あかね空

Story
江戸は深川蛤町。職人たちが多く暮らす長屋が並んだ裏町で、井戸から汲み上げた水をじっと眺めている旅姿の男ー京の豆腐屋で修行し、江戸で店を持つためにやってきた永吉（内野聖陽）は、近くに住む桶屋の娘おふみ（中谷美紀）と出会う。お互い惹かれ合うものを感じた二人は、京の豆腐を江戸で売り出すために力を合わす。影で見守る清兵衛（石橋蓮司）とおしの（岩下志麻）は、幼くして行方知れずになった息子を永吉に重ね合わせ、何かと力になるのだった。そして18年の時が流れ…。（goo映画より）
2006年/日本/浜本正機監督作品





評価　★★★★☆

この映画は、山本一力の人情時代小説「あかね空」（直木賞受賞作）を映画化したものです。

江戸の豆腐屋のお話なんて、退屈するだろうなーと思ってたんですが、全然そんなことはなく、最初から最後まで目が離せない展開でした。冒頭の永代橋の描写とそこで起きる事件でつかみはばっちりで、たちまち江戸の世界に引き込まれてしまいます。
キャラクターが脇役にいたるまで良く描かれていて、個人的にはおふみの父親役・泉谷しげるが面白かった。若い頃のおふみがハイテンションすぎるけど、あの頃の庶民の暮らしはこんな風だったんだなーと、想像力をかき立てられるものがあります。内野聖陽が二役で演じる賭場の親分、傳蔵が凄みがある中にも人情味を滲ませるのが上手いと思いました。
ただ、面白かったんだけど、結局何を言いたかったんだろうこの映画は？と考え込んでしまうのがちょっとつらい所かな。






評価　★★★★☆

この映画は、江戸の豆腐職人栄吉とその妻おふみが、大通りで店を構えるまでの夫婦とその子供たちとの愛情と苦悩を描いた作品です。

物語の前半は、京の豆腐屋で修行した栄吉が桶屋の娘おふみの協力もあって、江戸で京の豆腐を売り出すまでを描いており、後半は、栄吉とおふみが結婚してその18年後、大通りに「京や」という豆腐店を構えるようになって、子供たちと一緒に店を切り盛りしていく姿が描かれています。
物語の前半と後半で、おふみのキャラクターが変化しているのが面白かったですね。栄吉と知り合ったばかりの頃は、明るくて世話好きないかにも江戸の町娘といった感じのおふみが、栄吉と結婚して18年後には、長男を溺愛するあまりに栄吉と喧嘩が耐えない、子煩悩な母親の姿に変わっていきます。その反対に、栄吉は結婚前も結婚後も変わらず、家族思いだけど豆腐一筋で融通のきかない頑固な職人といった感じのキャラクターでした。

そんなおふみの変化を中谷美紀は好演しています。彼女の出演作は色々観ていますが、この映画でやはり芝居の上手い女優さんなんだなと感じましたね。栄吉演じる内野聖陽も、この映画では栄吉の他に賭場の親分、傳蔵の一人二役を演じていて、様々な役を演じ分けられる俳優さんだと思いました。
その他にも栄吉とおふみを影で見守る相州屋の清兵衛（石橋蓮司）と女房おしの（岩下志麻）が登場したり、「京や」を乗っ取ろうと画策する平田屋（中村梅雀）が登場したりと、脇を固める出演人も豪華で、時代劇らしい人情劇が描かれており、観ていて飽きさせない展開になっていました。

また、江戸の食文化といったものも感じさせられて面白かったですね。京の豆腐が柔らかい京風豆腐だったのに対し、江戸の豆腐は腰の固い木綿豆腐で、大きさも京の豆腐の４倍近くあったそうです。そのせいで栄吉の京風豆腐は当初、深川でなかなか受け入れてもらえず売れ残ってしまうのですが、江戸と京の人の味覚の違いが豆腐に現れていて、当時の食文化の違いを感じさせられました。
栄吉の豆腐はどちらかというと庶民の食べ物ではなく、お寺や料理屋で出されるような今で言うグルメな人のための豆腐だったようです。本当に美味しい豆腐というのは、豆腐になる前の豆乳も絶品の味だそうで、おふみがお乳の出ない娘のために、豆乳を赤ん坊に飲ませてあげるシーンがありました。

時代劇があまりお好きではない人にも、この映画は楽しめる要素が色々散りばめられているのでオススメです。


映画『あかね空』公式サイト


（「あかね空」2007年3月　名古屋　伏見ミリオン座にて鑑賞）