第5話-26

　中沢はテレビを見つめた。波の音が大きくなってきた気がする。「いつも房総銀行をご利用頂きありがとうございます」といういつものアナウンスに「当行ではお客様の安心と安全を第一に考えています」の一言が加わった。お客様と男性行員が貯蓄について話しているシーンがカットされて、どこかリゾート地らしい映像が流れている。
　「支店長や男達からおやつをぶんどってきたわ」と山崎がポケットからお菓子を出してお客様に配っている。「あんたねえ、こんな優しいとこもあるんだから、道を踏み外しちゃダメだよ」と年金を下ろしにきたおじいさんに言われて、「ごめんね」と山崎が謝った。

　お菓子の袋をなかなか開けられないその男性に手を貸した行員が、「安心してください。絶対助けがきますから」と囁いた。配られるのがビスケットなら救助に向かっている、飲み物なら多少時間がかかるというサインだ。

　痩せこけた男が何か呟き出した。海の映像を見つめて、宙を押している。画像にビキニを着た女性が映った。ライフルを持った男が口笛を吹いた。
　やせ細った男が「パチンコは卒業したけど、海物語でもいいな」と呟いた。
　ピストルの眼鏡男は落ち着いた顔で店内を見回している。おかしくなっているのは、犯人グループみたいだと中沢は思った。