noribo2000のブログ

特定のテーマにこだわらず、意見やアイデアを表明するブログです

著作権についてのパブリックコメント (1)私的録音録画補償金制度の撤廃について つづき

2005年09月21日 | 科学技術・システム・知財など

先日のブログで私的録音録画補償金について考察し、その内容を暇人#9さんのブログにトラックバックしたところ、「補償金額は利益のマイナス分の補填ではない。」という点と「『私的複製』の議論に広げるならば、CDレンタルやエアチェックなどについても考察が必要である。」という点を指摘していただきました。パブコメを出す上で、大変参考になりました。今日のブログではこの2点について私見を整理してみたいと思います。

(1)「補償金額は利益のマイナス分の補填ではない。」について

先日のブログでは、

「つまり、私的複製が可能な機材が存在することによって、3%の利益のマイナスが生ずるので、レコード会社はそれを補償してもらった、という風に解釈することができるのです。」

と書きましたが、それは私的録音録画補償金が創設されたときの歴史的経緯からして正しくない、と暇人#9さんにご指摘を頂きました。創設時には実際にはそのような損失の計算をしたわけではなかった、とのことでした。

これが事実であればとんでもない話で、損失があるかないか、あったとしてどの程度なのかの評価も無く、暇人#9さんの言い方を借りれば「「権利者」の脳内ファンタジー」だけでユーザから補償金を徴収しているということになるのでしょうか。

私は、損失が発生しているならば何らかの補填手段が必要であると考えます。その補填手段が権利者と利用者の間でおおよそのコンセンサスが得られるのであればそれでよいと思います。しかしながら損失が発生していないのにあたかも発生しているように見せかけて、強制的に補填を迫るのは到底許しがたいと考えます。私は少なくとも損失の存在がある程度定量的に示されない限りは、どのような補填手段であれ納得することができません。


前回のブログでは自身が購入したCDの複製による損失は存在せず、従って私的録音録画補償金制度はおかしい、ということを主張しました。そこに抜けがあったことは暇人#9さんの指摘するところです。そこで今回のブログでは暇人#9さんの指摘に従って、レンタルCD、エアチェックについて損失が発生しうるかどうか、検討してみました。


(2)CDレンタル エアチェックによる損失について
(2-1)CDレンタルによる損失について

■損失は存在するか(定性評価)
単純に考えてCDレンタルで借りれば商品のCDを購入する必要が無いわけですから、レンタルCD事業がある以上はレコード会社に少なからず損失が発生しているものと思われます。

■CDレンタル事業者による利用料(報酬)の支払い
CDのレンタルについては、1985年に著作権法が改正され、CDリリース後1年間のレンタルの許諾・禁止を決定できる「貸与権」とその後著作権が消滅するまでの49年間にレンタルすることによる報酬を取得できる「報酬請求権」とがレコード製作者に認められ、それと引き換えにレンタルCD事業が合法とされるようになりました。

『貸与権』については日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDV-JAPAN)が管理しており、1レンタルあたりアルバムであれば50円、シングルなら15円をCDレンタル事業者から徴収し、権利者に支払われる仕組みになっております。

『報酬請求権』については日本レコード協会(RIAJ)が管理しており、1枚のCDアルバムあたり使用料として330円をCDレンタル事業者から徴収し、権利者に支払われる仕組みになっています。

■報酬の妥当性
先のブログでは、レコード業界の営業利益は売り上げの3%程度と仮定して計算したので、ここでも同じ仮定を用いると、3000円のアルバム1枚あたりの営業利益は90円となります。

リリース初年度については1レンタルあたり50円が補填されるので、本来得られるはずの営業利益の56%を得ることができます。買ってまで聞くつもりはないが、レンタルされているならばお試しのつもりで借りる、という利用形態もあるので(CDV-Japanの資料 p10参照)、レンタルされたCDのうちおよそ半数がもしレンタルCDショップが存在しなければ購入の対象になっていたであろうとする仮定は、十分権利者に配慮した価格設定であると思われます。

リリースの2年目以降はCD1枚あたり330円の報酬が支払われます。これは、3.6枚分の営業利益に相当します。リリースから1年以上経過したCDがどの程度貸し出されているか、という具体的なデータを持ち合わせていないのですが、感覚的にはちょっと少なめかなという気もします。もしもっと貸し出されているという実績があるのであれば、330円ではなくもう少し多めに価格を設定しても良いかと思います。いずれにしても定量的に損失を算出して欲しいものです。

■私的録画録音補償金の是非について
上記で示したとおり、レンタルCDについてはレンタルCD事業者から権利者に対し損失を補填する仕組みがすでに存在しており、少なくとも初年度については2回のレンタルで1枚のCD購入と同程度というかなり良い条件の報酬を得ることができます。2年目以降については、若干報酬額が少なめではないかとの印象を持ちますが、それが定量的に示されるのであればこの仕組みの中で適正な値段を設定すれば良いだけだと考えます。

