皇居の落書き

乱臣賊子の戯言

皇位継承問題についてのその後の検討

2005-05-01 18:43:04 | 皇室の話
随分とブランクがあいてしまった。
皇位継承の問題については、有識者会議においても、理解が深まりつつあるようである。
ただ、理解が深まれば深まるほど、どうしてよいか分からなくなる、今は、そういう状況にあるのではないだろうか。
メディアにおける議論の状況としては、伝統的な価値を否定したいという勢力と、それはけしからん事であるとしてそのような勢力と戦おうとする勢力との対立という構図が見えなくもない。
そして、そういう対立の構図に身を置いている方々にとっては、主張すべき方向性というものは、明確なのであろう。
しかし、そのような対立の構図から離れて、日本と日本人と、そして皇室の未来のために、どのような在り方がよいのだろうかと考えると、なかなか答えがでないところだ。
この行き止まりの状態については、3月10日の「女性天皇の議論について,筆者の悩み」でも、また、3月13日の「女性天皇の議論について、一つの視点」でも、すでに述べたところであるが、さて、そのような状況から、一歩を踏み出すにはどうすればよいのだろか。
結局、筆者としては、自分自身の皇室に対する思いということを、改めて考えてみるしかないと思うのだ。
そこで、筆者として、自らの皇室を大事だと思う気持ちを突き詰めていくと、まず、皇室の方々が、他人への思いやり、まじめさ、などなど、人生の上でとても大事でありながら、しばしば見落とされがちな徳目を、真っ正直に実践されているということがある。
「きれいごと」と言ってしまうのは簡単であるが、実践するとなると、なかなか難しいことであるし、日常生活においては、そのようなことを考えている余裕が無いというのが、多くの人の実状ではないか。
そのような中、象徴というお立場にある方々が、このような「きれいごと」に真っ正直に取り組んでいるのである。
ふと振り返って、そのようなお姿を見るにつき、「「正直者がバカを見る」などといって、ふてくされていてはいけないのだ、バカになってもいいではないか」と、小心者であり、お人好しである筆者のような人間は、大いに励まされるのである。
次に、その運命的な境遇ということがある。
皇室には、多くの人々が享受している自由というものがない。皇室に生まれれば、生まれたときから皇室の者として生きなければならず、しかも、そのお姿は、多くの人々に注目されるのである。多くの人々の、時に身勝手な期待のこもった視線に耐えて生きていかなければならない。
苛酷なことであるはずだが、それでも、自らの境遇を受け止めて、日本と日本人の幸せを祈られるのである。
自らの境遇を受け止めるということと、他人への思いやりの大切さは、年をとるごとに、じわじわと実感されてくるものであるが、やはり、皇室とは、意義深いものであるなと思わせられる。
そして、このような皇室の境遇とも関連するが、皇室の長い歴史ということも重要であろう。
日本と日本人とは、皇室を中心に戴くことによって、独自の文化をもった共同体として発展してきた。
古来より、大陸から様々な影響を受けながらも、それに飲み込まれずに、一つのアイデンティティある共同体であり続けられたのは、皇室があったからである。
そのような皇室に対する思いを馳せるとき、皇室との絆のみならず、そのような皇室を大切にしてきた過去の日本人との間の絆をも、想起させられるのである。
筆者として、皇室を大事に思う気持ちを振り返ってみると、大まかには、このようになる。
さて、ここで、「男系」「女系」の問題であるが、筆者自身の、皇室を大事に思う気持ちの要素としては、「男系」ということは含まれていない。
皇室に対しては、もっと、人間的な、人と人との絆という理解をしているので、「男系」だから崇拝するとかしないとか、そういう考え方というのは、理解不能である。
また、皇室の歴史について考えるとき、皇室とは、そもそも、日本及び日本人とともに、誕生したのではないだろうか。
「日本」と「日本人」がすでに確立しているところに、「皇室」が外部からやってきたのでもなく、また、「皇室」という存在がすでに確立しているところに、「日本」と「日本人」が生まれたのでもないのではないか。
日本と日本人、そして皇室とは一体の存在であり、一体の存在として、何時かは分からない遠い昔から、自然発生的に生まれ、発展してきたのではないだろうか。
そして、そうであるとすれば、皇位継承についての「男系」という原理を絶対視し、まず「男系」という原理ありきで、その上に皇室の歴史が築かれてきたという考え方をするとすれば、それも少々おかしな話ではないだろうか。
「男系」ということについては、皇室が、日本と日本人と一体のものとして確立していく過程で、多くの人々の意識を反映し、自然発生的に生まれてきた原理のように思われるのである。
