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目次 
何事もなかったかのように姪っ子の相手をするKと、黙々とお雑煮の支度をしている義母を交互に気にしながら居心地の悪さを感じつつ、ただただダイニングのイスに腰掛けて、義父が観ているTVのお正月特番をじっと見つめる私。
頭の中はKの発言の真意が分からず、その理由をずっと考え続けていました。
程なくして義母はお碗を2つダイニングテーブルに置くと、
「お父さん、K、先に食べちゃって。今順番に もち焼いてるから。」
と、声を掛けました。
義父はその声に反応し、自分が座っていたソファからダイニングのほうへとゆっくり歩いてきました。
しかし、Kはきゃっきゃと楽しそうに声を上げる姪っ子の両腕を持ってニコニコしながら、
「俺は後でいい。」
と言ったのです。
すると、義母は
「片付かないから先に食っちゃえって言ってんだろ?」
と静かに言いました。
あまりおもちが得意ではなく、また自宅を出る時にお雑煮を食べて来ているKは渋々ひざの上の姪っ子を下ろし、お碗を自分の方へ引き寄せると、箸でぐるぐるとかき回し始めました。
そんな様子を横目で見ながら、もう何とも言えない気持ちでいました。
私以外は至って普通な状態だったので、その中に1人、悶々とした気持ちを抱えているのは苦痛でした。
やがて全員にお雑煮が行き渡り、どんな味だったかも全く分からないまま食事が終わると、めいめいに自分の好きなことをし始めるKの家族。
私は居場所がなく、いつまでもダイニングに腰掛けたまま、ボケッとテレビを観る振りをしました。
夕飯の手巻き寿司の時間まで、そんな状態でいないといけなかったのです。
義父は寝室でごろりと横になり、居眠りを始めました。
義妹夫婦も別室で少し昼寝をすると言って出て行ってしまいました。
Kもソファに横になりながら、テレビを観てあくびをしています。
義母もソファの近くの床に座ったまま、テレビを観ながら眠そうにしています。
さすがにまだそんな状態で横になることも出来ず、ひたすら固まったようにダイニングに居続けた私。
時間がとても長く感じました。
そんな状態でしばらくすると、義妹達がいる部屋から姪っ子の泣き声がしてきました。
しばらく続いたかと思うと、そのうち義妹が姪っ子を抱っこしながら居間に戻って来ました。
義妹は、義母に向かって
「も~、全然昼寝しないんだよ。」
と言ったのです。
義母は手を伸ばして、姪っ子を受け取り、静かに抱くと
「今朝遅くまで寝てたんだから、無理だろ?」
と言いました。
すると、そんな様子を見ていたKが
「じゃあ、Kちゃんとコンビニでも行ってくるか!」
と言って、手を伸ばし、姪っ子を抱き寄せたのです。
そして姪っ子を抱っこしたまま立ち上がり、私のいるダイニングまでゆっくり歩いてくると、私に向かって
「ほら、行くぞ。」
と声を掛けました。
私はその声に即座に反応し、立ち上がるとバッグをつかみ、先に玄関に向かったKの後を追って行きました。
正直言ってその場にいるのも限界だった私は、Kがそう言ってくれて、とてもほっとしていたのでした。
Kの実家のマンションを出て、姪っ子を真ん中に私とKとで両側から手をつないで歩いていると、通りすがりの人が、まるで親子でも見るような微笑ましい目で私達を見て行きました。
近い将来、こんな風に自分の子供と歩ける日が、私達にも来るんだろうなぁと考えながら、温かい気持ちになりつつも、やはり何だかしっくり来ない私。
年越しそばの失敗をわざわざ義母に言ってしまったKの真意が分からず、いつまでも悶々としていたのでした。
私はチャンスとばかりにKに
「ねぇ・・・さっき何であんなこと言ったの?」
と聞いたのでした。
姪っ子の手を引き、転ばないように注意をしながらニコニコとゆっくり歩いていたKは、びっくりした様子で
「何が?」
と言いました。
私は
「おそばのことだよ。何でわざわざ失敗したなんて言ったの?」
と言いながら、Kのその平然とした態度にムッとしてしまいました。
Kもそんな様子に気がついたのか、曇った顔をしながら
「別に?だって本当のことだろ?」
