9月8日に文科省が「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過」についてのパブリックコメントを求む、との告知を行っています。この委員会では昨今の技術を踏まえた著作権法の改正をどのように進めるべきか、という議論を行っています。パブリックコメントの締め切りは1ヶ月後の10/7までで、メールで送付しても良いそうです。私も一言二言言っておこうかなと思うことがあります。今回は「私的録音録画補償金」について私見を書きます。
もともとの著作権法では私的な複製は自由だったのですが、DATなどの出現によりデジタルで品質劣化することなく複製が可能になったため、平成4年に著作権法が改正され、私的にコピーすることができる機材に対し「私的録音録画補償金」を徴収し、権利団体に分配することになりました。(平成5年より施行)
録音については社団法人私的録音保証金協会(SARAH)というところが機器メーカーから補償金を徴収し、定められた比率に従って各権利団体に分配されることになっています。
(参考)
SARAHの平成16年度の収支
徴収した補償金: 2,142,930,520円
分配した補償金: 1,798,247,683円
内訳
(社)日本音楽著作権協会 : 647,369,165円
(社)日本芸能実演家団体協議会: 575,439,259円
(社)日本レコード協会 : 575,439,259円
ここで身近な日本レコード協会に注目すると、日本レコード協会は昨年度分配金として5億7543万円を受け取っています。一方レコード協会によれば昨年出荷されたCDの売上高は5591億円だそうです。レコード業界の営業利益を売上高の3%程度と仮定する(昨年度のエイベックスグループの実績より類推)と168億円となり、分配金の5億7543万円とは、レコード業界の営業利益の3%程度に相当します。
つまり、私的複製が可能な機材が存在することによって、3%の利益のマイナスが生ずるので、レコード会社はそれを補償してもらった、という風に解釈することができるのです。
この制度について、私が腑に落ちない点を以下に示します。
まず私的複製とは、個人、または家庭内の利用において複製をすることであると著作権法第30条で規定されています。これをまず頭に入れて置いてください。
この私的録音録画補償金制度の存在理由を噛み砕いていうと
「私的複製を行う機材が存在しないとしたら、その家庭は同じCDを必要な枚数買ってくれるはずである。またはパッケージのフォーマット(MDとかMP3とか)が変わったらCDと同じ音楽であってもフォーマット毎に買ってくれるはずである。しかし現実にはそのような機材が存在するので、レコード会社のビジネスチャンスが奪われている。だから、そのような私的複製ができる機材に対し補償金を徴収してビジネス上の損益を穴埋めして欲しい。」
ということになろうかと思います。
しかし、本当に複製ができる機材が無ければCDを必要数分だけ購入するのでしょうか。私にはそのような状況を想像することができません。下記の2ケースで日本の一般的な家庭で想定される状況をまとめました。
(1)同じCDを何枚も買うか?
家庭内で兄がCDを持っていて弟もそのCDを聞きたい、という状況があったとします。CDを複製する機材があれば弟は兄のCDを複製して利用しますが、機材がなければ兄からCDを借りるまでです。機材がない場合でもよほど裕福でない限り弟は兄と同じCDを買おうと思わないでしょう。
(2)メディアの種別毎に音楽を購入するか?
CDを購入しそれを外で聞きたい場合、CDからMDにコピーする機材があれば外で扱いやすいMDを持ち出すが、その機材が存在しないならば、CDウォークマンを購入してCDごと外に持ち出すだけである。またパソコンで音楽を聴きたい場合MP3に変換できる機材があればファイルとして扱いやすいMP3で聞くが、存在しない場合はそもそもパソコンで音楽を聴かないか、CD-ROMドライブにCDを挿入して聞くだけである。
逆に様々なフォーマットにユーザ側で自由に変換することで、音楽を聴くシチュエーションが増え、CDの総売上に寄与するのではないかと考えます。例えば、ウォークマンの登場によってそれまで自宅でしか聞けなかった音楽が街中で聞けるようになりました。これにより人が音楽に接する時間が長くなり、CDの売り上げ増にもかなり効果があったのではないでしょうか。最近の例でも、CDからHDDレコーダに複製することでCDのときには考えられなかったような量の音楽を外に持ち出すことができるので、これまでの「聞きたいものを購入する」から「聞くかもしれないものを購入する」という購入形態をとることも考えられ、逆にCDの購入にも拍車がかかるのではないかと思います。
結局、複製する手段があっても無くてもCDの売り上げには関係なく、私的複製によるレコード会社の損害は実質的には存在しないのではないでしょうか。少なくともCDを購入した3%の家庭内で私的利用のために余計にCDを購入する、という状況は非常に想定しにくいです。存在しない損害をさも大きな社会問題であるかのように誇張しているように思えますので、本制度は早急な見直し、撤廃が必要であると考えます。逆にフォーマット変換などはむしろそのような機材の存在によって音楽を聴くシチュエーションが増え、ビジネスチャンスが広がる方向なのではないかと考えますので、極端に言えば補償金をメーカから徴収するのではなく奨励金をメーカに払うぐらいした方が良いのではないかと思います。
なお、友達と貸し借りするとかインターネット上にアップロードする、などの行為はそもそも著作権法上の「私的利用」にあたりませんので、著作権法侵害行為です。この侵害行為に対し補償したい、という気持ちはわかります。しかしそのような侵害行為に対してはコピープロテクトや損害賠償などの手段で補償するべきであり、私的複製の補償金でそれをまかなうのは筋違いと考えます。