ベランダ蘭

灼熱と強風のベランダで健気に育つランの観察

富貴蘭 「宝熨斗」 (Vanda falcata 'Takara-noshi')

2018-05-31 | 富貴蘭・フウラン
富貴蘭(フウラン Vanda falcata の登録品種)の無地葉変わり品種、宝熨斗(たからのし)です。
2016年7月にヤフオクで趣味家の出品を落札。



流行の富貴蘭品種が好きな方々には忘れられている、古い品種ですが、格好よくて私は気に入っています。



葉を左右から折り畳んで貼り合わせたような熨斗葉、管葉が特徴です。
この葉型から熨斗を連想するネーミングセンスというのが、日本の伝統文化を感じさせてくれます。



熨斗芸を示さない葉でも、ザラザラとコルク化したような堅条線がこまかく走っています。
最近の実生作出の墨芸よりも、こういう品種が天然で生じたことと、それを見つけた人の観察眼の方が凄いと思います。



裏側と軸(袴)の部分も、荒々しい魅力があります。

このように表側が貼り合わさったような葉(単面葉)といえば、アヤメ科やイグサ科などが有名です。
ラン科の中でも、デンドロビウム (Aporum節)、アングレカム、オンシジウムの一部などで「剣状葉」タイプとして知られています。
しかし「宝熨斗」の葉の接着は不完全で、新しい葉型への進化の過程というよりも、正常な形態形成のエラーのように思われます。

もともと風蘭の新葉(天葉)は、表を内側にして二つ折りになった状態で形成され、伸びてきます。
当たり前のことのようでいて、実はこの時に、葉の表面がいくら強く密着していても癒合してしまわないような仕組みがある筈です。
植物の細胞は、接ぎ木のように密着させると組織がつながることも可能ですから、わざとそうしないことも大事なのです。
植物学の実験で使われるシロイヌナズナでは、葉の表面をコーティングするクチクラ層を作れない変異体が見つかっており、
その変異体は、形成中に触れ合った葉どうしがあちこちで貼りついてしまいます。
宝熨斗もまた、そういったクチクラ層を作れない(とまでは行かなくても、量が減少とか)のが原因でしょうか?

日本春蘭 「大雪嶺」 (Cymbidium goeringii 'Daisetsurei')

2018-05-30 | シンビジウム
日本春蘭 (Cymbidium goeringii) の柄物の古い銘品、大雪嶺です。
大雪嶺の来歴についてはこちらの安庵さんのサイトにまとめられています。昭和40年代初期には70万円以上だったとか。
2015年11月に蘭万園から購入(現在では3,000円)。



花は葉の集合が変形したものということが分かっています。
そして春蘭は花にも葉緑体を持つので、葉が斑入り品種の場合は、花も斑入りになることが多いようです。
大雪嶺の斑のタイプは三光中斑(春蘭で言う中押し縞)なので、側花弁(棒芯)と萼片にきれいに三光中斑があらわれています。



青空に透かして撮るのが気に入っています。
こんなアングルで観賞できるのは栽培者の特権です。



本来は葉を観賞するものですが、見せるに耐えない貧弱な姿です(なので逆光でごまかす)。
ベランダでの春蘭栽培は、やはり乾燥した風が強すぎるせいか、なかなかうまく行きません。

奄美フウラン 「桃山錦」 (Vanda falcata 'Momoyamanishiki')

2018-05-29 | 富貴蘭・フウラン
奄美フウラン (Vanda falcata) の桃山錦です。
富貴蘭としての登録はまだ行われていない模様。
韓国の済州島で実生作出されたそうですが、関連品種(実生兄弟?)である真白とか虹雪との違いは詳しくないのでノーコメント。