昨年の10月22日に「天照大神と素戔嗚尊と男系思想」という記事を書いたが、もっと身近な話として、やはり、社会に出るのは男の役割だという意識が、かなり根強かったのではないか。
女性については、「奥さん」というような言葉もあるとおり、社会には出てこない。そういう役割分担があったのではないだろうか。
そして、そのことから、「天皇」には本来男性がなるべきで、女性は緊急避難的な場合にのみ限られるという意識が生まれていたのではないだろうか。
ここで、現在、女性が天皇になるかどうかと女系とは別な議論という言い方もしばしば見られるのであるが、実際問題としては、密接な関係があったであろう。
天皇の地位が「世襲」であるということは、要するに誰の子であるかを重視するということなのであるから、そのような緊急避難的な女性天皇の子には、正当性を認めにくいことになったであろう。
天皇の地位を、畏れ多いものと考えるのであれば、異例のことはできるだけ避けるべきあるという意識が当然にあったものと思われるし、その異例の女性天皇の子の即位ということを考えるなど、思いもよらないことではなかったのか。
「男系」が続いてきたことの理由は、天皇の地位を非常に畏れ多いものと考える意識と、男女の役割分担の意識、こういうことではなかったのかと考える。
さて、そうすると、現在の状況は、いかがであろうか。
まず、天皇の地位を非常に畏れ多いものと考える意識というのは、現在も、しっかりと存在するのではないだろうか。
百二十五代にわたって一度の例外もなく男系であったことを重視する立場というのも、このような意識から生まれたのではないか。
筆者としては、百二十五代続いてきたことなのだから、絶対的な原理だという主張には、首を傾げたくなるが、このような意識の一環ということであれば、十分理解できるのである。
難しいのは、男女の役割分担の意識である。
建前としては、男女共同参画ということが言われている。
実際どうであるかは、なかなか難しいところだが、この問題については、もう一つ、のっぴきならない問題がある。
それは少子化である。
女性が社会で活躍することは、労働力人口の確保の点からも重要なことであるが、一方で、子どもを生まない女性が増えており、このままでは、日本人が消滅してしまうということも、十分あり得る話になってきたのである。
建前は建前として結構であるが、それだけでは済まない側面を有していると言える。
筆者としては、昔ながらの在り方が、やはり、大いなる知恵であったと思う。
もちろん、能力ある女性の社会進出を阻む要因があれば、それを除去することも必要であるが、家事・育児という役割の重要性の再認識ということも、もっと注目されるべきではないか。
仮に、家事・育児が、あまり価値のない、厄介ごとと認識されているとすれば、家事・育児という役割を担う者にとっては、自分自身の存在意義を見失うこととなり、心の安定は得られにくくなってしまうであろう。
しかしながら、家事・育児は、どうしても不可欠な人間生活の営みの一つであるし、多くの女性がそれに携わっているという実態があるのだから、まずは、その重要性を見直すことの方が、多くの人の心の平安という点では、近道であると思われるのである。
若干、話がそれてしまったが、そうであるが故に、筆者としては、やはり、「男系」は、絶対的な要件ではないにしても、維持されるべきではないかと考える。
以上、これまで述べてきたこととあまり内容は変わらないが、5月4日の産経新聞の「■【主張】女性天皇 伝統重んじる論議を歓迎」に、何となく物足りなさを感じたので、書いてみたのである。
例えば、記事中、
「日本は百二十五代にわたりひとつの皇室が連綿と続いてきた。しかも一度の例外もなく男系(父親の系統)が皇位を継承し、歴史上八人いる女性天皇も緊急避難的なもので、その後は男系男子の皇族が継いでいる。
 国民もこうした連続性と伝統の故に天皇や皇室を崇拝し、そのことで国の統一や文化を保ってきたのである。」
という箇所があるが、さて、男系であるが故に崇拝するという意識が、筆者にはよく分からない。
また、
「繰り返すが、国民の皇室への敬愛が維持できる皇位継承を考えることが、最も大切なのである。」
という箇所がある。
これは「女系」を認めると、認めた途端、左派、朝日などから、正統性が疑わしいとして攻撃されることを懸念したものと思われるが、これも微妙である。
あくまでも「男系」となれば、伏見宮の系統に頼るしかないが、それはそれで、「皇室制度というものは、国民との絆とはあまり無関係な硬直した制度である」と攻撃される可能性もあろう。
これはこれで、なかなか強力な攻撃ではないだろうか。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする