現在、民主党政府は皇室の御活動の安定を図るため、いわゆる「女性宮家」の創設を検討している。
政府は、平成17年、小泉内閣の時代に提出された「皇室典範に関する有識者会議」報告書を前提に検討しているが、はたしてその報告書がいかがなものなのか、持留忠二・本会副会長がかつて当時述べた意見を記してみたい。
1、はじめに
戦後半世紀たった頃、「第4の国難」という本が発刊された。第4の国難とは主体性、気概、誇りのすべてを失った閉塞感の漂う平成の今を指す。
これに追い打ちをかけるように「皇室典範に関する有識者会議」が僅か30時間の会合で協議した皇室典範改正案が発表された。
ちなみに旧皇室典範は15年の歳月をかけて徹底的に議論されて制定されている。
その骨子は2660年余り続き125代一貫して男系天皇(君主)で継承されてきた皇室の伝統を根幹から覆す女系天皇容認である。
このことに旧皇族の竹田恒泰様、三笠宮�・仁親王殿下は天皇家の一大事と大変憂慮されている。
さらに与野党の国会議員、閣僚からも万世一系の皇室の崩壊を招くと危惧の声があがっている。
そこで世界でも稀有な君主を戴く国民の1人としてこの難題を傍観するのは主権者として忍びず我が国が千代に八千代に栄えることを願うのは国家の有為な形成者の務めと心得、意見を述べたい。
2、皇室典範
皇室典範とは皇位継承など皇室に関することを規定した法律の事。
現皇室典範はGHQの指令下で制定され、その内容は「皇位は皇族に属する男系男子が継承する(第一条)」のほか、皇族の身分、特典長が定めてある。
3、今回(小泉内閣時代)の有識者会議構成員
座長の吉川氏は一般統計学、座長代理の園部氏は元判事と、十人の構成員は自然科学、社会科学畑に偏り、肝心の皇室の歴史・伝統に精通した専門家はいないに等しい。かような人々が国家の最重要課題について、どこまで深まった議論がなされたのか心もとない。
4、万世一系・125代の伝統
①男系天皇125代の重み
万世一系とは、初代神武天皇以来125代天皇(今上陛下)まで、皇統連綿として男系のみであったことをいう。
つまり、天皇の父方はさかのぼれば神武天皇にたどり着く。
途中、中継ぎとして十代八方(お二人は重祚)の女性天皇(独身または寡婦)がおられたが、八方すべてが男系であられた。
かように万世一系の伝統を頑なに護持してきたからこそ、世界唯一の君主として一目置かれ、王や大統領とは別格の存在として見られてきた。
②アインシュタインの皇室絶賛の弁
大正11年に来日したアインシュタインは、我が国の伝統文化、文明に感銘を受け、中でも皇室を次のように絶賛した。
「……近代日本の発展ほど世界を驚かせたものはない。一系の天皇を戴いていることが、今日の日本をあらしめたものである。私はこのような尊い国が世界に一か所位なくてはならないと考えていた。世界の未来は進むだけ進み、その間、幾度か争いは繰り返されて最後の戦いに疲れる時が来る。その時、人類は真の平和を求めて、世界的な盟主を挙げなければならない。その盟主なるものは武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜き越えた最も古く、また尊い家柄でなくてはならない。世界の文化はアジアに始まりアジアに帰る。それはアジアの高峰日本に立ち戻らねばならない。我々は神に感謝する。我々に日本という尊い国を造っておいてくれたことを……」と。
5、皇族の臣籍降下とGHQ
GHQは我が国を弱体化する政策の一環として、皇室の弱体化を強行し、皇族の財産上の特権を排除するため膨大な財産税をかけ、天皇家と秩父宮・高松宮・三笠宮を除く11宮家は、皇族として存続の道を絶たれ、臣籍降下を余儀なくされた。
昭和天皇もGHQの圧力に抵抗されたが力及ばず、臣籍降下される11宮家の方々にお詫びと励ましのお言葉を述べられている。
6、女性天皇、女系天皇の問題点
有識者会議の女系天皇容認案に国民の8割が賛成という。
しかし、戦後60年間、皇室の歴史・伝統などを教えられてこなかった国民は、女性天皇と女系天皇の違いすら分かっていない人が大半だと思う。かような国民の世論を皇室典範改正の追い風にしてよいのかはなはだ疑問である。
我々は女系天皇を安易に認めてよいのか。女系天皇は万世一系の断絶を意味するのだ。
つまり、歴代天皇の血のつながらない一般男子が女性天皇と結婚すると時間とともに皇室の権威は徐々に衰退し、やがて皇室への国民の敬愛の念は希薄となり、皇室排斥の世論が沸き起こり、最悪の場合、共和国への変革運動が起こるかもしれない。
また、皇室は差別の根源と思っている一部の人々が女性・女系天皇容認案に賛意を示しているのは、かような魂胆があるのかもしれない。
万世一系の皇室を敬愛する国民は、かような事態が惹起しないよう心すべきだ。
7、おわりに
拙速な皇室典範改正に各界から危惧の声が噴出していたが、秋篠宮紀子妃殿下がご懐妊という慶事を機に、政治家のみならず国民からの慎重論が一層高まり、小泉首相も今国会の提出を断念せざるを得なくなり、寸前のところで皇位継承の危機が回避された。
今上陛下もお元気で皇太子、秋篠宮両殿下もお若く、幸運にも9月ご出産予定の紀子妃殿下のお子様が国民待望の親王殿下なら愛子内親王殿下が云々は数十年後のことだ。
とはいえ、皇室制度が未来永劫安泰であるために今回の皇位継承問題を機に、あらゆる機関が皇室の歴史・伝統を国民に理解させ、皇室への敬愛の念が今以上に深まった後、皇室のご意向を踏まえ、朝野をあげて時間をかけて皇位継承の問題を慎重協議し、我が国の国柄に合致した皇室典範を制定すべきだと考える。
(平成18年10月29日 記)
日本会議鹿児島 副会長 持留 忠二(元公立中学校校長)