鬼橋ブログ

鬼界浩巳事務所の構成員、鬼界(きかい)と橋本が書く日誌です。ブックマークからHPにも行ってみてね。

イタリアぼんやり旅行 4

2006年08月29日 | 旅行
日直・橋本

 暴言を吐こうが、イタリア人は、やはり親切だ。
人がいい。

 フィレンツェからボローニャへの移動のため、
フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅へ。
発着版を見ると、
乗車する列車の発車ホームが、変更されている。
「イタリアでは、ホーム変更・発着時刻変更は茶飯事」という事実は、
数回の移動を経て、すでに承知していたので、
もう腹も立たなかったが、
あせるのは、あせる。
見ると、
変更になったホーム14番線には、すでに列車が停車してい、
ホームには人が居ない。
皆、乗車し終えているのだ!
ということは、
いつ発車してもおかしくない状況ということだ。
イタリアでは、列車の発車を知らせるベルは鳴らさない。
そんなものは、無い。
なんの前ぶれもなく突然ドアが閉まり、人知れず発車する。
しかも、発車予定時刻なぞ有って無いようなもので、
いつ発車するかは、
カケだ、カケ。
カンだ、カン。
「まずい。あの列車の発車は近いぞ!」と私のカンが働き、
でかいスーツケースをゴロゴロころがし、走った。
走りながら考えた。
「だが、待てよ。
こういう変更に次ぐ変更に対処するために、
早めに駅に来たはずなのだ。
いくらイタリアでも、予定より20分も前に発車するようなムチャをするか?」
が、
相手はイタリアの列車だ。やりかねない。
ホームの中ほどにある電光掲示板で、停車中の列車の情報を確認すると、
「通過駅ボローニャ」とある。
乗れ、乗ってしまえ。
指定席の車両まで、また走った。
10号車入り口には、そこをふさぐように、うさんくさい男が立っていた。
赤いTシャツにGパン、
口ヒゲを生やし、林家ペーのような髪型。チビで色黒。
「通してくれ」とイタリア語で言うと、
「乗るのか?」と訊く。
「そうだ」と答えると、
「持ってやる」と言い、
ホームからステップ4段ほど高い車内へ、
スーツケースを引き上げ、運び入れてくれた。
もしや、こいつは、ドロボウか?
イタリア悪人図鑑によると、
荷物デッキが近いドア付近に待機し、
発車まぎわに、スーツケースを盗んで逃走するという手口のドロボウが多いらしい。
荷物置き場の空きスペースは、すでに3段めにしか無く、
それを見た林屋ペーは、
超重量級のスーツケースを持ち上げ、載せてくれた。
チビのくせに。
さてはスーツケースの重さから中身を推測したな?
ペーの前で、
自転車用チェーンを2本、ガシッ、ガシッと、
スーツケースと棚の棒につないでみせた。
これを切断する手間を考えれば、ペーも、もはや手は出すまい。
安心して、指定席へ。
すると、そこには、すでに乗客が。
出た。
イタリア悪人図鑑パート2「他人の席は私の席」。
こういうヤツらは、有無を言わさず、どかす。
「これを見ろ」と、指定席の切符を突きつけたら、
「これも見ろ」と、向こうの切符を突きつけられた。
・・・あらら?
列車番号がチガう。
どうやら、今、乗車している列車は、
相手の切符に印字されている番号の列車のようだ。
やばい。
チガう列車に乗ったらしい。
慌てて出口へ走り、スーツケースのチェーンをはずす。
ペーが、
「降りるのか?」と訊くので、
「そうだ」と答えると、
「下ろしてやる」と言って、スーツケースを床に下ろしてくれた。
さらに、ペーは、
「降りるんだな?」と念を押し、
私のスーツケースを持ってホームに降りると、「切符を見せろ」と言った。
切符を盗むのか?と思ったら、
通りがかった駅員に確認のうえ、「これは、次の列車だ」と教えてくれた。
なんだ。
ペー、すごく、いい人じゃん。
それにしても、
イタリアの列車のシステムは、本当に困りものだ。
早めに行ったら行ったで、トラブルに見舞われる。

