リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

岐阜新聞 鮎の12か月 連載2007年 5月

2008-01-01 17:47:47 | アユの12ヶ月 川面からの記録
 5月11日長良川鵜飼が始まった。往事の賑わいは薄れたものの、川面に艶やかなかがり火が揺れる。夕闇を待って行われる夜の川漁、同じ頃下流20kmの長良川でサツキマス漁が始まった。

 トロ流し漁と呼ばれる網漁は長良川独特のものだ。1艘の漁船から刺し網を繰り出す。川を横断して網を張り、流れに従って静かに流す。上流に向かって遡上するサツキマスをその網で捕獲するのだ。

 長良川漁協の大橋さん兄弟はこのサツキマスのトロ流し漁を50年余り続けてきた。そして私はサツキマスという魚に惹かれ、1988年に大橋さん宅を訪ねた。もう20年近い年月が経ったということになる。川という自然の中で行われる漁業である。そしてその自然は人間生活によって大きく変容した。

 私が初めてサツキマス漁を見に長良川に来た当時、サツキマス漁は4月中旬から始まり5月の中旬までに終了していた。サツキマスの遡上する盛りは5月上旬、連休が終わる頃にはサツキマス漁も終盤を迎えていたものだ。その漁期が大きく変わったのは長良川河口堰が稼働して以来である。漁の開始が5月上旬になった。そして漁の盛りは5月中旬となった。
 ちょうどその頃には鵜飼が始まり長良川のアユ漁が解禁されるのだった。長良川のアユ漁は全国的にみて特異な部分がある。下流域の長良川漁協の管内だけのことだが、漁の解禁と共に網漁が始まる。世に知られる長良川のアユである。市場では高値が付く、するとサツキマスの値が下がるのだという。

 漁期が遅れたということは別の障害も生じた。水位の減少と水温の上昇だ。かってのサツキマスは田んぼに水が利用される前に、下流域を通過して上流に遡上していた。ところが現在では下流にさしかかる頃に、灌漑用に取水されて川の水位が下がる。そして水温が上昇することから藻類が河床に繁茂する。その藻類が付いて、網は流れにくくなった。

 以前、日中は兄の亮一さん、夜から朝に掛けては弟の修さんが分担して1日中網を流していた。しかし藻類などが網に付いて目立ち、昼間の網にはサツキマスが掛からない。
 今、二人は夕闇を待って一緒に漁をしている。網を流す回数も減った。30分ほどで流れたトロ流し網は今では1時間以上かかってようやく漁場を下る。サツキマスの漁獲数の減少は言わずもがなのことだ。大橋さんの水揚げは3分の1から5分の1に減少した。
 サツキマス漁の変遷を見ながら私は思う。サツキマスという生き物については解らないのだが、サツキマス漁という人の営みは、確実に終焉の刻を迎えている。
人と生き物、それを繋いでいた命の歯車がずれている。それが変容した長良川の姿なのだ。



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