じぶんの足でたつ、それが教養なんだ

「われこそは」と力まないで、じぶんの歩調でのんびりゆったり歩くのがちょうどいい。

久方の光のどけき「虹の足」です

2008-04-02 | 随想(essay)
 虹の足
                 吉野 弘

雨があがって
雲間から
 乾麺みたいに真直な
 陽射しがたくさん地上に刺さり
 行く手に榛名山が見えたころ
 山路を上るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
 虹がそっと足を下ろしたのを!
 野面にすらりと足を置いて
 虹のアーチが軽やかに
 すっくと空に立ったのを!
 その虹の足の底に
 小さな村といくつかの家が
 すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに、
 家から飛び出して虹の足にさろうとする人影は見えない。
―おーい、君の家が虹の中にあるぞオ
 乗客たちは頬を火照らせ
 野面に立った虹の足に見とれた。
 多分、あれはバスの中の僕らには見えて
 村の人々には見えないのだ。
 そんなこともあるのだろう
 他人には見えて
 自分には見えない幸福の中で
 格別驚きもせず
 幸福に生きていることが―。
              (詩集『北入曽』より)

 ゆっくりと暇にあかせて、ことばの芽を育てていきたいものです。