最近購入したばかりでとても良い株ですが、思うところあってすぐ手放してしまい、今はもうありません。
その理由がこれ。



桃山錦の特徴は「雪白」と言われる純白に冴える斑。
フウランに限らず、さまざまな植物でこういった白みの強い斑入りは、日射によって葉焼けしやすいことが知られています。
植物が過剰な光エネルギーを受けると、本来ならば葉緑体が適切に受け流します(非光化学的消光とかサイクリック電子伝達とか?)。
白黄、黄色、萌黄などの色味がある斑入りでは、光合成はできないものの葉緑体(色素体)は残っていて、
残存するゼアキサンチンなどカロテノイド系の色素が、強い光の害から細胞を守っているのではないかと推測されます。
(もちろん本来の緑色の組織に比べれば弱い)
一方で雪白の斑では、上記のような光防御のための葉緑体の機能も失われており、細胞がダメージを受けやすいのでしょう。

桃山錦の宣伝文句は「日焼けしにくい(又は、日焼けしない)白縞」。
それに期待して某通販で良株を手に入れたのですが、これまで桃山錦の実物を展示等で見たことはありませんでした。
入手してすぐに気付き、私にとって衝撃を受けたのが、雪白斑の部分が水切れしたように薄くへこんでいること。



特に葉の縁に雪白斑が来ている場合は、紙のようにペラペラになって波打っています。
別の奄美フウラン品種「新羅」の白い覆輪斑も葉肉が薄くなり、その性質に似ているかもしれません。
そりゃ褐色に枯れるほどの葉焼けではないとしても、私にとっては期待外れでがっかりしてしまいました。
葉焼けしてるやん!

気になるのは、この桃山錦について紹介している他の富貴蘭ブログではこのことが全く言及されていないのです。
上に書いた仮説とは別の可能性として、紫外線の影響も考えられます。
通常の目に見える光(可視光線)だけでなく、紫外線もまた強すぎると植物に様々なダメージを与えます。
ポリカーボネートなど紫外線をカットする素材の蘭舎では、桃山錦のペラペラ化は起こらないのかもしれません。
私のベランダではポリカ板を設置することは難しく(もし強風で飛んで行って物や人に当たったら損害が怖すぎる)
紫外線をカットすることは今後もできないでしょう。
そんな訳で、手放すことを決断しました。
良い株だっただけに、後で後悔しないようにこの文章を書いて自分を納得させています。

ヤフオクでよく、源平柄みたいに派手派手の桃山錦の実生子苗が売られているけど、あれも難しいだろうと思います。
見た目きらびやかだから、良く入札されているんですけどね。

ドックリリア リングイフォルミス (Dockrillia linguiformis)

2018-05-28 | デンドロビウム
オーストラリア原産のDockrillia linguiformis (syn. Dendrobium linguiforme) です。
2017年2月の東京ドーム世界らん展にて、国際園芸から購入。

 2018/1/10撮影

ラベルはDockrillia nugentiiという記載でしたが、細く伸びた花弁と萼片からlinguiformisではないかと思われます。
nugentiiはもっと短い三角形の花弁と萼片。例えるなら風蘭の「並花」と「天咲き」のような違い?
(Australian Tropical Rain Forest Orchidsの解説へのリンク:Dockrillia linguiformis, Dockrillia nugentii
この種類はまた、ランの中では少数派ですが、唇弁が上側に向いた配置で開花します。

 2017/7/15撮影

2号の素焼き鉢にミズゴケで植えてありましたが、既にはみ出しかけていたため、昨年ヘゴに着生を試みました。
中学から蘭を育ててきていながら、実は初めての着生。というのもベランダは強風による湿度不足で着生栽培には不向きだからです。
(私は強健な種類を順当に育てたいとは思うのですが、枯れるかもしれない難しい種類や、新しい栽培法に挑戦する勇気がなかなか出ません)
初めてゆえに思い切ったことができず、2枚目写真のように鉢に植えたままヘゴへ橋渡しをするようにしました。
思いのほか簡単に根が出て活着してくれたのですが、そうして心の余裕ができると、ふと気付きました。
私が使ったヘゴ棒では幅数センチで狭すぎ、分枝による株の増殖に対応できないじゃないか、と。

