皇居の落書き

乱臣賊子の戯言

皇位継承の問題について(戦前と戦後。領域の問題)

2024-05-02 23:22:36 | 皇室の話(3)
皇位継承の問題について、この20年近くの状況を見ていると、具体的な選択肢に係る議論がほとんどであるようだ。

結局、最終的には選択肢の選択ということに帰着するのかもしれないが、どうせなかなか集約し難いようであるならば、この際、より根本的で広い観点から考えてみるというのも、意味のあることなのではないかと思う。

そのためのとっかかりとして、まずは、現在の皇室制度とは、そもそも何なのかということがあると思う。

現在の皇室制度は、憲法の第一章、第一章中の第2条に基づく皇室典範、それと皇室経済法によって、ほぼ定められていると言えるであろう。

これらの制定過程については、すでに専門家によって十分な研究がなされているところであり、大雑把に言ってしまえば、戦前の皇室制度をベースにしつつ、GHQの要請する新しい憲法理念に合致するように必要な限度で改変したということになるであろうか。

その典型的な例は、天皇という御存在について、統治権の総覧者から象徴に改めたということがあるであろう。
当時の日本政府の担当者は非常に尽力しており、立派な業績をあげたと思うのだけれども、その際に、十分に採用されなかった視点として、どこからどこまでが国民主権原理に基づき定めるべき領域で、皇室が自律的に定めるべき領域との境界はどうあるべきか、ということがあると思う。

これは、当時としては、敗戦国が占領下で行っている作業なわけだから、皇室が自律的に定めるべき領域といった問題意識を俎上に載せることはできなかったというのも、無理からぬことではある。

そして、結局、全面的に国民主権原理により制定される形式となったが、それでも戦後、昭和時代までは、日本の政治指導者層において、皇室の御意向をくみ取りつつ施策に反映させるという見識があったであろうし、また、実際のところ、皇室制度を大きく変える必要がないままに過ぎていったので、この領域の問題については表面化しなかったのかもしれない。

それが平成時代となり、皇位継承資格者の確保ということが大きな問題として顕在化することとなった。

悠仁親王殿下がお生まれになるまで、皇室には数十年も男子が誕生しておらず、そのままでは皇位継承資格者がいなくなる状況となっていたのである。
このことの制度上の要因は、皇位継承資格を男系男子に限定していることにある。

筆者としては、制度上の問題が明らかとなり、その在り方の検討が必要となった時点で、この領域の問題については、もっと意識されてもよかったのではないかと思うのである。

天皇の地位や権能については、国民主権原理から定めるべきであると考えられ、これらは憲法において基本的なことが定められている。

一般の国民とは異なる身分の皇室の身分、権利、その構成メンバーの範囲なども、国民主権原理から定めるべきものと考えられ、これらは皇室典範において基本的なことが定められている。

さて、問題となるのは、皇位継承資格である。

憲法第2条において、「皇位は、世襲のもの」と定められているので、血統に基づくというのは最低限の要件であろう。

ただ、歴代の天皇の血統に連なる方々に、どのような順位で皇位を継承させるかについて、どこまで国民主権原理に基づかせることが適切であるのだろうか。

天皇の地位や権能、皇室の身分、権利、その構成メンバーの範囲などを国民主権原理で定めるということが確保されているのであれば、皇室の中のどなたをどのような順番で継承させるかといったことについては、国民の権利・利益に関わる話ではないので、国民主権原理から口を出すべき根拠というものがないのではないか。

仮に。国民主権原理から口を出すとなれば、国民主権原理の本質としての自己決定権、個人の尊厳といった観点からの要請なのであって、男女の違いの解消、即位の辞退の承認といった話になるのではないだろうか。

皇位継承資格について、現在の皇室典範は、「皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」と定めており、これは旧皇室典範の「皇統ニシテ男系ノ男子之ヺ継承ス」を踏襲したものであるが、旧皇室典範は制定権者が天皇であったので、「皇統ニシテ男系ノ男子之ヺ継承ス」と定めることにつき、領域の問題は生じなかった。

しかし、現在の皇室典範は「法律」であり、制定権者は立法府であるため、領域の問題が生じてしまうのである。

男系男子の維持について、皇室が自律的に定めるべき領域において、それを主張するのであれば、正当性はあるであろう。

しかしながら、国民主権原理の側、要するに立法府で決定権を有する政治家たちが、それを主張することの正当性の根拠はあるのであろうか。
法理的に根拠あるものとは言えないのではないだろうか。

仮に、皇室の側において、男系男子の維持が最優先であるというご意向があったとして、それをくみ取り、実現させるためということであるのなら、法理の問題はともかくとして、政治の営みとしては賢明なものであるのかもしれない。

しかしながら、現在の状況は、とてもそのようなものではない。

まず、皇室の側の意向であるが、例えば、平成17年12月19日、当時の天皇陛下の記者会見において、以下のやり取りがある。

----引用開始----
問3 皇室典範に関する有識者会議が,「女性・女系天皇」容認の方針を打ち出しました。実現すれば皇室の伝統の一大転換となります。陛下は,これまで皇室の中で女性が果たしてきた役割を含め,皇室の伝統とその将来についてどのようにお考えになっているかお聞かせください。
天皇陛下
皇室の中で女性が果たしてきた役割については私は有形無形に大きなものがあったのではないかと思いますが,皇室典範との関係で皇室の伝統とその将来についてという質問に関しては,回答を控えようと思います。
私の皇室に対する考え方は,天皇及び皇族は,国民と苦楽を共にすることに努め,国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが,皇室の在り方として望ましいということであり,またこの在り方が皇室の伝統ではないかと考えているということです。
女性皇族の存在は,実質的な仕事に加え,公的な場においても私的な場においても,その場の空気に優しさと温かさを与え,人々の善意や勇気に働きかけるという,非常に良い要素を含んでいると感じています。その意味でも皇太子妃の健康が現在徐々に快方に向かっていることは喜ばしく,一層の回復を待ち望んでいます。
----引用終了----

制度改正に直接関わるようなお答えは控えられているが、それでも、男系男子の維持が最優先であるというご意向があったのであれば、このようなお答えにはならないであろう。
皇室における女性皇族が果たしてきた役割、女性皇族の存在に対する肯定的な評価を述べ、また、望ましい皇室の在り方、皇室の伝統についての言及内容は、性差に関わるものとは全く思えないからである。

また、皇室の意向を政治家の側がどの程度くみ取ろうとしているかであるが、どうも安倍系保守勢力というのは、皇室をマネジメントの対象と捉えているようなのである。
「八木秀次氏が明かした憲法改正の方向性」参照

これは、八木秀次氏の記事における表現であり、やや間接的なものであるかもしれないが、平成の時代における天皇皇后両陛下と安倍政権との関係をよく表しているように思われる。

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