無理難題

日直・橋本


　留学先のフィレンツェでは、一人でアパートを借りることに決めた。
ホームステイは、
朝昼晩、来る日も来る日も、
「おはようございま～す！」「ただいま～！」「おやすみなさ～い！」と、
‘機嫌よく’挨拶するのが、やっぱり私には、しんどそう。
ルームシェアは、
欧米人学生とのロクでもないトラブルの話を幾つか小耳に挟み、気が進まず。
初めての留学の場合、
安全面でも、語学習得の面でも、ホームステイが良いと聞くが、
ステイ先がアタリだったら幸運だが、
もしハズレたら、ホント悲惨らしい・・という話も聞く。
それこそ初めてなので、そんな危ないカケに出る勇気はない。
対人関係でイヤな思いをするのは、
一人暮らしで寂しい思いをするのよりも、もっと、つらい。
費用の面でも、だいぶ違うが、仕方ない。
エージェントに提出する用紙に、
「滞在先へのご希望がありましたら、ご記入下さい。」
という欄が有ったので、早速、記入。
　・場所は中心街
　・駅まで徒歩圏内
　・学校へも徒歩圏内
　・日当たり良好
　・眺め良し
　・安全
　・静か
　・清潔
　・風呂には浴槽有り
　・1ヶ月の家賃の予算は１２００ユーロ
たった1行の細い欄に、とてもじゃないけど書き切れず、はみ出す、はみ出す。
はみ出し部分を線で囲ってみたら、
マンガの吹き出しみたいになっちゃった。
要望、出し過ぎ。
用紙を提出してから、早1ヶ月。
いまだ、なんの返答も来ず。

今月から、イタリア語学校での授業をもう１つ増やしたので、
目が回るほど忙しい。
しかし、
1人暮らしをすることになったのだ、
１つでも単語を多く覚え、少しでも多く話せるようになって行かなければ、
と思ってしまう。
んが、
「水が出ません」だの「泥棒が入りました」だの「救急車を呼んで下さい」だの、
そんなのばかり覚えてると、
なんだか、行くの怖くなっちゃうね。