 2018/5/22撮影

ヘゴ着けの経験を経て着生への心理的ハードルが下がったおかげで、鉢植えから完全に脱却し、コルクへの着け直しを敢行しました。
(注:黒いスリットプラ鉢は、床とのスペースをあけるために挟んでいるだけです)

 2018/5/22撮影

すでにヘゴに食いこんでいた根をブチブチ切ったりしてダメージが心配されましたが、
数週間で再び新しい根が出始めています(矢じり)。

 2018/5/22撮影

とにかく丈夫な種類です。

富貴蘭 「羆」の青 (Vanda falcata 'Higuma')

2018-05-27 | 富貴蘭・フウラン
富貴蘭(フウラン Vanda falcata の登録品種)の中透け品種、羆(ひぐま)の柄が抜けた青の個体です。
2018年4月に桜井園芸から購入。

 2018/5/19撮影

日本富貴蘭会名誉会長の故K氏の棚にあった、割り仔でなく実物「だそうです」。
そのK氏直筆のラベルには、「H1.10.18 U寺で割子、親は~」等々と由来や栽培経過が書かれて「いたそうです」。
富貴蘭の歴史を伝える貴重な資料のはずですが、ボロボロだったため、メモを書き写した後でラベルを処分したと
業者に言われました。なので物的証拠はもう残っていません。
業者にとって、歴史は金銭的価値が無いのかもしれませんが、とても残念です。粉々に砕けていても欲しかった・・・

なお、U寺の羆については、園芸Japan誌の2016年12月号の記事に登場されている、生前のK氏が言及しています。
その当時に羆で有名であったF氏とは異なる出所というのが興味深いです。

 2018/5/19撮影

 2018/5/19撮影

天葉は八千代芸?の紺覆輪で伸びています。ガシ(雅糸)っぽい隆起も見られます。
これが下葉で後暗みするのでしょうか。入手してからこれが初めて出た葉なので、観察が足りません。
今のところ、見えている根は全て泥根のようです。



以下は初心者の妄想です。

 2018/5/19撮影
(↑白いのは光の反射によるハレーション)

この羆と、関連する建国殿のグループは、非常に悩ましい品種群として富貴蘭愛好家に注目され続けているようです。
すなわち栽培しているうちに、特に親株から仔芽が出る時に、芸の変化が起こる頻度が他のフウランよりもずっと高く、
最高峰品種である本芸の羆が出るかもしれないという憧れにより、高い人気を維持しています。
私はこれまで、そういう射幸心を煽る人気は、ただの「宝くじ遊び」だろうとバッサリ切り捨てていました。

しかし生物学愛好家として、羆や建国殿の系でなぜ芸の変化が起こりやすいのかは、とても興味ある問題です。
話によると、斑の色さえ黄色から白へ、後冴えから天冴えへ、など複雑に変化すると言われています。
さらに面白いことに、この羆/建国殿系の変化しやすさには遺伝性があり、実生においても斑色の様々な変化が出ているそうです。
他の品種でも柄抜けの青や実生から斑が出ることはありますが、斑の性質が変化することは通常起こらず、元と同じ斑が出ます。
よって羆や建国殿系の斑は、通常の区分キメラとは違うメカニズムが働いているのではないかと推測します。