と答えたのです。
私はますますムッとし、
「だってそんなことわざわざ言わなくたっていいじゃない。
せっかく用意してくれたおそばを失敗してしまって、私だって申し訳ない気持ちでいたのに。
聞かれたら答えるのは仕方ないけど、わざわざ言わなくてもいいでしょ?」
と言ったのでした。
すると、Kは私の言葉を無視して、一生懸命歩いている姪っ子を抱き上げると、
「さぁ、もうすぐだからね~。」
と言ってすたすたと先を歩いて行ってしまったのです。
私も歩く速度を速めてKを追いかけましたが、追いついた時にはコンビニのドアの前でした。
Kは扉を片手で姪っ子を抱いたまま、片手でドアを押し、中に入っていくと、姪っ子を下ろしました。
姪っ子はちょこちょことお菓子のあるコーナーに曲がって行ってしまいました。
私も後に続いて閉まりかけたドアを開いて中に入ると、姪っ子の後を追いかけて歩いているKの背中をトントンと叩き、
「ねぇ、聞いてるの?」
と言ったのです。
するとKは振り返り、眉毛を下げながら、
「ああ~もう、分かったよ~。本当にごめんな~。」
と優しく言ったのです。
そして、再びニコニコしながら姪っ子の手を引き、何個かのお菓子を手に取ると、そのまま私の前を横切って、レジに並んだのでした。
私はまたもや一瞬頭の中がパニックになってしまいました。
(何で?何考えてるの?悪いと思ってる???)
たかがおそばの失敗を暴露されたくらい、何でもないことなのかもしれません。
でも私は、とても嫌でした。
そのことを分かって欲しかったし、なぜそんなことを言ったのか、どうしても知りたかったのです。
でもKの不機嫌になるどころか あっさりした態度を見ていると、そんなことは他愛のないことで、そんなにこだわる私がおかしいのではないかと思えてしまい、混乱してしまいました。
訳が分からず、立ち尽くしている私に、Kは支払いを済ますと、
「行くぞ!」
と声をかけたのでした。
さらに大きなもやもやを抱えてしまった私は、コンビニを出て嬉しそうに姪っ子の手を引き歩いているKの後姿を見ながら、とぼとぼと歩いていきました。
緩やかな坂を登って実家のマンションの入り口にたどり着くと、Kはエレベーターのボタンを押しながら、
「お前さぁ、そんな顔してんじゃ、もう(実家に)いてもしょうがねぇから、帰るか?」
とまたもや優しい口調で私に語りかけたのでした。
気分的にはその場にいたくはありませんでしたが、正月早々、これから皆で手巻き寿司をしようと言っている時に、私が原因で帰るなんてことは絶対に出来るはずがなく、私は静かに首を横に振りました。
Kはうつむく私を覗き込むようにして
「けど、そんな顔してんじゃおふくろ達になんかあったかと思われるぞ?」
と言い、にやりと笑ったのです。
確かに自分でもそんな顔をしているとは思っていましたが、
(こうさせている原因は誰なのよっ!!)
と叫びたい気持ちを抑え、唇をぎゅっと噛んだのでした。
その時、エレベーターがやってきました。
Kは姪っ子を促すと、小さな声でしたが
「怖いおばちゃんだね~。」
と姪っ子に話しかけながらエレベーターに乗り込みました。
私はそんなKの態度にブチ切れそうになりながらも、
(今は怒っている場合じゃない!)
と、自分に言い聞かせ、心の中でため息をつきながらエレベーターに乗り込んだのです。
行き先の階のボタンを押すと、エレベーターの扉が静かに閉じました。
(とにかく気持ちを切り替えなきゃ)
そう思い、Kの実家に着くまでの短い時間で必死に気持ちを高めていました。
そして結局、その後は何とか気持ちを取り直し、Kの実家で和やかな時間を過ごしたのでした。
Kもその後、実家では私のことを色々気遣い、家族と溶け込めるよう振舞ってくれたので、私も楽しくいられました。
そんな風にして私の小さなもやもやは心に押し込めたまま、何事もなかったかのように封印されていくのでした。
こだわりすぎ?
でも一体何であの時あんなことを言ったのか、未だに理解できません。
ようやくKの実家での疲れたお正月編が終わりました。
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