退役大佐で地方行政官であるバントリー大佐と妻の館だ。
妻のバントリー夫人は、夢を見ていた。楽しい夢だ。
趣味の園芸で、コンテストで賞をとったのだ。
勿論夢だ。分かっている。今は早朝。
メイド達が仕事をしている音が聞こえる。
こんな素敵な夢から覚めたくない。
まどろみを楽しむバントリー夫人。
もうそろそろ朝のお茶を持ってメアリが来る頃だ。
ほらノックが聞こえる。「お入り」といつもの返答。
そして・・・聞こえてきたのはメアリのヒステリックな声だ。
「あの・・・奥様・・・書斎に死体があるんです・・・・」
起き上がるバントリー夫人。今の声も夢?
いや、しっかり者のメアリが言う事に間違いはない。
隣で寝ている夫を起こす。
最初は半信半疑のバントリー大佐だったが、妻に急き立てられて
様子を見に行こうと、寝室を出る。
階段を下りると、召使い達が集まって怯えている。
大佐の顔を見た執事が、ホッとした表情を浮かばせる。
書斎に死体?本当なのか?問う大佐に、執事が答える。
「あのう、旦那様、ご自分でごらんになってはいかがでしょう」
警察署に電話が入る。ゴシントン館からだ。
死体?書斎に?事件発生だ。
そしてバントリー夫人は、親友のジェーンに連絡を入れる。
自宅で死体が見つかった。直ぐ来て欲しい、と。
親友であるミス・ジェーン・マープルに・・・・・
****************
アガサ・クリスティー、ミス・マープルの長編第2弾『書斎の死体』です。
って、前作の『牧師館の殺人』も、牧師館の書斎で死体が見つかったので
同じく『書斎の死体』なんですけどね~(笑)
地域の名士であるバントリー夫妻の館で見つかった死体。
犯人は誰か?もありますが、なぜゴシントン館の書斎に?という
謎もあります・・・・ココがポイントになる(と思っている私)
こうすることで、物語の幅が広がるんですよね。
同時に、ミス・マープルの人間観察の範囲も広がり、面白くなる。
バントリー夫人の親友ってことで、早速捜査に参加していますし(笑)
「心が乱れている妻の精神安定に」という名目ですから
大佐も周囲も読者も(笑)ミス・マープルの存在に異論ナシ!ですしね。
***************
書斎の死体は、若い女性だ。
不自然な色合いの金髪。結い上げている髪型。
どぎつい化粧。口紅は真っ赤。
背中が大きくあいたスパンコールつきの白いサテンのイブニング・ドレス。
安物の銀色のサンダル。
・・・・・・・・・・
当然バントリー夫妻には、見知らぬ女性だ。
警察の捜査から、女性の身元が判明する。
ルビー・キーン。18歳。ダンサー。
マジェスティック・ホテルから、失踪届けが出されていた。
同じホテルのダンサーで、ルビーといとこのジョージーが
ゴシントン館にやって来る。身元確認のためだ。
ルビーを確認するジョージー・・・・でも一体なぜ?殺人も場所も謎だらけだ。
ジョージー自身も、ゴシントン館やバントリー夫妻と関係が無い。
男が絡んでいるのか?
若いダンサーのルビーに、関心を持つ男性は複数いたころも分かった。
しかしさらに事件を複雑にさせる要素が、見つかった・・・・
同じホテルに宿泊しているジェファースン氏。資産家だ。
高級ホテルであるマジェスティック・ホテルを、常宿にしている。
ジェファースン氏は、妻・息子・娘を事故で失っている。
氏自身も同じ事故で大怪我を負い、両足を失っている。
しかし氏は表面的には、生きる熱意を失っていないようだ。
氏に従っているのは、使用人の他には・・・・
息子の妻であったアデレード。そして娘の夫であったマーク。
アデレードは再婚であり、連れ子の幼いピーターがいる。
氏はピーターを実の孫のように可愛がっている。
何がルビー殺人事件を複雑にしているのか?それは・・・
ジェファースンは、ルビーを大変気に入っていて・・・・
遺言を書き換えて、ルビーを養女にしようとしていたのだ。
アデレードとマークには、
もう既に財産分与として、多額の金銭を譲与している。
しかし、ルビーを養女にするということに対して
2人が大賛成とは・・・・いえないだろう。
文句も言えないが、ルビーを歓迎するという気持ちにもなれない。
ルビーが死んで、利益を得るのは?
そして、ガール・ガイド団員であるパメラの失踪事件が絡まってくる。
ひとりで買物へ行くといって友人と別れたパメラ。
自動車炎上事件が起こる。焼死体。パメラなのか?
一体ルビーは、なぜ殺されたのか?
そしてパメラは、なぜ焼死体で見つかったのか?
******************
なかなか複雑です。
『書斎の死体』の複雑さは、
犯人さえも「予想しなかった」ことが起こっていることです。
犯人の予想外ならば、捜査する側はどうやって解明すればよいのか?
しかし、所詮人間の行うこと。
ミス・マープルは、当たり前のように人の心を解いていきます。
その視点で考えると・・・・
使い古された表現ですが、絡まった糸は少しずつ解れていく・・・・・
それがミステリー小説の醍醐味なんですがね(笑)
同様に人間模様が、ミス・マープルの醍醐味!
今回、元気いっぱいのバントリー夫人が登場します。
自宅で死体が見つかる。面識の無い女性だ。
とは言っても・・・・噂が立つのはもう分かっている。
バントリー大佐の若い愛人では?いや隠し子かも?
小さな噂。何の根拠も無い、他愛無いお喋り。
それでも・・・
バントリー大佐が今までも交際から何気なく遠ざけられるのは分かる。
行事への参加への、遠慮がちな拒否。
または雰囲気を察した大佐自身が辞退することも。
バントリー夫人は、ちゃんと理解している。
単に犯人が見つかれば良い、訳ではない。
ゴシントン館、そして夫とは何の関係もないことを
証明してもらわないと。
だからこそ「自分の家で起きた殺人事件を楽しみたい」など言っても
ミス・マープルはちゃんと見抜いている。
バントリー夫人が望む「解決」には、自分が必要なのだと。
人の心を解くことが、求められているのだと。
狭い狭い社会の中で、生きている人々。
現代とは異なる地域社会で生きる人々の機微をちゃんと伝えている。
これもクリスティー作品の面白さだと思います。
登場人物は、まだまだいます。
そしてミス・マープルの名台詞!も、あり!!
申し訳ないが『牧師館の殺人』に比べると(ゴメンね)
段違い!の面白さ!と私は思っています。
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