なぜ仔芽が出る時に新たな変化が起こるのか?
新しい仔芽ができる時、葉腋の分裂組織において活発な細胞分裂が起こっています。
そして細胞が分裂するたびに、膨大なゲノム情報(DNAの配列)を正確にコピーして2つの細胞に分ける必要がありますが、
低頻度のコピーミスは不可避であり、細胞はそのような間違いを見つけ出して元通りに修復する巧妙なメカニズムを持ちます。
しかしコピーミスの修復も100%とは行かず、どうしても残ってしまいます。(人間ではそれが腫瘍の元となったりする)
以下は仮想の例ですが、
コピーミスが遺伝子Aに起こった場合、その細胞は緑でなく黄色くなり、分裂して増えた部分が黄色い縞筋として葉に現れる。
別の遺伝子Bに起こった場合、その細胞は緑でなく白くなり、分裂して増えた部分が白い縞筋として葉に現れる。
遺伝子Cに起こると、葉緑素を「作り続ける」ことができず、最初は緑色の細胞が後冴えで白や黄色に変化する。
遺伝子Dに起こると、葉緑素を葉の形成の「最初から」作ることができず、遅れが生じて、曙斑が後暗みする、等々。
このように、通常の富貴蘭であれば、何らかのコピーミスが光合成に関わる遺伝子に1つ入ることで、色変わりの細胞が生じ、
それぞれの品種に固有の斑色や性質を持つに至ったのでしょう。
しかしその確率はとても低いので、長生殿から白翁へ斑の色が変わったように、同じ品種で2回起こるなんて出来事は、
非常に稀なことです。

私の妄想ですが、羆の本質的な変異とは、細胞が分裂する時のDNA複製の正確さが通常より低いのではないでしょうか?
たとえば、コピーミスを修復するための遺伝子が壊れている、とか。
そうすると、細胞分裂とDNA複製の度ごとに、通常のフウランよりもはるかに多くのコピーミスが残り続けると予想されます。
それによって時に白色、黄色、後冴え、天冴えなどの多彩な斑が、同じ祖先から生じうることは説明できそうです。
もう一つ、羆系の特徴として知られている墨は、重要な遺伝子のコピーミスによって、光合成の欠損どころか細胞が短期間で死んでしまい、
その細胞由来の部分だけ、枯れて黒い筋として表れているのかもしれません。

太陽光に含まれる紫外線は、DNAの損傷を引き起こす有力な原因の一つです。
羆/建国殿系を「日作り」にして太陽光を当てることは、細胞の強光障害により脱色させて斑を冴えさせるのに加えて、
新たなDNAのコピーミス、ひいては新しい芸の創出のためにも、理にかなったことなのかもしれません。


なーんて、根拠のない遊びの推論なので悪しからず。日に焼きすぎて枯らさないようにしましょう。

デンドロビウム ユキダルマ 斑入り (Dendrobium Yukidaruma variegated)

2018-05-26 | デンドロビウム
Dendrobium Yukidaruma の斑入り葉個体です。
2016年5月にヤフオクで趣味家から高芽の分け株を落札。その方はワカヤマオーキッドから入手したそうです。

 2018/3/14撮影

Yukidarumaと言えば、山本デンドロビューム園のクラシックな傑作品種として非常に良く知られています。
山本二郎氏が作出し、1973年に英国のRHS(Royal Horticultural Society、王立園芸協会)に登録(Bluenanta)。
有名個体としてYukidaruma 'King'とYukidaruma 'Queen'がありますが、この斑入り個体がどちらに由来するのか不明です。
花のサイズで区別できるのかもしれませんが、比較対照となるKing、Queenを持っていないので。
おそらくはメリクロンかセルフ実生で斑入りが生じたのでしょう。



斑入りとしては天冴えの細い白覆輪で、ちょっと物足りません(中透けに変化しないかなー?)。
なので、花を見ていきます。



平開する整った花型に、純白の地と、黒いほどの唇弁(リップ)の模様ですが、
光に透かすと、非常に濃いワインレッドであることが分かります。
この白と黒(赤)のコントラストを作りだしているのは、細胞がアントシアニン色素を合成するか否かのスイッチです。
唇弁の中央部では、その組織に特異的な転写因子が機能しており、アントシアニン合成酵素の遺伝子発現をオンにしていると予想できます。
Yukidarumaの元となったDen. nobileなど野外の原種で、花粉を運ぶ昆虫を正しい位置に誘引するために適応進化したのでしょう。
このような花の模様は「nectar guide」と総称されています。

