公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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KININARU 研究 一電子結合

2024-10-04 04:48:00 | 経済指標(製造業)

教科書を」発見 北大と東大が“一電子結合 1世紀前の理論”を実証Innovative Tech

東京大学と北海道大学に所属する研究者らは、炭素原子間の新しい結合様式を発見した研究報告を発表した。炭素と炭素が電子1つだけで結合できることを実験で実証。この発見により、1世紀前に提唱された理論が実証された。


 “Direct evidence for a carbon–carbon one-electron σ-bond”,
Takuya Shimajiri*, Soki Kawaguchi, Takanori Suzuki, and Yusuke Ishigaki*, Nature 2024, online published. DOI: 10.1038/s41586-024-07965-1





本研究では、炭素が一電子だけで共有結合を形成出来ることを実験的に明らかにしました。

炭素は有機化合物の必須元素であり、炭素原子間の共有結合は医薬品やタンパク質のような有機化合物の骨格を構築する極めて重要な概念です。共有結合は通常、二つの原子が互いに価電子を出し合い、共有することで形成されます。単結合、二重結合、三重結合は広く受け入れられてきた概念かと思います。一方で、化学結合に関する研究でノーベル賞を受賞したポーリングは、1931年に電子対ではなく一つの電子を原子間で共有する”一電子結合”が存在することを提案しています。ポーリングの提案以降、その存在の実証を目指して多くの研究が行われてきましたが、一電子結合は極めて弱い結合であることから、これまで炭素原子間でその存在を結晶学的に実証した例はありませんでした。従って、炭素原子間の一電子結合の実現はおよそ100年に渡る化学者の夢の一つと言えるかと思います

我々はこれまでに、弱い結合(コア)を大きく剛直な骨格(シェル)で保護する独自の分子内コア-シェル戦略に基づいて設計した化合物1が、世界最長のCsp3–Csp3単結合を有することを明らかにしています。本研究では、化合物1の一電子酸化により化合物2を合成しました。単結晶X線構造解析により分子構造を決定し、2.921(3) Å(@100 K)の結合長が観測されました。これは通常の炭素-炭素単結合の結合長(1.54 Å)と比べ大幅に大きい値である一方、結合の存在を裏付ける結合電子が炭素原子間に観測されました。また、ラマン分光法によって炭素-炭素共有結合に特徴的な伸縮振動を観測できたことから、一電子結合の存在を実験的に証明することに初めて成功しました。


第627回のスポットライトリサーチは、北海道大有機化学第一研究室(鈴木孝紀教授、石垣侑祐准教授)で行われた成果で、川口 聡貴(かわぐちそうき)さん、島尻 拓哉(しまじりたくや)さんにお願いしました! なお、島尻さんは現在は東京大学楊井研究室で特任助教をされています。


川口
実はこの一電子結合を有するラジカルカチオン塩を作製すると、ヨウ素自体も取り込まれたような、ディスオーダーが激しく、構造決定が困難な単結晶も同時に生じてしまいます。その為、各物性測定についてはすべて構造決定がされた単結晶を用いる必要があります。ここが最も難しく、苦労したところでした。X線結晶構造解析やラマン分光法は勿論のこと、最終的に紫外可視近赤外吸収分光法から赤外分光法に至るまで、すべてX線で構造決定をした後の単結晶で測定を行いました。一つの単結晶でこれほど解析できる現代の技術に改めて感動を覚えました。

また、私個人の事情ですが、この研究を行ったのは学部2年~3年の時期だったため、授業や学生実験との両立が本当に、とても大変でした。気合と根性を頼りになんとか苦境を乗り越えられ、論文掲載にまで至ることができたのは、ひとえに周囲の皆様の支えのおかげです。感謝してもしきれません。


本研究を実施するにあたり、北海道大学の多くの研究者の方々にお力添えいただきました。ESR測定をサポートして頂いた平田拓教授(毎回付切りで、とても親身にご指導いただきました。)、固体での近赤外吸収測定でサポートして頂いた、野呂真一郎教授、斎藤結大特任助教(斎藤先生は島尻と鈴木研の同期で、とてもフレキシブルに対応して頂きました。)、単結晶での顕微近赤外吸収測定で手厚くサポートして頂いた山崎郁乃様(なかなか良い測定条件が見つけられないところ、一緒になって条件の探索をして頂きました。この測定が決定打になりました。)、単結晶でのIR測定を実施させて頂いた龔剣萍教授、中島祐准教授(学生時代に訪問学生として研究させて頂いたご縁もあり、快く装置利用を引き受けて頂き、細かにご指導いただきました。)に、この場を借りて厚く感謝申し上げます。

最後になりますが、共同研究者である川口くん、鈴木先生、石垣先生に深く感謝申し上げます。川口くんはこの度、学部四年生でNatureの仕事を成し遂げた超新星です。日々のディスカッションも同じ目線で話しますし、とてもアクティブ、パワフルな能力溢れる芯の通った研究者です。彼でなくては、本研究は成し遂げられませんでした。引き続き活躍し続けてくれると思います。鈴木先生、石垣先生には、八年に渡りご指導ご鞭撻を賜りました。鈴木先生の分厚い土台の上で、本当に自由に研究させて頂きました。また、石垣先生におかれましては、実兄と同い年ということもあり、もう一人の兄のように思っております。目に見えるところ、見えないところで様々サポート頂いていたと思います。感謝してもしきれません。また、有機化学第一研究室の化学を紡いでくださったすべての関係者に感謝いたします。



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