このような仕組みが既に存在しているので、さらに「私的録画録音補償金」を徴収することは権利の二重請求となり不適当であると考えます。


(2-2)エアチェックによる損失について

■権利者は誰か
放送の録音については、まず誰が「権利者」なのかを明確にする必要があります。実は放送の権利者は放送事業者であり、放送で使われるレコードの権利者は放送事業者に対し権利を行使することはできますが、放送の視聴者に対し権利を行使することはできません。

放送事業者はその中で流される音楽などについては事前にJASRACに使用料を支払っています。(放送事業者の年間収入の1.5%と決められている)従って放送事業者と音楽の権利者との間では、権利処理が双方合意のもと済んでおり、以降の議論では音楽の権利者のことは切り離して議論できると考えます。

■放送事業者・視聴者の権利
上記の議論で、放送の権利者は放送事業者であることを述べました。放送事業者の権利、視聴者の権利は下記のとおりです。

放送事業者の権利:
  放送の複製権(著作権法第98条)
  放送の再放送権・有線放送権(同第99条)
  送信可能化権(同第99条の2)等

視聴者の権利:
  放送の私的複製(同第30条)

■損失とは何か?
放送を私的複製することによって、上記で述べた主な3つの権利にどのような損失が発生するか考察しました。

【放送の複製権】
放送番組を後にパッケージ化して販売することが放送の複製権行使の具体的な例として挙げられます。放送の私的録音が存在することによって、録音をした視聴者に対しパッケージメディアを売ることができないため、ビジネス機会の損失となる可能性があります。しかし、放送番組を権利を行使するか(パッケージ販売するかしないか)は放送時点(=私的録音を行った時点)で決定していないことが多いため、私的録音しただけで損失があるかどうかを判断することはできません。

むしろ放送番組のパッケージ販売を行う時は、放送の特性上、以下の条件が不可避であると認識した上でビジネス戦略を組み立てるのが適当なのではないかと考えます。

1.既に内容は放送され、多くの一般大衆に知れ渡っていること
2.放送内容は私的に複製されている可能性があること

例えば未放送部分の特典映像をつける、豪華ポスターをつける等によって、私的複製と差別化を図る、などの戦略がありえると思います。

このように上記の2点はビジネス上の前提条件であり、この2点の存在によってビジネス機会が損失したとまではいえないと考えます。
これを一律「私的録音録画補償金」の形で徴収するのは不適当であると考えます。(ビジネスとして実施しない分まで「補填」することになりかねません。)

【放送の再放送権・有線放送権】
再放送することで再度スポンサーから広告収入を得るという放送事業者のビジネスにおいて、私的複製の存在によって視聴率が低下し思うように広告収入が得られない、という形の損失が考えられます。

しかしこの件についても、「放送の複製権」で述べたのと同じ論理が適用できると考えています。すなわちビジネス上の前提条件として、上記の1.2.を想定して広告枠の販売戦略を考えるのが筋であると考えます。例えば平日ゴールデンタイムに流した番組を休日の昼に再放送することで、異なる視聴者層に対して見せるなどの戦略が考えられます。(視聴者層が異なるので、私的複製による視聴機会の損失も少なくできるという効果もあります。)

これを私的複製したからといって一律「私的録音録画補償金」の形で徴収するのは不適当であると考えます。

【送信可能化権】
この権利についても上記2つの権利に対する考え方と同様であり、パッケージメディアや再放送がインターネット上でのオンデマンドサービス等に変わっただけです。これもどの放送番組を送信可能にするかを決定するのは放送終了後であり、また放送番組の特性上、上記の1.2.を前提条件として考えなければならないため、今までの議論と同様一律「私的録音録画補償金」の形で徴収するのは不適当であると考えます。

 

まとめ

以上述べてきたとおり、暇人#9さんに指摘されたレンタルCD、エアチェックそれぞれについても、特に「私的録音録画補償金」の形で損失を補填すべきケースを見出すことができませんでした。レンタルCDについては既に権利者の損失を補填する仕組みが別に存在するので、「私的録音録画補償金」による損失の補填は不要と考えます。また、エアチェックについてはそもそも放送時点で放送事業者が権利を行使するとは限らないこと、損失と見えるものは単に放送というものの特性からくる前提条件に過ぎないことから、「私的複製によって損失が発生した」とまではいえないと考えます。


今後の課題

もしかしたら中古CD販売については権利者に一定の損失を与えている可能性があります。こちらについてどのようになっているかも、パブコメを出す上では押さえておかなければならないと考えます。また後日ブログで調査結果をまとめようと思います。