 その後、無事乗車した、そのボローニャ行きの列車の中でのこと。
個室タイプの6人席で、窓際の私の真向かいに座っていたのは、
初老の女性。
連れはなく、ちょっと金持ちふう。
私が着席する際、組んだ脚をほどこうとしないので、
「失礼。」と声をかけたが、返事をしない。
脚も組んだまま。
くそババァ。
改めて見ると、
顔がこわい。
普通にしてる顔が、すでにガンつけ顔。
外人は、若い頃はいいが、年をとるとグロテスクな顔になりますね。
負けてたまるかと、こちらもガンをつけ返す。
このままボローニャまでガンの飛ばし合いか?
と思っていたら、
ババァが、いきなり、
「暑いか?」とイタリア語で訊いてきた。
イタリア人だ。
突然の質問に驚いたが、「暑い」の意のイタリア語は知っていたので、
「大丈夫だ」と答えると、
個室の出入り口ドア上の、スイッチや調節ツマミなどが並んだ操作器を指差しながら、なにやらイタリア語でしゃべり出した。
前回も書いたとおり、
イタリア人は、早口で、まくしたてるようにしゃべる。
このバアさんも、しかり。
何かを説明しているのは判るが、内容は、まったく理解できず。
英語で聞き返してみるが、
そこはイタリア人。
自分の知らない言語は、無視。
聞かなかったことにするようだ。
「ラチがあかない」とばかりに、バアさんは立ち上がり、
「来い。」と私をいざない、操作器の下へ。
結局、エアコンの温度調節の仕方を教えたかったようで、
私が「了解。」とイタリア語で言うと、安心した様子で席に戻った。
「ご親切に有難う。本当に有難う。」
と重ねて礼を述べると、
「イタリア語が上手だ。」
と誉めてくれる。
「とんでもない。ほんの少し言葉を知ってるだけだ。
本当は、話せるようになりたいのだが。」
と言うと、
「大丈夫。話せるようになる。」
そう言って、バアさんは初めて笑顔を見せた。

 気候の良い時期、イタリアでは、
インサイド・ルームの他に、店の前に設えたアウトサイド・テーブルがあるレストラン・トラットリアの場合、
「エアコンが効いた店内がいい。」と、客が主張しないかぎり、
外のテーブルへ案内するのがサービスのようだ。
気持ちの良い外で、おおらかに食べるのがイタリア流らしい。
実際、
体裁だけ真似た日本のレストランのアウトサイド・テーブルとは違って、
心底くつろいで食事できる。
ボローニャで最初の夕食を楽しんだレストランも、
立ち樹を活かしたテーブル配置の、洒落た、
しかも、とても美味しい料理を出す店だった。
さすが、グルメの街と言われるボローニャ。
フラっと入ってみた店でも、これだけ満足できるのだ。
会計を済ませ、席を立つ段になり、ちょっと困った。
隣の丸テーブルで食事中の5人家族のうち、
私側に背を向けている1人に、立って椅子を引いてもらわねば、
どうやっても出られないのだ。
父さん・母さん・0Lのねーちゃん・高校生の弟・妹という感じだが、
高校生の妹が、
骨折したかなんかで、左足首にギブスをはめ、松葉杖だ。
そんなにまでして外食したいか?
悪いことに、そのビッコの妹に立ってもらわねばならないのだ。
仕方ない。
知り得る限りのイタリア語の「へりくだり」及び「謝罪」の言葉で、
最高の礼を尽くして、通してもらうことにしよう。
なんでもいいんだ、謝りゃ。
「すみません。ごめんなさい。
本当にすみません。お許しください。」
謝りゃいいんだ、なんでも。
だが、
5人はキョトンとし、
「すごく謝ってるよ?この人。」
と、怪訝そうに顔を見合わせている。
「通して頂けます?」
と私が言うと、
次の瞬間、全員、一斉に立ち上がり、
「プレーゴ(イタリア語で‘どうぞ’の意)!」
総立ちで、
「プレーゴ、プレーゴ!!
どんどんプレーゴ!!」
父なぞは、
娘の松葉杖をひっつかみ、そのツエの先で、
私の行く道筋を指し示してくれてさえいる。
いい人たちだ。

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