<1>同様、美醜に関する言葉「ブス」「醜い」などなどが
出てくる記事になります。
不快に思われる方は、この先は読まないで下さいね。
またネタバレ、多少あります。ご了承下さい。
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澤村伊智氏の長編『うるはしみにくし あなたのともだち』です。
2回読みました。
ホラーとミステリーを絡めた物語、といえばそうなんですが。
私は、それよりも、人の心、ですね。
一旦囚われたら、そう簡単にそこから抜け出すことができない。
自分では「もうそれは間違いだから」と分かっていても、
逃れられない。自分の心なのに。
そういうことを綴っている物語に思えました。
同時に、だからこそ姫崎麗美のおなじない=ユアフレンドが現実になる。
う~ん、巧いですね、相変わらず。
ホラーに関してですが、ちょっと歯切れが悪いかな。
と言っても「科学では説明できないからホラーなんでしょ」と言われれば
そうなんですがね。
それでも、私は、範囲が広すぎないか?って思うのですが。
あぁ、おなじないが影響する範囲ってことです。
顔が醜悪になるのでは無い。実は・・・となるのですが。
まぁ「どうして」の説明があんまり無いような?
もう「そういうものだ=説明は不要」なら、そうなりますが。
その点が不満ですかね。ホラーとしては。
そしてミステリー=犯人は誰か?なんですがね。
これは結構二転三転します。
同じクラスのブスと言われている女子生徒なら
犯人の可能性が・・・担任の舞香も含めて。
雑誌「ユアフレンド」は、醜い女子の所にやってくる。
そう言われているから。
だから、犯人を絞ることができるのですが。
しかし絞るよりも、疑心暗鬼になっている様子が何度も何度も。
繰り返されていて。
これは緊張感が高まりますね。
「今度こそ犯人?」「今度こそ?」みたいになってね 笑
そして犯人に辿り着いた~って思っても
実は違った!真犯人は誰だ!!!って展開で。
犯人も「自分が犯人。実行犯」と思っていたのですが違った。
それを知った時の落胆。そして犯人と思い込んでいた生徒も・・・
真犯人の意図は~になります。
これも巧い!!
ただ・・・私、かなり前半で分かってしまって。
だから犯人捜し感高まりがちょっと・・・になって。
おなじないの手順のひとつに、
「おなじないをかける人のAが必要」(ぼかした説明です)ってあるのよ。
そのAは、まぁ人間なら誰でも持っているだろうなってもので。
クラスのブスと言われている女子生徒の描写には
何度もAが出てきます。複数人に。
そして犯人と思っていた生徒がおなじないをする描写にも
そのAが出てくる。おなじないには必要なものですからね。
また、犯人がおまじないの手順に従い作業している描写が
複数回出てきます。
読み終えると、
「この部分は、思い込んでいた犯人=本当は犯人では無い人物だな」
「この部分は、真犯人の描写の部分だな」
って分かるのですが。
読んでいる途中では、ちょっと分からない。
その時もAに関する描写は、しっかりありますから。
つまり~犯人の可能性のない人物にもAの描写があって。
それもさりげなく。気付く人、多いかな?程度かな?