さて、花を切って水にさしていたところ、散り際になって面白い色の変化をすることに気付きました。





老化が進行するほど、ネクターガイドの境界がにじんできて、薄い赤紫色が、元は白かった唇弁の領域にまで進出してきたのです。

これはどういう仕組みでこうなるのでしょうか?
周りの細胞も新たにアントシアニンを合成するようになったのか、アントシアニンが細胞から細胞へ移動して拡散したのか。
花が老化するほど着色が強まることから考えると、前者の新しく合成している説は、花にそんな余力が残っているのか疑問です。
それに同じ花の花弁(ペタル)と萼片(セパル)では、同じく老化しているはずなのに着色は起こりません。
だとすると、アントシアニンが細胞の間を移動したのでしょうか。
アントシアニンは植物の細胞の中、さらに液胞という小器官の中に通常は閉じ込められています。
植物細胞が老化して死ぬ時には液胞が崩壊する現象が知られており、それによってアントシアニンが自由に流れでたのかもしれません。

これは、何か進化適応的な利点があってそうなっているのでしょうか?
それとも交配種ゆえの誤作動?
自然由来の原種である Den. nobile の花でも見られる現象かどうか、確かめたいことです。

富貴蘭 「孔雀丸」 (Vanda falcata 'Kujakumaru')

2018-05-25 | 富貴蘭・フウラン
富貴蘭(フウラン Vanda falcata の登録品種)の無地葉変わり品種、孔雀丸(くじゃくまる)です。
2014年6月に有限会社石井から購入。



剣のような直刀葉が扇状に広がる様子がクジャクの羽に似ているから孔雀丸・・・というのは嘘です(たぶん)。
私の孔雀丸は品種本来の表現型(芸)をほとんど示しておらず、一般的には低級品の評価を受けるものです。
これはこれで私は気に入ってますが。



このように手前と奥の仔芽が全く違う葉型を示しています。
手前側のずんぐりとした姿が孔雀丸の本領を発揮した芸(本芸)で、株立ちの全てがこうなったらさぞ見事なことでしょう。
羅紗葉(らしゃば)と言い、葉の表面が羅紗(ポルトガル語raxa: 紡毛を密に織って起毛させた、厚地の毛織物)のようにザラザラとしています。
葉形は幅広で丈は詰まり、葉先も丸止め(尖っていない)で、締まった多肉植物のような力強さが感じられます。

問題は、このように同じ親に由来する隣り合った仔芽どうしでさえ、芸が安定しないことです。



今では株立ちになっていますが、私が購入した親株がこれです。
葉が出た順に下から番号を振っていますが、購入時にはおそらく1か2の葉が天葉(最上位)にあったのだと思います。
面白いことに孔雀丸の不安定さは、このように一株の中の左右でさえ違う芸を表すことがあるのです。
もちろん奇数番号側が本芸、偶数番号側が並芸です。
フウランの葉は左右交互に出ることを考えると、繰り返し交代で本芸と並芸の葉を作り分けてきた訳です。
私の目論見は(孔雀丸の不安定さゆえに)いずれ右側も本芸の葉に移行するのではないかと期待して購入したのですが、
あにはからんや、7枚目の葉が妙にまっすぐ伸び始めた時点でギャーっとなり、9枚目ではもう笑うほど長くなってしまいました。

孔雀丸でどのような遺伝子の変異が起こり、羅紗葉の表現型が出ているのかは現時点で不明です。
もし「植物ホルモン」のような物質が関与しているのであれば、株の左側から右側まで細胞や葉脈を通じて運ばれることも
可能でしょうから、一株の中での表現型は均質化されて然るべきです。
孔雀丸の芸の局所性と不確定性は、そういうのとは違い、むしろ斑入り(縞)の区分キメラの挙動に似ていると私は考えます。

