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泣きはらした目で出かけたくないと言っている私に、執拗に出かけようと誘うK。
もう言い出したら聞かないのは分かりきっているので、私は諦めたように
「じゃあ・・・とにかく支度するから。」
と、うつ向いたまま答えました。
しかしKは上機嫌で、
「そっか♪分かった♪・・・ゆっくりでいいからな♪」
と言い、またコーヒーをすすったのでした。
私はもう一度冷たい水で顔を洗うと、洗面台の鏡で顔を見ました。
やはりパンパンに腫れている目。
Kに分からないように小さくため息をつくと、私はそのまま化粧を始めたのでした。
行きたくない気持ちがどうしてもある為、支度はいつもより長くかかってしまいました。
しかし、Kは
「今日はお前の好きにしていいんだから。」
と言って、珍しくニコニコしていたので、いつものように急かされることもなく、気持ちが悪いくらいでした。
何とか支度を終え、
「・・・支度できたよ。」
と声を掛けると、Kは嬉しそうに車の鍵を持って先に玄関を出て行きました。
私はもう一度戸締りを確認すると、急いでその後を追ったのでした。
車に乗り込むと、Kはゆっくり車を走らせながら、
「で?どこに行こうか?」
と、また聞いてきました。
その日はいい天気でしたが気分的にあまり遠くには行きたくなかったので、私は隣駅にあるショッピングモールの名前をぼそっとつぶやきました。
するとKは
「え~そんなとこ いつでも行けるだろ?」
と言ったのでした。
しかし急にそんなことを言われても、どうしていいか分からない私は、
「じゃあ 久しぶりにみなとみらいの方にでも行ってみる?」
と、言ってみました。
付き合っていた頃、良く行っていた場所。
しかし、Kはまたもや
「う~ん。」
と うなるだけで、いい返事をしません。
私はますます気持ちが暗くなって来ましたが、本当に行きたいところなど全くないので、どうしていいか分かりません。
仕方がないので、私以外の人でもいれば気も紛れるかと
「Kの実家は?」
と言ってみました。
するとKは私の口から意外な言葉が出たことに驚いたようで、
「・・・お前、何言ってんの?実家なんか行く訳ないだろ?何で出かけようって言ってるのにわざわざ実家なんだよ?」
と言って不思議そうな顔をしていました。
いよいよ困った私はふと外を見ていると、あてもなく走っているはずの車が、どうやら高速道路に向かって走っているように思えたのです。
(高速?・・・もしかしてあそこに行くつもりかしら?)
ピーンと来た私は、
「じゃあ、お刺身でも買いに行きたい・・・かな?ちょっと遠出になっちゃうけど・・・。」
そうつぶやくと、Kは嬉しそうに
「そっか♪よし分かった!!ちょうど高速も見えてきたことだし、行ってみるか♪」
と言ったのです。
(正解だった・・・。)
私は内心そう思いながら、Kの行こうとしているところが分からず不機嫌にさせなくて良かったと思ったのでした。
高速に乗って、少々渋滞にハマりつつもたどり着いた、いつも行く市場。
Kは本当に機嫌が良く、私はそれだけでも救われる思いでした。
沢山並んだお店を一つ一つゆっくり見ながら歩く私達。
そうしているうちに、私の気持ちも上向いてきました。
買いたい物を買って、近くのお店で食事をして、どれもKの機嫌を損ねることがなかったので、ずっと機嫌は良いまま。
私も自然と笑顔になって行きました。
そろそろ帰ろうかという話になった頃、Kが突然
「ちょっと、もう1回(市場の中に)行って良いか?」
と言い出したのです。
「・・・いいけど?」
私はそう答えてKと共に再び市場の中へ入って行きました。
Kは市場の中を把握しているかのようにさっささっさと歩いて行くと、鮮魚のお店の前で立ち止まりました。
そして物色をしています。
そこはさっき買い物をしたばかりのお店。
買い忘れたものがあったのかと不思議に思いながらKの隣に並ぶと、Kが品物を指さしながら
「なぁ、あれ買わないか?」
と言ったのです。
Kが指さしたのは手作りの美味しそうな干物。
焼き魚が大嫌いなKがそんなことを言うなんて、と驚いていると、
「実家に買って行ってやりたいんだ。」
と言い出したのです。
「え?でも食べるかな?」
とっさに答えつつ、また実家に買って来たものを届けずにダメにして叱られる可能性が高いものだっただけに、私は警戒していました。
「だって、お義母さん、Kよりもっと魚嫌いでしょ?」
私がそう言うと、Kも納得したように
「まぁ・・・そうだな。」
と言いました。
しかし、次の瞬間、密かに安心している私に
「でも、こんなに肉厚で油がのってそうな魚だったら食うんじゃねぇか?」
と言い出したのです。
こう言い出したらKが買わないというはずがなく、絶対に買わずにはいられない状況です。
私は仕方がなく
「でも・・・買うなら絶対に今日届けなきゃ。分かってる?」
と言ったのです。
するとKはにっこり笑って
「帰りに寄ればいいじゃねぇか。どうせ車で来てんだから。」
と言ったのです。
「・・・じゃあちょっとだけにしておこうね、食べられるかどうか分からないんだし。」
私はそう言うとお店の人に声を掛け、干物を選んで包んでもらいました。
するとKが横でまだ何か物足りなそうな様子で魚を見ています。
そして、私が品物を受け取り、お金を払っていると、私の耳元で
「お前の実家は?」
と言ったのです。
私は
「へっ?」
と、思わず声を出しました。
弟の結婚の件で母と確執が出来て以来、年賀状を出したくらいの連絡しか取っていない私の実家。
そんなことはKも分かっているはずなのに、突然そんなことを言い出したのです。
確かに私の父は魚が大好きで、干物など毎日のように食べていましたし、Kもそのことは知っていたので、そういう言葉が出ても不思議ではないのですが・・・。
けれど状況から考えたら、ありえないことだと思いました。
私はKの言葉を聞いて一気に嫌な気持ちになり、曇った顔をしてしまいました。
するとKもそんな私の気持ちが分かったのか、
「・・・いらねぇか。」
と言って、そのまま出口のほうに歩いて行ったのでした。
一体 誰の為に出かけたのでしょうか???

結局、Kの行きたかったところに行くことになってしまうのです。
この日の話はもう少し続きます。

なるべく早く書き上げられるように、後押ししてくれると嬉しいです








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