On The Road

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2010-01-09 19:01:41 | OnTheRoad第2章
結局、「お腹の子に罪はない」の一言でアネキの結婚は認められて、お腹が目立たないうちにと2ヶ月で結婚式になった。

こんなことを言ったらアネキは怒るかもしれないけど、アネキが女だからお父さんは許したような気がする。まずアリエナイけど僕が誰かを妊娠させてってことになっていたら、縁を切られていたと思う。
僕が継ぐものなんて、小さな庭がついた家くらいのものだ。それでも父親のプライドが許さないだろう。

アキトシさんに和菓子屋の誇りを傷つけられたサトウさんの気持ちはすごくわかる。わかるけど、アキトシさんだってなでしこを見捨てたわけじゃないのに、訪ねてくるなと言われたら来たくても来られなさそうだ。サトウさんの息子だから。

第3章につづく

2-51

2010-01-09 19:00:49 | OnTheRoad第2章
アキトシさんは隣町の和菓子屋の娘と結婚した。アキトシさんは、なでしこを改装してチェーン店として一緒にやろうと言ったらしい。「こんな古臭い店じゃ、お客は減る一方だよ」って。
サトウさんは共同経営の話を断って、お父さんから継いだ店を守る決意をしたようだ。

アネキが仕事を辞めて結婚したいと言ったとき、出来のいい娘にかなり期待していたお父さんは今まで見たことがないほど怒った。赤ちゃんができたとアネキが後から言ったのは、作戦だったのかもしれない。
それまでオロオロしていたお母さんは急にアネキの味方になって、もしアネキが縁を切られるなら一緒に出て行くと言った。せっかく好きな人と結婚するのにお母さんもついてきたら、アネキは本当は困っただろうと思う。

2-50

2010-01-08 07:41:04 | OnTheRoad第2章
サトウさんはアキトシさんに子供の頃から和菓子の作り方を教えたのだそうだ。親のヒイキ目もあるけど、なかなかスジがよかったんだ、とサトウさんは懐かしそうに笑った。
アキトシさんは高校の普通科を出て大学進学を希望した。なでしこがもっと儲かるように経営を学びたかったようだ。
大学生になったアキトシさんはすこし店の経営に口を出すようになったけど、後継者がいない和菓子店が多いなか、仲間からはうらやましがられて、自慢の息子だったらしい。
修業のために隣町の和菓子店に働きに出たアキトシさんが店の娘と恋をしたと聞いても、サトウさんは反対しなかった。立派な跡取り息子がいたからだ。
でも、その跡取り息子がゲージュツに目覚めて外国へ行ってしまった頃から、サトウさんとアキトシさんの仲は悪くなったらしい。このあたりから、サトウさんは跡取り息子のことを「ドーラク息子」、アキトシさんのことを「あのやろう」と呼ぶようになった。

2-49

2010-01-08 07:40:24 | OnTheRoad第2章
お茶を片付けてから、サトウさんは作業場へ行った。僕はシャッターを半分下ろしてレジをしめた。
お客さんのほとんどが高校生だったから、千円札と小銭が多い。小銭を数えるのには時間がかかったけど、手応えみたいなものが感じられて楽しかった。
サトウさんはアズキを洗いながら何か歌っている。何の歌かはわからないけど、声の調子からして明るい歌だと思う。サトウさんが歌ってるなんてはじめてだ。

レジの集計を済ませた僕も歌いたい気分だった。売上は昨日の4倍強。基の数が1なら4をかけてもたった4。そんなことはわかっているのにメッチャうれしかった。
僕はお金をしまった手提げ金庫とレシートを持って、作業場に走った。サトウさんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに期待をこめて「どうだった?」と聞いた。
僕はレシートを渡して、サトウさんが喜んでくれるのを待った。サトウさんは両手でレシートをつかみ、すこし目から離して見た。「オレ、レジを打ち間違えたかな」
「現金も数えました。誤差はマイナス3円です」と僕が言うと、サトウさんはやっと安心した顔になって「タカハシ君ががんばってくれたからだな」と言った。
僕はタイムリーに灯りをつけてくれた電器屋さんと電器屋さんを呼んでくれたサトウさんのおかげだと言った。
「アキトシにも言われていたんだよ、店が暗すぎるって」とサトウさんは何度もうなずきながら言った。

2-48

2010-01-07 21:22:21 | OnTheRoad第2章
サトウさんは、帰った子たちが使った湯飲みを1つずつ台所に運んでいた。ショーケースにいっぱい並んでいたこだいふくは、1山はなくなり残りも数えるほどになっている。

閉店時間まであと30分あるのに、こだいふくばかりでなく他の和菓子もだいぶ少なくなっていた。高校生たちはもの珍しそうにサトウさんが作った和菓子を見て、「オジサンが作ったんすか?」とか「この店って今日開店ですか?」と聞いていた。

最後のこだいふく1袋は、さっき僕が呼び込んだ茶色いマフラーの女の子が買って帰った。うっすらと化粧もしている女の子は「こう見えても茶道部だから」と言った。入部の動機は甘いものが好きだからだそうだ。

甘いものが好きな茶道部の女の子が帰ったあと、サトウさんと僕は看板の灯りを消して湯飲みを洗ってからお茶を入れて、最後まで飾ってあった紅白の大福を1つずつ食べた。甘いものが好きだといった女の子の気持ちがわかる気がした。和菓子にはたしかにお茶が合う。