On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

5-47

2010-03-06 18:29:45 | OnTheRoad第5章
 サトウさんたちの引っ越しはカトウ建設のトラックと社員の人たちが来て、あっと言う間に終わったらしい。僕が隣り町から戻ったときにはもう、カトウ建設の人たちが木の壁をはがしていた。傷をつけないようにていねいに。

 2人の新居はカトウ建設さんが紹介してくれた僕の家に近い2階建てアパートの、空調と給湯設備つきの1階だ。隣りの人は小さい庭で小松菜を植えていたとアキエさんがうれしそうに報告してくれた。

 僕がいない間に明るくてかわいい女の子が友達を連れてきてくれた、とアキエさんが言った。工事現場になっているなでしこを見て「つぶれてたらマジ、笑えねーし」と言いながらケーキ屋に入ってきたという女の子が木村さんなのは、アキエさんに言われなくてもわかった。
 木村さんはカレシと女の友達2人を連れてきて、こだいふくを3袋と普通の大福を四つ買ってケーキやのアイスを食べながら帰ったそうだ。「オジサンによろしくね」と言って。
 「木村さんは茶道部なんですよね」と僕が言ったら、アキエさんはふふふっと笑った。「元気な茶道部さんね。ハルさんと仲良くなれそう」
 ハルさんと木村さんはぜんぜんちがうけど、僕も2人は仲良くなれそうな気がする。木村さんは約束を守る礼儀正しい子だから。


第6章につづく

5-46

2010-03-06 18:28:34 | OnTheRoad第5章
スチール机と本だなと2人用のソファがある社長室にはじめて入った日、アキトシさんと義理のお父さんのハセガワ会長は、社員と同じ作業着を着て僕を迎えてくれた。僕はスーツではなく作業着を着て働くことになるんだと思った。
 仲間と同じユニフォームを着るのは慣れているし、キライなシチュエーションじゃない。

 ハセガワ会長はお茶を飲みながら僕の履歴書を見て、「うちの会社でいいの?」と聞いた。僕の得意科目は経済学で、持っている資格は運転免許と簿記2級。経済学部を出た誰もが書きそうな履歴書だ。
 「タカハシさんにはいずれ、経理とか銀行との折衝なんかもやってもらいたいんだ」とアキトシさんが言って、僕にそんなことができるだろうかと思った。でも、わからないことは教えてもらえばいい。大学を出てだいぶブランクもあるし、忘れていたとしたらそれが僕なんだ。カッコつけないで聞けばいいとも思えた。

 なでしこと工場やあやめというハセガワさんの和菓子店を行き来して、ときどきあやめでも販売を手伝うように言われた。両方の店のいいところや悪いところを見つけて、よりよい店作りを提案してほしいなんて。
 大役のはずなのにやればやれそうな気がするのはなぜだろう。

5-45

2010-03-06 18:27:30 | OnTheRoad第5章
あずへ
何でも聞く。僕の話なんて次でいいから、あずが話したいことを話していいよ(^◇^)
コージ

 あずが高校のころっていうと僕が知ってる2年間と僕が卒業したあとの1年間があって、あとの1年のうち半年は僕と付き合っていたから、あずが話したいのは僕と別れてからのことだろう、と僕は勝手に思った。

 あずにもうすぐだね(^o^)とメールを打って、僕はリビングに戻った。ヨシユキさんとユリナちゃんが眠くなって、アネキはお母さんに座っているように言われて、お母さんが1人でテーブルを片付けていた。
 お父さんはヨシユキさんが学生時代の親友だと思ってるみたいに「もう1杯」と勧めて、お母さんに怒られた。
 アネキは半分目が閉じているユリナちゃんをお母さんに預けて車のエンジンをかけに行って、「お父さん、今度は私が招待しますから」とヨシユキさんが立ち上がった。2、3歩よろめいたヨシユキさんを「お兄さん、しっかり」と僕は支えた。ヨシユキさんはやせているけど、男だからやっぱり重い。
 結婚式のときのヨシユキさんはこんなに酔っぱらわなかった。でも今夜酔っているヨシユキさんの気持ちはすこしわかる。

 奥さんの実家って、そんなにいごこちのいいものではなさそうな気がする。ヨシユキさんがはじめて家に来たとき、お父さんはフキゲンだった。
 今夜、可能性だらけの赤ちゃんがヨメの実家とヨシユキさんを結びつけた感じだ。お父さんは玄関までヨシユキさんを送った。僕はアネキの車までユリナちゃんを抱いていった。「ママ、ユリナのことずっと好きでいてね」とユリナちゃんが言った。

5-44

2010-03-05 19:34:02 | OnTheRoad第5章
 部屋に戻った僕はヨシユキさんのメモの金額以外をOA用紙に清書して、ペンションのパンフレットのミッキーと並べて写メを撮った。それから画像を添付してあずにメールを送った。

あずへ
おいしい魚を食べに海へ行くことにした。季節外れだけど、青春しよう!
コージ

 返信はすぐ来た。あずも家に着いてお茶でも飲んでいたみたいだ。

コージくん!
ミッキーかわいー!!
楽しみにしてます(^〇^)
いっぱい話せるといいな(*^_^*)
あず

 普通はランチをやっていないペンションだし、冬の海だからうまくすれば泊まり客もいなくてきっと夕方まで話せると思う。

あずへ
バイトの話ならいっぱいあるよ(-_-)。。
コージ

 リレーのバトンはすぐに回ってきた。

コージくん♪
そのまえに高校のころの話がしたい(・_|
あず

 あずが言いたいことは楽しい話題ではないかもしれないとなんとなく思った。


5-43

2010-03-05 19:32:37 | OnTheRoad第5章
 妊娠中のアネキとユリナちゃんはジュース、僕たちはビールでカンパイした。ヨシユキさんは気持ちよさそうに酔っていて、山梨にいる両親やお兄さんのことをしきりに話した。
ヨシユキさんは「生まれたときからずっと弟だったから、お兄さんと呼ばれたのはじめてで」とお父さんたちに、「コージ君、私こそありがとう」と僕に言った。僕も生まれつき弟だから、お兄さんと呼ばれる気持ちはわからない。

 ユリナちゃんがアネキのお腹にいることがわかったときはこんなになごやかなムードじゃなかったのに、同じシチュエーションでみんながうれしそうで、あのときブツギをかもしていたユリナちゃんが一番うれしそうで不思議な気がした。

 ユリナちゃんに「弟と妹とどっちがほしい?」と聞いたら、「赤ちゃんもまだ決めてないのにユリナが決めちゃいけないんだよ」と言われた。「どっちかって言ったら、ちがったときかわいそうでしょ」

 まだ3歳だけど、ユリナちゃんはすごい。そんなユリナちゃんを育てたアネキたちもすごいと僕はカンドーした。お腹のなかの赤ちゃんは男だからとか女だからなんて考えてないし、スポーツの得意な子になるか本が好きな子になるかもわからない。きっとどっちでもいいんだ。

 レリビー、赤ちゃん、とつぶやいて僕はビール1杯で部屋に引き上げた。