通常の縞斑では、緑色の細胞の中に、光合成ができない白色や黄色の細胞が「混じって」いて
その分布や比率によって、ほとんど緑の地味柄から細かく入り混じった派手柄、果ては全斑の幽霊まで、多彩なパターンが生じます。
私の仮説ですが、孔雀丸では羅紗になる性質の細胞が、通常の細胞の中にキメラ状に混ざっているのではないでしょうか?
細胞の光合成能力(色)ではなく、細胞の形や大きさの斑入り、ということを想定するのです。
そして私の孔雀丸は「地味柄」で、本芸だけしか出ない優秀な孔雀丸は「全斑・幽霊」にあたるのではないかと。

孔雀丸の他にも、富貴蘭の無地葉変わり品種には本芸と並芸が不安定な品種がいくつか知られています。
それらではどうなっているのでしょうか?
また、区分キメラであれば存在するべき、「源平柄」の孔雀丸はありうるのでしょうか?

アメシエラ フィリピネンシス (Amesiella philippinensis)

2018-05-24 | 単茎性着生ラン
Amesiella philippinensisです。
2017年1月に国際園芸から購入しました。

 2018/2/11撮影

原産地はフィリピンのルソン島。
同属には、より高標高に分布するAmesiella monticolaがあり、純白でとても距が長く、香りのある花を咲かせることが知られています。
今回紹介している私の株、実はmonticolaとして購入したものなのですが、花が咲いてみたらphilippinensisでした。
(その名残りでラベルにはmonticolaと書かれています)
philippinensisは唇弁内側の左右に黄色のスポットが入り、距がやや短く、香りは感じられません。

希望すれば返品交換もできたのですが、いわゆるクール種(暑さに弱い)のmonticolaを私のベランダで育てられるのか
不安になり、まずはAmesiella属を知るために、そのままphilippinensisを育て続けることにしました。
無事に夏越しして、二回目の開花を迎えたのが写真です。フウランより若干暗めのナゴランと同じ管理で大丈夫でした。

 2017/12/5撮影

秋からは室内の私の机の上に置き、普通の読書用の卓上用LEDライトを就寝時以外はずっと点灯して特別扱いしていました。
そうしたら3本も花茎が出てきてしまい、株の体力温存のために1本に絞りました。

 2018/2/11撮影

比較的monticolaより短いとは言っても、十分に存在感のある距です。
分類の異なるフウラン(Vanda属)やAngraecum属、Aerangis属の花に、一見すると似ています。
光を反射する白い花、長い距、甘い香りが共通しています。

 2018/2/11撮影

推測ですが、Amesiellaもまたおそらく、夜行性で口吻(ストロー)が長いスズメガのような花粉媒介昆虫に適応しており、
収斂進化によって「送粉シンドローム」と呼ばれる、多岐にわたる花の形質が似てきたのでしょう。

ただし、monticolaに関してはそれで説明できそうだとしても、philippinensisはどうでしょう?
香りの喪失と唇弁の黄色いスポットは、夜間の嗅覚でなく、日中の視覚にもとづいた昆虫の誘引をしているのかもしれません。
対するスズメガにも、ホウジャク類やオオスカシバなど昼行性の種類がいることから、そういった種類が送粉しているのでしょうか?
ダーウィンを気取ってみたくなる、Amesiella philippinensisです。

富貴蘭 「鯱甲龍」(Vanda falcata 'Shachi Kouryu')

2018-05-23 | 富貴蘭・フウラン
富貴蘭(フウラン Vanda falcata の登録品種)の無地葉変わり品種、鯱甲龍(しゃちこうりゅう)です。
2016年6月にヨネヤマから購入。



