984-1999.

Clowesiaの根では、下に伸びる本来の根と上に伸びる落ち葉トラップの根で、LAZY1オーソログの機能が何か違うのでしょうか?
上向きの根による落ち葉トラップは、Clowesia以外にも平行進化したようなので、そのメカニズムを比較してみたいところです。



Clowesiaは葉の離層にも面白い性質があります。



昨年に成長したバルブが落葉すると、ギザギザの離層によって鋭いトゲが出現します。
枯れた後にこそ機能的な形態が完成するというのは、どうやって進化することができるのか、とても不思議な気がします。

オオバヨウラクラン (Oberonia japonica f. major)

2018-07-21 | 複茎性着生ラン
オオバヨウラクラン Oberonia japonica f. major です。
2016年4月に中山植物園から購入。



下垂する花序に、典型的な構造のランの花をつけます。
しかし実際の花径は1ミリメートルほど。8年前に購入した古いコンデジ(RICOH CX3)の、マクロ撮影の限界に挑戦しています。



株のサイズも小さく、Phal. Cornustrisの根とミズゴケの隙間に植えこんでいます。
単独植えでは水管理が難しくてジリ貧でしたが、同居させてから湿度が保たれるのか、安定してきました。



ちなみに Phal. Cornustris の現状です。猛暑に負けず、咲き進んできました。

 2017/6/22撮影

今年の花茎は伸びる時に引っかかって変に曲がってしまったので、去年の開花写真から。
ヨウラクランの花序は、先端に近い側から開花し、徐々に基部に向かって咲き進みます。
これは、花茎の基部から順に咲いて行くのが多数派のランの中では、珍しい性質だそうです(※)。
花茎の頂端に頂花をつけるわけでもないので、有限花序の定義にも当てはまらないように思われ、興味深いです。

※参考文献: 遊川知久ら『日本のラン ハンドブック (1) 低地・低山編』文一総合出版, 2015年
(このハンドブックの続刊早く出ないかなー)



花に関しては去年の方が成績が良かったですが、今年は仔芽がポコポコ出てきました。
株立ちになっていけば良いですが、油断すると(というか原因不明で)急に一部が枯れたりするので、こまめに見守っていきます。
ベランダの過酷な環境において森林性の極小の着生ランを育てるのは、なかなか難しいです。

7/20のベランダの日中最高36.5℃、夜間最低29℃。