第5話-24

　「私、帰るわけにいかないんです。大デブの支店長の奴が、真っ先に逃げてくるような奴は、もう帰ってくるなって」
　山崎は涙をこぼしながら言った。支店長は小柄で細いことを知っているから、行員達は山崎が言っているのは本当ではないとすぐに気付いた。山崎がここにいなければならない事情が他にある。

　「中沢先輩は年が年だから、心臓とか弱いでんすよ。口なんか塞いだら発作起こして死んじゃうかも」山崎は泣きながらまくし立てた。
　「ただのデブだと思ったら、うるさいデブだな。おばさんの代わりにお前の口を塞いでやろうか？」
　田村が言って、大竹に睨まれた。
　山崎は中沢の口を塞いでいる粘着テープを剥がして、「お年寄りに死なれちゃうと、気分悪いし」と中沢を小馬鹿にしたような目で見た。山崎を睨みつけながら、中沢は深呼吸した。山崎ちゃん、ありがとう。

　「銀行にはもっとお金があるけど、それしか用意できないって言うと思う。でも、そんなの信じちゃダメ。あと２億ぐらい簡単に集められるから」

　「山崎さん、なんてこと言うの？銀行員になるのが夢だったって言ってたじゃない！」
　「だって、お金が大好きなんだもの。私、この人達と一緒に行くことにしたの」

　大竹が嬉しそうに笑った。