放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

IMRT検証:線量許容値の決定方法

2008年08月10日 | QA for IMRT
放射線治療と医学物理 第33号

Parminder S. Basran, et al.: An analysis of tolerance levels in IMRT quality assurance procedures, Med Phys, 35, 2008

IMRTにおけるQAガイドラインの思想および方法論はAAPMよりレポートとして報告されています。このIMRTにおける独立したMUの計算として、各々のセグメント毎にチェックをすることは現実的に困難であるため、歴史的に電離箱およびフィルムを用いて絶対測定および線量分布の検証がなされてきました。ICRUのレポート24では線量計算の精度を5%と定めており、IMRTのプランが現実的に照射可能であるならば本規定値は考慮されるべきです。しかし、実際にはより優れたアルゴリズムの開発、より複雑なフルエンスパターンにともない、高線量および傾斜の少ない領域において2%-3%、高線量および急な傾斜の領域において4%程度の値が可能となってきています。結果的により少ない許容値が適用されるようになってきていますが、国際的なstandardとなりうる指標は存在せず、また上記のようなわずかな値を採用する根拠も十分に記載されていない状況にあります。ゆえに本論文は許容値を提案する上での状況を報告することにあります。
筆者が目的としているのは下記です。
1. 2つの異なるIMRT-QAプロセスの結果の解析(独立したMU計算および2次元ダイオードアレイの測定)
2. IMRT-QAとして実施された異なる方法論間の関係が得られるか。
3. より効果的なIMRT-QAプロセスが可能かどうかを判定するためのdecision tree。
これらの目的はIMRTプランニング、独立したMU計算、ダイオードアレイ測定によって記録される乖離の統計的評価(片側および両側t検定、Fisher’s F検定)によって行われています。
(本報告では使用すべき許容値を報告するのではなく、IMRT-QA結果の解析が実際の臨床現場において適切な許容値を選択する際に役立つよう、ガイドラインを提供することを目的としている)

解析は過去3ヶ月のデータであり、前立腺、頭頚部、肺に区分し、全MU値、光子ビーム、処方線量値、fraction毎の計画線量が記録された。

本報告はカナダからのものですが、非常に興味深いIMRT-QA decision treeが示されています(論文後半において改定されます)。
1. 全てのIMRTプランは、まず別の独立したMU計算(IMSURE)にてチェック。
2. もし治療部位が前立腺の場合、上記のMU計算による結果の乖離が個々のビームにおいて5%以内、全てのビームの合算で3%以内の場合、測定は行わずQAは終了(ただし、1回の処方線量が3Gyを超える場合は除く)。
3. 上記許容値が超えた場合、および前立腺以外の場合はダイオードアレイによる2次元測定行う。
4. 各々のビームをsolid phantom(30 x 30 x 30cm)に置き換え、ガントリ角度およびコリメータ角度を0とし、アイソセンターを10cm深(3 x 3mmのresolution)に設定。この10cm深における平面の線量分布をダイオードアレイ(MapCheck)と比較。γ indexのCriteriaは3%-3mm、10%以下の線量はカット。個々および全てのビームの線量の乖離、γ値、(MapCheckの校正は測定前に22cm X 22cmの照射野を用いてなされている)
 
結果は以下である。
1. 独立したMU計算(IMSURE)とTPSの比較。前立腺および頭頚部照射ビームにおいて個々および全てのビーム線量の乖離は統計的に有意でない(治療部位による差はない)。しかし、肺は上記2種類に比較し有意な差が見られる。(Fisher’s F test)
2. ダイオードアレイとTPSの比較。全ての測定結果(乖離)は測定誤差内に存在し、非常に良好な結果となっている。γ分析におけるγ値の平均は前立腺と頭頚部、前立腺と肺、頭頚部と肺で有意差が認められた(片側t検定)。(IMRTの複雑さに起因)
3. ダイオードアレイと独立計算ソフト(IMSURE)の比較。総線量および個々のビームの線量の乖離に関連性はない。しかし、個々のビームにおいて25%の乖離も観察されている。これは小さな線量投与の場合に生じている。これを除けば10%程度である。
上記データを利用した統計的解析(95%信頼区間)から導かれた改定許容値は以下である。
独立した線量計算:total. 3%, Beam. 5%
ダイオードアレイによる測定(頭頚部以外) total. 2%, Beam. 3%, Gamma 95%
ダイオードアレイによる測定(頭頚部以外) total. 2%, Beam. 3%, Gamma 88%

結論および勧告は以下である。
1. MUの妥当性確認における総線量の乖離は照射部位に依存しない。
2. 独立したMUの検証結果の良否はダイオードアレイの測定結果の良否と関与しない。
3. 個々のビームのMU計算による検証を行う際乖離値が大きくなることがあるが、新しい線量ポイントを再選択することで少々利益がある。
4. 照射するに安全と考えられるIMRTプランのQA結果の統計的解析は、IMRT-QAにおける洗練された許容値の設定に用いることができる。

 個々の施設は自身のQAプロセス、使用する装置や必要度に応じて許容値を作成すべきである。QAテストの通過許容値はIMRTの計画が安全であることを暗に示すものではなく、責任ある認定医学物理士によってIMRTの計画が安全かどうかは判断される必要がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
筆者も記載しているように、IMRTの許容値の選択は使用している機器や必要性が異なるために各施設にて行うべきである。IMRTの許容値の設定方法が示されたことにより、現場でのcriteriaの設定が容易となった。設定の際に参考としたい。

詳細は論文で。