私は読んでいて
「アレ?この人物にこの描写、必要か?」と思いました。
全く必要ないのですよ。でもわざわざAと描写している。
引っかかるなぁ~と思っていたら、真犯人でした!で御座います。
ということで、犯人捜しが私にとって~う~ん~でした。
幼い時から親や親戚、周囲から「ブス」「醜い」などなど言われ
すっかり自信を失った少女たちが登場します。
また事故で顔を損傷してしまい、顔を隠して生きる少女も。
そして大人になっても、自分の容姿の呪縛から解き放たれない。
担任の舞香が、そういう女性として登場します。
親切で生徒にも気遣っている。頭の良いし、性格も穏やか。
そして常に笑顔を絶やさない・・・・
そう幼い頃、散々「ブスだ」と周囲に言われて
母親から「笑っているときが一番マシ」と言われた時から
顔に笑顔が張り付いてしまった。
今では意識すること無く笑顔になっている。どんな場面でも。
生徒の葬儀でも。生徒が深刻な相談をする時も。
自分が心底落ち込んで助けて欲しい時も。
大人になっても、記憶にある容姿に対する酷い言葉からは抜け出せない。
舞香が抜け出せた時。
それは・・・「ユアフレンド」のおなじないで顔が無残になった時。
顔を背けられるほど醜くなった舞香。
自分でも自覚している。顔を晒すくらいなら、死んだ方がまし。
しかし生徒や、自分に好意を抱いてくれている同僚の足立に励まされて
やっと・・・醜悪な顔なのに、初めて自分の気持ちを表情に出すことができた。
真犯人も同様です。
<1>で美人女優に嫌気をさす少女。それが真犯人です。
美形の両親、さらに美しい姉。自分は醜い。
そう思って生活していた。いじめに遭っていた。
自分が醜いから。
だから高校は遠く離れた場所に通うことにした。
そうしたら・・・更紗に誘われた。
自分のグループに入らないか、と。
カースト上位で、美人の子たちが集まっているグループ。
本当は醜いわけではなかった。
両親と姉が、異常なほど美しかった結果だ。
普通の感覚では十分可愛いし美人だ。そういう容姿だったのだ。
それが分かっても・・・身についた心は簡単にほぐれない。
グループ内で喋っていても違和感しか無い。
特にブスだとクラスメートを揶揄して笑う時など
自分が笑われているように、気持ちが乱れた。
からかわれているクラスメートと仲良くなりたかった。
本当に気を許せるのは、多分その子達なのだから。
でも・・・グループから出るのも怖い。
やっと自分が醜くないと思ってもらっているのだから。
この真犯人に「ユアフレンド」が届く。
真犯人は驚くと同時に安堵する。
ほら、醜い生徒に届くと言われている「ユアフレンド」。
それが私に届いたってことは・・・私は醜いからだ。
顔?いや顔もそうだろうが、心が・・・・
「ユアフレンド」のおまじないは、憎い相手を醜くすることだけではなく
相手を美しくすることもできる。
しかしおまじないをかける本人には効果が無い。
物語では、おなじないをかける本人が
無駄とは分かりつつ、自分にもおなじないをかけていることが分かります。
多分過去に「ユアフレンド」」が届いた少女もやったであろう。
自分を美しく・・・・ではなく「自分を普通の顔にして下さい」と。
特に目立って誉められなくてもいい。男子生徒にもてなくていい。
普通に。普通の顔になれたら。
誰も気にとめること無く。不快に思われること無く。
そんな顔に、して下さい。
しかし、自分には効果が無い。そう書かれているのだから。
それでも、もしかしたら・・・・
読んでいて辛かったですね。
普通に。あ~そうなんだよね~って。
そうだよね、そうだよねって。
ルッキズム、という言葉は浸透していますよね。
私でも知っていますから・・・・
まずは容姿。まずは見た目。
でも心は?物語でも、解決などありません。
それが現実、なのだから。
自分をブスだ醜い顔だ、と自覚している女子生徒や舞香。
しかし・・・・彼女たちも、容赦ない心を持っている。
舞香は姫崎麗美の話を青山から聞いた時
「どれほど醜い容姿だったのだろう」と見たいと思ったと書かれています。
自分も容姿の心ない言葉に苦しんでいたのに。今もそうなのに。
それでも・・・「見てみたい」と。どれほど醜いのか、と。
顔を変えられた女子生徒に対しても、
クラスメートは、「見たい」と思う様子が書かれてもいます。
これも人の心の本音でしょう。
容赦ないなぁ、澤村さん。
そして、更紗をモデルとしながらが
生まれながら「持っている者」の無頓着さが何度も描写されます。
ランチの時間。身体に気遣った弁当を持参する夕菜。
その近くで高カロリーで砂糖まみれの菓子パンにかぶりつく更紗。
健康や美容など気にしたことが無い。
だって、これが普通だから。この美しい顔が。
笑いながら更紗と話す夕菜。しかしその心は・・・・
そして舞香も同様。
貼り付けたような笑顔の舞香に「先生、自信を持って」と更紗が。
生徒でも、こう言われたら・・・・更紗への不快感は当然だろう。
更紗には、決して分からない。だから真実を言う。
だから容赦ない言葉を発する。
言われた相手の気持ちなど、気にしたことも無いだろう・・・
その悪意に無い酷さに、周囲は嫌悪を抱く。
羨望も含んだ嫌悪を。
酷い言葉が飛び交う。しかし悲しい。
悲しい物語・・・・
そして救いの無い物語・・・
澤村さん、また傑作をうみだしてくれましたね!
お見事で御座います!!!
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