新潟久紀ブログ版retrospective

病院局総務課3「旧病院跡地の処分で対立(その2)」編

●旧病院跡地の処分で対立(その2)

 私は、当時の合意形成に至る資料をつぶさに読んで、価格水準が上がったとはいえ、相手方も納得できる論理が無いものかと検討した。ベースとなる価格そのものが上がったということであれば、減免の視点の一部が欠けた現時点で試算しても、減額の幅はむしろ大きくなっていて、実質的に損をしてはいないのだと説明できれば相手方も承諾せざるを得ないのではないか。
 私の方針に部下たちは皆が"引いて"しまった。地価はバブル経済崩壊以来長期下落の一途である。数年前よりも土地のベース価格が上がったと説明するとは、この人は正気なのかという雰囲気であった。しかし一方で、私は土地の価格が利用方法によっては一定ではなく変わり得るものであることに着目していた。これまで、地籍と同様に周辺の活用状況から住宅地としての用途が当然として語られてきたその土地は、ここ数年の地域の商業環境の変化により、食品や衣料、日用雑貨などの大型小売店の集積地、いわゆるパワーセンターとして開発可能な場となり得るものとなっていることを、民間デベロッパーからのヒアリングと根拠資料の取り寄せで調べ上げていた。高度な商業的開発の展開を想定すれば、同じ土地でもその利回りは上がり、現在価値たる土地価格も大きく上げることができるのだ。
 部下や上司も客観的な根拠のある内容であれば否定できない。数年ぶりに再開した土地譲渡に関する協議の場で、地域の社会経済情勢の変化を踏まえた私流の土地ベース価格を提示すると、市役所の担当者は度肝を抜かれて驚きの声を上げた。こんな話ではなかったはずだと。
 それでも私は、私どもは赤字に苦しむ企業経営者であり、価値あるものを叩き売りするかのようにして得べかりし利益を失うことはできない。加えて役人でもあり、議会にも利益確保の努力を示さねばならない、と続ける。相手方は、理屈は分からないでもないが、これまでの協議を経て市が想定している土地価格を大きく超えるこの内容では市役所内は通らないと、困惑しきりだ。今までの県担当とのやり取りをどう考えているのかと。
 担当が変わるということはこういうことですよ。これまでの経緯を踏まえつつ、現下の情勢変化を勘案して現時点での適正価格を客観的に評価した上で今も生きている減額の視点は反映させている。今までのやり取りを反故にするものではないのですよ、と私は説明する。喧々諤々のやり取りの末、一旦持ち帰るので改めて協議しましょうと言って相手は引き上げていった。おそらく本音は私とのやり取りでは埒が明かないと見たのだろう。次は、政治的な圧力を掛けてくるに違いない。首長か議員が局長へ苦言を呈しにくるのだろう。私は利益の最大限確保のためという信念を持っていたのでお構いなしだ。偉い人が来て私を担当から外せとか左遷しろと言ってくるかも知れない。かつて、大勢の観衆と知事の面前で「お前のクビなどどうとでもできるぞ」と恫喝されたこともある私には、恐れるものではないのだ。
 案の定、その後は、市長が局長のもとに直談判に訪れ、地元商業界の超大物までも局長へ諭しに来るなど、空中戦が展開された。特に超大物の局長面談時にはその場に私も呼びつけられて、「あんたもまだ先があるんだろうから無茶するな」と人事的介入すら匂わせるような言いぶりだ。それでも、当時の局長は肝が据わっていて、大物たちを怒らせないようにあしらいつつ、私の示す考え方の妥当性も相手型に理解させるサポートもしてくれた。相手は大物ゆえにこの程度の案件を主戦場として県と喧嘩するほどのものでもないと考えていたようで、思ったよりも大騒ぎに広げていくということにはならなかった。
 交渉事なのでここに詳らかに書き示すことはできないが、土地の売買交渉は、紆余曲折の末に、私の提案がそのままは通用しなかったものの、かつて合意されていたとされる水準よりは幾ばくか引き上げる結果で決着した。最重要である金額的な成果は小なる結果であったが、既定路線とされていた内容に私が新たな切り口で抗い、利益増のために出来る事を自ら矢面に立ってやり尽くす姿を見せたことが、少しは部下達の経営改善意識に刺激を与えることにつながってくれればと思って止まなかった。

(「病院局総務課3「旧病院跡地の処分で対立(その2)」編」終わり。「病院局総務課4「黒字化の戦略と達成(その1)」編」に続けてます。
https://twitter.com/rinosahibea

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