勇猛な漢字が並んだ銘どおり、力強く捻り狂っています。
富貴蘭の昨今の主流では整った葉型が好まれていますが、こういうマイナーな品種にマニア心がくすぐられます。



甲龍(甲竜)とは葉の形態変異の一種で、このように葉身部分から「ひだ」のように二次的な葉縁が形成されます。
最も有名なのはオモト(万年青)の羅紗品種ではないでしょうか。
(いかんせん私はラン科至上主義なので、キジカクシ科のオモトに手を出す気は全くないのですが)

甲龍形成のメカニズムについては、甲龍に似た表現型を示すトウモロコシのleafbladeless1変異体の研究から、
葉表の中肋部分に葉の裏側の組織が入り込み、表と裏の境界が葉縁の性質を獲得すると提唱されています。
Timmermans et al. (1998). Leafbladeless1 is required for dorsoventrality of lateral organs in maize. Development 125: 2813-2823.
論文のPDFファイルはフリーでアクセスできるようです。

さて、富貴殿の時に書いたように、狭いベランダでの富貴蘭栽培において日射条件には注意が必要です。
この鯱甲龍と同じ品種と考えられる獅子甲龍に関して、堀内一博氏は『ポケットカラー事典 富貴蘭』において、
「陰作りで徒長させるとだらしなくなるので、日作りが良い」と説明しています。



そこで購入した初年度によく日に当てた結果、一発で親木は凝り(2枚の小さな葉が痕跡をとどめている)、
子に至っては芯止まり(成長点の枯死)してしまいました。
異変に気付いてから即座に暗いエリアに移動させ、どうにか回復すると共に新しく芽吹いた子も育ってきました。
堀内氏と私の栽培環境で、日作りや陰作りの基準が違っていて然るべきなのに、安直すぎました。

フウランは成長が遅いので、条件を変えてもなかなか反応が現れず、変化が見えた時には既に手遅れということがありえます。
少しでも早く異常に気付けるように、一鉢ずつこまめに観察することが必要です。

中国春蘭 「武漢素心」 (Cymbidium goeringii fma. album 'Wuhan Soshin')

2018-05-22 | シンビジウム
中国産シュンラン (Cymbidium goeringii) の素心です。産地から武漢素心という仮銘がついています。
素心についてはこちらを参照。
2015年10月に上野グリーンクラブの即売会で、宮崎蘭園から購入。

 2018/3/4撮影

中国で古代から尊ばれてきた「伝統的」な中国春蘭は、浙江省など南東沿岸部の地域に産し、
ジャスモン酸メチルを主成分とする爽やかな芳香をもちます。
しかし中国における春蘭近縁種の分布はより広く、雲南省や貴州省といった内陸奥地に産する朶朶香、豆辨蘭、蓮弁蘭、春剣蘭、
また台湾に産する糸蘭、ピアナン春蘭などが知られ、園芸的に注目されてきました。
(勉強中で受け売りなので、間違いがあったら教えてください)

一方でやや見過ごされている印象なのが、沿岸部と奥地の中間にあたる地域(湖北省や四川省)で、
ここには香りを殆どもたないタイプの春蘭が自生するそうです。ほぼ無香という性質は日本産・韓国産の春蘭と似ており、
そのため中国の中間地帯の春蘭との識別は難しそうです。私には違いが分かりません。

ともあれこの武漢素心は武漢(湖北省の省都)の名を冠し、ラベルと業者の説明を信じるならば中国の中間地帯タイプの春蘭です。
香りはごく弱く、鼻を近づけて嗅ぐと、かすかに柑橘系の匂いがします。
春蘭の素心の品種は非常にたくさん発見されており、さらに花型が良いもの、葉姿が美しいもの、香りが良いものなど、よりどりみどりです。
それらの優秀品種と比べると地味ですが、個人的に武漢に縁を感じており(行ったことはないですが)、この品種を選びました。

 2018/3/12撮影

ベランダから仰ぐ青空に透かせば、何でも一番に見えます。

 2018/5/20撮影

今年の新芽が出てきました。