いつもそうですが、仕込み室に入り操作盤(麦汁 ばくじゅう と言う糖化液を造る工程のオペレーション操作盤)に向かうと、一気にコンセントレーションスイッチが入ります。昨日はそれに、与えられた時間は「今日のみ」と言う神聖さも加わり、とても引き締まった気持ちでの開始となりました。
昨日の主作業はモルトの糖化です。ここをきっちりやらないといいビールにならないと思っているので、この工程での妥協は一切ありません。
[モルトの投入]
最初にケトルにお湯をはって粉砕したモルトを投入していくのですが、この時もモルトの投入量とお湯の温度に注視しながら最終的には理想の温度に着地させるようにします。糖化工程では温度がとても重要です。ここをしっかりやらないといい糖化が出来ない・・・、つまりいい麦汁を得る事が出来ません。いい麦汁とは簡単に言うと、酵母が喜ぶ麦汁です。酵母のご飯ともいえる麦汁をいかに美味しく仕上げるかはブルーワーの腕によるところではないでしょうか。
[糖 化]
お湯とモルトが出会っていよいよ糖化工程の始まりです。ここからは暫く糖化の具合を目と香りで確認しながら進めていく見守り工程となります。見た目にもデンプンが溶けていく様子、それに従って甘い香りが次第に強くなっていく過程を体感するのはとても楽しみでもあり、「無事にしっかり酵素が作用しているな」とホッとする瞬間でもあります。
[濾 過]
約2時間の糖化工程を終え、モルトの殻などと麦汁を分ける濾過工程に入ります。もろみの溶けが良くない(糖化がよくない状態)と、この濾過工程で詰まりが発生しやすくなります。濾過では濾過板を通る前に麦の殻等が堆積してできる濾層(麦による自然の濾過層)をまずは通過する事になるのですが、出来るだけこの濾層を壊さないように濾過を進めて行きます。どうしても濾過がうまくいかず詰まったりすると、形成された濾層を一旦壊して作り直す必要があります。この事により、最終的に味に影響するものを出してしまう可能性もあるので、詰まらせないよう濾過中も注視が続きます。長年やっていると詰まる前に詰まる瞬間がわかるので、大事に至らないように濾過中も目を離す事はありません。
昨日は糖化もとてもいい状態でしたし、結局順調に進みお陰様で何の問題もなく濾過工程を終える事が出来ました。
[煮沸 ホップ投入]
この後は、麦汁を煮沸して濃縮する煮沸工程に入り、ホップはここで投入されます。
「こんな味のビールにしたい」その為には、煮沸後の最終糖度を幾らにするかがとても重要なファクターになります。設計通りの糖度にする為にここは理論的にやります。今回の「あかあかや月ビール」は月齢とともにゆっくり進め、最終的に何かを突出させるわけでもなく「最高のバランス」に整えていくつもりなので、その事を念頭に最終糖度を決めました。
酵母も、この新月の日にベストコンディションで麦汁と出会わせてあげられるように準備していたので、最高の状態です。酵母も万端、麦汁も万端、後は発酵タンクへの移送を滞りなく済ませるのみです。
[発酵タンクへの移送と麦汁の冷却]
この移送の工程で、発酵の出発点の温度を決めていきます。麦汁は煮沸後の為、高温になっているので、このままだとビール酵母が死滅してしまいます。従って冷却してから発酵タンクへ移送するのですが、ただ単純に冷やせばいいと言うものではなく、何℃から発酵を開始するのかも重要なのでこの工程も気が抜けません。この温度を決めるのは冷媒レバーのハンドリングだけで行っていきます。その都度流れてくる麦汁の冷却を手動でコントロールしながら、目標とする温度にしてタンクへ入れていきます。冷却には水も使用しますが、季節やその日の気温などによっても水自体の温度が異なる為、毎回同じようにはいきません。だからこの工程も温度計から目を離さず進めていきます。と言う事で、湖畔の杜ビールが造るビールは、目を離さず心離さずで進めていくと言うわけです。
[ 最終工程 気 ]
無事、発酵タンクの中で酵母と麦汁を出会わせる事が出来ました。最後にタンクに手をあてて気を込めて、作業終了となりました。
新月の昨晩は、周囲と共に湖も漆黒に包まれ深い深い藍色をしていました。まるで吸い込まれるのではないかと思うような空間です。全てのものに「お静まりなさい」と月の力が働いているかのようです。
このような中、ゆっくり、ゆっくり「酵母と月と人」との三様一体の物語が始まっていきます。
実質的な発酵は今日からと言う感じです。
これから日々見守り、語り掛けていきたいと思います。
またご報告させて頂きます。
■操作盤
■一番搾り麦汁
■新月の湖畔 漆黒の世界